第31話 俺は王様の忠実な家来…それだけだ
驚いた…
王様の作ったカニの装甲防護壁を壊して
ここまで来た、こいつは一体…?
こいつは…何だ?
白いトラの姿をした人間?
こんな化け物が存在するのか…
こいつ…
俺に向かって「おやっさん」て呼んだ…
おやっさん?
誰の事だ? 俺か?
俺が「おやっさん」…だと?
俺に…
こんな化け物の知り合いがいたんだろうか?
ははは…
それを言うなら、俺も化け物だった…
カニと人間の合成獣?
まあ… どうだっていい
俺がすべき事は
目の前のこいつを排除し
どこかに隠れている若い女を
傷付けずに捕まえて
王様の所まで速やかに運ぶ事…
それが、我が主である王様の命令
王様のために生きる…
それが今の俺の全てだ
王様は死にかけていた俺に
新しい命を与えてくれた
俺を救って下さったんだ
俺の使命は、忠実な家来として
王様にお仕えする事…
俺にとって、王様の命令は絶対だ
目の前にいる怪物…
人間の姿をした白いトラ?
それとも…
人間が白いトラに化けている?
どっちだっていい…
こいつを倒して
女を王様の元へお連れする
それが俺の役目だ…
こいつ…
まだ何か話しかけて来る
刑事…? この俺がか?
俺は… 刑事だったのか?
覚えていない…
うっ… 頭が痛い…
昔の事を考えようとすると
失った頭の左半分がズキズキ痛む…
もうやめろ…
えっ? くみ…?
くみって誰だ…?
こいつ…何を言っている?
俺の娘?
俺に娘がいたのか…?
そんな事…
覚えちゃいない…
う、ううう… 頭が…
もう、やめろ…
やめないか!
貴様! 俺を混乱させるな!
俺が誰だったかなんて…関係ない
俺は王様の忠実な家来…
王様の命令に従うだけだ
それ以上は何も考えない…
王様の命で俺は貴様を殺す、それだけだ…
さあ、行くぞ!
こいつは数十枚ものカニの装甲板を
破壊して除けた怪物だ
考える隙を与えず一撃で倒す!
俺は8本の脚を素早く動かし
人間を遥かに超えた速度で
目の前の白いトラに襲いかかった
左腕のカニのハサミを
眼にも見えない速度で水平に薙ぎ払い
一撃で白いトラの首をは刎ね飛ばした
…はずだった
「ガキッ!」
そんなバカな…
俺の鋭いハサミの一撃を歯で受け止め…
「バキバキバキッ!」
うぎゃああああー!
こいつ!
俺の左手を噛み砕きやがった!
左腕に激痛が走った俺は
即座に後ろに飛び退き
白いトラから遠ざかった
はあ、はあ、はあ…
俺は人間の形状のままの右手で
破壊された左腕のハサミを押さえた
な、何だ、これは…?
ハサミの片側が半分破壊されていたが
その噛み砕かれた断面が…
青白い炎を発して燃えているのだ
この程度のキズ…
王様から頂戴した、この身体なら
すぐに再生修復されるはずだった…
それなのに!
俺は青白い炎を消そうと
慌てて右手で火を払った
熱いっ!
そんなに激しい炎では無い
チロチロと燃えているだけだ…
こんな火、すぐに消えるはずだぞ!
だが、左手を焼き始めた炎は
消えるどころか徐々に燃え広がっていく
俺の左腕を焼きながら
炎が肩の方に向けて上って行く
うわあああ! 火が消えない!
俺の左腕があっ!
だが、左腕だけでは無かった…
火を消そうとして払った右手までをも
燃え移った青白い炎が
指先から焼き始めていた
そんな! 右手まで!
俺は青白い炎を消そうと
両腕の先端を地面に突き立てた
「ズブッ!」
土の中に肘まで突き刺した両腕を
俺は数秒間そのままにしていたが
もう消えた頃だと
そうっと引き抜いてみた
ひいいっ!
青白い炎は消える事無く
俺の両手を焼き続けていた
そ、そんな…
この炎は消せないのか⁉
俺は狂った様に両手を
地面に何度も何度も突き立てた
だが…
炎の勢いは衰える事が無かった
焼かれ続け…
徐々に白い灰と化していく俺の両腕…
俺は呆然と見つめているだけだった
もう、肘の上部までが灰となり
吹いて来た風で灰が空に散っていく
ああ… 王様…
私をお助け下さい…
王様から頂いた俺の身体が…
消えていきます…
王様の命令を果たす事が
もう俺には出来ないのでしょうか…?
ああああ…
ん…?
白いトラが近付いて来た
俺に止めを刺しに来たのか?
ヤツが地面に座り込んでいた俺を見降ろした
不思議な事に…
ヤツの目は殺気立っていない
俺を笑ってもいなかった
それどころか…
青白く光るヤツの獣の目は
悲しそうに見えた
敗れた俺の事を憐れんでるのか?
くそっ!
もう、俺の両腕は肩まで消滅していた
これでは、もう戦えない…
貴様! 早く俺を殺せ!
生き恥を晒したくはない
頼む、殺してくれ!
はっ!
俺はヤツから視線をずらした
白いトラの背後から
一人の若い女が姿を現したのだ
誰だ?
そうか、この女が…
王様が俺に連れて来いと命じた女…
な、何だ…?
この女…泣いている?
俺を見て、なぜ泣くんだ?
お前まで俺を憐れんでいるのか?
ふ… 同情など迷惑だ…
王様の命令を遂行出来なかった俺に
生きる資格なんて無い…
何?
おとうさん…?
こいつ、何を言ってる?
俺が、お前の父親だと…?
バカな事を言うな
俺に娘など…
いや…
う、ううう… 頭が痛い…
お、俺は… お前なんか知らない…
えっ?
くみ? く…み…?
くみ… くみ…
どこかで… 聞いた事が…?
ああっ! 分からない!
思い出せない!
でも…なぜだ…?
俺の右目から…
人間のままの右目から…
何で涙が流れ出す…?
この気持ちは、いったい?
なぜ、この女を見ると
俺の目から涙が止まらないんだ!
ああっ!
女よ…
お前は… 本当に俺の…




