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第25話 凱旋! 領民たちとのお祭り騒ぎ

「……おい、なんだあれは」


 領地への境界線を越え、別邸が見えてきた頃。

 馬車の窓から外を見ていたジルベール様が呆気にとられた声を上げた。


「どうしました?」


 私がのぞき込むと、そこには異様な光景が広がっていた。街道沿いにずらりと並ぶ領民たち。

 手には『おかえりなさい、公爵様!』という横断幕。そして、その倍くらいの大きさで『おかえりなさい、ご飯の女神様!!』と書かれた旗がはためいている。


「……女神様って、私のことですか?」


「この領地において、君の信仰心は私を超えたようだな」


 ジルベール様が苦笑する。

 馬車が広場に止まると、ワァァァッ!!と割れんばかりの歓声が上がった。


「お嬢様ーっ!!」


「師匠ーっ!!」


 ライルが、料理長のバルトが、孤児院の子どもたちが、そしてメイド長のマーサさんまでもが駆け寄ってくる。


「ご無事で何よりです! 王都でひどい目に遭わされていないか、みんな心配でご飯も喉を通らなかったんですよ!」


 ライルが泣きながら抱きついてくる。

 私は馬車を降り、みんなの顔を見渡して胸がいっぱいになった。


「ただいま、みんな。……王都のご飯は不味かったけど、お土産はたっぷり持ってきたわよ!」


 私が『東方貿易の権利書(スパイス使い放題)』を掲げると、おぉーっ!とさらに大きな歓声が上がった。


「さて、積もる話もあるが……まずは腹ごしらえだな」


 バルト料理長がニヤリと笑って親指を立てた。


「師匠。今日は俺たちが師匠のために『最高のご馳走』を用意しましたぜ」


「えっ、私に?」


「ああ! 師匠に教えてもらったレシピで、村のみんなと協力して作ったんだ。……見てくれ、この傑作を!」


 バルトが広場の中央を指差す。

 そこには焚き火の上に設置された巨大な鉄板があった。その上でジュージューと音を立てて焼かれているのは――。


「……こ、これは!」


 直径一メートルはあろうかという、超巨大な円盤状の粉もの料理。キャベツ、豚肉、海鮮がたっぷり入り、香ばしいソースの香りが漂っている。


「『お好み焼き』……しかも、ジャンボサイズ!?」


「おうよ! 『パンケーキ』と『ハンバーグ』の技術を応用してみた! ソースは師匠が作った『マヨネーズ』と『特製ソース』の合わせ技だ!」


 バルトが巨大なヘラで器用にそれを切り分ける。熱々の湯気と共に、かつお節が踊っている。 


「さあ、食べてください! 俺たちの感謝の味です!」


 差し出された皿を受け取る。


 私が料理を「作る」のではなく、「振る舞われる」のは久しぶりだ。


 ハフッと一口食べる。


「……っ!」


 外はカリッと香ばしく、中は山芋が入っているのか、ふわふわと柔らかい。

 甘辛いソースとマヨネーズの酸味がキャベツの甘みを引き立てている。


 何より……。


「……温かい」


 みんなが一生懸命、私のために作ってくれた味。それが何よりも美味しくて涙が出そうになった。


「どうだ、師匠! 合格か?」 


「……うん。合格! 百点満点よ!」


 私が親指を立てると、広場は再び歓喜に包まれた。ジルベール様も一口食べて、「ほう……これはビールが進む味だな」と満足げだ。


 宴は夜まで続いた。

 焚き火を囲み、お好み焼きをつつき、酒を酌み交わす。身分も関係なく、ただ「美味しい」という感情だけで繋がる幸せな空間。

 その喧騒の中、ジルベール様が静かに立ち上がり、私の手を取った。


「皆、聞け」


 通る声が広場のざわめきを一瞬で静まらせた。


「今回の王都行きで、はっきりしたことがある」


 彼は私を強く引き寄せ、領民たちの前で宣言した。


「私は、このレティシアを正式に妻として迎え入れた。……だが、まだ大事な儀式が終わっていない」


 ざわ……と期待の空気が流れる。


「来月、この地で『結婚式』を挙げる! 王都の堅苦しい式ではない。我ららしい、この世界で一番『美味い』結婚式だ!」


「「「うおおおおおおおお!!」」」


 領民たちのテンションが最高潮に達した。

 口笛が飛び交い、お好み焼きのヘラが打ち鳴らされる。


「結婚式だー! 祝いだー!」


「メニューはどうする!? フルコースか!?」


「巨大ケーキを作ろうぜ!」


 盛り上がる人々を見ながら、ジルベール様は私の耳元で囁いた。


「……ということだ。覚悟しておけよ、花嫁。式までの準備期間、君を世界一美しく飾り立ててやるからな」


「えっ、飾り立てるって……まさかまた宝石箱の山ですか?」


「それも含めてだ。……まずは、アレだな」


 彼は私の体をじろじろと眺めニヤリと笑った。


「ウエディングドレスだ。……採寸が必要だな」


 その目が獲物を狙う狼のように光っていることに浮かれた私はまだ気づいていなかった。

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