第二章 「仕返し(続き)」 & 第三章「パチンコ店」 & 第四章 「出会い」
青春の岐路(二)
第二章 仕返し(続き))
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剛志は、クラブハウスの陰から、グラウンドの入り口の方を覗いていた。
バックネットの先端に西日が当たっている。
雑木林の向こうの夕焼け空の残光がグラウンド上に残っていたが、政博の車が残したタイヤ跡が目立たないほどの明るさになっていた。
かなり時間が経ったような気がしたが、吉井たちは、なかなか、姿を現さなかった。
ほんとにのぼって来るのだろうか、と思い始めたころ、吉井がグラウンドの入り口に向かって歩いて来るのが目に入った。
吉井の後から三人も従いて来ていた。
剛志は、胸が早鐘を打つようになり、脚が震えた。頑丈な鉄柵に阻まれて、中に入って来ないことを願った。
剛志の願いに反して、吉井は、政博と同じようにして、柵止めを難なく外して、門扉を少し押し開けると、グラウンドの中へ入ってきた。
三人は、門扉の前で、顔を見合わせて、何か言葉を交わしたように見えたが、足の動きを止めずに、吉井に少し遅れて、グラウンドの中に入って来た。
ホームベースと三塁ベースの中間点あたりに来た時、吉井が足を止めて、三人の方に向き直った。
三人は、それを予測していたように、平然と立ち止まった。
梶原が、通学カバンを足下に置いて、一歩前に出た。
口元が歪んで、片頬だけ笑っているように見える。
「おまえ、山元と安永に頼まれた、確か、そう言ったな。やつら、どこにいるんだよ、え? あいつら、今日は、県大会で、学校にいなかったんだが、午前中の試合だったんで、もう、ここに帰ってると思ったんだ。おれたちの関係を知っていて、おれたちを騙したな。あいつらの中学の後輩だとも言ったが、それも嘘だったんじゃないのか? こんなことして、無事ですむとは思ってねえだろうな。まさか、おまえ一人で、おれたちに喧嘩を売る気でいるとも思えんが、どうなんだよ?」
梶原は、腰に両手を当て、肘を張って、嘲り笑いを浮かべている。吉井を見下していることがよくわかる。
吉井は、そんな梶原に向かって、恐れ気もなく、こう言った。
「そのつもりだ」
途端に、杉元が、
「なんだとっ! 今、なんと言った?」
と、驚くというより、あきれたように言った。
大迫も、こいつはオモシレエ、と宣賜ったが、吉井を馬鹿にしきっていて、歯牙にもかけていない顔だ。
梶原が、余裕を見せて、こう言った。
「チビのくせに、いい度胸してるぜ。待ち伏せしてるやつらがいたら、それも面白いと思ったが、どうやら、おまえだけらしいな」
杉元も大迫も、通学カバンを傍らに置いて、手ぶらにはなったが、喧嘩を始める身構えなどする気配もない。そんな必要がある相手だとは夢にも思わず、無防備のまま、吉井の出方をみるつもりらしい。
吉井は、そんな三人に、上から目線で、挑発した。
「おまえら、無茶な言い掛かりをつけて、下級生に暴力を揮ってるようだな。理由もなく、そんなことをされたら、どんなに悔しいか、その痛みがどんなものか、おまえらに知ってもらうつもりだ」
「なにっ! おまえ、馬鹿か?」
杉元が、あきれて、のけぞるような仕草をした。
「野郎! 正気で言ったのか! 正気で言ったんなら、冗談じゃすまさんぞ! 五体満足でいたかったら、ごめんちゃい、と謝って、おれたちの前からすぐ消えろ!」
大迫の顔から冷笑が消えている。上背のある大きな体躯と、五厘刈りの頭は、こんな場面では、恐怖感を煽るに十分だった。
梶原が、大迫を押しのけるようにして、前に出た。
「いや、そう簡単には帰せんぞ。 おれたちは、行くところがあって、早めに学校を出たんだ。それを、騙しやがって、これだけムダ骨を折らせたんだからな。手足の一、二本、叩き折ってやらんとな」
嘲り笑いを浮かべていた顔が、残忍な表情に変わっているように見えた。
剛志は、慌てて、車に駆け寄った。
政博は、運転席に座って、図面や書類綴りを手にして、それらを見たり、めくったりしていたが、剛志の様子に気づいて、車を降りて来た。
政博も、クラブハウスの端から、グラウンドを覗いた。
政博が耳元で囁いた。
「どういう連中なんだ。名前も教えろ」
「真ん中の背の高いやつがサッカー部の梶原で、あいつがリーダー格です。その向こうの刈り上げ頭が柔道部の杉元で、こっち側の太ったやつが柔道部の大迫で、みんな二年生です」
