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第49話 カニの王、最終形態へ…

「そんな事、この俺がさせるかって言ってんだよ。

 おい、どこ見てる? ここだ、ここ! 上だよ、もっと上…

 もっと、上を見てみな!」

 頭上から()る様に聞こえて来たのは、くみ(・・)とカニの王の両者にとって決して聞き違える(はず)の無い声だった。その声を聞いたくみ(・・)の目からは安堵(あんど)溜息(ためいき)と共に感動で(あふ)れ出す涙が止まらなかった。

「ああ、探偵さん… どこかへ行ってしまったんじゃ無かったのね。」

 一度は彼が自分の事を見放して逃げてしまったかと思っていたくみ(・・)は自分の不明を()じた。

 声の(ぬし)は二人が思った通り、くみ(・・)(やと)った私立探偵の千寿 理(せんじゅ おさむ)が獣人化した姿である白虎(びゃっこ)だった。彼がどこにいたのかというと、巨大な船体の前側半分を約30度持ち上げた姿勢のまま、凍り付いた海面にオブジェの様に突き刺さった状態で固定されている状態の原子力潜水艦『クラーケン』の丸い艦首先端部分だった。

 つまり、彼は海面から30mほど高い位置に突き出した『クラーケン』の表面が凍り付いた艦首に危なげも無く立ち、腕組みをしてくみ(・・)達を見下ろしていたのだ。

 くみ(・・)(とら)われたままの自分の現状を忘れ、そのある意味幻想的とも言える光景にうっとりと見入った。それは、まさしく幻想的としか言いようのない光景だった。

 満月の月明かりの元、妖怪雪女が造り出した氷の島の中心に斜めに突き立った巨大で武骨な原子力潜水艦の先端に立つ獣人白虎… まるでファンタジー世界を描いた絵本の1ページの様だった。


 くみ(・・)達を見下ろしている白地に黒の虎模様をした剛毛に覆われた顔は、まさしく獣人白虎そのもので、その双眸(そうぼう)はサーチライトの様に(まぶ)しく輝く強く青白い光を放っていた。その強い輝きの鋭い眼光も、くみ(・・)にとっては優しく(あたた)かい光に感じられた。実際、現実の寒さと絶望で(こご)えていたくみ(・・)の心を()かす様に優しく温めてくれた。


「き、貴様ぁ… くみ(・・)を見捨てて逃げたんじゃなかったのか?」

 くみ(・・)とは違って白虎の優しい目の光は怪物化したカニの王にとっては恐ろしく(うつ)るのだろうか、まともに見返す事も出来ず(あき)らかに狼狽(うろた)えた声で言った。


「バ~カ、お前にくみ(・・)の事を好き勝手にさせたまま俺が引き上げるとでも思ったのか? 彼女は俺の大切な依頼人(クライアント)だし、亡くなったオヤジさんからも今わの(きわ)に『娘を頼む』と(たく)されてるんだ。これでも俺は責任感の強い男なんだぜ。

 お前のヘリは壊れちまったし、頼みの綱だった『クラーケン』もあの(ざま)じゃあ、もう逃げるのはあきらめるんだな。俺はこれでも忙しい身なんでな、追っかけっこは、このくらいで()めにしようぜ。

 今から、俺がお前に引導(いんどう)を渡してやる。」


 満月を背に受け逆光で立っていた白虎が組んでいた腕を解いた。たったそれだけの仕草(しぐさ)なのに、見上げていたカニの王は怯蚊(おび)えた様に(あわ)てて身構えると、すぐさま横に立っていたくみ(・・)の後ろに回り込むと彼女の腰に右腕を回して身体を捕らえた。そして、左腕の巨大で鋭いカニのハサミを白虎に見せ付ける様にしてくみ(・・)の顔の前に(かざ)して見せた。

「同じ事の繰り返しになっちゃうけど、この女がどうなってもいいってのかぁ?」

 自分でも言っている様に、またしてもカニの王はくみ(・・)を人質に白虎を(おど)そうとしているのだった。しかし、上方に位置する白虎に向けて張り上げた声は震え、聞く者に脅しの効果を与えられるとは到底思えなかった。


「けっ! てめえは、そればっかりだな。マジで反吐(へど)が出るぜ!

