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12話 何も期待してないからね?

「お店どこだっけ?」

『あそこの角を曲がったところ。昨日も前通ったじゃん』

「道とか覚えるの苦手なんだよね」


 暖かな日差しの昼下がり。私とカーバンクルは石畳が敷き詰められた街中を歩いていた。


『やっぱりボクが言った通りだろ。アリシアは喋らなかったら、捕まえられるって』

「そんなんじゃないと思うよ」


 フフンと得意気にドヤ顔をする猫。きっと向こうはそんなつもりじゃないよ。人間を分かってないね、この猫は。……そんなつもりじゃないよね? 何もオシャレとかしてないんだけど。


 カーバンクルが言っていた角を曲がる。その先には一軒のカフェがあった。そして、その店前で立っている人の姿が。


「やあ! 来てくれて嬉しいよ! アリシア!」


 ヴェンが待っていた。


 「今日は来てくれてありがとう。もちろん、俺の奢りだから好きなもの頼んでくれ。ここの木苺のケーキは絶品だぞ!」

「へぇー。じゃあ、それで」

『適当だな、お前』


 ヴェンが勧めてくれたケーキと紅茶のセットを頼んだ。オススメっていいよね。自分で悩まなくていいし。


「カーバンクルにはすまないが、ここにキャットフードは置いてないんだ。俺のケーキの果物をあげるから、それで我慢してくれないか」

『はあ!? ボクはキャットフードなんか食べない! それにボクは人間と同じ物を食べられる! このデラックスプリンアラモードを寄越せ!』

「なんと!? そうだったのか!? それはすまない! マスター! 至急、デラックスプリンアラモードを頼む!」


 またそんな高いの頼んで。まあ、奢りらしいし、私の財布は痛まないけど。


 何故、今ヴェンとカフェに来ているかというと、話は昨日に遡る。

 昨日、シーサーペントをギルドで食べていると、丁度クエストから帰ってきたヴェンとばったり会った。そして、話をしてみたいと言うので、次の日の昼にこのカフェで会うということになった。うん、普通。何もないよね。


「アリシア、君は最近冒険者になったんだって? どうだい冒険者生活は?」

「まだ全然だよ。数回しか受けてないし」


 私はまだ数回しかクエストを受けていない。でも、どれも大変だね。まず、移動が面倒くさい。街の近くって警備がいたり、防衛施設などがあるから、基本魔物は近寄らない。

 だから、討伐に行くにしても、まず移動。精霊の誰かに運んでもらえれば楽だけど、みんな嫌がるし自分で歩いてる。働くって大変だね。


 その後、頼んだケーキなども来て、食べながら三人で雑談をした。

 ヴェンは冒険者として以外も便利屋の仕事もしているから、色んな話があって、どれも面白かった。恋愛相談を受けてたのに、いつの間にかトウガラシの話になって、最終的に天井の話をして終わった話は面白かったな。それに意外とヴェンは甘党で、色んなお店の美味しいお菓子を知っていたから、すごく有益な情報を得れた。今度行ってみよ。


「あっ、そうだ。アリシア、君は『精霊姫』と呼ばれているのだろう?」

「え、知ってたの?」


 ふいにヴェンから問われる。「精霊姫」か。そんなふうに呼ばれてたころもあったな。数日前とか。


「いや、悪いが少し調べさせてもらった。君は『精霊姫』と呼ばれ、アル国の王子と婚約していたようだね」


 便利屋ってそんなことも出来るんだね。……どこまで調べられたんだろ。一人暮らしの時の、部屋の惨状とかは知られてないよね?


「婚約は破棄されたの。そして、国外追放もされたから、私はあの人ともう何の関係も無い」

「む? そうだったのか? では、数日前にアル国王宮が崩壊したというのは知っているか?」


 風の噂でそれは聞いていた。あの人がどうなったとかは聞いてないけど。多分、杖に残った魔力で誰かしらの精霊呼んだんだろうな。


「崩壊はしたが、奇跡的に死傷者は無かったそうだ。だが、王子は行方不明だそうだ」


 王子が行方不明ねえ。行方不明というか、見つからない程だったんじゃないの。王宮が崩壊しているのに、死傷者が居ないなんて、ある程度力のある精霊じゃないと出来ないだろうし。


「……単刀直入聞こう。アリシア、この事件は君の精霊が起こしたものなのか?」


 ……この人、誰かの依頼で私の捜査に来ただけか。いや、別に何か期待してた訳じゃないけど。


「……もし仮に、そうだって言ったらどうするの?」


 あなたの目の前にいるのは王宮崩壊の犯人です。こう言ったら、彼はどうするんだろう。逮捕でもするのかな。でも、私、そこそこ強いよ?