「簡単な相手じゃなさそうだな。だが、和己の空手は半端じゃない。それに、ここ四、五日、三、四人を相手にした喧嘩を想定して、実戦形式で・・・」
政博の言葉が終わらないうちに、吉井が、突然、動いた。
左端にいた杉元の腹部に、特殊な形をしたスニーカーの右踵があたるようにして、回し蹴りを見舞った。間合いを計っていたらしく、それが強烈に決まった。
ほとんど同時に、真ん中にいた梶原の腹部に、全身を弾丸にして、頭突きを喰らわした。
この間、数秒と経っていない。
二人は、腹を押さえて、身体を二つ折りにして、うずくまった。
大迫は、吉井が突然行動を起こし、その上、動きが速かったので、一瞬、狼狽えたようだが、吉井は梶原に頭突きを喰らわして体勢を崩していた。大迫は、体勢を立て直しかけた吉井の顔面に、右拳で、正面から、強烈なパンチを打ち込んだ。
吉井は、顔面を引いて、衝撃をかなり弱めることができたようだが、なにしろ、大迫の体重がかかった一撃だ。口の下のあたりが血に染まり始めた。
剛志は、思わず、目をつぶった。
政博は、剛志を押しのけて、一瞬、出て行こうとしたが、思い止まった。
剛志は、足が竦んで、動けない。
大迫の反撃を受けて、吉井の形相が変わった。
吉井は後にすばやく下がって体勢を立て直し、左の袖口で口のあたりを一拭きするや、右足で大迫の股間を、ねらいすましたように、蹴り上げた。
長年、修練を積んでいる吉井の蹴りだ。
大迫は、声にならない悲鳴を上げて、股間をかかえて、へたり込んだ。
杉元が、起き上がってきて、吉井につかみかかろうとした。
吉井の動きは速かった。
後にすばやく下がって体勢を立て直すや、思いっきり跳ね飛んで、身体を横にひねって、両足で、猛烈な跳び蹴りを入れた。
右足が喉元に入り、左足が胸の辺りを強打したようだった。
全身の体重がかかって、勢いをつけた飛び蹴りだ。
杉元は仰向けに激しく倒れて、後頭部を地面にしたたか打ちつけた。攻撃を避けようとして頭を仰け反らせたことが裏目に出て、脳震盪を起こしたらしく、起き上がれずに、伸びたままままになった。
吉井も、体勢を立て直そうとしながらも、腰から落ちた。
その間に、梶原が起き上がって、ボクシングの構えを取った。
吉井は、立ち上がりざまに、背を丸めたまま、もう一回、梶原の腹部に猛烈な頭突きを見舞った。
梶原は、腹を抱えて、また、うずくまるしかなかった。
大迫も、背中を丸めて、股間をかかえて、うずくまったままだ。
杉元が、上半身を起こして、頭を二、三度振った。
少し離れたところに立った吉井が、血の色をした唾を吐きながら、油断なく見守っていると、杉元は、ふらつきながら、立ち上がった。
吉井は、いつでも攻撃できるように、身構えた。
杉元は、後頭部がまだ痛むのか、そこに手をやって、顔を歪めながら、梶原の方にふらふらと近づいた。
座り込んだままの梶原が、杉元に顔を向けて、首を力なく左右に振った。
戦意を完全に喪失しているようだった。
政博が、剛志の耳元で、ここにいろ、と強い命令口調で囁いてから、ゆっくりと出て行った。
三人は、突然現れた暴力団風の男に驚いて、一斉に顔を向けた。
政博は、三人に近づくと、ドスのきいた声で、こう命じた。
「きさまら、おれの前に座れ!」
暴走族の大集団を率いていた政博のことだ。その言い方には凄みがあった。
三人は、ふらつく足取りで、政博の前に来ると、横並びに正座して、項垂れた。
「おまえら、いい気になって、下級生を虐ってるようだが、殴られたり、蹴られたりすることが、どういうことかわかったか!」
三人は、怪訝な顔をして、政博に上目遣いの目を向けた。突然現れたこの男が、なぜそんなことを言うのか、理解できなかったようだ。
政博は吉井の方に顎をしゃくった。
「あいつは、おれの舎弟分だ。おれは手を出さなかったが、どうやら、その必要もなかったようだな」
三人は、吉井に目を向けたが、またすぐに項垂れた。
吉井は、少し離れたところに立って、時折、顔をすばやくそむけては、血の色をした唾を吐きながら、三人の方に険しい顔を向けている。
「梶原!」
梶原は、突然名前を呼ばれて、ビクッとして、顔を上げた。
「おまえが一番デカイ面あしてるようだ。下級生をいつも虐めてますって面だ。逆らってこねえことをいいことに、暴力をふるったり、脅したり、好き勝手なことをやってるようだな。そんなおまえがサッカーやってるってんだから、あきれるぜ。サッカーは子供たちが一番やりたがるスポーツだ。無抵抗の下級生《したのも
ん》を虐るような事をするようなやつはサッカーなんかやる資格はねえ! サッカーの面汚しだ!」
