第35話 集結! かつての敵と最強の厨房チーム
「無理です! 絶対に間に合いません!」
王宮の巨大な厨房に悲鳴が響き渡った。
叫んだのは、王宮の現料理長だ。
建国記念祭まで、あと三日。
各国の国王や大使を招く晩餐会で国王陛下がオーダーしたメニューは『前代未聞の四十五品フルコース』。
しかも、「世界中の誰も食べたことがない、驚きに満ちた料理」という無茶振り付きだ。
「レティシア様、どうしましょう……。材料の下処理だけで日が暮れてしまいます……」
集められた王宮の料理人たちは、完全に戦意喪失していた。
私一人ならどうにかなるかもしれないが、数百人分の料理を一人で作るのは物理的に不可能だ。
「……諦めるな」
その時、厨房の扉がバンッ!と開かれた。
「ジ、ジルベール様?」
現れたのは、私の夫であり、今回の総責任者であるジルベール公爵だ。
彼は不敵な笑みを浮かべ、背後を振り返った。
「私の妻が困っているのだ。……最強の援軍を呼んでおいたぞ」
彼の合図と共に、ぞろぞろと入ってきたのは――見覚えのある顔、顔、顔!
「師匠ーっ! お助けに参りましたぜ!」
先陣を切ったのは公爵領の料理長、バルトだ。
後ろには領地で鍛え上げられた屈強な料理人部隊を引き連れている。
「バルト!? 領地のお店はどうしたの?」
「『師匠の一大事だ!』って言ったら、客たちが『行ってこい!』って送り出してくれたんですよ!」
「お嬢様! 僕もいますよ!」
ライルが大量のスパイスが入ったリュックを背負って飛び込んできた。さらに豪奢なドレスをまとい扇子を持った美女が続く。
「オーッホッホ! 相変わらず貧相な顔をしてますわね、レティシア!」
「ビクトリア王女!?」
ガリア王国の王女が、なぜここに?
「勘違いしないでくださいまし! 今回の晩餐会には、わたくしの父王も出席しますの。……貴女の作る変な料理で、ガリアの恥をかかされては困りますから、最高級の食材を持ってきてあげただけですわ!」
ツンデレだ。
彼女の後ろには、ガリアが誇る『発酵バター』『フォアグラ』、そして『熟成肉』が山積みになっている。
「そして、私たちも……」
最後に現れたのは、エプロン姿のカイル王太子殿下とミリア嬢だった。
王族がエプロン?
「で、殿下? その格好は?」
「い、以前のラーメンの借りを返しに来たんだ! ……というのは建前で」
殿下がゴクリと喉を鳴らす。
「手伝えば、『つまみ食い』を許可してもらえると聞いてな……!」
「ジャガイモの皮むきでも何でもしますわ! だから、あのおこぼれを!」
かつての婚約者と恋敵が食欲のためにプライドを捨てて下働きを志願している。
なんて頼もしい?仲間たちだろう。
「みんな……」
私は胸が熱くなった。
かつては敵対したり、競い合ったりした人々。
でも今、全員が「美味しいもの」という共通言語で繋がっている。
「ふっ。どうだレティシア」
ジルベール様が私の肩を抱いた。
「これなら、四十五品など余裕だろう?」
「はい! 余裕どころか、伝説を作れそうです!」
私はエプロンの紐をキュッと締め直し、全員に向かって声を張り上げた。
「よーし、みんな聞いて! これより『建国記念祭・最強厨房チーム』を結成します!」
「「「オオーッ!!」」」
「メインディッシュは……ビクトリア王女が持ってきてくれた『最高級牛』を丸ごと使います!」
「丸ごと!? ステーキにするのか?」
バルトが問う。
「いいえ。……この牛一頭を丸ごと串に刺して、庭で豪快に焼き上げます! 名付けて『王宮炎上・ローストビーフ』よ!」
「なっ……正気か!?」
「そんな巨大な肉、どうやって火を通すんですの!?」
どよめく一同。
普通なら不可能だ。中まで火が通る前に外が焦げるか、日が暮れてしまう。
「だから、そこの『魔法使い』さんの出番です」
私はニヤリと笑って隣の旦那様を見上げた。
「ジルベール様。……貴方の強大な魔力で火加減を完璧にコントロールしていただけますか?」
「……ふっ。人使いの荒い妻だ」
ジルベール様は楽しそうに笑い、手袋を外した。
「いいだろう。『氷の魔公爵』改め、『炎の料理番』としての力、見せてやろうではないか」
役者は揃った。食材は最高。スタッフは最強。
さあ、世界を驚かせる宴の始まりだ!




