16話 青の試練②
「やるぞ! 準備はいいか、二人共!」
「うん。頑張っていこう」
『来るぞ!』
番人から先制攻撃。その大きな拳で、私達を押しつぶす様に殴りつけてくる番人。スピードも速く、殴られた場所は大きな亀裂が出来るほど高威力。こいつは相当強い。
「なるほど。中々硬いな」
ヴェンは両手にナイフを持っていた。素早い動きで敵へ近づき、そのナイフで番人の額を斬りつけた。が、完璧に入った一撃でも、かすかな傷が出来ただけ。力強くて、速くて、硬い。単純だけど、一番強いやつだ。
『アリシア! 突っ込んで!』
迫りくる拳を、カーバンクルがサイコキネシスで止めてくれる。その隙をつき、私は番人の足元へ。
「じゃあ、私に任せといてぇっ!」
貰った杖に魔力を込め、思いっきり殴る。その攻撃は番人のスネの部分にクリーンヒット。
「おお、すごい力だ!」
ガギィンッ!!と強烈な音と衝撃波が。人間だったら、大ダメージ。のはずが、
「ん、おっと、危ない危ない」
もう少し遅ければ足で踏まれてしまっていた。危ない。
「本当、かったいね、あれ」
思いっきり殴ったのに、多少よろける程度のダメージしか入らなかった。それもすぐに反撃されるぐらい。
私の一撃は上位精霊にもかなりのダメージを与えられるのに、それを受けても平気なこいつはいったい何なんだろう。誰かが作った様に思えるが、人間が作ったとも思えない。かといって、魔物のような感じもしない。謎だけど、それより今は戦闘に集中しないと。
「だが、良い一撃だ。俺が援護に回ろう。最高の一撃を任せたぞ、アリシア」
「了解ー」
ヴェンが素早い動きで番人の周りを走り回る。あれは炎? ヴェンは宙をも走り回る。重力など関係なくどこまで自由だというように。そして、彼の走った後には、炎の線が出来て消えていく。その優雅に、自由に空を駆ける姿はすごく綺麗に私の目へと映った。
番人はヴェンの動きに翻弄されている。ほら、足元お留守だよ。
「ナイスだ、アリシア! まだまだ行くぞ!」
ヴェンは変わらず飛び回り、番人を翻弄し続ける。それのおかげで、私が自由に動ける。今だ、もう一発!
ヴェンとカーバンクルのおかげで、すごく動きやすい。思えば、誰かと一緒に戦うのなんて初めてだ。いつも戦う時は一人だったから、共闘ってこんな感じなんだ。……すごく心強いね!
「今だアリシア!」
「うん! はあああぁぁっ!!!」
最初の一撃と同じ場所に、もう一発思いっきりぶち込んだ。
その一撃は今度は完全に体勢を崩させ、番人膝を付かせる。これは大チャンスだ。
一斉に攻め込む。私は足を、ヴェンは頭を、カーバンクルは腕を。それぞれが各箇所を攻撃し、勝負をかける。このまま……
「きゃ!?」
「うおっ!?」
『ニャ!?』
突如、番人の体から発生した衝撃波が私達を襲った。その衝撃波は凄まじく、私達を吹き飛ばしてしまう。
私はなんとか踏ん張れて、後退するだけで済んだ。しかし、体重の軽いカーバンクルと、空を飛んでいたヴェンは吹き飛ばされ、壁へと激突。かなりの勢いで激突した二人は、ぐったりと倒れ込んでしまう。
まずい、今二人へ追撃をされると対応出来ない。
こちらへ注意を向けさせないと。二人へ注意なんて向けさせない。
私はすぐさま番人の足元へと走る。自分の足が壊されるかもと思えば、こちらに注意が向くはず。
再び、番人の足へと一撃を入れる。相変わらず硬い。でも、何度も殴っていればいつかは壊れるはず。ほら、もう一発!
番人の目が私を捉えた。そして、迫りくる番人の拳。狙い通り。私が注意を引きつけている間に、二人が回復してくれれば。今度は私が皆のために。
「うううぐうぅっ……!」
番人の拳を杖で真正面から打ち返す。番人の攻撃は重い。今でも戦った精霊達よりも重く、強い気もする。
だから、本当は無理に受けないで避けるのが正解。でも、受けた方が時間も稼げるし、これを押し返せば、体勢を崩せて攻めるチャンスにもなる。さっき、二人が起き上がってきたのも見えた。今度は私が皆の役に立つんだ。
番人は私を押し潰そうと、更に力をかけてくる。重い……! でも、これぐらい返してみせる!
私は杖へ最大の力を込める。拮抗していた力のバランス。それを少しずつ押し返す。
行ける! このまま押しっ……
バキッ。
音が聞こえた。それは私の目の前で。
「あっ……」
押し返せたはずの拳。それが私へと向かってくる。
「アリシア!」
私は誰かに横から突き飛ばされ、体が宙へと浮く。
振り返り見えたのは、折れた杖と笑っているヴェンの顔だった。
直後、ヴェンは番人の拳の下に消えた。