梶原は、なんでこの男が自分の部活のことまで知っているのか不思議に思ったはずだが、肩を竦めて、項垂れているしかない。
「杉元、それに、大迫! おまえら、柔道やってんだってな」
二人とも、驚いて、顔を上げた。この男が、なんで、名前ばかりでなく、部活まで知ってるのか、という顔だ。
「下級生を虐るために柔道やってんのか! おれも極真をやってるが、弱い者を相手に腕をふるおうなんて考えたことはない。だが、おまえらみてえなクズは別だ。叩きのめしてやるしか効く薬はねえようだ!」
政博は、そう言ってから、こんな名乗り方をした。
「おれは、吉井政博、って者だが、知ってるやつがいるか?」
梶原が、びっくり仰天して、顔を上げた。
吉井政博、こと、極真のマサ、と言えば、最大最強の暴走族集団・『神風疾風』の初代総長で、その方面の知識が少しでもあれば、知らない者はいない。そんな連中と繋がりのある梶原が【極真のマサ】の名を知らぬはずがない。
政博は、和己と剛志の関係が後で知られても、剛志が仕返しされることがないように、効果的に脅しておこうと思っていたようだ。
「今後、おまえらの無体な振る舞いが耳に入るようなことがあれば、吉井政博の名にかけて、こんなことじゃすまさんぞ!」
肩を竦めた梶原が、すみません、と、額を地面に擦りつけるようにした。
杉元も大迫も、同じような格好をして、すみません、と、梶原を真似た。
「おれが言ってることがわかったってことだな?」
と、政博が念を押すと、申し合わせように、頷いた。
三人にも、当然、言い分があっただろうが、そんなことを口に出せるような状況でも、雰囲気でもなかった。
「わかったんなら、それでいい。もう、用はすんだから、帰れ! 治療費は出さんが、治療が要るような怪我をしてないか、病院で診てもらうんだな」
仁王立ちになった政博が、そう言い渡すと、三人は、政博と目を合わさないようにして、力なく立ち上がった。
それぞれ、周辺に散らばっていたカバンを手にすると、肩を落として、歩き出した。
三人の左手の動きを見れば、吉井の攻撃が並みのものでなかったことがわかる。梶原は腹を押さえ、杉元は後頭部に手をやって、それぞれ、顔をゆがめている。大迫は、背中を丸めて、手を股間にあてて、ふらつくように歩いている。
三人は、後を振り返らずに、夕焼けの残光が残るグラウンドを出て行った。
剛志は、三人の姿が見えなくなってから、二人に近づいた。
吉井の口の周辺が血で赤く染まっている。
口の中にも血がたまっているようだった。
「大丈夫か? 口の中が真っ赤だぜ」
剛志が、吉井の顔をのぞき込みながら、そう言うと、吉井は、何度も、唾を吐いた。周辺の地面が、唾を吐いた数だけ、血で染まった。
「どれ、見せてみろ 」
政博が、剛志の反対側から、吉井の口を開けさせた。
「上の前歯が一本取れかかって、上唇が切れてるぞ。治療してもらわんといかんな」
「いや、いいよ。もう閉ってる時間だろう?」
「でも、これじゃ、痛むだろうが。それに、時間が経てば、もっと腫れ上がるぞ。知り合いの病院に連れてってやるよ」
剛志は、クラブハウスの脇に水道の蛇口があったことを思い出して、吉井の背中を押すようにして、そこへ連れて行った。
吉井は、口の周辺を洗い、何度も口をすすいだ。血は止まったが、上唇が鱈子のように膨れ上がり、前の上歯が一本欠けかかった顔が痛々しかった。
剛志は、吉井と政博に言うべきことばを失っていた。
夕焼け空が暮色に変わり、雑木林でコオロギが鳴いていた。
第三章 パチンコ店
1
吉井は、空手の技量も並外れていたが、道場の外でも、剛志の知らないようなことをいろいろ知っていて、一緒にいると、刺激的で、楽しかった。剛志は、復習や予習や宿題を気にしながらも、放課後や休日には、ほとんどの時間を、吉井と過ごすようになった。
吉井がフルフェイスのヘルメットをくれたので、吉井の単車の後部座席に乗せてもらって、考えられないような遠方まで遠乗りをした。
吉井の自動二輪車は、年齢制限ぎりぎりの排気量四〇〇ccの高性能の新車だった。
吉井は、五月の誕生日を迎えて一ヶ月も経たないうちに、高排気量の自動二輪の免許を取得していた。ほとんどの高校は、免許取得を許可する場合は、五〇ccバイクしか認めない。退学の理由の一つになっているのではないかと思われた。
十一月に入ったばかりの最初の日曜日、剛志は、その日も、自宅近くの道端に立って、吉井を待っていた。
この時期の九州は、まだ、秋口と言っていいような気温の日が多い。
