テイマーJKとイケメン化わんこ〜共生から始める冒険譚〜
私の名前はアオイ。
強いて特徴を挙げるなら、動物好きのオタク女子。休日はアニメの一気見と推し活、インドア最高!
そんな私の人生における唯一の外出理由は、愛犬ハル(シベリアンハスキー♂)との散歩だ。
「はー、今日もかわいい……うちの子、世界一イケメン犬では?」
「ワフ」
溺愛のあまり散歩中もつい自撮りをしてしまう。SNSのアカウントはわんこだらけ。
友達からは「重症」と笑われるが、私にとってはハルが推しであり、家族であり、唯一無二の相棒なのだ。
——と、そんなある日。
空が裂け、金色の光が降り注いだ。
気づいたら私は、ハルと一緒に白亜の神殿に立っていた。
「……え、ここどこ? まさか……異世界召喚!?」
「ワフ?」
目の前に、神話の絵画から抜け出したような美しい女神がいた。
その人はゆったりと微笑み、澄んだ声で告げる。
「アオイよ。
今、この世界は魔王軍と人間との戦争を終え、かろうじて停戦している状態です。
しかし憎しみは根深く、争いはいつ再燃するとも知れません。
だからこそ私は、魔物に偏見を持たぬ“外の世界の人間”を呼び寄せました。
あなたに、人と魔の共生の象徴となっていただきたいのです」
説明を聞く限り、これは世界平和を託されてるってことらしい。
けど、私は歴史の教科書に載るような偉人タイプじゃない。ただの動物好きオタク女子。
「……え、なんかすごい使命感あるんですけど……」
正直、半分も理解できてない。
でも「魔物と人間が仲良くしてほしい」ってのは、犬好きとしてはめちゃくちゃ共感できる。
「動物も魔物も同じ命なら仲良くすればいいじゃん! わかりました、私やります!」
「ワフッ!」
女神は満足げに頷き、両手を掲げた。
「この世界は過酷です。あなには私から加護をあたえましょう。」
「え、もしかしてこれはチートですかぁーやたー!」
神聖な光が私に降り注ごうとしたその瞬間——
「ワフッ!」
女神の光を浴びた次の瞬間——。
私の愛犬ハルが、二本足で立ち上がっていた。
狼のように鋭い銀灰色の髪。
アイスブルーの瞳は獲物を射抜くように冷たいのに、こちらを見つめるとどこか頼りなげで切なそう。
背は高く、肩幅も広い。獣耳と尻尾が残っているせいで野性味があるのに、顔立ちは雑誌のモデルみたいに整っている。
見慣れた愛犬が、突然ワイルド系イケメンに進化してしまった。
「……ご主人」
口を開いたその声は、低いのにやけに甘い。
それだけで背筋がゾワッとした。
「え、なにその声!? なんかやばいドキドキするんだけど!」
次の瞬間、彼はふらっとこちらに寄り、私の腰に顔を埋めた。
犬の頃と同じように、すりすり甘えてくる。
「……落ち着く。ご主人の匂いだ……安心する……」
「えぇ!? イケメンが甘えんぼしてきた!? やめて!距離近いってば!」
野生的な外見なのに、中身はいつものわんこ。
そのギャップに頭が追いつかず、私はただパニックになっていた。
「ちょ、ほんとにやめてってば! 顔が近い! イケメンが犬みたいにすりすりしてくるとか反則だから!」
「……ご主人の声、安心する」
「くぅぅぅ〜! 中身わんこのままなのズルすぎでしょ!」
必死に押し返しながら、私は女神に視線を向ける。
女神はというと、苦笑しながらもどこか満足げに頷いていた。
「……どうやら加護は犬に渡ってしまいましたね。ですが、それも運命なのでしょう」
「え!?私のチートは!? 犬が勇者枠!? 私の立場は!?」
動揺する私に、女神は静かに告げた。
「あなたには、新しい職業を授けます。名は——テイマー。
契約を結び、心を通わせた魔物を仲間とすることができるでしょう。
それはこの世界に存在しなかった力。人と魔を結ぶ、新たな可能性です」
「……テイマー?」
つまり“魔物を仲間にする職業”。
ゲームでいうところのポケ◯ンマスターとか召喚士みたいなやつ?
