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28話 猿のお尻は赤い

「ヴェンそっち行ったよ!」

「違う! 向こうだアリシア!」

『ヴェンの前行ったぞ!』

「カーバンクル、上!」

『アリシア後ろ!』

「あーもう、どこよ!?」


 森の中、三人の喧騒が響き渡る。


 右見て左見て上見て下見て。回り回って目が回る。


 ことの発端は昨日に遡る。





「おおっ。すんごい緑」


 ヴェンとカーバンクルと私で森にきていた。ここはヴァフスルーズニルに教えて貰った猿がいると言われる森。


「この森の中にいるんだよね」

『そう言ってたな、あの爺さん』

「こんな広くて見にくいところで猿一匹見つけ出すのかぁ……」


 鬱蒼とした森を進む。森というよりジャングル。木が生い茂りすぎて見通しも悪く、色んな生物の鳴き声がどこからともなく聞こえてくるジャングル。ちょっと不気味。


『シルフに木とか切らせれば?』

「あの子雑だし、木を切るどころかジャングル全部切ることになりそう」


 誰か精霊呼んで助けてもらおうかと思ったけど、誰呼んでも多分ジャングルが危うくなると思うな。みんな雑なんだよね。突然ジャングルが消滅!?なんてニュースになっても嫌だし。


「あまりここの生態系を壊すのも良くないだろう。俺達の手で出来るぐらいにしておこう」


 ヴェンはナイフで進行に邪魔な枝を切っていた。確かにそれぐらいが一番かもね。ん、この丸太邪魔だな。よいしょぉ。あっ。丸太吹っ飛んで、木なぎ倒しちゃった。……事故だね。


「これ振りやすい。ヴェンありがとう。すごいいよこれ」

「それ言ってくるならよかった」


 ヴェンに依頼していた杖の製作。それが数日前に完成した。試し打ちした時も思ったけど、この杖すごくいい。振り心地が良くて、力込めて打ってもびくともしない。見た目もかっこいいしすごくいいよこれ。本当にありがとう。


「それにしても暑いね……」

「そうだな……。この辺りは気温も湿度も高いらしい」


 暑い。すごくジメジメした暑さ。なんかサウナの中にいるかのよう。


 そんな中で頑張って一日中歩き回った。しかし、


「日が沈むね……」


 一日中歩き回ったけど、結局目的の猿は見つけられなかった。


「まあ、これだけ広いところから一匹を探すんだ。そう簡単なことじゃないさ」

「うん。明日は精霊も呼んで捜索しよう」


 明日と言わず今日からすればよかったと心の中で反省。鍵に関係あるなら、なんか鍵の力で運命的に簡単に見つかったりしないかななんて思っていたけど、そんなことはなかった。現実は甘くないね。


 ひとまず今日はこの森の中で野宿。でも、ここ怖いんだよね。昼間から鬱蒼としていて不気味な感じだったのに、夜は真っ暗で何も見えないのになんかの鳴き声やらガサガサ音やらでひたすら怖い。ヒキョキョキョッって何の鳴き声よ。


「ドリアード、今回も小屋よろしく。ちょっと頑丈にしてね。それと明日猿の捜索も手伝って」

『……あなた会うごとに厚かましくなってないかしら〜』


 そんなことないよ。いつだって私は謙虚だよ。慎ましいよ。やってくれたら嬉しいなー。チラッ、だよ。


『こいつが厚かましいのは元からだぞ』

「あんたが言うな」


 一番厚かましいのはあんたでしょうが。


『私からすればどっちも同じよ~。もうしょうがないんだから〜』


 そう言うと、木で立派な小屋を組み上げてくれたドリアード。ありがとう。これで今回も野宿回避だよ。

 

 後はシャワー浴びて、服も洗濯したいな。もう汗でベットベトだよ。怒られそうだけど、このまま寝るのは嫌だし。


「お願いします。シャワーを浴びたいんです。後、服も洗濯したいんです」

『知るか』


 そんな事言わないで。人助けだと思って。お願いします。ウンディーネ様。


『あんた、ちょっと前に家の掃除で呼んだと思ったら、今度はシャワーに洗濯? あたしをメイドかなんかだと思ってんの?』

「……メイド服もすごく似合うと思います」


 水着も似合うけど、メイド服もきっとすごくお似合いです。綺麗、女神、ウンディーネ様! 私を洗濯して!