午前九時半を過ぎた頃、吉井が自慢の単車に乗って颯爽と現れた。吉井は格好良かった。銀色地に赤い稲妻型の模様の入ったフルフェイスのヘルメット、胸飾りのついたブルゾン風のライトブルーの上着、太腿から下の脚にぴったりの薄青のジーパン、それに黒革性の半長靴、大人びていて、剛志と同じ年頃には見えない。
剛志は、長袖の白シャツの上に濃紺の薄手のジャンパー、それに黒ズボン、履き古しの白いスニーカー、吉井に比べれば、地味な私服を着て、家を出て来ていた。
剛志は、いつものように、後部座席を持ち上げて、自分用のヘルメットを取り出した。
後部座席にまたがって、ヘルメットを頭につけて、紐を結んでいると、吉井が単車のエンジンを、一旦、切った。
「おまえ、パチンコなんかやったことないよな?」
「えっ! パチンコ? ・・・あるわけないよ」
「やってみないか」
「それ、って・・・・・やっちゃいけないんじゃないのか?」
「どうってことないよ。入り口に十八歳未満入店禁止の張り紙があるが、年齢を訊かれたことなんか一度もないよ」
「・・・でも・・・誰か知り合いに見つかったら、まずいんじゃないのか」
「近くの店に入らなきゃいいじゃないか。F市の中心街の周辺に行こうと思ってるんだ」
「そんなとこ、入ったことあるのか?」
「おれが行ってんのは、たいてい、その周辺の店だ」
吉井は、そう言うと、剛志の返事を待たずに、起動操作に入った。
吉井は法定の制限速度を守って走ることはめったにない。
平気でスピードを上げる。
三十分走るか走らないうちに、F市の中心街に着いてしまった。
吉井は、街路や路地が複雑に交錯した中心街に入っても、迷うことはなかった。
派手な看板や電飾が目立ち始め、独特の雰囲気を持った繁華街に入った。
剛志が物珍しそうに周囲を見回していると、殊更に派手な電飾を明滅させているパチンコ店が目立つ一角が近づいてきた。
吉井は、そのかなり手前で左折して、ビルの谷間の狭い路地に単車を乗り入れ、すぐに右折した。
右折から、少し走ったあたりの右手がパチンコ店の裏手の駐輪場になっているらしく、自転車や単車が雑然と並んでいた。
吉井は、適当な空間を見つけて、物慣れた様子でそこに単車を乗り入れた。
裏口にも、新装開店、本日十時開店、新台入替、などの派手な幟旗が立っていた。
剛志は、無論、パチンコ店に入ったことなどない。
自動ドアの前で、躊躇っていると、吉井に背中を押された。
胸をどきどきさせながら、一つ目の自動ドアの中に足を踏み入れ、二つ目の自動ドアが開いた途端に、錯綜した音の洪水に、耳を覆いたくなった。
剛志は、店内の広さと、パチンコ台の数の多さに驚いた。
パチンコ台が幾列もあって、それぞれ、ずっと先の方まで続いていた。
午前十時を少し過ぎたくらいの時間だったが、ほとんどの遊技台の前に人が座っていた。若者や壮年の遊技客の数に劣らぬほど、高齢者や女性の遊技客が多いことにも驚いた。かなりの数の遊技客の背後の床に、玉で満杯になったプラスチック製の薄茶色の箱が置いてあったり、積み重なっていたりした。
剛志は、大柄で、身長は百八十センチを越えている。長髪で、顔の彫りが深い。私服を着ていると、そう思って見なければ、十六、七歳の高校生には見えない。
吉井は、小柄だが、年齢相応の服を着ていることがない。私服がよく似合い、大人っぽい長髪なので、咎められることもなく、平然と出入りしているようだった。
吉井は、空いたパチンコ台を見つけて、やり方を簡単に教えてくれたが、パチンコよりもスロットの方をやりたかったらしく、スロット《こっち》の方に、お金を使い始めた。
吉井が、スロット台の右枠にある挿入口に千円札を入れると、五百円硬貨くらいの大きさの銀色のメダルがざらざら出て来た。
「・・・これで、何枚、あるんだ?」
「五十枚だ」
剛志は、受け皿からメダルを一枚取り上げて、しげしげと見入った。
「ふーん。このメダル一枚が・・・二十円かよ」
「そうなるな」
「で、どうやってやるんだ?」
吉井は、台の右端の挿入口に、メダルを三枚、次々に、滑り込ませた。
一枚入れるごとに、ピッ、ピッ、という音を伴って、デジタル画面の明かりが増えた。
「この画面に、ヨコに3列、タテに3列、数字や絵柄が並んでいるだろう。このハンドルを押すと、タテの3列が回転するんだ」
吉井は、そう言って、左側の小さなハンドルを軽く押した。
デジタル画面が、急速度で、回転し始めた。
「ここにボタンが横に3つ並んでるだろう。このボタンを指先で次々に押して、数字や絵柄の動きを止めていくんだ」
吉井は、右手の人差し指の先で、画面の動きを止めていった。
