14話 そんな言うほどじゃないよ?
「いざ、石塔の洞窟へ出発!」
『「おー」』
私達は石塔の洞窟へ向けて歩き出した。石塔の洞窟は街から歩いて、二日ぐらいで着くらしい。ちょっとした旅行だね。
「アリシア、アル国ってどんな感じだったんだ?」
「んー? 普通だったよ」
道中歩きながら、何気ない雑談。私がいたアル国か。
「まあ、ここと比べるとちょっと冷たいというか。軍備に力を入れていたからかな」
アル国は今いるメッシーナと比べると冷たい印象かな。なんか、みんな軍人みたいというか、感情を表に出す量が少ないというか。
「ここの国の人はみんな温かいよね。良い意味でのんびりしてるって感じで」
この国の人は温かいと思う。陽気な感じの人が多いし、私みたいなのも受け入れてくれる。国って言っても広いから、この街だけかもしれないけど。
「そうだな。全体的に朗らかな人が多い印象だな。アル国は確かにそう言われると、みんなきっちりした感じだったな」
「アル国に行ったことあるの?」
「ああ。クエストで何回かな。基本的にメッシーナだが、時々他国のクエストも受けることがある」
そんな国を超えて、クエスト受けることなんてあるんだね。ヴェンはSランクだからかな。
「そろそろ日も沈む。今日はここらで休むとしようか」
「うん。宿は近くにあるの?」
「? 無いぞ?」
「? 無いの?」
石塔の洞窟への旅路を始め、もう日が沈む頃になってきた。ここらで休むって、ここらに何も無いんだけど? ただの森の中なんだけど?
「だから、今日は野宿だな」
「え、野宿……」
野宿? こんな何も無いところで? 何も無いから野宿なのか。
「まずは、飯だな。さっき仕留めた角イノシシの肉を使おう」
ここまでの道中で何度か魔物に遭遇した。角イノシシもその内の一匹。立派な角が生えた角イノシシが襲ってきたが、ヴェンによってあっさり解体され、今は美味しそうなお肉に。
「でも、調理器具なんてあるの?」
「無い。だが、無ければ作ればいいのさ」
そう言うと、ヴェンはお肉をパッと放す。落ちるっ!と思われたお肉は、赤い炎によって受け止められた。
「炎がフライパンみたいな形に。こんなことも出来るんだね」
「フフッ、便利だろう?」
ヴェンの手から出た炎。それはまるでフライパンのような形。それよってお肉は受け止められ、その上でジューッといい音と匂いを作り出している。いいな、魔法を使える人はこんなことも出来るんだね。
「あとは少しスパイスをかければ、角イノシシのステーキの完成だ!」
「おー」
『飯ぃ!!』
あっという間に角イノシシのステーキが完成。分厚いステーキは肉汁たっぷり。肉とスパイスの香りが食欲を刺激する。カーバンクルそれは欲張りすぎじゃない? 辞書みたいな厚さじゃん。
「……ふう。ごちそうさまでした。美味しかったよ」
「お粗末様でした。喜んでくれたならよかった」
『おかわりはないのか?』
あんたどれだけ食べる気なの。私達二人分以上を一人で食べてたじゃんか。
「ふわああ……」
お腹もいっぱいになって、なんだか眠くなってきたな。おやすみ、と言いたいところだけど、肝心のベッドが無い。野宿ってどうやって寝てるんだろ。
「ヴェン、野宿ってどうやって寝てるの?」
「俺は木にもたれかかったり、太い枝のある木なら、それに登って寝てるな」
「……それって寝れるの?」
聞いてる限り、寝れるように思えない。枝に登るのなんて、落ちるかもしれないじゃん。
「完全に寝たりはしないさ。魔物とかに襲われるかもしれないからな。目を瞑って、体を休めるだけだ」
ええ、やっぱり寝ないんだ。私ちゃんと寝ないと次の日動けない人なんだけど。
「ヴェンっていつもそんな生活してるの?」
「うん? そうだなぁ。クエストに出る時は野宿が多いかな。高ランクになると僻地の場合が多いからな」
確かにクエスト一覧見てても、高ランクで近場って無かったな。だいたい、山の中とか海だとか砂漠だとか。街から遠いし、厳しい環境のが多かった気が。
「ふーん。クエストもして、便利屋もしてって大変じゃないの」
「ハハッ。確かに大変な時もあるな。でも、楽しいぞ? 誰かの役に立ち、お礼を言われてた時なんて特に『やっててよかった』と思える瞬間だな!」
そう語るヴェンは、心からそう思ってるように見えた。大変でも、誰かの役に立ちたい。すごいなぁ。私は思ってても実際にやることはできないと思う。大変だと思ったら、やりたくなくなっちゃうよ。
「……すごいね。ヴェンは」
「ん? そうか? 俺からしたら君の方がすごいさ」
「は? なんで?」
私が? どこもすごくないよ?
