第44話 空飛ぶドラゴン便! 目指すは東の「お米の国」
「きゅぴーーーーっ!!」
公爵城の中庭に力強い咆哮が響き渡った。
そこにいるのは、かつてテーブルの上でプリンを食べていた小さなマスコットではない。
全長十メートル。白銀の鱗が輝く、立派な成竜となったモチだ。
「……大きくなったな、モチ」
「ええ。プリンと焼き芋の食べ過ぎで成長期が早まったみたいですね」
私とジルベール様は、モチの背中に取り付けられた特製の『ゴンドラ』を見上げた。
旅の準備は万端だ。
魔法の保冷鞄には、当面の食料と調味料、そしてお気に入りのフライパンが詰め込まれている。
「パパ、ママ! はやくー!」
「おそらとぶのー!」
双子のアランとリリィは、すでにモチの背中に乗って大はしゃぎだ。
怖がるどころか、「モチちゃん、ごはんたべた?」と話しかけている。大物だ。
「お嬢様……うぅっ、本当に行っちゃうんですかぁ……」
見送りにはライルが顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
隣では、バルト料理長も男泣きしている。
「師匠……。俺、師匠がいない間も、この領地の『飯テロ』文化を守り抜きますからね!」
「ええ、頼んだわよバルト。ライルもマヨネーズの生産管理をよろしくね」
「はいっ! お嬢様も新しいレシピを見つけたらすぐに送ってください!」
「もちろんよ!」
メイド長のマーサさんがハンカチで目頭を押さえながら進み出た。
「奥様、旦那様。お気をつけて。……お二人が帰ってくるまで、この城は私たちがピカピカに磨いて守っておきますから」
「ありがとう、マーサ。君たちがいてくれてよかった」
ジルベール様が一人一人と握手を交わしていく。かつて「氷の魔公爵」と恐れられ、孤独だった彼が、今はこうして多くの人々に愛され、惜しまれて旅立とうとしている。
その光景を見るだけで、私は胸がいっぱいになった。
「よし、行くか。レティシア」
ジルベール様が私に手を差し伸べた。
「はい!」
彼の手を取り、私は軽やかにモチの背中へと飛び乗った。
視界が高くなる。見慣れた中庭、屋敷、そして集まってくれた領民たちの顔。
「モチ、発進!」
「きゅぴーーッ!!」
モチが大きく翼を広げた。
バサッ、バサッ!
突風と共に体がふわりと浮き上がる。
「うわぁぁぁ……!」
ぐんぐんと高度が上がっていく。
屋敷が小さくなり、城下町がジオラマのように見えてくる。
領民たちが手を振っているのが見えた。
「いってらっしゃーい!」
「美味しいお土産待ってますよー!」
「公爵様ー! 奥様ー!」
「行ってきます! みんな元気でねー!」
私は千切れんばかりに手を振り返した。
風が気持ちいい。
空の青さがどこまでも続いている。
「……さて」
高度が安定し、雲の上に出たところでジルベール様が地図を広げた。
「まずは東へ向かう。目指すは、海を越えた先にある島国『ジパング』だ」
「ジパング……!」
その名を聞いた瞬間、私の口の中に唾液が溢れ出した。
前世の記憶にある、黄金の国。
そして何より……。
「お米! お醤油! お味噌汁!」
私は指折り数えて叫んだ。
「炊きたての白米に新鮮な生卵と醤油をかけた『TKG』! 出汁の効いた『お味噌汁』! そして新鮮な魚介を乗せた『海鮮丼』!」
「……君の頭の中は、すでに到着しているようだな」
「当たり前です! パンもパスタも好きですけど、やっぱり『米』を求めているんです!」
「やれやれ。……モチ、聞いたか? 奥様のご要望だ。全速力で頼むぞ」
「きゅぅ!」
モチがスピードを上げた。
白い雲を切り裂き、私たちは東の空へと一直線に飛んでいく。
「パパ、おこめってなに?」
「ボクたべたことなーい」
「ふふ、アラン、リリィ。お米というのはね……噛めば噛むほど甘くて、どんなおかずとも仲良くなれる、魔法の穀物なのよ」
「たのしみー!」
子供たちの笑顔。愛する夫の頼もしい横顔。
そして、これから出会う未知の食材たち。
私の第二の人生は、きっと今まで以上に美味しくて騒がしいものになるだろう。
さあ、待ってなさい。
世界中の美味しいものたち!




