第41話 小さなシェフの挑戦! パパへのサプライズケーキ
「ママ! きょうはパパのたんじょうびだよね?」
「ボクたち、パパにケーキつくりたい!」
朝食の後、双子のアランとリリィが、私のエプロンの裾を引っ張りながら直訴してきた。
今日はジルベール様の誕生日。
夜にはパーティーの予定だが、子供たちなりに何かプレゼントをしたいらしい。
「あら、いいわね。でも、ケーキ作りは大変よ? 途中で投げ出さないって約束できる?」
「やる! ぜったいやる!」
「リリィ、あわだてき、つかえるもん!」
二人の目は真剣そのもの。
その瞳の色は、食いしん坊な私のピンクの瞳と凝り性なジルベール様をそれぞれ受け継いでいる。
これは……やり遂げる目だ。
「わかったわ。じゃあ、今日はママが助手ね。メインシェフは二人にお任せするわ」
「やったー!」
◇
数分後。
公爵家のメインキッチンは、白い地獄……いや、雪国と化していた。
「えいっ! こな、ふれーっ!」
リリィが勢いよく粉ふるいを振ったせいで粉が舞い上がり、アランの頭が真っ白になっている。
聖獣モチも、くしゃみをして粉まみれだ。
「リリィ、そっとやるんだよ! ……つぎはタマゴだ!」
アランが卵をボウルに割り入れる。
グシャッ。
……うん、殻ごと入ったね。
「ママ、カラはいっちゃった」
「大丈夫よ。カルシウム入りだと思いましょう」
私は手を出したいのをぐっと堪え、見守ることに徹した。砂糖を入れ、牛乳を入れ、小さな手で一生懸命にかき混ぜる。
「おいしくなーれ! おいしくなーれ!」
その呪文は、かつて私がハンバーグを作った時に唱えたものと同じだ。なんだか胸が熱くなる。
「よし、やけたかな?」
焼き上げ担当は、もちろんモチだ。
「きゅぴーっ!」
炎を吐き、完璧なスポンジケーキを焼き上げる。
ここまでは順調だ。
問題はデコレーションである。
「パパはイチゴがすき!」
「チョコものせる!」
「マヨネーズものせる?」
「それはやめなさい」
二人の感性が爆発した。
生クリームは波打ち、イチゴは雪崩のように積み重なり、チョコペンで書かれた『パパだいすき』の文字は解読不能な古代文字のようになっている。
見た目は……前衛芸術。でも、そこには溢れんばかりの愛情が詰まっていた。
「できたー!!」
◇
夜帰宅したジルベール様を迎えたのは、クリームまみれの子供たちと謎の巨大な物体だった。
「……ただいま。これは、何の儀式だ?」
「パパ、おめでとー!」
「これ、ボクたちがつくったの!」
二人がドヤ顔で皿を差し出す。
「……ケーキ、か?」
ジルベール様は崩壊寸前のクリームの塔を見つめ、目を丸くした。
「レティシアが作ったのではないな? 君ならもっと……その、見た目を整えるはずだ」
「失礼ね。二人が一生懸命、パパのために作った『特製バースデーケーキ』ですよ」
「……!」
ジルベール様の表情が一変した。
驚き、喜び、そして感動。
氷の公爵の仮面がガラガラと崩れ落ちていく。
「……そうか。アランとリリィが、私のために……」
彼は膝をつき、子供たちと同じ目線になった。
そして震える手でフォークを持ち、ケーキを一口食べた。
ジャリッ。
盛大な音がした。卵の殻だ。
「あ……」
アランが気まずそうな顔をする。
しかし、ジルベール様は眉一つ動かさず、満面の笑みでそれを飲み込んだ。
「……美味い」
「ほんと!?」
「ああ。世界一だ。……ママのケーキよりも、ずっと美味しいぞ」
「やったー!!」
子供たちがパパに飛びつく。
ジルベール様は二人を抱きしめ、その目にはうっすらと光るものが浮かんでいた。
「ありがとう。……最高の誕生日プレゼントだ」
幸せな光景。
でも、私は聞き捨てならない言葉を耳ざとく拾っていた。
「あら? 私のケーキより美味しいですって?」
私が腕組みをして睨むと、ジルベール様は子供たちの頭越しに悪戯っぽくウインクをした。
「……味はな。だが、『甘さ』の種類が違う」
「どういう意味ですか?」
「子供たちのケーキは、成長の味だ。……だが、君の料理は」
彼は立ち上がり、私の耳元で囁いた。
「私を虜にして離さない、愛と執着の味だ。……夜食に、君だけの味を確かめさせてくれ」
「……っ、子供の前で何を!」
顔を真っ赤にする私を見て、ジルベール様は楽しそうに笑った。
こうして小さなシェフたちのデビュー戦は大成功に終わった。この子たちが、いつか私のレシピを受け継ぎ、新しい「美味しい革命」を起こす日も近いかもしれない。




