御徒町樹里の西遊記(番外編その参)
御徒町樹里はありがた経典を授かるために旅をしている僧です。
山賊を虜にしたり、盗賊を改心させたりと、知らないうちに活躍しています。
馬に揺られて進むうちに、樹里は町外れの森に入りました。
「うおおん」
何かの鳴き声が聞こえます。
「何でしょう?」
樹里は不思議に思って声のする方に馬を進めました。
やがて木々が途切れ、目の前に小さな湖が見えて来ました。
「榛名湖ですか?」
突っ込む人がいないので地の文が突っ込みます。
違いますよ!
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で地の文に応じます。
その湖の真ん中辺りに小さな島があり、そこに白い馬が木に手綱を括られて立っています。
「お馬さんですか?」
樹里は馬に尋ねます。
馬に人間の言葉がわかる訳がありません。
「はい」
馬が泣きながら答えます。
これは怪しい馬です。
「怪しい馬ではありません。私は西の龍王の息子の馨です」
即座に地の文に反応する馬です。
「そうなんですか。では」
樹里は笑顔で応じると、そのまま行こうとします。
「お坊様、どうかお助け下さい。観音様に言われて、ここで待っていたのです」
「そうなんですか」
樹里は笑顔で応じました。
「私は父王を怒らせてここに封じられました」
「そうなんですか。では」
樹里はまた立ち去ろうとします。
「お坊様、どうか私を弟子にして下さい!」
馨は必死の形相で言いました。
「そうなんですか」
こうして樹里は馨を弟子にする事になりました。
馨は手綱を解かれ、樹里の元に駆けて来ました。
何と水上を走ったのです。
「どうもありがとうございました」
樹里はこれまで馬としてついて来てくれた二人の男の人に礼を言います。
「旅のご無事を祈っております」
馬の被り物を脱いだ二人は、元来た道を帰りました。
馨が樹里を乗せ、旅を再開です。
「お坊様、お名前をお教え下さい」
「御徒町樹里です」
「え?」
馨は樹里が女の子だと知り、鼻血を垂らして恍惚としました。
めでたし、めでたし。