8話 すごい人
「さあ、出発だ! 楽しい冒険にしようじゃないか!」
試験場から戻って来ると、あの嵐さんにまた出会った。
「ん? あっ、君は!」
どうやら向こうもこちらに気づいた様だ。棒立ちで見ている女がいることを。
「また会ったな! 友よ!」
「ええ、こんにちは」
軽快に手を挙げて挨拶してくれる嵐さん。こちらもとりあえずひらひらと手を振って挨拶を返す。
「ああ、こんにちは。カーバンクルもこんにちは。……少し撫でさせて貰えないだろうか?」
『ヤダッ!』
フッーと威嚇するカーバンクル。そんなにしなくてもいいのに。宝石触られそうになったの引きずってるの?
「オゥ、それは残念だ。そう言えば、まだ名乗っていなかったな。俺はヴェンニクス=アルト。気軽にヴェンと呼んでくれ!」
彼はヴェンニクス=アルト名乗る。嵐のヴェンさん。
「私はアリシア。知ってるだろうけど、この子はカーバンクル。よろしくね」
こちらも名乗っていなかったので、名乗り返す。ほら、カーバンクルも挨拶して。
「ああ、よろしく! 君達とは話したいと思ってたんだ。まさか冒険者をしているなんてな! 俺も……」
「あのー、そろそろ出発したいんですけど……」
ヴェンは話しだそうとしたが、後ろで彼を待っているであろう人達から声をかけられる。
「ああ! すまない! では、アリシア! また会おう!」
「え、うん。バイバイ」
ヴェンはそのまま待っていた人達と共に行ってしまった。本当に嵐かな?
「ヴェンさんとお知り合いだったのですね!」
彼が行った後、受付のお姉さんと登録手続きをしていた時に彼の話題になった。
「うーん、知り合いというか、たまたま会っただけというか……。彼も冒険者なんですか?」
あれは知り合いと行っていいのだろうか。前会った時は、なんかビュンと来て、ビュンと行ってしまっただけで名前すら知らなかったんだけど。
「ええ。冒険者登録もされてますよ。でも、本業は何でも屋さんですね」
「何でも屋?」
何でも屋ということは何でもしてくれるということだろうか。杖も探してくれるのかな?
「猫探しからドラゴン退治まで! どんな依頼もこの便利屋ヴェンニクスにお任せあれ! が、キャッチコピーの便利屋さんです」
「幅広過ぎない?」
猫探しからドラゴン退治って。受ける依頼の幅が広すぎると思うんだけど。
「そうですよね。でも、本当にドラゴン退治とかも出来るんですよ。彼は世界でも数人しかいないSランクなんです!」
「え、すごっ」
さっき冒険者制度について説明を受けたときに、ランク制度も教えて貰った。
冒険者とクエストにはランク付けがされていて、冒険者のランクにあったクエストしか受けられないようになっているらしい。実力が無いのに、高難易度のクエスト受けると危険だしね。
そのランクは最低ランクのFからE、Dと実績と試験を突破することで上がっていき、その最高がSランク。お姉さんが言うように、Sランクは世界でも数人しか居ないらしい。
「でも、なんでそんな人が何でも屋なんてしてるんだろう?」
「フフッ、そこが彼の良いところなんですよ」
「良いところ?」
「彼は少しでも人の役に立ちたいと言って、何でも屋をしているんです。さっき出ていったのも新米パーティーの教育を引き受けてくれたからですね。依頼は何でも、格安で引き受けてくれるんです。でも、一つも手を抜かないんですよ」
「へー」
人の役に立ちたいかぁ。そりゃまあ、私も立てるなら立ちたいよね。でも、何でも格安でって言うのは無理かな。簡単な事を高額でしたい。うん、愚かだね。
「そんな彼の性格や姿勢に、自然と彼の周りには人が集まってくるですよね」
それ何となく分かるな。嵐の様だけど、不快感とかは一切無かった。好青年って感じで皆から好かれてるんだろうなと思う。見た目もかっこいいし。
「ふーん、すごい人なんだね」
「ええ! でも、アリシアさんもすごい人ですよ!」
「え? 私?」
私? なんで? 愛想の無さが?
「先程の試験、感動しましたもん! あの身のこなし、あの破壊力! 素晴らしい力をお持ちです! アリシアさんもきっとSランクになれますよ! 実績が無いので、Cランクからのスタートにしか出来ませんでしたが、すぐに上がっていけますよ!」
私の試験結果はCランクスタートだった。これは何の実績も無い新人では、異例中の異例のことらしい。
それは、全てこのお姉さんが上の人に掛け合ってくれたおかげ。Aランクスタートに出来ずごめんなさい、なんて言われたけど、どう考えても謝る必要がない。むしろ、ドヤ顔してくれていいのに。
仕事も出来て、人をその気にさせるのも上手い。すごいなぁ。私には絶対無理だ。
世間にはすごい人がいっぱいいるんだなぁ。私も冒険者ランク上げて、すごいって言われるように頑張ろう。
まあ、とりあえずは明日のご飯の為、近場の薬草採取からやってきます。