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25話 猫猫 ②

『じゃあ、ちょっと遊んでやるよ。猫』


 カーバンクルがザバトラと向かい合う。その体格差は圧倒的。


 ザバトラ。十メートルを超える巨大な虎の様な魔物。巨体だが敏捷性に優れ、鋭い爪と牙は驚異的な破壊力を誇る。Aランク。ふーん。強そうだね。


「遊ぶのはいいけど、こっちに来ないでよね。私の邪魔しないようにしてね」

『うるさいな。口じゃなくて手を動かせよ』

「はあ!? 動かしてますけど!?」


 めちゃくちゃ動かしてますけど? でも、全然切れてませんけど!? なにか!?


『じゃあ、さっさと切れよ不器用。ほら、かかってこいよ猫』


 カーバンクルは私のことを呆れた目で一瞥し、ザバトラへと向き合う。カーバンクルよりも何十倍も大きなザバトラ。手のひらだけでもカーバンクルよりも何倍も大きい。その手を上から潰すように振り下ろす。


『フン。軽い軽い』


 でも、それはカーバンクルに簡単に止められる。あのサイコキネシスって便利だよね。見たものを何でも操作出来るって。


「グルルルル……!」


 いくら力を入れても、カーバンクルのサイコキネシスはびくともしない。あくびをしながら余裕たっぷりに受け続けるカーバンクル。それに対し、苛立つザバトラは次の手へ。


「グルオオオオ!」

『ん? 今度は爪か? いいぜ。ボクのとどっちが鋭いか勝負だ』


 ザバトラが逆の手を振り上げる。その手からは巨大で鋭利な爪が。それを見て、カーバンクルも普段は隠している爪を出す。これも大きさなど比べようもないちっちゃな猫の爪。それを正面からザバトラの爪へとぶつけた。


「グオオオォォ!?」

『ニャハハ! ボクの爪の方が鋭かったな』


 ぶつかりあった爪は、カーバンクルの爪がザバトラの爪を切り裂く結果となった。爪の鋭さもそうだけど、あんたって意外と力あるよね。


『もっと研いでから出直してこいよな。そんななまくらじゃ、アリシアじゃなくても切れないぜ』


 ペロペロと手を舐めて、相手も舐めているカーバンクル。なんで私まで舐められないといけないんだろう。

 もうさっさと終わらしなよ。……いや、やっぱりもうちょっと遊んでていいよ。切れないや。


「グウウ、グオオオ!!」


 爪も封じられたザバトラはもう一つの武器である牙を。カーバンクルを飲み込み、その牙で食い千切るつもりのようだ。


『おっ、今度は牙対決か。どれどれ、どっちのが硬いかな?』


 迫るザバトラの牙にカーバンクルも口を開ける。そして、その牙目掛け自分から飛び込み、牙と牙をぶつけ合わせる。


「グニャオオウ!?」


 結果、ザバトラの牙が折れ、カーバンクルは勝ち誇ったように牙をカチカチと鳴らしている。食べる以外にも使う用途あったんだね、その牙。


 もう勝負あったかな。爪も牙も何もかもカーバンクルに届かなくて、ザバトラの目から戦意は消えていた。まあ、最初から分かっていたけど。


 それよりこっちを終わらせないと。いつまでやってんの?とか煽られることになる。でも、中々切れないんだよね。ぐっ、スムーズに動かない。もっとこうギコギコしてるイメージなのに。ギコギコ、ギギ、ギコ……みたいな。スムーズにギコギコ出来なくて、途中で止まっちゃう。よいっしょ。うーん、駄目だなぁ。もうへし折ろうかな。


『ねえー、いつまでやってんのー?』


 そらきた。予想通り過ぎる。一言一句違わなかったよ。分かりやすいね、この猫は。は? 何やってんの?


『不器用だろあいつ。ノコギリも使えないし、料理も下手だし、裁縫とかさせたら手血まみれになるんだぜ』

「ニャオオン!」


 カーバンクルはザバトラの頭の上に乗っていた。


「なに手懐けてんのよあんた。それに何私の悪口言ってんのよ」

『ただの事実しか言ってないし。違うって言うなら早く切れよ。あいつ、いつもああなんだぜ。下手くそなくせに、口だけは一丁前なんだ』

「ニャオ〜ン!」


 何二人して笑っんのよ。って言うか、ザバトラの声かわい。さっきまでの威厳ある声はどうしたのよ。


『あいつ待ってたら日が暮れるな。おい、切ってやれ』

「ニャオ!」

「きゃあ!?」


 怖っ! 真横切られたんだけど!? 当てるつもりじゃないでしょうね!?


『ニャハハ! おしかったな。もうちょっとで当たりそうだったのに』


 このクソ猫……。あんたと私、どっちが強いか分からせてあげようか?


『でも、よかっただろ? ほら、ちゃんと切れたぞ。お前にさせてたら今日中に切れなかっただろ』


 そんな事ないし。今日中には終わってるし。……多分。


『じゃあ、帰るぞ。猫、その木持って街までよろしく。あっ、木の実もな!』

「ニャオ!」

「え、私は!?」


 走り出したザバトラ。私は一人空中に取り残された。小さくなっていくその姿を見送りつつ、ふと思う。街までって、あんなのが街に行ったら大混乱になるんじゃない?と。……私はもう何も考えないことにした。あっ、この木の実うまっ。

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