表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/42

第6話 ヤツは死んだんだ…

きゃあああーっ!

浴室から悲鳴が聞こえた

さっき娘が入ったはずだ…

くみ、どうした!


娘の悲鳴を聞いた俺は


脱衣所を兼ねた洗面所に飛び込むと叫んだ


だが、いくら自分の娘でも


浴室までは入って行けない


躊躇(ためら)ってその場で立ち()くす俺…


後から続いて来た女房に


浴室内のくみ(・・)(まか)せる


バスタオルにくるまれて出て来た娘に


何があったのかを聞く


(ふる)える身体で娘が事情を話した


またカニだって…?


確かにくみ(・・)の言った通り


ここら(あた)りにカニは生息していない(はず)


それは俺も十分に知っている


ここで暮らし始めて半年経つんだ


それなのに…


これだけ一度にカニを見かけるのは


娘が言う様に、やはり何か変だ…


しかし、小さなカニに(おび)えるというのは


くみの奴も少しおかしい…


やはり、まだ…


あの事件を忘れられないのか


最近は明るく振舞っているから


俺も女房(にょうぼう)も安心していたが


あの事件は、くみにとって…


一生忘れられない出来事だろう


かわいそうに…


あれだけの体験をしたんだ


いや、ヤツにさせられたんだ


俺とくみ(・・)で終わらせたが


あの島でヤツにされた事が


まだ、くみの心に影を落としているのか…


悲しいが、無理もない…


俺は刑事だったから


荒っぽい事件は()れっこだったが


一般人である娘にとっては


一生に一度でも出会いたくなどない


()まわしい事件だったんだ


彼女にとってトラウマとなってしまった


何もかも、ヤツのせいだ


あの変態のサイコ野郎!


ヤツが俺の娘に… クソッ!


だが…


もう終わったんだ


ヤツはくみ(・・)自身の手で


とどめを刺したんだ


そう、ヤツは死んだ…


俺は、この目でヤツの残骸(ざんがい)を見た


爆発で身体の付け根から千切(ちぎ)れ飛んだ


ヤツの左腕と両脚だ


たとえ即死(そくし)(まぬが)れたとしても


あれでは生き延びられっこない


仮に…ヤツが生きてたとしても


半年程度では何も出来はしないだろう


そんな事は万に一つも無いだろうがな


だから、ヤツに関して心配はない


くみが(おび)えるのも


小さなカニの姿が


あの娘に幽閉されていた島を


思い出させるのかもしれないが


一時的なものだろう


また掛かり付けの医者に連れて行こう


その日は店を休んだっていい


俺が付いて行ってやらなければ…


あの娘は俺達夫婦にとって


たった一人のかけがえの無い娘なんだ


俺の一生をかけても(まも)ってやる


現実的な存在からはもちろん


くみの嫌な思い出からも


俺が命がけで護ってやるさ


そのために俺は刑事を()めたんだ


いつも、くみのそばにいるために…


もう、あの娘を離さない


俺達は特別な親子だ


血がつながっているだけじゃなく


命がけでサイコ野郎を殺し


あの島を脱出した同志でもある


ヤツを殺した事は誰にも言ってない


これだけは女房にもだ


話せるはずが無い…


俺とくみだけの秘密…


正当防衛と緊急避難…


どちらも認められるだろう


だが、裁判で無罪となっても


あの娘の心の傷は


(いや)す事が出来ない


俺と女房との愛だけが


くみを癒してやれる


それだけを信じて今は暮らしている


三人で助け合って


そう、これからもずっとだ…


だから気を付けなければ


くみの様子には…


カニなんかに怯える事のない


昔の明るかった少女時代の様に


俺達が戻してやらねば…


そのためには


俺の全てを投げ出してもいい


くみだけは必ず…


俺が(まも)り抜く

安心しろ、くみ…

お前にはパパが付いてる

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