第5話 カニが私を見てた…
あああ…
気持ちいいぃ…
ふううぅ…
いいお湯…
気持ちいい…
お風呂はやっぱりいいなあ…
そんなに広く無いけど
自宅のお風呂が一番落ち着くわ…
湯船に浸かってる時が
一番リラックス出来る時間…
でも…
さっきの小さなカニ…
それに気味の悪いあの男…
きっと、偶然よね…
全然関係ないに決まってる
だって…
カニなんて…どこにでも…
いいえ…
この辺りにはいない…はず
近くに海も川も無いもの…
池だって無い
今まで一度だって
近くでカニなんて見た事ない…
でも…でも…
カニはカニよね
この辺じゃ珍しいって言っても
ただのカニなのよ
今日、変な男が店に来た事とは
関係あるはずない…わよね
もうっ、考え過ぎよ!
私のバカ!
今日の私、なんか変…
予約日まで間があるけど
近い内に心療内科へ行こう
先生に相談しなきゃ…
でも…
今日も店に来たあの男
いつも注文以外に何もしゃべらない
そのくせ気持ち悪い視線で…
いつもジッと私を見てる
黒いサングラス越しに…
あの男の視線を感じるの…
あいつ…
ホントに何なのよ、いったい?
ああ、ダメ…
どうしても考えちゃう
頭に浮かんできちゃう
そんな筈有るが訳ないのに…
やっぱり私の考えすぎよ
でも…
正直にパパに話してみようか…
あの男…
あの男にジッと見られてる感じがするって…
私の身体にあの男の視線が
突き刺さってくる気がするって…
あの男に背中を向けているだけで
うなじがチリチリするほど不快な気分になるって…
パパなら分かってくれるかも…
あの男の感じが
アイツに似てるって…
アイツ… あの王様に…
自分で王様って名乗ってた変態のサイコ野郎…
自分の島にある屋敷に私を閉じ込めて
欲望のままに私を性の奴隷にしていた
完全に狂ってたアイツ…
でも、アイツは死んだわ
私がこの手で殺した…
もうアイツは、この世にいないのよ
私を助けに来てくれたパパと一緒に
ロケットランチャーで
アイツが乗った重機を撃ってやった…
命中して重機ごと吹っ飛ぶのを
私は、この目で見たわ!
でも…
本当に死んだの…?
死体を見た訳じゃない…
アイツを吹っ飛ばした後
すぐにパパと船で島から脱出したから…
でも…
付け根から千切れ飛んだ
アイツの片腕と両脚が…
バラバラになった重機の近くに
転がってたってパパから聞いたわ
それを聞いた私は安心した
アイツの身体の他の部分は
木っ端微塵になって
跡形も無く消し飛んだのよ
きっと…
……
アイツはもういない
そうよ、そうに決まってる…
でも、やっぱり…
ダメよ! こんな事考えちゃダメ!
なるべく早く診療内科を受診しよう
先生に話しを聞いてもらおう
薬も変えてもらおう
もっと強いのに…
でないと、私…
頭が変になっちゃう…
このままじゃ…
やっぱり
パパとママにも相談してみよう
一人で悩んでちゃ…
私、本当に変になっちゃうわ…
ああっ!もうっ!
とにかくお風呂を出て
ご飯食べたら薬を飲んで
今夜は早く寝ちゃおう
そうしよう
じゃあ、頭と身体を洗っちゃおう
バカな事を考えるのは
もうやめたッ!
ん…?
何、あれ…?
何でこんなところに…
また…
さっきのと同じカニが!
何でお風呂場にまでカニがいるの?
信じられない!
私は急いでシャワーの湯温を最高にした
そして…
熱湯をカニに直接かけてやった
しばらくそうしていた…
もう…
死んだ…?
鍋で茹でたみたいに
カニの色が変わってる
それに脚も折り曲げたまま
動かない…
もう、大丈夫…よね
やっつけたわ
ざまあみろ!
でも…
カニに見られてた…?
そんな気がした…
うなじがチリチリしたの…
あの気味の悪い男の視線と同じ…
そんなはず無いわよ
カニが私を見つめてたなんて…
妄想もいいところ
ただのちっちゃなカニ…
お風呂に紛れ込んだだけ…
きっとそう…
私は排水溝の蓋を開けて
カニをお湯で流した
もう平気…
そうよ、もういないもの…
…
でも…
もしかして…
私… 怖い…




