24話 猫猫
「あー……、これも駄目だぁ……」
辺りに散らばる木の残骸。
『全滅だな』
「はあ。一種類ぐらいはいけると思ったのになぁ」
散らばる木は様々な種類が混ざっていた。白い木や黒い木。赤っぽい木など色々と。
「中々見つからないね。杖に適した木って」
これらの木は全て、杖に使えるかと思って買ってきた木。でも、どれも駄目だった。魔力を多く流すと破裂したり、流して大丈夫でも叩いたらすぐ折れたりで、杖に適したものはなかった。
『もう一回あの材木屋行くか?』
「うん。そうだね。とりあえず、ここ片付けて帰ろっか」
この惨状を放っていくことはさすがに出来ないよね。片付けて、街へ戻ろう。よろしくカーバンクル。
「らっしゃい! と、今朝の嬢ちゃんか」
「こんにちは」
街へ戻って来て、あの木材達を買った店にやって来た。おじさんごめん。あの木材達全部駄目にしちゃった。
「今度はどうしたんだい?」
「今朝買った木じゃ駄目だったから、別の木ってない?」
「あー、杖作るって言ってたな。加工が上手くいかなかったのか?」
「ううん。全部叩いたら折れたんだ」
「は?」
加工はしてないというか、その前段階で駄目だったよ。魔力でバァン! 叩いてボキィ! 全滅でした。
「あー……、そうだったのか。叩くね。杖作るって聞いてたから、魔力適応のいいやつ勧めたが、衝撃耐性とかも必要だったんだな」
「そうなんだよ。ごめんね。せっかくの木材全部駄目にしちゃった」
「いや、こっちこそちゃんと聞かずに悪いな。しかし、その条件だと、うちには対応できるがものねえな」
こんな色んな木材持ってるとこでも無いか。本当あの杖の素材ってなんだったんだろ。師匠に聞いとけとばよかった。
「それこそ、エルデの木ぐらいじゃねえかな。条件に合うのは」
「エルデの木?」
「魔力適応も高く、衝撃にも強い。嬢ちゃんの言う杖に使えると思うぜ」
おお。それはまさに私が求めているもの。それ欲しいよ。
「だが、一つ問題があってな」
「問題?」
価格が高いとかかな? お金なら頑張って稼ぐよ。ワイバーンが結構良いお金になったから。乱獲するよ。
「エルデの木は実をつけるんだが、その実を好物とする魔物がいて縄張りにしてるんだよ。そいつはザバトラっていうんだが、Aランク指定される超危険な魔物なんだ」
おじさんいわく、ザバトラはおっきな虎の様な魔物らしい。鋭い爪に牙、高い身体能力を誇るAランクの魔物。迂闊に近づけば、八つ裂きにされてしまうらしい。
「ふーん。おじさん、その木の場所教えてくれる?」
「おいおい、話聞いてたか? Aランクの魔物がいる所だぞ?」
「大丈夫だよ。だって、私もAランクだし」
ランクは問題ない。私だってAランク。それなのにおじさん、なんでそんな目で見るの? 最近疑われる事が多いなぁ。
「すっご。でっか……」
教えて貰ったエルデの木へと辿り着いた。それにしてもでかい。高さもさることながら、その太さもすごい。この幹、普通の木十本まとめたぐらいの太さがある。
「言ってた魔物居なさそうだね。ラッキー」
辺りをキョロキョロ見回しても、言われてたSランクの魔物は見当たらない。お出かけ中かな。なら、ラッキーだね。今の内にさっさとやっちゃおう。
「あの枝なんか良さそうだね。カーバンクルあそこまでお願い」
カーバンクルに持ち上げてもらって、空中で立つ。借りてきたノコギリで切るんだ。でも、枝と言っても、この大木の枝だからすごい太い。これ上手く切れるかな。
「う、ん? あれ? なんか上手く切れない……」
ノコギリって初めて使ったけど、全然切れなくない? あれ、こう木に当ててギコギコすればいいんだよね? 力入れてるのに全然うまくギコギコできない。
『アリシア、この実美味いぞ!』
「あんたのんきだね」
カーバンクルは近くの枝に座って、なっていた実を取ってかじっていた。のんきだね。こっちは頑張ってるんだけど。全然切れてないけど。
『まだぁ? アリシア早くしてよ。早くしないとさ……』
ズシンズシンと足音が聞こえた。その方向を見ると、
『……帰ってくるじゃん』
「……帰って来たね」
おっきな虎みたいな魔物が。あれが噂の魔物だろう。口に咥えているのは、ワイバーンかな。獲物狩った帰りかな。
「ヴヴヴヴウゥ……!」
うわあ、すごい唸ってる。明らか私達に敵意向けてるよね。まだ全然切れてないんだけど。
『アリシアまだ?』
「まだまだ。ていうか、あいつずっとあんたの方見てるわよ」
『……そうだよな。なんでだろ』
なんでだろって、あんたがその実食べてるからでしょ。なにのんきに今も食べてるのよ。煽ってんの?
「ヴォウ!」
『おっと。なんだよこいつ』
しびれを切らしたザバトラがカーバンクルに襲いかかる。避けたカーバンクルは枝から落ち、地面へ着地した。
「ちょ、ちょっと! 大丈夫だよね!? 私落ちたりしないよね!?」
『少しはボクの心配しろよ! 大丈夫だよ!』
「だって、あんた自業自得じゃん!」
『自業自得ってなに!? もぐぅ』
「いつまで食べてんのよ!?」
それよそれ! っていうかいつまで食べてるのよ! さっさと食べきりなさいよ!
『アリシアこそ早くしろよ! いつになったら切れるんだよ!』
「そう言われたって……。なんか切れないし。このノコギリ駄目なのかも」
頑張って力も入れてギコギコしようとしてるけど、全然切れない。このノコギリなまくらなんじゃない?
『駄目なのはお前の腕じゃないのか? 不器用だもんな、お前』
「うるさいなぁ。頑張ってる人にそんなこと言わないでくれる?」
不器用って言ってもちょっとだけだし。それでも頑張って切ってるし。進まないけど!
「グルオオオオォ!!」
カーバンクルを睨みつけ、ザバトラが吠える。カーバンクルはようやく木の実を食べ終えたようで、ここで初めてザバトラと対峙する。
『さっきからうるさいな。ボクに喧嘩売ってるのか?
この猫は』
いや、あんたも猫じゃん。