27話 初心者セットってお得だよね?
「買ったはいいけど、酷いねこりゃ」
家を買いました。けれど、中は汚れまくり。泥やらゴミやら中はぐちゃぐちゃ。まあ、知った上で買ったんだけど。
『足の踏み場もないな。浮いてなきゃこんなとこ入れないぞ』
「もう私は地に足ついてるんだけど」
何一人だけ汚れないようにしてるのさ。私にもやってよ。入る前に言ってよ。もう靴汚れたよ。
『こんなの掃除大変だぞ。どうするんだ?』
「カーバンクルお願い」
サイコキネシスでちょちょいと汚れを外に出してよ。
『……ボクがやってもだいたいしか取れないぞ。細かいところまでは無理だ』
「そっかー。……頼むしかないか」
カーバンクルのサイコキネシスだと細かいところまで取れないらしい。まあ、あんた雑だもんね。ガバっと大きいのだけ取って、小さいのいっぱい残ってますってなるんだろうね。
小さいのも残さず取ろうと思うと、床とかの隙間にも入るもので、浮かせてまとめて取る必要がある。更にそれを繊細にコントロールが出来るとなると、あの精霊に頼むしかないな。
「お願いします。泥とかゴミとかを掃除して欲しいんです。お願いします。どうかお願いします」
『……あんた、あたしをなんだと思ってるわけ?』
お願いします。あなたしかいないんです。お願いします、ウンディーネ様。
『にしてもきったな。何この家』
「買ったんです」
『買った? あんたが? あんた、汚部屋になるからって元々汚れたの買わなくても』
「ならないし!」
なんでみんなして私の部屋が汚いって言うのさ! ちょっと物が散らかってるぐらいじゃん。ゴミを溜めたりとかはしてないよ? 服とか小物とかが床に落ちてるだけだよ?
『はあ。このゴミとかを処分するんだな?』
「はい! お願いします!」
やった! さすがウンディーネ様! 水でまとめてゴミとか処分してください!
『ほら、これでいいか?』
「はい! 素晴らしいです! 文句無しです! ありがとうございます!」
ウンディーネ様のおかげで泥とかゴミとかは全て除去された。水で浮かせて、まとめて圧縮。あれだけあったのが、今やこの小さな塊に。すごーい。
『あたしが掃除してやったんだ。いいかい! 汚すんじゃないよ!』
「はい! 肝に銘じます!」
綺麗さっぱり掃除してくれたウンディーネ様は、まったく信用してない顔で帰っていった。なぜ。
『おお。綺麗になったな』
「そうだね。後の設備系とかは業者さんに任せよう」
キッチンとお風呂とか窓とかの設備は業者さんに任せよう。なんか良い感じのでお願いしよう。そんなにいいのは要らないけど。
掃除も終わり、一旦私達は宿に戻ってきた。今日は天気も晴れて暑くもなく寒くもなく。よし、今日は絶好のデビュー日和だね。
「じゃーん。どう?」
『どうって。どうしたんだこれ』
「買ったの。釣り初心者セット」
釣竿とルアーとかがセットになった初心者セット。これで私も釣り人だね。
「前釣りやった時、思ったより楽しくてさ。釣り始めようと思って」
シーサーペント討伐の時に初めてやった釣り。結局一匹しか釣れなくて、その一匹もシーサーペントに食べられたけど、釣り自体は楽しかった。だから、趣味にしようかなって思って。
「それにさ、なんか釣りが趣味って風流な感じがしない?」
『風流っていうか、おっさんみたいだなっていうか……』
えーそうかな? 本でも読みながらさ、ゆっくり魚がかかるのを待ってるのってなんかカッコよくない? 私の感性がズレてるだけかな。
「まあ、釣り行こうよ釣り。近くに湖あるよ」
釣り道具は揃った。近くに釣り場もある。となると、行かない訳ないよね。さあ、行くよ。釣れたらあんたにも食べさせてあげるからさ。
ということでやってきた湖。いい場所だね。人もそんなにいないし、ゆっくりできるよ。さて、それではいざ釣りを。ルアーを取り付けて、水の中へ。
「カーバンクル、釣竿固定しといて」
『お前この為にボク呼んだのか?』
そんなことないよー? でも、カーバンクルいなきゃずっと持ってないといけないじゃん。折り畳みの椅子座って本読まないといけないのに。
『まあいいけど。ボクの分の椅子は?』
「え? ないけど?」
『お前、自分だけ楽してボクには働かせるのか……』
「ごめんて。ほら、膝の上乗っていいからさ。許して」
カーバンクルの椅子なんて完全に忘れてたね。しょうがないから、膝乗っていいよ。
カーバンクルを膝に乗せて、釣竿も固定完了。もう後はゆっくりかかるのを待つだけ。さて、本でも読もう。
ふんわりと風が吹く湖。人も少なくすごく静か。カーバンクルはすぐに寝てしまい、一人静かに本を読む。穏やかな時間が流れる。心地良い。
「……全然釣れないね」
釣り糸を垂らして一時間。いまだにヒットはない。いつこの穏やかな時間が終わるか心待ちにしているのに。
『ふあぁ……。こんなもんだろ。一日やって全く釣れない時もあるっていうし、まだまだ始まったばかりじゃないか』
「うーん、でも、ちょっとは釣れないと面白くないよね」
『お前釣り向いてないんじゃないか』
そうかなー? 本読むのもちょっと飽きてきたから、そろそろ釣れて欲しいんだよね。もう十分まったりしたから、そろそろ刺激が欲しいよ。刺激が。
「カーバンクルなんか面白い話ししてよ」
『完全に飽きてるじゃないか……。そんな面白い話なんてない。それより、お前家族はいいのか?』
「家族?」
家族って私の? 別にいいと思うよ。
『あれからまあまあ経つけど、まだ一回も会ってないだろ。いいのかそれで』
「別にいいんじゃない?」
家族みんな国から無事に逃げて、新しい生活をしてるって聞いてるし多分大丈夫だよ。
「うちの家族はみんなマイペースだからさー。私が無事なのも向こうは知ってるし、何の問題もないよ」
『そうか? お前の妹とかうるさそうだろ。いつもお姉ちゃんお姉ちゃんってついてきていたじゃないか』
「いつの話してんの。そんなのあの子が小さい時だけだよ」
三つ年下の妹。確かに小さい時はよくついてきていたけど、もうそんな年じゃないでしょ。もう十五だよあの子。
『そんなすぐ変わるもんか? あれは結構重度だぞ』
「もう思春期だしね。次会った時、死ねって言ってきもおかしくないよ」
思春期って怖いよー。なんかみんな攻撃的になるよー。ずっとぽやぽやしてたの私だけだったよ。
「まあ、そのうち帰ってもいいかもね。場所は聞いてるし……おっ!」
釣竿に動きが! 今日初めてのヒット!
「おおおよいしょー!」
竿を引っ張り上げ、ついにザバッと水面からその姿が。
「やった! 釣れたよ! ほら見て! 魚だよ!」
『そりゃそうだろ』
釣れた釣れた! 魚釣れたよ! 結構でっかいよ! なんて魚か分からないけど!
『喜んでるのはいいが、その魚どうするんだ?』
「どうするって食べるよ」
『お前魚なんか捌けたのか?』
「あ」
宿のおばあちゃんが捌いてくれました。