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17話 青の試練③

「ヴェン!! ヴェン!?」


 何度呼んでも反応は無い。私を押し飛ばし、救ってくれたヴェン。だが、彼はその拳の下敷きとなった。


 番人の拳が地面から持ち上がる。その拳は赤く染まり、大量の赤い液体がしたたっていた。


「あっ……。あ、ああああっ……!」


 私のせいだ。私が無理に押し返そうとなんて考えたから。無理せず、避けて体勢を整えていたら。


 きっと、ヴェンは死ななかったのに。


『アリシア! しっかりしろ!』


 呆然と座り込んだ私へ、番人は拳を振るう。避けることも何もしない私を守るために、カーバンクルがその拳を受け止める。壁に打ち付けられ、壁にもたれかからないと立てないぐらいなのに、私の為に。


『ぐううっ……。早く、長くは持たないっ……!』


 番人の攻撃は重い。いくらカーバンクルでも長くは受けきれない。分かっている。分かっているけど、足が動かない。


「だ、だれか、誰か来て……!」


 コンコン、コンコンと何度も地面をノックする。しかし、誰もそれに応えてはくれない。


 頭が働かない。誰を呼んでいいのか、今誰を呼んでいるのかすら分からない。ただ、震える手でひたすら地面を叩く。


 でも、誰も来ない。


『うううっ、ぐにゃあ! アリシア!』

「あっ……」


 カーバンクルのサイコキネシスが弾かれる。止まっていた巨大な拳が再び動き出す。私を潰そうと迫る。


 誰も呼べないし、まだ立つことすら出来ていない。


 私、死ぬんだ。


 あんなに速かった拳がゆっくりに見える。でも、私が早く動ける訳でもない。もう避けられない。


 ごめんね、二人とも。私のせいで。


 カーバンクル、頑張って逃げてね。あんたなら大丈夫だよね。


 ヴェン、私のせいでごめんね。許されないだろうけど、謝りたい。私ももうそっちへ行くから。


 目を瞑る。これから来る痛みを。これから来る死を受け入れるしかなかった。



 ……でも、それは来なかった。


 代わりに感じるのは温かな熱。


 そして、目を開けると、そこには、


「心配かけたな。だが、安心してくれ。俺の炎はこの程度で消えやしない。何度でも燃え上がるのさ!」


 燃え盛る炎を纏ったヴェンの姿があった。


「はぁああ!!」


 ヴェンが番人の拳を弾き返す。拳を弾き返された番人は大きくのけ反り、後退する。


「ヴェン!? なんで……!?」

「話は後だ。立てるかアリシア」


 スッと私へ差し出された手。戸惑いながらその手を握る。私の手よりも大きく、硬い手は今、確かに私の手を握っている。私へ立ち上がる力をくれる。


「ラストダンスといこうじゃないか! 共に舞おう、アリシア!」


 ヴェンは巨大な炎を纏い、番人へ突っ込む。その姿はまるで巨大な炎の鳥。その燃え盛る炎が番人を飲み込む。超高温の炎にもがき苦しむ番人。だが、炎は番人を拘束し、決して逃さない。


「さあ、クライマックスだ!」


 炎によって拘束された番人。超高温の炎により体に歪みが出てきている。それなら、更なる炎で破壊する。


「来て! サラマンダー!!」


 地面を叩く。

 そして、現れるは、炎の化身たる竜、サラマンダー。


「燃やし尽くせ! 紅蓮の炎よ!!」


 ヴェンが番人から離れる。しかし、炎は消えることなく番人を燃やし続ける。その上から更にサラマンダーの炎が包みこんだ。全てを焼き尽くすその炎は、対象が燃え尽きるまで決して消えることは無い。


 炎は勢い衰えることなく燃え盛る。炎から逃れようともがいていた番人。しかし、徐々に動きが鈍くなり、そして、遂に番人は倒れ動かなくなった。


「倒、した……?」


 番人は倒れたまま動かない。倒せた? 私達の勝ち?


「あっ! ヴェン! ヴェン! 大丈夫!?」


 私は急いでヴェンへと駆け寄る。


「ああ、アリシア。問題ないさ」

「問題ないって、あんなぐしゃって……」


 ヴェンは確かに番人の拳により、つ、潰れてしまったはず……。


「本当に? 本当に大丈夫なの?」

「大丈夫。どこも問題ないだろ?」


 上から下まで隈無くヴェンを確認する。あんなに血が出てたのに、今は一滴たりともその後が見えない。ヴェンも服も全て傷一つ無いように見える。


「なんで……?」

「俺は不死なんだ。死んでも死なないのさ」


 不死? 死んでも死なない?