「婚約破棄に国外追放なんて大事件があったのに、もう前を向いて歩き出してるじゃないか。そんなこと普通は出来ないさ」
それは単純に思い入れが無いだけなんだけどな。家族ももう国外に逃げたらしいし。王子にも国にもそんなに思い入れがなく、今も興味がない。だから、別にすごくない。
「……ふーん。じゃあ、ちゃんとすごいって思って貰えるように頑張るね」
「? ああ?」
ちゃんとしたことですごいと思って貰いたいよね。何かは決めてないけど。いつかきっと。
「さて、ではそろそろ寝るとするか」
「……野宿かぁ」
「ハハハッ。慣れれば野宿も良くなるさ」
「えー、本当に? どう良くなるの?」
「そうだな。野宿をすればするほど、ベッドで寝れる時の喜びが大きくなるぞ!」
「やっぱり嫌なんじゃん。野宿」
それ全然良いところじゃないから。私も野宿なんて嫌。ちゃんとベッドで寝たい。だから、お願いしよう。
コンコンと木をノックする。こんな時、呼んだのは、
『はあい。こんばんは〜。アリシア』
「こんばんは。ドリアード」
樹木の精霊ドリアード。おっとりしたお姉さんという感じの精霊だ。
『こんばんは〜。どうしたの〜?』
「ベッド作って」
『え?』
「あっ、虫とか魔物とかが入って来ないような感じにして。二個ね」
『……私家具屋さんじゃないんだけど〜』
お願いドリアード。そうじゃないと、私野宿なの。か弱い私は野宿なんて出来ないの。お願い〜。
瞳を潤ませ、ドリアードにお願いする。まあ、実際は瞳は潤んでないんだけども。気分はそんな気分。カーバンクル、あんた猫なんだからそういうの得意でしょ。あんたからも頼みなよ。
『……はあ。しょうがないわね〜』
やった! 頼んだかいがあった! さらば野宿!
『はい、これでいい?』
ドリアードが作ってくれたベッドは木と草で出来たベッド。と小屋。え? 小屋?
「こんな小屋まで作ってくれたの?」
『だって、虫とか魔物が入らないようにでしょ〜?』
いや、まあそう頼んだの私なんだけど。ベッドを草で囲うぐらいを想像していたから、こんな立派なのがくると思ってなかった。
「ありがとう。ドリアード。こんなにいいの作ってくれて」
『どういたしまして〜。あんまり汚さないでね〜』
「大丈夫だよ」
『本当に〜? あなたの部屋って、いつもきたな……』
「はぅわあー!! あ、ありがとう! ありがとう、とってもありがとう! だから、もう帰ってね! おやすみ!」
『ええ〜、ちょっと〜……』
はあはあ。なにいらんこと言おうとしてくれるんだ。危うく、ヴェンに要らない情報を与えるところだったじゃん。
『……あいつの部屋すんごい汚いんだぜ』
「なんで言うの!?」
カーバンクル!? せっかくドリアードを送り返して、止めたっていうのになんで言うのよ!? この裏切り者!
「ハハハッ。俺だって同じ感じさ」
いや、こう言う人は絶対違う。絶対綺麗だよ。うう、カーバンクルめ。余計なことを……! 片付けも出来ない女だって思われたじゃんか。恥ずかしい……。
思わぬ裏切りに会いながらも、野宿は回避出来た。これでゆっくり寝れる。……と思ったけど寝れるかな。小屋の中にはベッドが二つ。ベッドが分かれているとは言え、この小さな空間で一緒になんて……、というのは杞憂でしっかり寝てました。