26話 こいつならいけると思われたのかな?
「杖の製作か。任せてくれ! だが、少し時間を貰えるだろうか。他の依頼もあってな」
「うん。いつでもいいよ。暇な時にでもお願い」
採ってきたエルデの木をヴェンに渡す。本当に暇な時でいいよ。全部の依頼終わってからゆっくりやってくれていいよ。お金もちゃんと払うよ。
さて、依頼も済ませたし、次のことも済ませないとね。
「いらっしゃいませ。どういったご要望でしょうか?」
「住む家を探そうと思って」
家を探そう。
「家ですね。それは賃貸でしょうか。ご購入でしょうか」
「賃貸で」
別に持ち家でもいいんだけど、私とカーバンクルだけだしそんな大きいのはいらない。じゃあ、賃貸かな。
今私達は宿に泊まっている。この街に来てからずっと同じ宿に泊まっているけど、そこの店主が高齢の為、そろそろ宿を閉めようと考えているみたい。
だから、新しい住処を探さないと。ずっと宿暮らしでもいいけど、仕事も決まったし、この街がメイン拠点みたいになったし、そろそろ家も決めよう。
「かしこまりました。それでは、それ以外のご希望をお伺いいたします。まずは、場所はどの辺りをご希望でしょうか」
「この街の中ならどこでも」
私がいる街はメッシーナの中でも大きな街ノママ。面積は程々だが、色んなものが集中する場所で発展している。
「場所はノママの中ですね。間取りはいかがでしょうか」
「そんなに広くないやつで」
住むのなんて私とカーバンクルだけなんだから、狭くても構わない。広すぎてもね。
『いや、デカいのにしようぜ! 大豪邸!』
「あんたは黙ってて」
店員さん、気にしないでください。馬鹿は放っといて進めましょう。
「それでは、設備関係で欲しいものなどはいかがでしょうか」
「まあ、使えたらなんでもいいです」
どうせまともに家事しないし。料理しないからキッチンとかなんでもいいし。物もそんなないから収納も多くなくていいし。最低限の設備で十分かな。
『暖炉いるだろ! それと映画館みたいな部屋とか、でっかいキッチン! マグロ解体できるやつ!』
スルーで大丈夫なんで。猫が喋るわけないんで気にしないでください。
「では、ご予算はいかがでしょうか」
「そんな良いのはいらないんで、普通ぐらいで」
クエスト受けると数日帰らないなんてこともあるしね。それなのにすごく良いのはなんか勿体ない気がする。それに家が快適すぎると、家から出なくなる人なんで。
『金ならいくらでもあるぞ! アリシアが働くから!』
「あんたは黙るってことを覚えようねー。普通で大丈夫です」
「普通ですね。……はい、かしこまりました」
店員さんが若干困ってるように見える。カーバンクルがいらないこと言うから。
まあ、ちょっと希望が適当すぎるかもしれない。場所も間取りも設備も予算もほぼ希望なしに近いし。
でも、本当に物件選びのこと何も分かってないからなぁ。
実家の時は、間取りや設備がどうとか気にしたことないし。まともに家事もしなかったし。
学生の時一人暮らしだけど、学生寮だからこれも間取りとか設備とか選べないし。三食寮から提供されて、風呂トイレは共有だし。まともに家事することなかったし。
王宮入ってからなんて何一つ気にすることなかったし。一応、王妃(予定)だから、家事なんかすることなかったし。
「あっ、この猫が、ペットがいるんでペット可の物件がいいです」
「ペット可の物件ですね。かしこまりました」
『ペット!?』
やった。初めてまともな希望を出せた。これで候補を絞りやすくなるよね。
『お前、ボクをペット扱いするのか!』
「だって、あんた猫じゃん」
『猫だとしてもなんでペットになるんだよ!』
「だって、それ以外言い方分からなかったし」
こういう時なんて言えばいいの? 猫だけどペットじゃないけど野良でもない。家族というわけでもなく、友達もなんか違うというか。うん、めんどくさいしもうペットだね。
「こいつは無視していいんで、ペット可で予算普通の家お願いします」
「あっ、はい。かしこまりました。それでは、いくつか候補をお出ししますので、実際に見ていただければと思います」
そうして私達は外へ出て、店員さんが用意してくれた馬車に乗り、一番目の候補の物件へとやって来た。
「まずはこちらの物件です」
「高っ!?」
案内された物件は上に高くそびえ立つ物件。何階建てだろうこれ。
「こちら十五階建てとなります」
「十五……。それで、何階の部分が対象ですか」
十五階建てで十五階とか嫌だな。上の方だと昇り降りが大変そう。
「いえ、全てでございます」
「全て!?」
この建物全部ってこと!? こんな丸々要らないんだけど!?
「広くなくて大丈夫って言ったんですけど……」
「ええ。ご安心ください。広くありませんよ」
どこが? 十五階だよ? 広すぎるでしょ。
「では、中をご覧ください」
「ええ……見なくても狭っ!?」
狭っ!? なにこれ!? 奥行がない!
