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主者選択   作者: シロイペンギン
責に沈む者 ― 少年編/出会い
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色は嘘をつく

朝の夏の日差しが、差し込んでいた。


ヴァルデン領は、四季の移ろいが豊かな土地だった。


その点だけは――

白井として生きていた場所に、よく似ている。


僕は、灰色を基調としたローブを身にまとっていた。


灰――

この世界において、

罪と責を引き受ける者がまとう色。


儀に際して、用意されたものだった。


魔杖、剣、短剣――

それぞれを、もう一度確かめる。


すると、


ドアの向こうから、聞き覚えのある声が響いた。


「坊ちゃん……おはようございます」


一拍置き、

男が部屋に入ってくる。


「……すみませんでした」


顔を上げたその男は、

ヴァンだった。


彼は、ただ悔いていた。


その言葉の意味は、すぐに理解できた。


だが――


ユレッタ遠征のあいだ、

彼は最後まで、

僕を守ろうとしてくれていた。


僕には、

彼を責める理由など、ひとつもなかった。


それは、その後に訪れた、

素晴らしい出会いがあったから――

というわけではない。


そもそも彼は、

最初から最後まで、

全力を尽くしてくれていたのだから。


「ヴァンさんが、無事でよかったです。

……今回も、よろしくお願いします」


僕は、心にあったものを、

ただそのまま言葉にした。


ヴァンは、右手を背に回し、

左手を胸に当てて――

セレストリアの敬礼を返した。


その後、ヴァンと共に、シアナの部屋へ向かった。


ヴァンがノックすると、

シアナはすぐに扉を開けて姿を現した。


黒を基調とした布衣に、灰色のマント。

すらりと伸びた四肢。


以前よりも長くなった銀髪が、

ゆるく波打ちながら、肩口で揺れている。


腰には、鞘に収められた――

ひと目で分かるほど、手入れの行き届いた剣を携えていた。


「あら、ヴァンさん。おはようございます」


シアナは、どこか少し眠そうだった。


ヴァンは静かに、

改めて敬礼する。


僕は、この三人が――

改めて同じ空間にいることが、

素直に嬉しかった。


そのまま、屋敷の外へ向かった。


庭には、家の者たちが集まっていた。


僕とシアナは、

ライコスやオルフェ、そしてメイドたちに向かって、静かに頭を下げた。


その列の最前に、母の姿があった。


「母様、行ってまいります」


シアナが、母に向けて挨拶する。


僕は、

何を言えばよかったのだろうか。


そう考えている、

その間に――


「二人とも、どうか無事で」


母は、凛とした声で言葉を放った。


「……はい」


僕は、ただ一言だけ、そう返した。


僕たちは、庭先へ向かった。


そこには、ロイスと、十名ほどの兵がすでに待機していた。


僕はロイスに、静かに頭を下げる。


そして、

準備されていた馬の傍らで、じっと待った。


ほどなくして――


白いローブをまとい、魔杖を携えたエルミナが姿を見せる。


そして――


灰色の防具に、大ぶりな剣を携えたガイルが現れた。


あれから、

父とまともな会話を交わすことはなかった。


父は馬に跨り、

そのまま、ゆっくりと進み出す。


僕たちも、それに続き、

屋敷を後にした。


見送る母たちの姿が、

次第に小さくなっていく。



屋敷町ファルナの大通りを、

馬で、ゆっくりと進む。


ただ、穏やかな町だった。


人々は通りの脇に集まり、

領主の出陣に、

それぞれの思いを抱いているのだろう。


彼らにとって、

決して初めて目にする光景ではないはずだ。


だが、

多くの人が、灰色の何かを身につけていた。


その色が、

いつもとは違う、

特別な雰囲気を町に与えている。


それほどまでに、

今回の儀式は、

この国にとって重要なものなのだと、

感じられた。


やがて、町の外れにある駐屯地へと辿り着いた。


そこには、さらに五十名ほどの騎馬が待機していた。


ミリア、リイナ、ノルド――

ほかにも、ところどころに見知った顔があった。


総勢、六十名ほどの兵。


おそらくこの後、

本家の者や、王女直属の護衛も、

合流するのだろう。


だが――


この規模が、

多いのか、少ないのか。


今の僕には、

まだ判断がつかなかった。


軍の隊列が整うと、

ノルドが遠征の概要を、改めて説明した。


「まずは、我々は王都北方の近郊にある町――

カルディエへ向かいます。

そこで、王女一行の到着を待ち、合流する予定です」


ノルドは、続けた。


「その後、

罪砂の砂漠を越え、

ネフェレスにある灰の神殿を目指します」


ノルドの言葉が、そこで途切れる。


以前、学匠から聞いた知識が、ふと頭をよぎった。


カルディエまでは、馬でおよそ三日。

そこから先、

灰の神殿までは、さらに十日ほどかかる。


神殿へ至る道は、

どうしても砂漠を避けられない。


罪砂の砂漠。


魔物も多く、

さらに――

砂漠を根城にする賊も少なくないと、聞いていた。


それでも行く理由が、

王家には――

いや、

この国には、あるのだろう。


各々が、覚悟を決めた。


空気で、わかった。


その瞬間――


「責を負うは我らの誉れ。

 罪を刻むは我らの誓い。

 ネフィルの加護があらんことを」


ガイルの声が、

まるでファルナ中に響き渡ったかのように感じられた。


そして――


カルディエへ向けて、

僕たちは故郷をあとにした。

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