「それってどういうこと……?」

「ん? まあ、そういう体質だと思ってくれ」


 体質? そんな体質あるの? だって、死なないなんてそんなのおかしい。生きてるなら誰だっていつかは死ん……


 ふいに手に熱を感じた。温かな熱を。そして、確かな鼓動を。


「ほら。感じるだろ? 俺の鼓動を」


 私の手を取り、自分の胸に当てるヴェン。手から感じるヴェンの鼓動。それは優しく、だけど、力強い鼓動と共に燃え盛る生命の熱。


「俺はちゃんと生きているぞ」


 ヴェンは、ヴェンは生きている。手のひらから伝わるこの熱、この鼓動は間違いなく生きている証。本当に……、本当に生きているんだ……!


「……よかった。よかっ、ううっ……よがっだよお……!」


 ヴェンが生きている。それが分かっただけで安心して、涙が出て来る。

 

「本当に、ほんどによかっだよぉ……。ひっく、わ、わだしのせいでっ、ヴェンが死んじゃったって……」

「アリシアのせいなんかじゃない。アリシアは俺達を守ろうとしてくれたんだろう? 俺達が立て直せるように、少しでも時間を稼ごうとしてくれたんだろう? 」 


 そっとヴェンの手が私の頭を撫でる。そして、私は優しく彼の胸の中へ。


「ありがとう。アリシア。君のおかげで俺達は助かったんだ」

「う、うううっ……、うええっ……!」


 ヴェンの温かさが鼓動が私を包む。本当に生きているんだ。よかった……、よかったよ……!


 私は泣き続けた。ヴェンに縋りつき、大声で、まるで赤ん坊の様に。私が泣き止むまでヴェンは優しく抱き締め、撫でていてくれた。


「うううっ、ひっく……。……ひっく。…………」


 私はようやく泣き止んだ。そして、ようやくヴェンに抱き締められていたことに気づいた。


 冷静になってくると、急に恥ずかしくなってきた。抱き締められてたこともそうだけど、人の目も気にせず盛大に泣いたことがものすごく恥ずかしい。あんなに泣いたこと自体初めてなのに。


「…………ん」

「うん? 落ち着いたか、アリシア?」


 ぐいっとヴェンの胸を押して離れる。やばい、まともに顔も見れない。それに見せられる顔じゃない。


『終わったのか? お二人さん』

「カーバンクル……」


 ニヤニヤしながら近づいてくるカーバンクル。ムカつく、よりも無事でよかった。まだダメージはありそうだけど、無事であることが分かり安心する。


『ニャッハハ! ぐっちゃぐちゃじゃないか! お前の顔!』

「……うるさい」


 前言撤回。やっぱりムカつくな、この猫は。小憎たらしいなもう。


『それよりほら。奥のあそこにあったぜ。鍵』


 カーバンクルが指した方向には小さな台座があった。急いで顔を拭い、皆と台座の元へ。


「青い鍵……」


 台座の上にあったのは青い鍵。ヴェンが持っていた鍵と同じ形で色が青い。


「……さあ、アリシア。手に取ってみてくれ」

「……うん」


 私は台座へ手を伸ばす。そして、鍵に触れた。


 こ、これはっ……!


『なんだ? 何が見えたんだ?』

「……緑の猿?」

『緑の猿? ……他には?』

「……森?」

『森……。他は?』

「……分かんない」


 見えたのは緑色の猿。背景が恐らく森。すごく木が生い茂っていた。それ以外よく分からなかった。


『……それ何も分からなくないか?』

「……そう言われても。あっ、でも、緑色の鍵持ってたよ」


 尻尾に緑色の鍵が見えた気がする。

 それ以外は、確かにほとんど分かってないけどさ。私に言われても困るんだけど。


「まあ、いいじゃないか。焦ることはない。まずは、この勝利を喜ぼうではないか!」


 ヴェンはハッハッハッと笑い飛ばす。まあ、確かに急いでる訳でもないし、ゆっくりやればいいか。


『……それもそうだな。とりあえず、腹減ったぞ! 美味い飯寄越せよ!』

「もちろんさ! さあ、帰って宴にしよう!」


 私達は青い鍵を手に入れた。

 でも、これは始まりに過ぎなかった。


 この時の私達はまだそれを知らなかった。


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