「え、めっちゃ楽しそうじゃん!」
私の頭はオタク的に即変換されていた。
人と魔の確執がどうとか難しいことは置いておいて、魔物を推し化できる職業なんて最高すぎる。
「わかりました! テイマーやります!」
「……お嬢さん、本当に軽わね」
女神の表情が一瞬だけ「ちょっと不安」みたいに曇った気がしたが……気のせいだろう。
こうして私はチートを奪われた犬(しかもイケメン化済み)と一緒に、異世界でテイマーライフを始めることになった。
女神に新しい職業「テイマー」を授けられた私は、愛犬ハル——いや、今やワイルド系イケメンに進化した彼とともに、神殿の奥から広間へと導かれた。
きらびやかな装飾が施された大扉をくぐると、まばゆい光に包まれた空間が広がっていた。
そこに立っていたのは——。
「やだぁ〜〜! きゃー、なんて可愛いの!」
金糸の髪をふわりと揺らし、豊満な胸を強調したドレス姿の美女。
彼女はおっとりとした笑顔で両腕を広げ、いきなり私に抱きついてきた。
「ひゃっ!? え、だ、誰!?」
「私はこの国の魔王よ。安心して、怖くないからね。むしろ大歓迎」
——魔王!?
あまりに可愛いお姉さん系の見た目に、私の脳が処理落ちする。
しかもめちゃくちゃ柔らかいし、いい匂いするし……っ。
「ちょ、ちょっと近い近い! え、なんで魔王がお姉さん枠なの!?」
「ふふっ、アオイちゃんって言うのね。抱き心地も可愛い〜」
私は顔を真っ赤にして身をよじる。
すると、横から低い声が割り込んだ。
「……離れろ」
ハルだった。
鋭い目で魔王をにらみ、私の肩を引き寄せて庇うように立つ。
その仕草は完全に嫉妬のそれ。
「まぁまぁ、嫉妬深いわんこね。でもそこも可愛いわぁ」
「……ご主人は俺のものだ」
「ふふっ、甘えんぼさん」
魔王はくすくす笑いながら、ようやく私から離れた。
ただのおっとり系かと思いきや、底知れない余裕を感じる。
そして、その隣に立っていた青年が冷徹な声を響かせた。
「茶番はそこまでにしろ」
背筋がぴんと伸びる。
深紅のマントを翻すその青年は、舞台俳優のように整った顔立ちをしていた。
切れ長の瞳が冷たく光り、私とハルを射抜く。
「私はリヒト=クローヴェン。この国に滞在している第二王子だ。君が召喚者か」
「え、王子!? なんで魔王国に!?」
驚く私を無視して、王子はハルに視線を向けた。
「その……魔物なのか?」
「魔物じゃありません! うちの犬です!」
「……犬?」
「はい! とってもいい子なんですよ! ほら、お手! お座り!」
「ワフ(低音イケボ)」
ワイルド系イケメンが真剣な顔で、すっと膝を折り、手を差し出す。
あまりに従順な仕草に、私のテンションは爆上がりだった。
「おお…グッボーイ… さすが私のわんこ!可愛い上にこんなにえらいなんて…」
夢中で頭を撫で回す。
……そこで私ははっと気づいた。
(やば……これ、犬じゃなくてイケメンの頭を撫でまわしてる!?)
