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眼鏡、終電、約束

作者: 下田ぱん
掲載日:2026/01/25

三題噺です。

 終電に乗って自宅に帰る。

 明日は朝から友達と遊ぶ約束があった。


「そろそろ終電だから」

 と言って彼の家を出た時、その顔はとても不満そうだったと思う。

 眼鏡が壊れてしまってよく見えなかったけれど、雰囲気でなんとなくわかる。

「コンタクトにすればいいのに」

 と言われたのも初めてじゃない。

 彼はいつもそうだ。

 遠回しに強要してくる。

「そんな人と会う必要なくない?」

「会社が嫌なら仕事辞めればよくない?」

「同棲すれば終電気にしなくていいじゃん?」

 そんな感じ。


 駄目だ、そんなことを言っていてもどうしようもない。

 それこそ、そんなに嫌なら彼と別れればいい――

『次は、○○、○○。降りるドアは、右側です』

 あれ……?

 もしかして、乗る電車、間違えちゃった?

 座席から立ち上がり、電光掲示板の見えるすぐ近くまで行った。

 ああ、間違えてる。

 反対方向の電車に乗ってしまっていた。

「どうしよう」

 今日中に家に帰るのは絶望的だ。

 明日の友達との予定はギリギリ間に合うかもしれないが……。

 待ち合わせの時間を少しだけ遅らせてもらおうか? いや、そのあとの予定の時間が決まっているから無理だ。

 慌てて明朝の時刻表などを確認してみても、どうしても間に合わないことだけしかわからなかった。

「はあ……」

 ひとまず友達にはLINEで連絡しよう。


 連絡した結果、明日は会うこと自体をやめることになった。

 サバサバした子なので次に会うときには今回のことを気にしていないだろうが、それでも申し訳なかった。

 これでは何のために彼に嫌な顔をされながら「終電で帰る」と飛び出してきたのだか……。

 間違った方向の電車に乗ったまま、そんなことを考えていた。

 もはや、降りることすら面倒に感じる。

 いっそのこと、終点まで行ってみようと思った。


 終着駅は無人ではなかった。

 途中に無人の駅がいくつもあって、終点もこんな寂れたところだったらどうしようかと思ったのだけれど、辛うじて、近くにコンビニがある程度には人がいる街だった。

 当然、初めてくる場所で。

 とても新鮮な気持ちになった。

「あの、駅ってやっぱり夜は閉まっているのでしょうか」

 改札にいた駅員さんに聞いてみる。

「申し訳ないのですが、これが最後の電車なので、そろそろ施錠いたします。明日は始発前の――××時ごろに開錠の予定です」

「そうですか」

 季節柄、寒くてどうしようもないということもない。

 地図で調べてみると、歩いて行けるところに公園があった。

 コンビニでおにぎりを買って、そこへ行くことにした。


 △△公園というその場所は、芝生の広がるそれなりの規模の公園だった。

 駐車場には一台も止まっておらず、見たところ、誰もいない。

 外灯がともっていて、満月の光と合わせると、それなりに明るいと感じられた。

買った鮭のおにぎりを食べながら、さすがに寝るわけにはいかないよね、と思う。

学生時代以来、久々の徹夜だ。ちょっと、テンションが上がるかも。

 耳を澄ますと虫の声が聞こえた。カエルも鳴いているようだ。田舎育ちなので、少しだけ懐かしい気持ちになった。


 翌朝、始発の時間に合わせて駅に向かった。

 入口で待っていると、時間通りにやってきた昨日の駅員さんが、申し訳なさそうに鍵を開けてくれた。

「よかったら、こちらをどうぞ」

「え、あ、すみません」

 温かい缶コーヒーまで頂いてしまった。

 なんとなく、状況を察してくれたのかもしれなかった。

 駅のホームに上がると――

 ちょうど、朝日が昇っていた。

 とても眩しかった。

 昨日、公園で一晩考えたけれど。

 本当は、深夜テンションで決めるべきことじゃないかもしれないけれど。

 駅のベンチに座り、缶コーヒーを開ける。

 うん、決めた。

 このコーヒーを飲み終わっても、気持ちが変わらなかったら。

 電話してしまおう。

 会って話そう、なんて言われても、知ったことか。

 苦いカフェインが身体に染みわたる。

 徹夜明けなのに、むしろいつもより、すっきりとした朝だった。

ちなみに、AIに書かせたらこんな感じでした。


終電間際のホームで、彼は眼鏡を外した。

レンズが曇ったわけじゃない。ただ、相手の顔をちゃんと見てしまうのが怖かった。


「約束、覚えてる?」

彼女はそう言って、スマホをポケットにしまう。画面には、二週間前のメッセージ。

また終電で帰る日でも、少しは話そう。


あの日は冗談みたいに送った約束だった。

忙しいとか、眠いとか、そういう言い訳ができるように、わざと曖昧にした約束。


電光掲示板が無情に点滅する。

終電まで、あと三分。


彼は眼鏡をかけ直す。世界が急にくっきりして、逃げ場がなくなる。

彼女の目が、ちゃんと期待しているのが見えた。


「覚えてるよ」

それだけ言うのに、随分時間がかかった。


ベルが鳴り、ドアが閉まる。

終電は、彼女を乗せて走り出した。


ホームに残された彼は、眼鏡越しに小さくなっていく背中を見送りながら思う。

約束って、破った瞬間じゃなくて、守れなかった理由を考え始めた時に、壊れるんだな、と。


次は終電じゃない時間に会おう。

その約束だけは、まだ眼鏡を外さずに、はっきり見ていた。

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