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思考速度違反

作者: qmmkruz
掲載日:2026/06/25

未来の高速道路で起きた、ちょっとした出来事の短編です。

派手さはありませんが、技術と人間の“ズレ”を静かに描いています。

気楽に読んでいただければ。


「はーい、前の車両。ゆっくり左に寄って停止してください」


赤色灯を点けた『覆面パト』から、前方を走る車両に声をかける。

こういう場合は、アナログの方がいい。


帝都環状高速道路、一般に『テトコー』と言われている。

違法改造した車が走り回っていたこともあったが、今は昔。

ここ十年ほどは静かなもんだ。


実は俺も走り回っていたことがあったりして。

まあそれも、昔のハナシだ。

今じゃこうして安全運転、させる側だがね。


道路にはセンサーが設置され、車両に搭載された制御器『アンダー』と連動することで、安全で効率的な運行が為された「高速」道路となっている。

この仕組みは、主要な幹線道路へも徐々に拡大されつつある。

車両への『アンダー』搭載は義務となっており、街角には『ユービス』が設置され未搭載車両をチェック、その撲滅に一役買っている。

違反した場合は最低でもイッパツ免停。


それはともかく、あの車両、なかなか寄らない。

自動ではなく、運転者によるマニュアル運転であることは確認済みだ。

だから『割込み』をかけて強制的に停止させた。


『割込み』は『アンダー』に対するコマンドの総称で、パトカーや白バイなどに搭載されている機能である。

悪用を避けるため、使用時にはランダムに変化するキーコードによる認証が行われる。


停止した車両の後方に停車する。

『覆面パト』のカメラが、停止した車両を映していることを確認して降車する。


「運転手さん、窓を開けてください。運転手さーん」


運転手がハンドルを握っていることを確認、同乗者なし、窓をコンコンする。

幹線道路や再開発地域では、大勢が自動運転に傾いているが、古い街並みの残る地域では道幅も狭く入り組んだままのため、マニュアル運転機能は未だ残している。


数秒して窓が開く。


「免許証を確認しますね」


運転手はずっと黙ったままだ。

最近は、免許証が車のキーも兼ねているのが流行りだ。

今回もその例に漏れず、ハンドル脇の小物入れに無造作にあった。

ほほう、免許取り立てで『GT-RR』ですか。そーですか。


先月、販売開始したばかりの新車。運転席もきれいなもんだ。

『アンダー』への改造は為されていないことは既にわかっているが、目視での確認は必要だ。

『アンダー』には改造できないよう、様々な技術が施されている。

が、もし改造をした場合は最悪、テロ行為として国家転覆罪の適用の可能性も示唆されている。ま、最悪のケースだが。


「じゃあ、これ咥えて。思いっきり息をふーって」


動作が鈍い。何とかやらせて検知器をチェックする。

はい、出ました。

相方に目くばせを送ると、『覆面パト』へ。増援要請のためだ。


「すみません。もうちょっと待っててくださいね」


運転手に言う。まあ、動けないだろう。そーゆーヤクだ。


そうして数分後に増援到着。

伝わっているとは思うが、増援の警官に改めて状況を説明する。


「まずは、思考速度違反。ええ、遅い方の。

 で、『スポイラー』反応あり」


検知器を見せる。

互いにうなずき、後は流れる様に移送作業へ。


検出した反応は『スポイラー』。

ヒトの思考速度を低下させる違法薬物だ。

思考速度を低下させることによって、『アンダー』に制限された速度でも、超高速の感覚を「安全に」味わうことができる。

まあ、思考速度が低下するから、捕まっても動けない。

この運転手の様に、黙ったままだったり動作が鈍かったり。

副作用は無いというハナシだが、今時は、何を混ぜられてるかわかったもんじゃない。


運転者を増援のパトカーに連れていく。

もう、『スポイラー』の効果は薄れている様だ。

で、昔の走り屋としては、ちょっと訊いてみたいことがあった。


「サーキットだったら『アンダー』無効だから、思いっ切り走り放題だよね。

 そっちのが楽しいんじゃないの?」


何の為の『GT-RR』だよ。


「だって、怖いじゃないですか。本当に速いのなんて」


なるほど、わからん。わかりたくもないな。


読んでくださり、ありがとうございました。


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