周囲の護衛たちもぽかんと口を開けている。
王子はしばらく沈黙したあと、冷徹に吐き捨てた。
「……理解に苦しむ」
(ああ、なんかこの人とは仲良くできなそー)
それから私たちは神殿奥の応接間に通された。
赤い絨毯に金の装飾、重厚なテーブルが中央に置かれた立派な部屋。
魔王はソファにゆったり腰掛け、私を隣に座らせる。
ハルは当然のように私の反対側に陣取り、しっぽを揺らしている。
第二王子リヒトは正面に座り、背筋をぴんと伸ばした。
「さて、アオイちゃん」
魔王が優しく微笑む。
「あなたにお願いしたいのは、人と魔をつなぐ役割。勇者と魔王が停戦したとはいえ、両陣営の確執は根深いの」
「へぇ……確かに、さっきから人間と魔族の人が微妙に睨み合ってるもんね」
「そう。だからこそ、偏見のない“外の世界の人間”であるあなたが呼ばれたのよ」
「……合理性は理解する」
リヒトが低く口を開いた。
「だが、犬に加護を横取りされた召喚者など、前例がない。信頼に足るのか疑問だ」
「ワフ(低音イケボ)」
「ほら見て! ちゃんと“お座り”もできるんですよ!」
「……理解に苦しむ」
魔王が堪えきれずに笑い声を漏らす。
「リヒトったら、そう言いつつちゃんと気にしてるのね」
「……別に。国の安定が最優先なだけだ」
ツンツンしてるけど、根っこはちゃんと真面目。悪人ってわけじゃなさそうだ。
魔王はパンと手を叩き、場をまとめる。
「まずは冒険者ギルドに登録しましょう。正式に活動を始めて実績を積むのが一番の近道よ」
「それなら俺が同行しよう。監督も兼ねてな」リヒトが言う。
「えぇ!? 王子まで!? 監視されすぎじゃない!?」
「当然だ。魔王国で勝手に動かれては困る」
「ご主人は渡さんぞ!」ハルが低く唸る。
「…ただの監督だ」
魔王はくすくす笑いながら、私の肩を撫でてくれた。
「大丈夫よ、アオイちゃん。あなたには私もリヒトもついてる。安心して、やりたいようにやってごらんなさい」
魔王に送り出され、監督役の第二王子リヒトとともに、私はハルと並んで冒険者ギルドの扉を押し開けた。
「おぉー! これぞ冒険者ギルド! ゲームで見たやつだー!」
「ワフッ! ご主人たのしそー! 俺もたのしー!」
ハルも私に合わせてテンション爆上がり。
思わず飛び跳ねるようにして周囲を見回すから、私は慌てて袖をつかんだ。
「こらこら! あんまりはしゃぎすぎないで!」
けど——犬の頃と違って、今のハルは人型イケメン。
力も強くなっていて、ぐいっと引っ張られた私は逆に体勢を崩してしまった。
「きゃっ——」
床に倒れ込みそうになったその瞬間、腕を取られて引き寄せられる。
硬質な鎧の感触。低く落ち着いた声。
「……全く、落ち着きのない女だ」
リヒトだった。
王子の腕に支えられ、思わず顔が近づく。
「え、えぇ!? ありがとうございますっ!」
「勘違いするな。ただ、監督役として倒れられては困るだけだ」
彼はすぐに手を離し、冷たい視線を向け直す。
でも耳までほんのり赤いのを、私は見逃さなかった。
「……ツンデレだ」
「誰がだ!」
倒れかけたところを王子に助けられた私は、心臓をばくばくさせながら姿勢を整えた。
その横で、ハルがぐるるっと低く唸る。
「……ご主人に触れるな」
リヒトが眉をひそめる。
「……は?」
ハルは真剣な眼差しで王子をにらみつけ、言い放った。
「ご主人を番にするつもりだろう。俺は認めない」
「っつ、番!?」
思わず変な声が出る私。
「ちょ、なにその発想!? 誰が誰を番にするとかしないとか言ってんの!?」
リヒトは一瞬言葉を失い、それから冷たく言い放った。
「……理解に苦しむ。監督しているだけだ」
それでもハルは尾を逆立てたまま一歩踏み出す。
「監督だろうとなんだろうと、ご主人に近づくな」
「だから近づきたくて近づいたわけではない!」
「ツンデレ」
「誰がだ!」
私は両手をあげて二人の間に割って入る。
「やめやめ! ここギルドの入口だから! ただでさえ人目を引いてるのに痴話げんかすんな!」
「痴話げんかじゃない!!!」と声をそろえる二人。
……うん、完全に痴話げんかだった。
わちゃわちゃしながらなんとか入口で痴話げんか(?)を収め、私たちは受付カウンターの前に立った。
リヒトが腕を組み、冷たい声で切り出す。
「まずは依頼を受けろ。新参者がどれほどのものか、この目で確かめてやる」
「えぇ〜なんかテストみたい!」
「当然だ。成果も出せぬ者に居場所はない」
ビシッと正論。はいはい学級委員長!