 王様を気取ってるくせしやがって、てめえは女を(たて)にするしか能がねえのか!」

 そう言って眼下のカニの王を一喝(いっかつ)した白虎は、海水が固まって出来た氷に斜めに半分以上も突き刺さったままとは言っても、氷上から30m余りも高さがある『クラーケン』の艦首部分から何の躊躇(ちゅうちょ)も見せずに一気に飛び降りた。

「きゃあっ!」

 その光景を見上げていたくみ(・・)は悲鳴を上げてギュっと目を閉じた。彼女は目の前で演じられた白虎の無謀な行動をまともに正視(せいし)出来なかったのだ。30mと言えばビルの10階に相当する高さである。白虎が飛び降りたのは雪女が海水をガチガチに凍らせたコンクリートの様に硬い氷の上なのだから、くみ(・・)が最悪の事態を想像しても無理は無かった。いくら不死身だと自称する獣人とはいっても…


「ゲス野郎、そのお嬢さんを放せ。」

 同じ高さから白虎の声が聞こえたのでくみ(・・)は閉じていた目を開けた。すると自分達から10mほど隔てた氷の上に、何事も無かったかの様に矍鑠(かくしゃく)とした姿の白虎が立っているのだった。しかも、信じられない事に彼が下半身に着用した膝丈(ひざたけ)のスパッツに似た黒いボディーアーマーから下は靴どころか何も()いていない裸足(はだし)のままなのだ。つまり彼は裸足で30mもの高さから硬い氷の上に飛び降りながら、その身体には何のダメージも受けてはいない様子なのだ。ただ、普通の人間と異なるのは、彼の素足が白い剛毛に(おお)われている事だった。


「ば、バケモノが…」

 くみ(・・)は自分の腰に右手を回して捕らえているカニの王の身体が、ブルブルと小刻(こきざ)みに(ふる)えているのを感じた。

『この人、探偵さんを恐れてるんだわ…』

 くみ(・・)は自分を拘束(こうそく)する怪物に対し一抹(いちまつ)(あわ)れさを感じたが、今は自分の存在が白虎の手枷足枷(てかせあしかせ)となっている事をどうにかしなければと(あせ)った。

「はっ、カニ野郎のてめえにバケモノ呼ばわりされたくねえな。」

 苦笑しながらそう言って白虎はジリジリとカニの王との間を()めようとするが、彼が近付くのと同じテンポでくみ(・・)を捕らえたカニの王は後退していく。両者は一定の距離を(へだ)ててにらみ合ったまま膠着(こうちゃく)状態に(おちい)っていた。一同が立つ凍り付いた海面に一陣の風が吹き、氷上に薄く積もっていた雪片(せっぺん)を舞い上がらせた。

「くしゅんっ!」

 吹き過ぎた風が薄着だけのくみ(・・)の身体を冷やし、それまで緊張のあまり寒さを忘れていた彼女が可愛らしいクシャミをした。このクシャミのせいで張りつめていた緊張が一瞬解けた。くみ(・・)を抱く様にして自分の身体に押し付けていたカニの王の右腕が突然のクシャミに気を取られ、(わず)かだが力が(ゆる)んだ。

 その一瞬のスキを百戦錬磨の白虎が見逃す(はず)が無かった。膠着(こうちゃく)状態に(おちい)っていた状況を破るかの様なくみ(・・)のクシャミは、白虎にとってスタートを知らせる合図の号砲と同じだった。白虎は電光石火(でんこうせっか)の勢いで動いた。