「あ……、ああ、すまない。別に何かするわけじゃないから身構えないでほしい。俺はただ、精霊の話を聞きたいのさ」

「精霊の?」


 精霊? 私のアリバイとか、動機とか、「証拠はどこにあるのよ!?」とかが聞きたいんじゃないの?


「ああ。アル国の王宮と言えば、とても堅牢な造りで出来ていることで有名だ。難攻不落であり、人間では王宮を壊すことは、多大な時間と労力をかけないと出来ないと言われる程に。それが一瞬で破壊されたと聞いた。そんな力を持っている精霊なら、俺の探しているものも知っているかと思ってな」

「探してる?」

「そう。俺は精霊王を探しているんだ」


 精霊王? 聞いたことないな。同じ精霊のカーバンクルなら知ってるかな?


「カーバンクル知ってる?」

『……詳しくは知らないけど、遥か昔に存在したとされる話なら聞いたことがある。でも、それはただのおとぎ話だってみんな言ってる』


 おとぎ話ねえ。他の精霊なら知ってるかな? 遥か昔となると亀じいに聞きたいけど、大きすぎてこんなところじゃ呼べないな。それに寝てるだろうし。しょうがない、また今度でいいや。


「なんで精霊王を探してるの?」

「分からん!」

「は?」


 自信満々に分からんと言われたのは初めて。むしろ、清々しい。

 

「なんでかと言われると理由は分からん。だが、探さないといけないって何故か思うんだ」


 ……恋かな?


「そっか。じゃあ、今度他の精霊にも聞いてみるね」

「ありがとう! そうだ、俺の連絡先を渡しておこう! 何か分かったらぜひ連絡してくれ!」

「うん、分かった」


 貰った連絡先をしまい、今日はそろそろお開きにしようと、席を立つ。その時、ヴェンの胸元に赤い小さな鍵がついていたことに気づいた。


「鍵? 変わったネックレスだね」

「そうなんだ。気づいた時には持っていてな。いつ手に入れたかも覚えていないんだけどな。でも、綺麗だろう?」


 ヴェンはネックレスを首から外して、私へと見せてくれる。

 確かにすごく綺麗。透き通った赤色をしていて、何か吸い込まれそうになるぐらい見入ってしまう。


 その綺麗さについ、手を伸ばしてしまう。透き通った赤い小さな鍵。


 そして、


「っ!?」


 鍵に触れた瞬間、何かが脳内へ流れ込んでこんでくるような感覚が。

 これは洞窟? それの入口の両サイドには、大きな石が何段にも積まれているのも見えた。


「どうした!? 大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫……」


 大きな石が何段にも積まれたのが二本あり、その真ん中に洞窟の様なものが。いったい何だったんだろう。


「なんかこれに触ったら、洞窟みたいなのが見えたんだ。近くには石が何段にも積まれてるのもあって」

「石が積まれた洞窟? それは石塔の洞窟ではないか?」

「石塔の洞窟?」


 ヴェン曰く、その光景は石塔の洞窟ではないかとのこと。ここから少し離れたところにあるらしい。


「俺が触っても何も見えないな。もう一度触ってみたらどうだろう?」

「……今は何も見えないね」


 再び触ってみても何も見えない。触り方とか色々試してみたけど、結局何も起こらなかった。


「ふむ、不思議なことがあるもんだな。しかし、石塔の洞窟か。あそこは別に何にもなかったはずだが。…………よし。一緒に調査に行くのはどうだろう、アリシア?」

「調査?」

「君がこの鍵に触れた瞬間、その光景を見たというのなら、きっと何かがあるはずさ」


 スッとヴェンから手を差し出される。確かに、このまま放置なんて気持ち悪いよね。 


「うん。私も気になるし、行こう。石塔の洞窟へ」

「ああ! 楽しい冒険にしようじゃないか!」


 これが私とヴェンの旅の始まりだった。

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