でも間違ってないからぐうの音も出ない。
私は気持ちを切り替え、拳を握った。
「でもこれはチャンスだよ! ゲームで言うチュートリアルクエスト!ここで華麗にクリアして、みんなに認められるんだ〜!」
「ワフッ! ご主人たのしそー! 俺もやる!」
「……遊びじゃない。まったく……」リヒトが額を押さえる。
カウンターは長蛇の列。
でも一つだけ、妙にがらんとした窓口があった。
「あ、あそこ空いてる! ラッキー!」
私は迷わず突撃。
しかし周囲の冒険者たちが一斉にざわめく。
「あそこは……」
「ギルド長の窓口だぞ……!」
「やばい、元・最強の魔術師……近寄っちゃいけねぇ……」
ひそひそ声を無視して席につくと、漆黒の髪を持つ若い男がこちらを見た。
切れ長の瞳、端正な顔立ち。笑みを浮かべるだけで周囲の空気が凍りつくような迫力がある。
「……ご用件はなんでしょう、可愛らしいお嬢さん」
そのあまりのイケメンぶりに、私の脳がオタクモードを発動した。
「か、可愛いだなんて♡お兄さんも顔がいいですね! よかったら私の専属になりません?」
ギルドが静まり返る。
周囲:「(死んだ……)」「(ギルド長にそんなこと……)」
だが彼は、ふっと目を細めた。
「ふふっ、ご指名とは光栄ですね。お嬢さん、変わったことを言う。ちょうど…いえなぜかいつも私の仕事がなかったので問題ないですよ。」
「やったー! 推し専属第一号ゲット!」
私がガッツポーズすると、周囲の冒険者がざわつく。
「え……笑った?」「優しい……?」
「なら俺も並んでみるか」
数人が列を作ろうとした瞬間、私はばっと両手を広げた。
「待ったぁーー!! 推しは独占すべきでしょ!? 同担拒否! 同担拒否だから!」
「な、何言ってんだコイツ!?」
「こえぇ……」
リヒトがこめかみに手を当て、深い溜息をついた。
「……頭が痛い」
ハルが首をかしげる。
「ご主人、“同担拒否”って?」
「わかんない方が幸せだよ!」
ギルド長はくすりと笑い、机に肘をついた。
「お嬢さんは、本当に面白いね。……ちょうど良い依頼がある。試しに受けてみませんか?」
差し出された依頼書にはこう書かれていた。
【依頼内容】近郊のゴブリン村が暴れているとの通報あり。討伐または制圧。
「ゴブリン村討伐……」リヒトが目を細める。
「危険度は高くない。新人の試験には適任だ」
「ちょ、討伐って書いてるけど……暴れてるって本当?」
「情報は確かですよ」
ギルド長は微笑みを崩さない。
私は迷った。でも、ここで引いたら冒険者デビューできない。
「よーし! 初クエストはゴブリン村に決定! テイマーアオイ、推しと一緒にがんばりまーす!」
「ワフッ!」
「……軽率すぎる」リヒトが吐き捨てる。
ギルド長の瞳が一瞬だけ妖しく光ったのを、私はまだ知らなかった。
こうして私は、イケメンに進化したわんこと、やたらツンデレな王子と、腹黒そうなギルド長に見守られながら——
魔物と人との共生を掲げた最初の一歩を踏み出した。
……まあ正直、わんこに甘えられすぎて、それどころじゃなかったんだけど。
最後までお読みいただきありがとうございます!
今回は短編として書きましたが、もし好評なら「ゴブリン村編」や「わんこの嫉妬バトル」など続きを書いてみたいと思っています。
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