「この止まった数字や絵柄が横や斜めに3つ揃うと、小当たりか、大当たりになる。小当たりは少ししかメダルが出ないが、ビッグボーナスという大当たりになると、十数枚のメダルが連続して十回以上出る。ビッグボーナスは連続することが多いから、ツイてるとなると、大量のメダルが一度に手に入るんだ。一回のビッグボーナスの後、それが、次々に連続して、二、三万円になったことが何度もある。時には、五,六万円になることもある。そういうビッグボーナスが、あまり間を置かずに、連続して来ることがあるんだ」
剛志は、当たれば想像もできないほどの額のお金が手に入るらしいことに驚いたが、そんなことより、吉井が三枚ずつメダルを挿入していくのを見ていて、そっちの方が気になった。
デジタル画面を回転させるたびに、つまり数秒ごとに、六十円分のメダルを使っているのだ。
「ビッグボーナスの予告になる『目』ってのがあるんだ。ちょっと見てろ。出てきたら教えるからな。ねらった数字や絵柄は出せないことが多いんだが、『目』は、なんとなく、出せるんだ」
吉井は一万円くらい注ぎ込んだが、小当たりは時々来るが、大当たりどころか、『目』を出すチャンスさえ、ほとんど、来ない。
「こういう台もあるんだ。来ないからと言って、あきらめちゃいけないんだ。こういう台の方が連続のビッグボーナスが来ることが多いんだ」
吉井は、そう言って、平然としている。
二万円くらい注ぎ込んでいる間に、その『目』が何回か出た。
吉井は驚くほど動体視力がよいらしく、その『目』らしいのを外すことがない。
間遠く出現する『目』を出しても、運悪く、この日の吉井はツイていないらしく、小当たりは来るが、ビッグボーナス、とかいう大当たりが来ない。
吉井は、剛志が傍らで見ている間に、その台に三万円近く注ぎ込んだ。
それでも、やはり、大当たり(ビッグボーナス)が来ない。
たまたま、そういう台だったのだろうが、剛志は吉井の金の使い方に目を見張った。
吉井の解説を聞いていて、『目』を出せば、ビッグボーナスになる確率が高くなるらしいことはわかったが、画面の回転が速すぎて、剛志の動体視力では、『目』が出せそうもない。『目』を出しても、ビッグボーナスが来るとは限らない。千円分くらいのメダルは、数分も、もたない。一万円くらいの所持金は、あっという間になくなってしまうことが多い。スロットは、面白そうだが、持ち金の乏しい者がするようなものではない。
剛志は、おおよそ、そういうことを理解した。
スロットはやめにして、パチンコをすることにした。
スロットのやり方を教えてくれた吉井が、この日、ツイていなかったことが、剛志にとっては、いいことだったのかもしれない。スロットは、パチンコより、賭博性が格段に大きいと思われるからだ。
剛志は、吉井から一万円もらったので、遊技客が座っていないパチンコの空き台を見つけて、おそるおそる、その前に座った。
派手な電飾が明滅している得体の知れない機種だった。
一万円は千円札十枚に両替してあったので、吉井に教わった通りに、遊技機の左脇の上部にある挿入口に、千円札を入れた。
出てきた遊技玉は、右下の握手に手を触れているだけで、自動的にはじかれていく。
電飾が刺激的に明滅し、画面が派手な動きを見せ、効果音が重なる。
玉が受け皿に少なくなると、千円、また、千円、と入れ続けた。
同じ数字や絵柄が、横や斜めに、3つ揃うと、大当たりになることはわかっていた。いかにも大当たりが来そうな画面が、何度も、出現する。剛志は、それに幻惑されて、夢中になった。
結局、大当たりが来ることはなかった。
三十分経つか経たないうちに、十枚の千円札が全て無くなってしまった。
剛志は、恐くなって、また、スロットコーナーにいる吉井の傍らに行って、ただ、見ていた。
2
次の日曜日からは、剛志も、パチンコ台の前に座って、いっぱしの顔をして、玉を弾くようになった。
それから、何回かパチンコ店に入ったが、大当たりが来ても、単発で、それを全部打ち込んでも、また単発だったりして、損はしても、儲けたことはなかった。
資金は吉井をあてにしていたので、それほど、注ぎ込む金がなかった。吉井の傍らで見ている時間がほとんどだった。
剛志がパチンコ店への出入りを始めて、何回目かの日曜日の午後だった。
パチンコ台の前に座って間もなく、二千円目を注ぎ込んだ途端に、大当たりが来た。
これは、吉井の打ってる台でしか見たことのない、『確率変動』の文字が躍る大当たりだった。『確率変動』で大当たりが来れば、持ち玉を減らさずに、さらにもう一回、大当たりが確実に来る。
