表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/41

第3話 俺が家族を護る…

キャアアアアーッ!

店の方から娘の悲鳴だ!

どうしたっ⁉


居間(いま)でTVを観ていた俺はくみの悲鳴を聞き


急いで店まで走り出た


どうしたんだ、くみ?


俺は、くみが立ちすくむ場所へ()け寄った


くみは店内掃除(そうじ)用の(ほうき)をきつく握りしめ


身体を(ふる)わせている


娘の指さす足元の床を見た俺は


数匹の赤い小さなカニを見つけた


くみのズボンを()っていた一匹のカニを取ってやる


まだ彼女が指を指す箇所を見た俺は


十数匹のカニが床を()っているのを見た


さすがに少ないとは言えない数だ


くみが握りしめていた取り上げた(ほうき)を取り上げ


俺はカニを塵取(ちりと)りに()き集め


店の外へと捨てに行った


()み付けて殺す事もあるまい


そう思った俺は道路を渡った先の


排水溝にカニ達を捨てた


店内に戻った俺は


カウンター席の一つに座り込んでいる娘を見た


何だあんなカニぐらい…


俺は笑ってそう言ってやった


くみはまだ(こわ)いのだろうか


落ち着かない様子で


キョロキョロと床を見回していた


一緒になって俺も探してやったが


もう店内には一匹の姿も無かった


くみ(・・)はやっと安心したのだろう


俺に(うった)える様な眼差しを向け


(せき)を切った様に話し出した


最近おかしな客が出入りをしていること


その客が自分をジッと見ていること


その粘り付くような視線が気味が悪くて仕方が無いこと


その不審(ふしん)な客が今夜も店に来て


勘定を済ませて店を出た後も


近くに()めた車の脇で自分を見ていた


不審に思ったくみ(・・)がそっちを見ると


(あわ)てて車に飛び乗り急発進で走り去ったこと


その直後に店内に


カニが現れたこと等を


早口で懸命(けんめい)に俺に(うった)えた


俺は最後まで黙って聞いてやった


お前の考え過ぎだろう…


俺は娘の肩を(たた)いてそう言ってやった


親の欲目(よくめ)で言うのでは無く


くみの容姿は非常に美しい


だから以前…


大変な事件に巻き込まれた事がある


店に来る客の男どもの多くは


俺の()れるコーヒーを楽しむよりも


くみが目当てなのは知っていた


だがそれを止める事は出来ないし


客が娘に抱く(ほの)かな恋心を


とやかく言うほど野暮(やぼ)な父親でも無い


そんな娘びいきだが声を掛ける勇気のない


気弱な客の一人なんだろう


恥ずかしくて話しかけられないが


やはりくみ(・・)の事が気になり


店に何度もやって来る


そして見つめるしか出来ない気弱(きよわ)な男…


よくある話じゃないか


俺にだって多感な頃に経験が無いでもない


俺はくみ(・・)の肩を(たた)


店の電気を消すと


娘を促して一緒に家に入った


俺達の住居は店の奥で続いている


家に入るとようやく


くみも安心したようだ


俺に微笑(ほほえ)むと食事の前に風呂(ふろ)に入ると言った


俺は居間(いま)に戻りソファーに座った


女房(にょうぼう)は台所で晩飯の支度(したく)


何かあったのかと聞いてきたので


俺は女房(にょうぼう)に話して聞かせた


俺達家族は、くみの幽閉(ゆうへい)事件以来


何でも隠さず話す事にしていた


問題の事件はもう終わった事だったが


家族間での秘密が


また悲劇を生む事にならないとは限らない


それを無くすように俺達は努力している


女房(にょうぼう)も俺の説明で安心したようだ


晩飯の支度(したく)をしに台所へ戻った


俺は置いてあった夕刊を広げた


だが紙面に目を通しても


文字は頭に入ってこなかった


くみを襲ったあの(・・)幽閉事件…


俺達には悪夢としか言いようがなかった


事件で俺は左腕に重傷を負い


くみは心に重い傷を負った


娘は心の治療を受け続けている様子だが


あれだけのひどい体験をしたんだ


心に(かか)えたトラウマは


容易(たやす)くは治らないだろう


だが、あの事件はもう終わったんだ…


俺はあの事件の後、刑事を()


退職金を元手に喫茶店を始めた


女房(にょうぼう)も入院先から家に戻り


家族三人での暮らしが始まった


あれからもう…半年になる


くみも俺もあの事件の話は


お互いに()れないようにしている


やはり二人にとっては命がけの


脱出劇だったのだ


あの事件は俺達の間で禁忌(タブー)になっていた


もう忘れよう


俺は毎日そう思っている


もちろん、くみもそうだろう


だが、さっきのくみ(・・)(おび)えよう…


あれはただ事じゃなかった


くみは父親の俺が命がけで救い出した


大切な一人娘だ


もう誰にも傷付(きずつ)けさせない


そんなヤツが(あらわ)れたら


俺は何をするか自分でも分からない


もう警察は()めたんだ


俺が家族を(まも)らなければ


命を()けても…


俺は固く心に(ちか)って


くみの入っている浴室の方を見つめた


ん…?


何だあれは…?


赤くて小さなモノが動いていた


それは浴室に通じる(とびら)の表面だった


俺は立ち上がり近寄って見た


何かが(とびら)()っていた


それは…


赤い小さなカニだった…

家の中にまでカニが…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