始まりの冒険者
僕の冒険者登録が終わると、ガルドはにこにこと笑ったまま去っていった。
その直後、フェンが口を開く。
「ねえちゃん、昨日、依頼を予約しといたんだが」
受付の女性が書類をめくりながら首をかしげる。
「では……パーティー名をお願いします」
「――ホワイトファングだ!」
フェンは僕とユーナを振り返り、誇らしげに胸を張った。
「昨日のうちにパーティーを作っといたんだ! 悩みに悩んだけど、やっぱ“ホワイトファング”しかねぇ!」
……ホワイトファング。
この人、本当に壊滅的にセンスがない。
ユーナはあからさまに不満げな顔をしている。
それでもフェンは、白い牙をのぞかせるように笑っていた。
受付の女性が書類を確認し終えて、顔を上げた。
「確認がとれました。
Fランク依頼――スラグナの討伐、およびマナ石の納品依頼で間違いありませんね」
「そうだそうだ、それそれ!」
フェンが勢いよく頷き、胸を張る。
「どうだ、魔法の修行にちょうどいいだろ?」
「……はい。依頼選びは、しっかりしてるんですね」
ユーナは少し皮肉めいた口調で返した。
「ガハハハ!」
フェンは大げさに笑い飛ばす。
受付の女性はわずかに首をかしげ、言葉を継いだ。
「えっと……現在パーティーに登録されているのはフェンさんお一人ですが。
ユーナさんとアーシェさんも、“ホワイトファング”に登録してよろしいですか?」
ユーナは不満そうに視線を逸らしながらも、静かに答えた。
「……登録、お願いします」
「僕も、続けてお願いします」
そう告げると、フェンは満足そうに口角を上げた。
こうしてパーティー登録も済み、依頼の受注も終えると、僕たちはギルドを後にした。
まだ朝と言える時間帯。
僕たちはカナルスの北門へと向かっていた。
受付の女性の話によれば、北の森にはスラグナが多く生息しているらしい。
今日の依頼――そして僕たちの最初の討伐は、そこで行われることになる。
歩きながら、僕は口を開いた。
「スラグナって、どんな魔物なんですか?」
「うーん、なんか……ぷるぷるしてるやつ」
ユーナが肩をすくめる。
「あんまり強くはないけど、油断は大敵ね」
――確信した。
スライムだ。
フェンが得意げに口を挟む。
「強力な個体になると擬態能力とかあるらしいぜ。
ま、あんなしょぼい森には、そんな危険なやつはいねーだろうがな!」
ユーナが続ける。
「スラグナはマナを食べるから、そのマナが体の中で石みたいに固まるんだよ。
今回は、その結晶――“マナ石”の回収が依頼になってるわけ」
「そうなんですね」
僕が相槌を打つと、フェンがにやりと笑った。
「マナ石は高く売れるからな! ガハハハ!」
僕は小さく頷く。
そんなやりとりをしているうちに、僕たちは北門へとたどり着いた。
朝の光に照らされた北門は、大きな木の扉が開け放たれていた。
荷車を押す農夫や、同じく森へ向かう冒険者の姿がちらほらと行き交っている。
門番は立ってはいたが、僕たちを止めることはない。
ちらりとこちらを見て、世間話のように声をかけてきた。
「最近は野盗が出るって噂です。気をつけてくださいよ」
僕たちは軽く会釈を返し、そのまま森へ続く街道へと足を進めた。
一行は街道を歩き続けていた。
ユーナの腰に下がる剣が目に入り、ふと気になって僕は口を開く。
「ユーナさんは剣を使ってますけど……魔導士なんですか?」
「んー、剣は飾りみたいなもんかな。まぁ、魔法の方が得意だよ」
ユーナは軽く笑いながら答えた。
「なんだ、剣なら俺が教えてやるぜ!」
フェンが割って入るように声を上げる。
僕は自分の腰の短剣に目を落とし、ちらりとフェンの背中にある大剣を見る。
「……機会があれば、お願いします」
さらに進むと、やがて森の影が見えてきた。
ラドゥスの森のような不気味さはなく、朝の光が差し込む穏やかな森だった。
「ついたぜ!」
フェンが声を張り上げる。
僕たちは森の入口へと足を踏み入れた。




