11話 大漁
『……なあ、これで合ってるのか?』
「何が?」
私達は海にいた。クエスト「大海の魔物、シーサーペントの討伐」のために。
『シーサーペントは大きな商船を狙うんだろ』
「そうらしいね」
聞いている話しによると、シーサーペントは大きな商船を狙うようで、もう何隻も被害が出ているとのこと。
だから、私も船を用意した。
『船っていうか、ボートじゃないかこれ……』
「……駄目だったかな」
私が用意出来た船は、木製の小さな船。二、三人乗れば、もう満員ぐらいのサイズで、勝手に動く魔道具なども付いておらず、自分で手で漕がないといけない。今もギーコギーコとオールを漕いでいる。
「だって、襲われるって分かっているのに、立派な船貸してくれるとこなんか無いよ」
シーサーペントに襲われる為に、船貸してくださいって言って、貸してくれる人なんか居るのだろうか。
これは「ああ、丁度処分に困ってたのがあるよ」って言われて貸して貰った。まあ、こっちとしても丁度いいやと思ったけど、間違ってたかな?
「まあ、いいじゃん。気長に待とうよ。それよりさ、釣り竿も借りてきたんだ。釣りしようよ、釣り」
『……お前、それがしたいから、この船にしたんじゃないだろうな』
あはは、そんな訳ないじゃん。……釣りってするの初めてなんだよね。どれぐらい釣れるのかなぁ? フフッ、大漁だったりしないかなぁ。
船を止め、釣り竿を取り出す。そして、餌を付けた釣り糸をピュッと海へ投げ入れる。楽しみだなぁ。早く食いつかないかなぁ。ちょっとこう上下とかしたほうがいいんだっけ? 餌が生きてるに見えるほうがいいんだよね?
「……、……、……あっ! あっ、かかった、かかった! かかったよ! おーよいしょお!」
待つこと数分。ついに釣り竿に当たりが。期待に胸膨らませながら、釣り竿を思いっきり引っ張る。すると、
「釣れたぁ! 釣れたよ! すごくない? 私すごくない? 釣れたよ!?」
一匹の魚を釣り上げることが出来た。
『うむ、おやつに丁度いいな。よくやったぞ、アリシア!』
「あんたにあげるなんて言ってないよ」
何勝手に貰おうとしてるんだ、この猫は。なんで私が釣ったのにあげないといけないんだ。これは私が食べます。どうやって食べようかな。この魚の名前も知らないけどね。
その後も、釣り針を垂らして、獲物を待っていた。でも、ビギナーズラックはもう終わってしまったようで。待てど暮らせど、竿に変化はなかった。
「……カーバンクルさぁ、何か面白い話しして」
『お前飽きてきたんだろ』
別に飽きてないけどさあ。こうも変化がないとつまらないじゃん。何か面白い話ししてよ。
「あーあ。これでシーサーペントって釣れないかな?」
『いや、無理だろ。こんな小さな餌で』
釣り竿を貸して貰ったところで餌も一緒に貰った。餌は小魚を貰った。これでシーサーペント釣れないかな。
「じゃあ、餌がもっと大きかったらいけるかな?」
『まあ、今よりは可能性があるんじゃないか』
「……カーバンクル、ちょっと海泳いでみない?」
『ボクを餌にしようとするな!』
いや、別に餌にするなんて言ってないよ。天気もいいしさ、きっと泳いだら気持ちいいよ。流されないように、ちゃんと釣り糸巻き付けてあげるからさ。
『大きさで言えばお前の方がデカいだろ! お前が泳げばいいじゃないか!』
「私、泳げないんだよね」
残念ながら、私は泳げない。生粋のカナヅチだ。あーあ、残念だなぁ。私だって、泳げたら泳いでいたんだけどなぁ。……チラッ。
『どれだけ見ても、餌になんかならないからな!』
「むう、残念。じゃあ、呼んで見つけてもらおうかな」
水面をペチペチとオールでノックする。待てド暮らせど来ないのなら、こっちから行ってあげようじゃない。
『呼んだ? アリシア』
現れたのは、水の精霊ウンディーネ。長い髪の女性みたいな見た目だけど、その身体は水で出来ている。
「あのね、シーサーペントを探して欲しいの」
『シーサーペントを探す? そんなことであたしを呼んだわけ?』
「……だって、私泳げないし」
生粋のカナヅチですので。こんな波もある海で泳ぐのなんか無理でございます。
『あんたまだ泳げないの? さっさと泳げるようになりなよ。そうだ。今から泳ぎの特訓しようか』
「いいよ別に。水着も無いし」
『水着なんてなくても良いじゃんか。こんな海のド真ん中、誰も来ないって。ほら、服脱ぎな』
「やー! いいって! 助けてカーバンクル!」
『お前が呼んだんじゃないか……』
人選ミスった! シーサーペントAランクだから、ちょっとでも強いのを思ってウンディーネ呼んだけど、ただのお節介おばさん呼んじゃった! 探してもらうだけなら、マーメイドとかでもよかった!
『まったく。いつなったらカナヅチ卒業するんだい?』
「……予定はありませんので。それより、ほら、シーサーペント探してきてよ」
『別に探す必要なんてないだろう?』
「は?」
『だって、ほら。もう来てるんだから』
「え、うえええ!?」
突如、下から山のように水が盛り上がってきた。たまらず、転覆してしまうボート。
「あ、ありがとう。カーバンクル」
カーバンクルにサイコキネシスで宙に立たせて貰って、なんとか海へ転落は防いだ。
でも、思っていた以上に大っきいな。シーサーペントって。
転覆したボートは、シーサーペントによって丸呑みされてしまった。そして、ゆらりと海面から現れるその巨体。
まるでヘビのように細長い体。ボートも余裕で丸呑みする大きな口。これが大海の魔物シーサーペント。
「カーバンクル、あいつ止めれる? 私が頭ぶん殴って……」
『何もしなくていい。アリシア、カーバンクル』
「ウンディーネ?」
シーサーペントの出現で大波が起こった水面。だが、今はピタリとその波が止んでいた。水が一カ所に集まってきている。
『あいつ、このあたしを食おうとした。ヘビごときがあたしを舐めやがって……』
あっ、やばい。ウンディーネがなんか怒ってる。
『……アリシア。ヘビの味って知ってるかい?』
「いや、知らないけど……」
『鶏と魚の中間の味なんだって。……腹いっぱい食わせてやるよぉ!!』
水が大きく形を変える。シーサーペントの巨体、それすらも超える長さの包丁へと。
『三枚おろしじゃ! ヘビ野郎!!』
ズパァン!! と轟音が響き、海が割れた。振るわれた水の包丁。その鋭さはシーサーペントの鱗をものともせず、右身、左身、中骨と綺麗に三枚におろしてしまった。
『さあ、新鮮なうちに食べちまうよ!』
『た、大将……!』
『あんたは早く泳げるようになるんだよ!』
「……努力します」
おろされた身を持って、ギルドに帰って食べた。おいしかった。三人では食べきれないから、ギルドのみんなにもあげた。カーバンクルはずっとボクのだってうるさかった。
……泳げって八つ当たりされたら嫌なんで、私は静かにしていました。