表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
主者選択   作者: シロイペンギン
哀雨に濡れし者 ― 少年編 /ドロレアへの旅道
42/91

意味刻み

「おそらく――森の主は、“意味刻み”だ。

 見つかると、厄介だ。」


ダルカンの声が、低く響いた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇



僕は、イレナの座学を思い出す。


「確かに、構造や因果は強力だがね。

 この世界は“意味”が支配する世界。

 因果すら、ねじ曲げる“意味”を持つ存在もいるんだよ」


彼女は少し間を置いて、静かに続けた。


「――そういった存在を、“意味刻み”というんだ」


「そんな相手と出会ったら……どうすればいいんですか?」


「まぁ、そうだね。とりあえず――出会わないのが一番だね。

 もし、睨まれちまったら……逃げな。」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「大蛇はマナを感知する。

 感情を揺らせば、マナが揺らぐ。」

ダルカンの声が、再び低く響いた。

その響きには、慎重さと緊張が滲んでいる。


空気が、ぴんと張り詰めた。

息を潜めた瞬間――


どこか遠くで、

大地が、ゆっくりと鳴る。



僕たちは、慎重に歩を進めていた。

やがて、大蛇の気配が少し遠のいたように感じる。


だからだろうか――

クリオが、どこか緊張感のない声で口を開いた。


「おい、アーシェ。お前、結構修行したんだろ?

 その魔法……蛇に試してみたいとか思わねーか?」


僕が首を横に振るより早く、

ユーナが小さく息を荒げて言った。


「クリオ、ちょっと黙ってて」


ダルカンが静かに僕ら三人を睨む。

その視線が何を伝えているのか――わかっている。


僕は平常心を保とうと努めた。

隣の二人も、もう何も言わなかった。



その後、何度か小型のコウモリのような魔物や、

オオカミに似た獣に襲われた。


極力、ダルカンとクリオが剣だけで対処する。

少し手こずって、ユーナが魔法を使おうとしたが――ダルカンが首を振った。


戦闘のたびに、わずかにマナが揺れたのだろう。


その直後、森の奥から、地鳴りのような轟音が響き渡る。


マナを揺らすたびに、森の奥から轟音が返ってくる。

――まるで、あの存在が呼吸をしているかのように。


もしかすると、初日から僕たちは感じ取られていたのかもしれない。

この森そのものが、あの存在の王国で――

王自ら、小さな火種を踏み消すように、堂々と進軍してきているのを感じた。



空が、ゆっくりと暗くなっていく。

――マナが、濃くなっている気がした。


「……まずいな」

ダルカンが足を止め、低く呟く。


なんとなくだが、僕にもわかる。

空気そのものが、重く圧し掛かってくる。


「……迷子だな」

クリオが短く呟いた。


序盤は、ユーナの魔法で方角を確かめながら進んでいた。

だが、大蛇の存在を感じてからは、魔法の使用が禁じられている。

その後は、太陽の位置を頼りにしていた。


つまり、太陽が見えなければ――

僕たちは、方角を失う。


『命に関わる迷子だ』


マナが、さらに濃くなっていくのを感じた。


僕らは、ダルカンの判断を待っていた。

けれど、その彼もまた、迷っているように見えた。


沈黙の中、時間だけが、ゆっくりと過ぎていく。


まるで、あの小型の魔物たちは王の斥候で――

僕たちは、静かに、じわじわと包囲されていたのかもしれない。


そんな風に感じた、その瞬間――


『囲まれている』


気づけば、僕たちの周りを、木々の幹よりも太いロープのようなものが取り囲んでいた。

それが何なのか、理解するのに一瞬かかった。


「……蛇の身体に囲まれてるぞ!」

クリオが息を呑み、声を上げる。

「もう、戦うしかねぇな!」


だが、ダルカンは首を横に振った。


「ユーナ、ベクトルを」


ユーナは短く頷く。

掌の上に、小さな光がぽっと灯った。

それはふらりと空中に浮かび上がると――

ゆっくりと、北の方角へと飛び出した。


一定の距離を進んだあと、光は静かに消える。

北を指し示して消える――それがこの魔法の性質だった。


僕らは進むべき方角である西へ、同時に駆け出そうとした。


だが――


マナで霞んだ視界の奥。

そのわずかな隙間に、“それ”が見えた。


想像を絶する大きさの――

蛇の顔だった。


間違いなく、三十メートルを超えている。


「クリオさん、僕――ちゃんと話、聞いてましたけど。

 三十メートルって言ってましたよね?」


なぜだろう。

僕は、少し皮肉を口走っていた。


「おっ! おまえ、本当に少し変わったな! 余裕出てきたか?

 そら、個体差あるだろ!」


クリオは笑っていた。


「なんで、二人ともふざけてるの……」


ユーナは、明らかに怒っていた。


ダルカン――なぜか、ほんの少し、嬉しそうだった。


「意味刻みに刻まれた“意味”がわからない限り、勝つことは不可能だ」

低く言い放ちながらも、その目は、獲物を正確に射抜いている。


「だが、あの種は――舌でマナを感知する。

 それは、ほぼ確実だ。

 ……なら、舌を潰す」


その瞬間、空気が凍りついた。

ダルカンの声は冷たく、それでいて、どこか愉しげだった。



三人の顔を見渡し、僕はゆっくりと息を吐いた。


恐怖はあった。それでも、胸の奥に静かな熱が宿る。


あの時と同じだ――

初めて、自分の意志で歩き出した日の感覚。


今、また選んでいる。

自分の足で、進む道を。


進むために。

僕は、因果を超越した“意味”に挑む。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