第38話 ご褒美は魔法の冷蔵庫? 中から出てきたのは……
「これが、王家の宝物庫に眠っていた秘宝……『久遠の保冷鞄』ですか?」
領地に戻った私たちは、テーブルの上に置かれた薄汚れた革袋を凝視していた。
見た目はただのボロ布だ。
だが、国王陛下曰く「中に入れた物は時間が止まり、永遠に腐らない」という、全料理人が喉から手が出るほど欲しいチートアイテムらしい。
「試してみよう」
ジルベール様が手近にあったホットコーヒーのカップを袋に入れた。
一時間後、取り出してみる。
「……湯気が出ている」
「凄い! 熱々のままです!」
私は感動で打ち震えた。
これさえあれば遠くの海で獲れた魚を『活け締め』にして新鮮なまま運べるし、焼き立てパンをいつまでもカリカリのまま保存できる。
まさに『持ち運べる無限冷蔵庫』だ。
「ありがとうございます、陛下! 一生ついていきます!」
私は鞄に頬ずりをして、中身を改めて確認しようと手を突っ込んだ。中は見た目以上に広く、底なし沼のようになっている。
「ん? 何か入ってる?」
指先に硬くてツルツルしたものが触れた。
グイッと引っ張り出す。
「……なんだ、これは」
テーブルの上に現れたのは、バレーボールほどの大きさがある『卵』だった。
殻は虹色に輝き、触れるとほんのり温かい。
「ダチョウの卵より大きいですね……。これ、食べられるんでしょうか?」
私の第一声にジルベール様がこめかみを押さえた。
「レティシア。君は虹色に光る物体を見て、まず『食用か』を疑うのか?」
「だって卵ですよ? これ一つで百人前の『巨大カステラ』が焼けますよ? それとも『バケツプリン』にしますか?」
ジュルリ、と涎をすする。
どんな味がするんだろう。濃厚なのかな。それとも淡白なのかな。
「待て。……凄まじい魔力を感じる」
ジルベール様が剣の柄に手をかけ、警戒感を露わにした。
「これはただの卵ではない。伝説級の魔獣……おそらく『ドラゴン』の卵だ」
「ド、ドラゴン!?」
「古の王が非常食として鞄に入れたまま忘れていたのだろう。……危険だ。すぐに処分を……」
その時だった。
パキッ。
卵の殻に亀裂が入った。
「あ」
パキパキパキッ!
亀裂は瞬く間に広がり、ポンッ!という小気味よい音と共に殻の上部が弾け飛んだ。
中からひょっこりと顔を出したのは――。
「……きゅ?」
真っ白でフワフワな毛並み。
つぶらな瞳。そして背中には小さな翼が生えた、犬のようなトカゲのような生き物。
「……ドラゴン、ですか?」
「……いや、形状はドラゴンだが……なんだその間の抜けた顔は」
生まれたての生物はキョロキョロと辺りを見回し、私と目が合った。
「きゅ~!」
甘えるような声を上げて、よちよちとテーブルを歩いてくる。そして、あろうことか私の指を甘噛みし始めた。
「痛くはないですけど……お腹が空いてるみたいですね」
「気をつけろレティシア! 刷り込みかもしれん! 親と認識されたら……」
「よしよし、ご飯ですよー」
私はジルベール様の警告を無視し、冷蔵庫から『干し肉』を取り出して差し出した。すると謎の生物は「プイッ」と顔を背けた。
「あれ? お肉はお嫌い?」
次は『野菜スティック』。これも無視。
ならばと取り出したのは、昨日のおやつに残っていた『ミルクプリン』だ。
「きゅぅッ!!」
生物の目が輝いた。
凄い勢いでプリンに飛びつき、ガツガツと完食してしまった。そして満足げに「きっぷ!」とゲップをし、私のお腹の上で丸くなって寝始めた。
「……なんてことだ」
ジルベール様が呆然と呟く。
「伝説の聖獣『ホワイトドラゴン』の幼体だぞ……? 誇り高き種族がプリン一つで人間に懐くとは……」
「ふふ、どうやらこの子は『甘党』みたいですね」
私はフワフワの背中を撫でた。
手触りは最高。まるで上質なマシュマロか、つきたてのお餅みたいだ。
「決めました。この子の名前は『モチ』です」
「……モチ?」
「はい。白くてモチモチしてますし、美味しそうですから」
「……お前、いつかそいつに食べられるぞ」
こうして、ヴァルシュタイン公爵家に新たな家族が加わった。伝説のドラゴンさえも餌付けしてしまう私の料理スキル。
もはや敵なしである。
だが、この「モチ」が、ただのマスコットではなく、とんでもない能力を秘めていることが判明するのは、もう少し後のことだった。