「! しまっ…」

 カニの王が気付いた時には遅かった。一瞬の内に形勢は逆転した。爆発にも勝る勢いで瞬時に動いた白虎が元の位置に戻った時、彼は左腕にくみ(・・)の身体を(かか)えていた。


「?」

 自分の身に何が起こったのか分からないまま、ポカンとするくみ(・・)の腰に腕を回していたのはカニの王の右手ではなく白虎の力強い左腕だった。くみ(・・)を抱く彼の腕からは、カニの王と違って本人の温かさと優しい(いたわ)わりが伝わって来た。

 そして、白虎のもう一方の右手には、肩の付け根から引き千切ったばかりで筋肉組織や骨の露出した切断面から緑色の血を(したた)らせた生々(なまなま)しいカニの王の右腕が握られていた。

「うっ! うぎゃああああーっ!」

 一瞬遅れて激痛を感じたのか、カニの王が絶叫を上げた。右腕を肩から引き千切られたカニの王の傷口から(すさ)まじい勢いで緑色をした血が噴出(ふんしゅつ)した。

「う、腕が! ぼ、僕の…み、右腕がああっ!」


「遅いんだよ、てめえは。」

ブンッ!

 カニの王に対し吐き捨てる様に言った白虎は、掴んでいた右腕を勢いを付けて放り投げた。ぶん投げられた右腕は100m以上も飛んで行き、固い氷の上に叩き付けられて(ころ)がる音が白虎に抱えられているくみ(・・)の耳にも(かす)かに聞こえて来た。

「遅くなって悪かったな。その恰好(かっこう)じゃ寒いだろ、これを羽織(はお)りな。」

 くみ(・・)に対する白虎の態度は優しく、彼はどこにそんな物を持っていたのか、ふさふさとした毛足が見るからに(あたた)かそうでマントの様な毛皮を彼女の肩に羽織らせてやった。その毛皮は足元の氷上から気化した冷気で冷え切っていたくみ(・・)の身体を温めてくれた。

 それは珍しい事に白地に茶色とこげ茶色の模様という三色の「キジ三毛」と呼ばれる三毛猫(みけねこ)に似た模様をした短毛の毛皮だった。それよりも奇妙なのは、その三毛の毛皮はまるで生きているかの様に(みずか)ら体温を発していた事だった。

「とても温かいけど、この毛皮って…?」

 くみ(・・)が少し気味悪そうにつぶやいた時だった。

「俺の事か? 俺は猫又(ねこまた)ってんだ。冷え切ったお前さんの身体を(あった)めてやるから安心しな。」

 突然右の耳元で聞きなれない声がしたのでくみ(・・)は驚いた。右側を向いたくみ(・・)の目の前に一匹の三毛猫の顔があった。信じられない事に、毛皮に生えている三毛猫模様の猫の頭がニヤリと笑って人語をしゃべっているのだった。いや、生えているというよりも、この三毛猫の頭こそが毛皮の主なのだろう。

「あ、あなたも妖怪なの?」

 見た目は通常の三毛猫と変わりはなかった。だが、その言葉を話す奇妙な猫の顔が人間の様にクルクルと豊かに表情を変えるのにくみ(・・)は驚いた。彼女の頭に昔読んだ事のあるルイス・キャロルの児童小説『不思議の国のアリス』に登場する『チェシャ猫』というキャラクターがよぎった。

「そうさ、俺は妖怪の猫又だい。どうだい、あったかいだろ?」

「う、うん…」

 たしかに猫又自身が言ったように、この妖怪の毛皮を羽織っているだけで、くみ(・・)の芯まで冷え切っていた身体がポカポカと温められた。氷上で凍えていた彼女にとっては、この(さい)気味が悪いなどと言ってはいられなかった。身体を全身(くま)なく覆っている訳でもないのに、もうくみ(・・)は寒さを感じなかった。


