21話 気を遣わせてただけでした……
「アリシアさん、おはようございます!」
「おはよう、お姉さん」
ギルドでお姉さんと挨拶。今日はクエストを受けに来たのではない。便利屋の依頼できたのだ。
「今日はよろしくお願いしますね!」
「うん。でも、本当に私なんかでもいいの?」
昨日、ヴェンから便利屋の仕事を一件引き受けた。その依頼を今日こなしていくんだけど、本当に私でいいんだろうか。
「大丈夫です! アリシアさんはアル王国国立学校も卒業され、今では数少ないAランク冒険者なんですから! アリシアさん以上の適任なんていませんよ! もう上からの許可も出ています!」
「相変わらず早いね」
さすがのシゴデキだね。もう上の許可まで取って。それならやるしかないね。
「じゃあ、頑張るよ。新人教育」
今日の仕事は新人教育だ。
冒険者ギルドは冒険者へ様々な研修を提供している。冒険者登録したての人への新人教育もその一つ。新人に必要な知識や経験を積ませる研修。
私は学校出てたから免除されたけど、そうでない人や必ず受けないといけないのがこの新人教育。
「ありがとうございます! もちろん、報酬金も出ますので、よろしくお願いします! こちらが本日の研修マニュアルになります」
お姉さんから冊子を渡される。なになに、新人教育、実地研修マニュアル。
研修内容:近隣の森を探索し、薬草を十本採取させること。ほお。
魔物と遭遇した場合、被験者の実力や状態、魔物のレベルを確認し、被験者に戦闘を行わせるかの判断は教育担当者が行う。ふーん。
内容としては簡単だね。薬草採取してもらえばいいだけ。魔物と出会ったら戦闘もしてもらえばいいんだし、私は付いて行くだけかな。楽だね。
『じゃ、頑張ってこいよ』
「え、カーバンクル来ないの?」
『新人教育なんかにボクが行ったところで意味ないだろ。だから、遊んでくる!』
「あっ! 逃げやがったあの猫。……まあいいか」
ぴゅーとギルドから出て行ったカーバンクル。逃げ足の速いやつめ。まあ、居たところで茶々いれてくるだけだし、居ない方がいいかもしれない。
「それで新人の人ってどんな人なの?」
「それはですね、あっ! 丁度来られましたよ」
新人ってどんな人だろうと話をしていると、丁度ギルドの扉が開いた。そして、入ってきたのは、
「……新人教育受けに来たんですけど」
「はい、お待ちしておりました。ケイさん」
「……子ども?」
一人の男の子だった。
「は? なに?」
「あっ……、いや、別に……」
十四、五ぐらいかな? 背も私より低く、まだ幼さ残る男の子。でも、なんか生意気そうだなぁ。
「本日は新人教育の実地研修になります。担当教官は、こちらにいらっしゃるアリシアさんです。彼女はAランク冒険者なんですよ!」
「よろしくね」
「……よろしく」
なんかジッーと見られたような。え、なんか付いてる?
「……以上が本日の研修内容になります。何か、ご質問はございますか?」
「……ないです」
挨拶した後はお姉さんが研修の説明をしていた。その間、彼は静かに話を聞いていた。話聞いてくれるなら、まあいいか。
「そうですか。それでは、気をつけて、いってらっしゃい! アリシアさん、よろしくお願いします!」
「うん。じゃ、行こっか」
「……はい」
私とケイ君はギルドから出発した。
「ケイ君っていくつなの?」
「……十五」
「そうなんだ。兄弟とかいるの?」
「……いない」
「……ふーん。なんか趣味とかあるの」
「……別に」
「……そっか〜。………………」
……気まずい。森へ向けて歩き出したけど、開始早々もう既に気まずい。会話が続かないよ。私のコミュ力だとこれが限界だよ。もう何話したらいいか分からない。誰か助けて。
「……あっ。なんで冒険者になろうと思ったの?」
「……なんとなく」
なんとなくかぁ。そんな理由でいいの?なんて言える立場じゃなかった。消去法で決めた分際でした。そして、もう会話の引き出しがないです。
「…………着いたよ。ここが研修場所の森ね」
歩くこと十分。目的地へとやって来た。長かった。あの後ずっと無言で歩いてたから、すごく長く感じた。いつもカーバンクルとかヴェンとかと歩いてる時は、ずっとお喋りして、すぐに着いてた感じだったのに。二人に気を遣わせてただけだったと気づく。色々と悲しい。
「えーと、説明があった通りここで薬草を十本採取してもらいます。よく似た毒草もあるので注意してください。魔物と遭遇した場合は、戦闘するも逃げるもおまかせします。じゃあ、始めてください」
「………………」
説明が終わり、ケイ君はふいっと前を向いて歩き出した。なんだろう、嫌われたのかな。こいつコミュ障すぎって思われたのかな。
その後、彼は順調に薬草を採取していた。なんか、思ってたより手慣れた感じがする。私より採取するの上手くない? 私未だに毒草と間違えそうになるんだけど。
テキパキと採取を進め、気づけばもう半分以上採取していた。このペースだともう少しで終わっちゃいそうだな。
後ろついて行って見てるだけだし、楽だなー。これでお金貰えるんだったら、これからずっと新人教育やってようかなー。なんて思っていたその時、魔物と遭遇した。
「ゲッゲゲゲ!」
小さい子どもぐらいの背丈の魔物、ゴブリンだ。
ゴブリンは小さいが、人間より体力に優れ、武器を使う知能もある。集団で襲われた場合は熟練冒険者でも注意が必要。ランクはE。
図鑑でゴブリンの内容を確認する。まあ、今いるゴブリンは一匹だし、戦わせてもいいかな。なんて思って、図鑑から目を上げると、
「あれ? もう倒したの?」
もう既にゴブリンは倒されていた。
「……はい」
ゴブリンは首が胴体とお別れしていた。彼の持っている剣で一刀両断されたのだろう。早いね。すごい。
「すごいね。そんな早く倒しちゃうなんて」
新人なのにすごいね。採取もだけど、なんか手慣れるね。どっちが新人か分からなくなりそうだよ。
「…………なんで図鑑なんか見てるんですか」
「え?」
図鑑? ゴブリンのこと確認しようと思って……。
「Aランクにもなるくせに、ゴブリンのことすら知らないんですか」
「え?」
し、知ってるけど、ほら、一応確認というか、なんというか……。
「本当にAランクなんですか」
「ええ!?」
ケイ君は私を疑いの目で見てくる。そんな……。図鑑見ただけなのに……。
「Aランクだよ! ほら、私のギルドカード」
私のギルドカードを見せる。ちゃんと名前と顔写真とランク書いてあるでしょ。本物だよ?
「……はあ。最近は冒険者のレベルも低くなったんだな」
「はあ!?」
なんなのこいつ!? ため息なんかついて! 私より年下のくせに!
「やっぱり時間の無駄じゃないか。こんな教育要らないって言ったのに。教官もポンコツだし」
ポ、ポンコツ!?
「こんな教育受けなくても、すぐに冒険者として活躍できるのに。こんなのがAランクなんだろ? それなら、俺も楽勝でAランクになれるじゃん。今からでもいいな」
……ほぉ。このクソガキは私に喧嘩売ってるってことだよね。いいよ。買ってあげるよ、その喧嘩。
確かに彼は実力があるようだ。実力もあって、知識と経験もあるのだろう。それだと、普通の新人教育は物足りないよね。
「ふーん。じゃあ、レベルアップだね」
アリシア流新人教育の開始だよ。