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第39話 聖獣モチの能力判明! 焼き芋はドラゴンの炎で

「きゅ~!」


「よしよし、モチは今日も可愛いですねぇ」


 公爵家の庭園。

 私は聖獣の幼体、モチを抱っこして日向ぼっこをしていた。生まれて数日だというのに、私の特製ミルクプリンを主食にしているせいか、モチはすくすくと育っていた。

 具体的には、一回り大きくなり、お腹がぽよんと出てきた。メタボドラゴンである。


「……レティシア。そいつを甘やかしすぎではないか?」


 隣で本を読んでいたジルベール様が、ジトッとした視線を向けてくる。


「だって見てください、この愛くるしさ。それに、体温が高くてカイロ代わりに丁度いいんですよ」


「……私の体温では不満か?」


「旦那様は『氷の魔公爵』じゃないですか。夏は最高ですけど、秋口の今はちょっと寒いです」


 私が正直に答えると、ジルベール様は「ぐぬぅ」と呟き、対抗心を燃やすように魔力を練り始めた。大人気ない。


 その時だった。

 私の腕の中でくつろいでいたモチが鼻をピクピクとさせた。


「きゅ?」


 彼の視線は庭の隅に積み上げられた『落ち葉の山』に向けられていた。

 そして何を思ったのか、よちよちと歩み寄り、大きく息を吸い込んだ。


「きゅーーーっ……」


「お? くしゃみですか?」


「ぷしゅぅっ!!」


 可愛い音と共にモチの口から白い炎が噴き出した。


ボッ!


 炎は落ち葉の山に着弾。

 一瞬で燃え広がるかと思いきや、炎は優しく山を包み込み、ジリジリと燻り始めた。


「なっ、ブレスだと!? 幼体でもドラゴンということか!」


 ジルベール様が慌てて消火しようとする。


「待ってください!」


 私は彼を制止し、燃える落ち葉の山に駆け寄った。


「……熱くない」


 手をかざしてみる。

 普通の炎のような刺すような熱さがない。

 じんわりと体の芯まで届くような柔らかくて力強い熱波。


「この波長……まさか『遠赤外線』!?」


「えんせき……なんだそれは?」


「食材の内部に直接熱を伝え、水分を逃さずに甘みを引き出す……調理に最適な『魔法の熱』です!」


 私の料理人魂が叫んだ。

 この炎があれば、アレが作れる。

 秋の味覚の王様が!


「ライル! すぐにサツマイモと紙、アルミを持ってきて!」


   ◇


 数分後。

 私は濡らした紙とアルミホイルで包んだサツマイモをモチの炎が燻る落ち葉の中に放り込んでいた。


「モチ、お願い。このお芋に向かって、もう一度『ぷしゅー』して」


「きゅ?」


 モチが首をかしげる。


「成功したら、特大プリンをあげるわ」


「きゅぴーーッ!!」


 モチの目が輝いた。

 彼は芋の山に向かって、一生懸命に白い炎を吐き始めた。


「ぷしゅー! ぷしゅー!」


 聖なるドラゴンの炎が芋を包み込む。

 普通の焚き火なら火加減の調整が難しく、皮が焦げて中が生焼けになったりする。


 だが、この『聖なる遠赤外線』は違う。

 皮を焦がすことなく、じっくり、ねっとりと芋のデンプンを糖分に変えていくのだ。



 三十分後。

 あたりに香ばしくも甘~い香りが漂い始めた。


「よし、完成!」


 私は軍手をして灰の中から芋を取り出した。

 アルミを剥がすと、濡れた紙は乾いて茶色くなっているが焦げてはいない。


 そして、芋を両手で持って――。 


パカッ。


「「「おおおおぉぉっ!!」」」


 ジルベール様とライル、そしてモチから歓声が上がった。割れた断面は、眩いばかりの黄金色。

 そして皮と実の間からは、蜜のような透明な液体がジュワリと溢れ出している。


「『蜜焼き芋』です! さあ、熱いうちに!」


 私はフーフーと冷まし、黄金色のかけらをジルベール様の口へ運んだ。

 

「あーん」


「……いただきます」


 彼がパクッと口に含む。

 咀嚼しようとした瞬間、彼の動きが止まった。


「……噛めない」


「え?」


「歯がいらない……。舌の上でクリームのようにとろけたぞ!?」


 そう。これこそが低温でじっくり焼き上げた効果。

 ホクホクではない。

 ねっとり、とろとろの食感。

 そして砂糖もクリームも使っていないのに脳が痺れるほど甘い。


「うまいっ! これ、スイートポテトより甘いです、お嬢様!」


 ライルが皮ごと貪り食っている。


「きゅ~! きゅ~!」


 モチも尻尾を振ってプリンを要求している。


「驚いたな……。ただの芋が至高のデザートに変わるとは」

 

 ジルベール様は指についたねっとりとした蜜を舐め取り、感嘆の息を漏らした。


「モチの炎……恐るべし。これは国家機密レベルの能力だ」


「そうですね。この子がいたら、焼き鳥も焼き魚も、ピザだって最高に美味しく焼けますよ!」


「……レティシア。君は聖獣を『高性能オーブン』か何かだと思っていないか?」


「違いますよ。大事な『調理助手』です!」


 私はモチを抱きしめ、その頬にキスをした。

 モチは嬉しそうに「きゅぅ」と鳴き、ジルベール様に向かってドヤ顔をした。


「……チッ」


 公爵様がペットのトカゲ相手に本気で舌打ちしたのを私は聞き逃さなかった。

 どうやら我が家のカースト順位は、私 、モチ、ジルベール様になりつつあるようだ。


 こうして最強の調理器具を手に入れた私は、さらなる美食の高みへと登り詰める準備が整ったのだった。

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