「ようし。猫又よ、お前はそのお嬢さんの冷えた身体を温めながら、しっかりと(まも)ってやるんだぜ。俺があのカニ野郎をブッ飛ばすまでな。」

「へ~い、了解。」

 主である白虎の命令に猫又が従う(むね)の返事を発した。

 今夜姿を現した『火車(かしゃ)』や『大海妖(だいかいよう)』や『雪女』達と同じで、魔槍(まそう)妖滅丸(ようめつまる)』の持ち主である白虎の命令は、内に封じられている妖怪にとっては絶対なのだった。

 しかし、猫又にとってみても、このうら若い美女の身体を(じか)に温める事が出来るという役目はまんざらでも無いようだった。くみ(・・)にとっては身体が温められ、猫又にとっては美女の身体を抱きしめているようなもので、まさに両者ともwinwinの関係だといえた。


「よし。それじゃあ、俺はカニ野郎にとどめを刺すとするか。」

 白虎はくみ(・・)と猫又達からカニの方へと視線を戻した。すると、カニの王の肉体に異変が生じていた。

 

「う、うううぅ…」

 それまでは、痛みのあまり(わめ)き散らしながら氷上をのたうち回っていたカニの王だったが、今では外骨格の8本の脚を抱え込む様に折りたたみ、(うずくま)るような姿勢でうつ向いたまま(うめ)き声を上げていた。

 先ほどまでは、白虎に腕を引き千切られた右肩の傷口から噴き出す血を左手のハサミで押さえていたカニの王だったが、すでに緑色をした血の噴出は止まっているようだ。だが血の代わりに、傷口から緑色の半透明に濁った泡がブクブクと大量に()き出しているではないか。緑色をした血泡(けっぽう)とでもいうべきか?

「野郎、何のつもりだ…?」

 とどめを刺すべくカニの王の方へと向かいかけていた白虎だったが、数m先で動きを止めている攻撃対象の様子がおかしいのに気付くと足を止めた。

 白虎が不審(ふしん)げに見守る中、傷口からブクブクと(あふ)れ出した膨大(ぼうだい)な量の緑色の泡がカニの王の全身を包み込んでいく。

 白虎は様子を見るべく、距離を保ったままゆっくりとカニの王の(まわ)りを円を描くように歩き出し、前方へ回り込んで相手の顔を確かめようとした。しかし、顔の左半分が硬いキチン質の外殻に覆われていたカニの王の奇妙な頭部も全体が泡で覆われ、すでにその表情を確認出来なくなっていた。

 満月に照らされた白い氷上の上に直径2mにも及ぶ緑色の巨大な泡の塊が出来上がり、時折吹く風に表面の細かい泡が散らされ飛んで行った。

「こいつ…いったい何を?」

 さすがの白虎もカニの王の身体に何が起こっているのか、この状況が何を意味しているのか考えが及ばず、様子を見るしかなかった。

 薄緑色をした泡の塊を見つめていた白虎が青白い光を放つ目を細めた。

「こいつ、さっきよりデカくなってやがる…」

 それは白虎の見間違えなどでは無く、泡の塊は徐々に(ふく)らみ続け、見る見るうちに直径3mを超す大きさとなっていた。一分もかからない内に、その大きさは1.5倍から2倍くらいに膨張(ぼうちょう)していたのだ。

 白虎にとっては薄暗い月明かりの夜でも、真昼の太陽の元での視覚状態と違いはなかった。そのずば抜けて暗視が()く彼の目は、膨張したのが緑色の泡だけでは無く、泡を通して()けて見える内部の存在までもが巨大化し、さらに形状をも変化させているのを見て取った。


ガキッ! ガキッ!


 巨大化した緑色の泡の中から、何か固い物同士を強く打ち付けあう様な音が聞こえてきた。


ガキーンッ! ガキガキーンッ!