『確率変動』の大当たりが連続すれば、大当たりが、次々に連続する。
大当たり一回分でプラスチック箱が満杯になり、その一箱分を換金すると、五千円以上、機種によっては、六千円くらいになる。
この日、剛志の台は、大当たりがいきなり十二回連続になった。さらに、その持ち玉をほとんど減らさないうちに、また、確率変動が来て、これが、また、八回連続になった。
剛志は、機械が壊れたのではないか、と思った。
大当たり特有の刺激的な効果音や電飾の明滅やキャラクターの動きに興奮して、いつ終わるともしれない大量の出玉に、顔を紅潮させて、恍惚となった。
その後も、持ち玉から二箱分ほど打ち込んだ時点で、また、確率変動が来た。これも、四回連続になった。
剛志の背後の床に、五箱ずつ四つ、その横にさらに二つ、計二十二の、玉で満杯になった茶色のプラスチック箱が積み重なった。
店員がやって来て、茶色のプラスチック箱の玉が三箱分くらい入る黄色の大箱に入れ替えた。異彩を放つ黄色の箱が積み重なることになって、他の遊技客たちが驚いて、羨望の眼差しで、見て通る。
吉井も見に来た。
傍らに立って、片目をつぶって見せたりして、喜んでいる。
一段落して、吉井がやっているスロットコーナーに、様子を見に行った。
薄暗いスロットコーナーの吉井の台の上には、パチンコ用の箱の半分くらいの大きさのプラスチックの箱に、二箱分のメダルが盛り上がるように入っていた。
剛志は、また、パチンコ台の前に座った。
その後は、いくら打ち込んでも、大当たりが来ない。
それでも、また大当たりが来そうな気がして、四箱分以上玉を減らしながらも、台の前に座り続けた。
吉井がやって来て、もう切り上げた方がいい、と言った。
午後の五時を過ぎていた。
剛志は、後髪を引かれる思いで、台を離れた。
換金すると、剛志の分が十万一千二百円、吉井も、この日は、四万円を超えた。
剛志は、完全に、舞い上がってしまった。
家に帰って、夕食を食べてる時も、机の前に座っても、床に就いても、朝になって目を覚ましても、歯磨きをしている時も、学校に行く途中も、朝のSHR中も、授業中も、昼食時間も、終礼の時も、大当たりの数字や絵柄が揃って、『確率変動』の派手な文字とキャラクターが踊っている画面が、頭にちらついて、離れない。
手にしたことなどない十万円余の金を、そっと取り出しては、数えて、千円札の他に、一万円札が十枚もあることを、何度も確かめた。
翌日は月曜日だったが、放課後になるのを待ちかねて、吉井の携帯に電話を入れた。
空手着を入れる大きいバッグに私服を入れて、家を出てきていた。
吉井に異存はない。吉井も、十八歳未満の者は出入り禁止になっていることが気になるらしく、同年配の剛志を誘っている気配があった。
母親の蓉子には、道場で特別な夜間練習があって、帰宅は十時を過ぎるかもしれない、と電話を入れた。
F市内や、その近郊には、かなりの数の大型パチンコ店があった。
剛志は、休日になるのを待ちかねて、場所を変えたりしながら、入り浸るようになった。
放課後には、危険を冒して、近辺の店にも出入りした。
パチンコで得た金は、貯まることはなかった。
得た金は、また、パチンコに使った。
大きく儲けたりすると、気が大きくなり、金の使い方がぞんざいになった。
三、四万円くらいの金が数時間でなくなっても、さらに注ぎ込んだ。
その後の大量出玉で、取り返した経験が、金銭感覚を麻痺させてしまっていた。
結局は、こういうことの繰り返しだった。
それでも、剛志の頭の中には、『確率変動』の刺激的な文字と画面が躍っていた。
第四章 出会い
1
冬休みに入っても、師走の二十八日までは、冬期補習がある。
剛志は、一日目だけは出席したが、その後は、吉井に誘われるままに、パチ
ンコ店に入り浸った。
補習に復帰するつもりでいたのだが、最初で大負けして、その分を取り戻そうとしているいるうちに、結局、嵌まってしまったのだ。
剛志は、大晦日の前日にも、F市の繁華街にあるパチンコ店にいた。
師走の多忙な時期なのに、遊戯客は増えていた。
剛志が、パチンコ台の前に座って、玉の動きを目で追っていると、近くのス
ロットコーナーの方から、怒鳴り声が聞こえた。
「テメエ、勝手に座りやがって! 退け! ・・・退かんか! ・・・野郎、聞こえんのか!」
「それはないだろう! 空き台だったぞ」
聞き慣れた声が言い返した。
剛志は、驚いて、聞き耳を立てた。
「なにっ! おれは両替に行ってただけなんだぞ!」
「それだったら、メダルを一枚でも残しておけばよかったんだ」