『あんたねえ……。ん? あんた誰?』

「俺はヴェンニクス=アルト。はじめまして、ウンディーネ」

『ヴェンニクス? ああ、あんたがアリシアの旦那かい』

「はああ!?」


 何言ってんの!? 頭おかしくなったの!?


『あ、あんた結婚したんだってね。おめでとう』

「してない!」

『ああそうなの。子どもも五人いるって噂だけど』

「一人もいない!」


 なんでそんなことになって……、あの妄想野郎か! あいつ、自分の妄想を垂れ流してこんなことに!


『はあ。やっぱりね。何かの間違いだと思ったんだ。アリシアがまともに結婚して子どもなんか作れるはずがないって』

「それどういう意味?」


 喧嘩売ってるの? 買わないよ。


『あの文屋、情報源言わないからおかしいと思ったんだ。おおかた、リリィの妄想を盗み聞きして、面白半分で記事にしたんだろう』

「文屋って、そんなに広まってるの?」

『そりゃ精霊界で今一番話題になってる』

「ええ……」


 なんてことしてくれてんの……。リリィとあの新聞屋許すまじ。今度ぶん殴る。


『ま、安心しろ。みんなガセだって分かってる。アリシアじゃ無理だってな』

「酷くない?」


 それ共通認識なの? ウンディーネが喧嘩売ってるわけじゃないの?


『しょうがない。アリシアが迷惑かけてるからね。ヴェンニクスにしてやるついでにお前らもしてやるよ』

「……ありがとう」


 なんか嬉しいのに嬉しくない。知らないところでとんでもないことになってて気が重い。


 その後、服ごと丸洗いしてもらって、サラマンダー呼んで乾かして。きれいさっぱり気持ちいいね。何もかも忘れて、ご飯食べたらもう寝よう。はい、おやすみ。


 



『……いたわよ〜。南西方向に千キロってところかしら〜』

「千キロ……」


 翌日、ドリアードに猿の探索をしてもらう。ドリアードは木の精霊。木を操る事ができるし、木を通じてそこから見たり聞いたりとか色々できる。こんな木だらけの場所なら、どこに隠れようとも見つかりそう。


 それにしても千キロか。危な。地道に探そうとか思わなくてよかった。そんなことしてたら一生見つかってなかったかも。



「……あれか」


 案内された場所に行くと、確かに緑の猿がいた。そして、その尻尾には緑の鍵が。


「間違いないね。あの猿だ。鍵持ってる。カーバンクル、あの猿の動き止めて」

『分かった』


 カーバンクルに動き止めてもらって、鍵を回収すれば終わりだね。サクッと終わりにしよう。


「あれ? 消えた? カーバンクル何してんの?」

『いや、ボクは何も……』


 ゴトンと背後で音がした。振り返るとそこには猿がいて、地面には木の板が落ちていた。なんで後ろに? この板は?


「捕まえてごらん……?」


 板を手に取るとそう書かれていた。


「ウキャキャ」


 後ろから声が。そっちは猿が始めにいた場所。そして、そこにはその猿がいた。


「どうなってんの?」


 前に居たと思った猿が後ろに居て、後ろを見たらまた前に猿が居て。


『あいつとんでもなく速いぞ。ボクがサイコキネシスかけきる前に動かれる』


 瞬間移動かと思う程の速さで移動してるってこと? とんでもない速さなんだけど。


「キャキャウキャキャ!」


 猿は私達を見て大笑いしていた。そして、お尻を向けて馬鹿にするように叩いて挑発してくる。


「……舐められてるね」

『ああ。猿なんかがな』


 昨日からよく喧嘩売られるね。前の買えなかったから、今度のちゃんと買うよ。


「いくよカーバンクル! 私達を舐めたこと後悔させてやる!」

『今夜は猿鍋だ!』


 そして、現在へと至る。意気込んで行った私達だが、猿が速すぎて全然捕まえられない。右に居ると認識した瞬間、もう左に移動している。

 

 何か策を考えないと。色々試行錯誤する日が始まった。


 ……全部駄目だったんだけどね。

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