 音は次第に大きくなって周囲に響き渡り、打ち付けあう回数も増えてきた。


「何だ? 何の音だ…? 泡の中で何が起こってる?」

 奇妙な音と泡の中で巨大化した存在に対し白虎は身構えた。

 すると、身構える白虎の見守る目の前で、緑色の泡の高さがググっと一気に伸びた。それは、緑色の泡の塊がさらに巨大化したというわけではなく、泡の内部でそれまで(うずくま)っていた存在が立ち上がった様に思われた。

ガサガサガサ…

 泡の側面を突き破り、中から八本の甲殻類の脚がそれぞれが独立して動きながら現れた。脚の太さと長さは小型重機のパワーショベルのアームほどもあり、その硬いキチン質で構成された赤黒い表面には無数の鋭い(とげ)と針金の様な剛毛がビッシリと一面に生えていた。

 怪物の八本脚の鋭い先端が、硬い氷の表面にやすやすと穴を穿(うが)っている。

 そして泡の上部からは左右にソフトボール大の球体がボコッと飛び出し、その間にはグネグネと不気味に動く二対のバナナほどの太さがある触角らしきものがそれぞれ突き出している。

 二つのソフトボール大のサイズをした球体は、それぞれが無数の単眼が集合して出来た複眼構造の二対の目らしかった。その複眼を構成する小さな単眼の一つ一つに身構えている白虎の姿が映っていた。

 この様に泡の天井部を突き破って姿を見せたのは、まさしく二つの突き出した目と二対の触角を備えた巨大な蟹の(あたま)部分に間違いなかった。その下には顔に相当するおぞましい部分が控えているのだろうが、今はまだ緑の泡に隠されていた。


ガキーンッ! ガキガキーンッ!

 またしても固い物を打ち合わせる音が聞こえ、その音の元凶となる部分が泡の中央当たりから突然、左右にニュッと突き出した。それぞれが開閉を繰り返し、閉じた時に大きな音を響かせているのは、カニなどの甲殻類が持つ二対の巨大なハサミだった。ただし、それら二対のハサミは左右が不揃(ふぞろ)いの大きさをしており、泡の塊から見て右側の方が大きく1mを優に超える大きさで、左側はそれよりは小さいとは言っても70cmはある大きさの巨大な(つめ)だった。

 『シオマネキ』と呼ばれるカニが特に顕著(けんちょ)だが、カニ類はオスが左右不揃いの大きさをしたハサミを持つ特徴が知られている。目の前に現れた怪物の姿は、その特徴を顕著(けんちょ)に表していると言えるだろう。

 しかし、泡に包まれるまでのカニの王は左腕だけがハサミで、人間の形状を残したままだった右腕は肩の付け根部分から白虎に千切られてしまったはず… その失った右腕が、怪物の持つ驚くべき自己修復能力で、この泡に包まれていた(わず)か短時間の内に再生を()げたと言うのだろうか?

 それら二本のハサミや八本ある脚も含めて泡の中から徐々に姿を見せた存在は、先ほどまで人間らしい部分も多く留めていたカニの王の姿ではすでに無いとだけは、はっきりと言う事が出来た。


 その時、一陣の突風が吹き、身体の残り部分を(おお)っていた緑色の泡を全て吹き飛ばした。

 すると、吹き払われた泡の中から現れたのはやはり、長い八本の脚を氷に突き立てて身体を支えて立ち上がった全高が5mを超す巨大なカニの怪物だった。


「けっ! 完全に人間捨てやがったな。それがてめえの最終形態ってわけか。

 面白(おもしれ)え、こうなったら俺も本気で相手してやるぜ!」

 それまでカニの王の様子を(うかが)い、戦闘態勢で身構えていた白虎が(めく)れ上がった(くちびる)から鋭い(きば)()き出しにして()えた。


「ぐわおおおおおうぅーっ!」

「キッシャアアアアァーッ!」

 人間の姿を微塵(みじん)も残さぬ完全な怪物と化したカニの王が、左右不揃いの巨大なハサミを大きく振り回しながら、白虎に負けじと奇妙な雄叫(おたけ)びを上げた。

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