「なにをぬかすか! おれがここに座ってたのはテメエも知ってただろうが!」
「この台に座ってたのは知ってたが、アンタがいなくなって、受け皿に何も入っていないことを確かめた。受け皿が空で、誰もいないってことは、空き台になったって意味だろうが」
「野郎、屁理屈をこねやがって! おれはこの台に何万円も使い込んでるんだ。ヒトが注ぎ込んだ台で儲けようなんて、テメエ、それで、平穏ですむと思ってんのかよ!」
剛志は、パチンコ玉を弾いているどころではなくなった。急いで立ち上がると、スロットコーナーの方へ駆けるようにして行った。
背中を見せている吉井と、黒っぽいジャンパーを羽織った若者が、一触即発という感じで向き合っていた。
若者は、着衣が大きく膨らんでいて、相撲取りのような大男に見えた。猪首が太短く、長めの頭髪が耳に被さって、まるでゴリラだ。
剛志は相手が悪いと思った。
周囲の遊技客たちは、台の前に座ったまま、二人に驚いた顔を向けている。
離れたところに座っている客たちも、伸び上がるようにして見ている。
「ごたごた言ってねえで、テメエが黙って退きゃ、すむ話だろうが!」
「アンタ、馬鹿か。人間の言葉がわからん脳味噌のようだな」
「な、なんだとっ!」
ゴリラの形相が変わった。
いきなり左手を伸ばして、吉井のコートの胸ぐらをつかんで、吉井の顔面を右拳で殴りつけようとした。
吉井は、上体を反らして、攻撃をかわすと、若者を両手で突き飛ばした。
若者は、不意を突かれて、大きな体躯をしている割には、脆かった。
近くの遊技客の脇腹に頭をぶつけてから、床の上に腰から落ちて、仰向けに倒れた。
両脚を平行に揃えたまま、不用意に殴りつけようとしたことが、醜態を曝す結果を招いたようだ。
周囲の遊技客たちは、座ったまま顔だけ向けて、成り行きを見ていたが、驚いて、一斉に立ち上がった。
通路が狭いので、二人の前後に距離を置いて立って、野次馬の目で、見守る形になった。中には、後の方から、伸び上がるようにして見ている客もいる。
床に無様に倒れた若者の顔は、目が吊り上がって、ものすごい形相になっている。
吉井は、若者が飛びかかってこないうちに、機先を制した。
「ここで決着をつけるのは周りに迷惑だ。店員たちも見てるだろうが、仲裁のしようもないだろう。外に出ようか」
小生意気な言葉に聞こえたが、それが、かえって、その場を収めることになった。
若者は、起き上がりながら、嘲るような冷笑を浮かべた。
「小僧っ子だと思って油断した。テメエ、おれが言いたいことを言ってくれるじゃねえか。オモシレえ、ついて来い!」
おどおどしていた剛志は、若者の後を歩き始めた吉井に近づいて、耳元で囁いた。
「和己、謝ってしまえよ」
「馬鹿言え。おれは悪くない」
剛志は、吉井がこういう場面でどういう行動に出るか、誰よりも知っていた。パチンコ店の店員が一一〇番通報をしているらしいことがわかっていたので、間もなくパトカーが駆けつけて来るだろう。それに期待するしかないと思った。
警察官が来れば、吉井も剛志も補導の対象になり、殊に剛志の場合は、学校にも通報される可能性があったのだが、そこまで知恵が回らなかった。
若者は、吉井が従いて来ているのを確かめると、店舗中央の出入り口近くにあるエレベーターの昇降口に向かった。
店員たちは、慌ただしく動き回っているが、若者を引き留めにかかろうとする者はいない。
剛志は、それが意外で、不満だった。
パトカーがすぐ駆けつけるので、無理して引き留めるな、と指示されていたのかもしれないが、若者の大きな体躯と威圧感のある風貌に気圧されて、関わり合いになるのを避けているとしか見えなかった。
剛志は、居合わせたおとなしそうな女子店員に、吉井と自分が座っていた台の番号を告げて、玉やメダルの処理を頼み、後でまた来るから、と言った。
昇降口へ歩いて行く途中で、若者に連れが二人いることがわかった。
一人は、若者と同年配の、眉毛の濃い、目つきの鋭い、一見して、暴力団風の若者だった。長身で、大柄だ。その上、筋肉質らしいことが着衣の上からも見て取れた。濃緑色のセーターの上に、襟を立てた黒っぽいコートを羽織っていて、着古した感じの青いジーパンは大腿の部分の筋肉が盛り上がって見えた。
もう一人は、スラリとした体型の、目鼻立ちのはっきりした若い女だった。
純白のハイネックのセーターにアイボリーホワイトの防寒着、紺青色の細身のズボン、防寒着と同色系の革製のブーツ、いずれも身体にぴったり合って、剛志が目のやり場に困るほどの美人だった。