ドアを開けると壁が見えた。壁が見えたというより壁しかない。奥行がなさすぎて二、三歩歩けば行き止まりになる。私が横になるだけでほとんど埋まるんだけど? 横は普通の一部屋の横幅って感じだし、ここで何をしろと。
「一階は玄関となっております」
「そんな家ある?」
一階、玄関だけ。なんて贅沢な使い方。まあ、靴箱と脱ぐ場所
「二階がキッチン、三階が風呂トイレ、四階がリビング、五階が寝室となっております。それ以降はご自由に」
ご自由に言われても、やれることほとんどないんだけど。それに何かしようと思う度に移動は面倒すぎる。却下。
「お気に召しませんでしたか。それでは、次の物件に参りましょう」
そう言って次に連れてこられたのは、なんか丸っこい感じで、上に蓋?のようなものがついている家。
「こちらはオーナーが絶望を防ぎたいという考えてデザインされた家になります」
絶望を防ぐ? なんだろう、防犯とかがしっかりしていて、泥棒にお金盗まれたりしないってことかな。
「それでは、どうぞ」
扉を開けてもらい、中に入る。すると見えてきたのは大量の扉。
「何があるんだろう。あっ、トイレか」
一つ目の扉を開けると、中にはトイレが。まあ、普通のトイレだね。
「こっちは、あれ? トイレ?」
二つ目の扉も開けるとトイレだった。まあ、複数人で住む時は二個あったほうが便利かな。
「こっち、え!? ここもトイレ!?」
三個の扉もトイレだった。変に思って他の扉も開けたけどその全てがトイレだった。
「絶望とは、漏れそうな時にトイレが空いてないことである。こちらがオーナーのおっしゃっていた言葉になります」
いや、だからってこんなトイレ要らないし! トイレだけで十個ぐらいあるじゃん! この家ほとんどがトイレだよ! 却下!
「残念です。では、次の物件へと参りましょう」
そんなこんなで三件目。そろそろ普通の物件が見たい。
「こちらのお部屋になります。どうぞ」
店員さんが鍵を開けて、扉を開けて私達を先に入れてくれる。
中には入ると至って普通の部屋があった。ワンルームというやつだろうか。一つの部屋の中にキッチンや風呂、トイレがそれぞれ一つある部屋。広さも一人暮らし用としては十分ある。見た目も綺麗。
「へえー、ここいいね。広さもあるし、綺麗だし」
『まあ、普通の部屋って感じだな。暖炉とかないけど』
それは別に要らないし。誰が薪の準備するのよ。あんたどうせやらないでしょ。
「そうでしょうー! 家賃もお値打ち、一ヶ月銀貨五枚ですー!」
「銀貨五枚!?」
なんでそんな安いの!? これぐらいの部屋ならその倍以上は普通しそうだけど。
「なんでそんな……、あれ? どうしてそんなとこに?」
店員さんは玄関の扉を開け、外に立っていた。まるで中には入らないというように。
『……なあ、アリシア。なんかお札貼ってあるんだけど、普通貼ってあるもんなの?』
瞬間、私は外へとダッシュした。
「あ、あんたねえ! 何かあるなら先言いなさいよ!」
店員さんに掴みかかる。なんで中に入ろうとしないのか!? なんで部屋にお札なんかが貼ってあるのか!? 何か事故でもあったんじゃないの!? 何かあるなら先言ってよ!
「も、申し訳ございません! しかし、安心してください。そこまでおかしなことは起きてませんので!」
「少しでも起きてんの!?」
そこまでってことは少なくとも一回は起きてるってことでしょ!? 尚更言え!
『まあいいじゃんアリシア。お前の希望通りだろ。ここでよくない?』
「いいわけあるか!」
何いってんだこのバカ猫! 怪奇現象が起きる家なんか住めるか!
『お前もっとやばいやつと契約してるじゃん。今更怪奇現象なんかでビビるのか?』
「あれのヤバさとこっちのヤバさは別物なの。とりあえず、却下!」
あれはあれ。これはこれ。なので、却下。っていうかさっきから変な物件ばっかじゃない? 私が適当だから、変な物件押し付けようとしてない?
「そうですか。では、次の物件……」
「いや、もういいです」
これ以上変な物件紹介されても嫌だし。もう帰ろう。この後も食い下がってきた店員さんを無視し馬車に乗って帰る。
馬車から見える様々な建物。見た目普通のが多いけど、意外と紹介されたやつと同じ感じだったりして。とか考えて見ていると、一件の家が目に入った。
「あの家……、すみません止めてください」
「えっ、あっはい」
馬車を止めてもらい、見えた家へと向かう。
それは他の家から少し離れた所にポツンとあった、木でできた小さな平屋。
「その家は二百年以上前からありますが、ずっと空き家になってますね」
窓は割れ、中も汚れてしまっている。しかし、不思議と木は綺麗。壁も床も屋根も木でできている所は痛みが見えなかった。
壁の木に触れてみる。なんだか懐かしいような触り心地。
「……ここにする」
「え?」
「この家買います」
「ええ!?」
決めた。ここにしよう。
『いいのか? こんな家で。ボロボロだぞ』
「修理したら使えるよ。それになんかいいと思うんだよね」
正直、自分でも何がいいのか分からない。でも、なんとなくここがいい。この木とか、なんかしっくりくる。
「ここはきっといい家になるよ」
こうして私は家を決めた。色んなところをリフォームする必要があるけど、これからちょっとずつ直していけばいけばいいや。