二人とも、棘を含んだような目で、吉井と剛志を見ているように思われた。
エレベーターが降りて来るのを待ちながら、吉井と諍いを起こしたジャンパーのゴリラ顔が嘲るように言った。
「こいつがおれとタイマンはろうってよ」
「ふーん。かわいそうに。チビのくせに、こいつ、頭がいかれてんじゃないのか。手脚を二、三本叩き折ってやるくらいで勘弁してやれ。おれたちが見届けてやるからよ」
コートの若者が、聞こえよがしに言った。剛志は恐怖感に襲われたが、吉井を残して、自分だけ逃げ出すわけにはいかなかった。
エレベーターの中では、誰も口をきかなかった。
剛志は、不安に胸を締めつけらながらも、若い女が気になっていた。
エレベーターが三階に止まって、ドアが開くと、ジャンパーの若者が目顔で降りるように促した。
粗塗りのコンクリートがむき出しの駐車場は、採光が悪く、薄暗かった。ビル一階分の床全体を占領していると思われる広さの空間が、遊技客の車で埋め尽くされていた。
ジャンパーの若者が、先頭に立って、広い駐車場の左端の方まで歩いた。
端に近いところに駐めてあった乗用車のところに着くと、後部のドアを開けて、吉井と剛志に、乗れ、という仕草をした。
車は排気量の大きい黒色の改造車かなにかだろうと予想していたが、低燃費で知られる普通車で、地味な白系統の塗装だった。
剛志は、この若者たちに似合わぬ車種を意外に思ったが、得体の知れない連中の車に乗りたくなかった。
どういう種類の人間なのか、皆目、見当がつかなかった。
どこへ連れて行かれるかもわからなかった。
剛志は、車に乗り込もうとしている吉井の左腕をつかんで、振り向いた吉井に首を振って、引き戻そうとした。吉井は、逆に、左腕を剛志の右腕に絡めるようにして、剛志を車の後部座席に引っ張り込んだ。
若者が運転席、もう一人の青年が助手席に座り、女が剛志の横に滑り込んで来た。
女が後部座席に乗り込んで来たのは意外だった。
仄かな甘い香りがした。
剛志は、女の腰が自分の腰に密着したので、慌てて吉井の方に腰をずらした。
駐車場から外へ繋がるコンクリートの通路を下って、二階の駐車場を通り抜けて、さらに通路を下りかけたとき、パトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
助手席のコートの若者が、首を捻って、運転席の後に座っている吉井に顔を向けて、「ポリ公に邪魔されずによかったな、おまえ、いい度胸してるぜ」と言った。
ハンドルを握っているジャンパーの若者が、海沿いの埋め立て地で、人目につかないところがあるから、そこで決着をつけようじゃないか、と言った。
剛志は、とてつもない不安に襲われながら、上質の石鹸のような仄かな香りを漂わせている女が気になって仕方がない。
女は、小生意気な顔をして、形のいい鼻をツンとそらして、前方を向いたまま、何もしゃべらない。剛志は、横目を使って、女の胸の辺りや大腿の辺りを盗み見た。スラリとした体型の痩身に見えたが、胸が意外に前に突き出している。
駐車場を出て、街路を二十分ほど縦横に走ったころ、海沿いの道に出た。
寒々とした薄曇りの日だった。
道路は二車線で、整備が行き届いていたが、行き交う車はない。
時刻は午後の三時を過ぎていた。
あたり一面、埋め立て地で、簡易造りの作業所以外に、建造物は見当たらない。
年末年始は、工事中のところも、仕事を中断する。
歳末のあわただしい時期で、その周辺を散策しているような暇人もいない。
しばらく走ると、育ち損ねたような樹木が疎らに植えられた空き地があった。
公園にでもするつもりで整地を始め、途中で放置されたままになっているようなところだった。コンクリート製の転落防止柵があって、その向こうに海が広がっている。
ジャンパーの若者はそこに車を乗り入れた。
そこは、芝生になっている部分もあったが、大半は乾いた赤土がむき出しになっていて、芝生の部分も、枯れて傷んで、土の中に疎らに枯れ草が生えているという印象だ。
海は入り江で、対岸が近い。
寒々とした海面が少し波立っていて、海の向こうに、低い山並みと、海に沿うようにして建っている無数の大小のビルや建物群が見えた。
車中の若者たちの断片的な会話で、吉井と諍いを起こした若者の名前がオクミヤで、もう一人がアライ、女はタケオカと呼ばれていることがわかった。
降りてもらおうか、と言って、オクミヤが車を降りた。
ほぼ同時に、助手席のアライが降りた。
後部座席の右の方から吉井が降りた。
剛志もそれに続くしかない。
タケオカも車を降りた。