表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隔たれた地図──見えざるナッジ  作者: 市善 彩華
第5章:ヒュドラ/穏やかに絡む日常
21/29

第21話「島を背にして」

現実の空気は少し冷たかった。

でも、どこか懐かしさもあった。

あの島で出会った誰かを思い浮かべながら、一歩ずつ前へ進んでいく。

AIの船が静かに着岸すると、すでに待機していた2台のAI送迎車が停まっていた。

そのそばには、鈴木の姿もある。


久しぶりの“現実”の空気は、まだどこか夢の中にいるように感じられた。


二人は鈴木から自分のスマホを受け取り、ロック画面を見ると、徐々に昔の生活の匂いが戻ってくるような感覚に包まれた。


スマホを受け取った蓮だったが──あることに気付いた。画面のバッテリー残量が、しっかりと残っていたのだ。

不思議そうに画面を見つめ、つぶやく。


「預けたままだったから充電切れてるはずなのに、何で充電あるんだろう」


そのとき、陽翔の隣にいた鈴木が一歩前に出てきて言った。


「……フル充電しておいた」


「兄貴……気が利きすぎ……いや、助かった……!」


「さすが鈴木さん、ありがとうございます!」


蓮が陽翔に笑いながら言った。


「今のうちにLINE交換しちゃいましょ。逃すと、もう機会なさそうなんで」


「だな。……はい」


二人は、LINEを交換した。


「陽翔さんとLINEできるなんて感動」


「仕事してるときとかは返せないけど……蓮は返信急かすタイプじゃないよな?」


「返信は気にしません。ただ、独り言感覚で送っちゃうかも(笑)」


「独り言かよ……ブロックするわ(笑)」


「えっ……」


「うそうそ(笑) スルーしても気にしないなら、好きなだけ送ってこいよ」


「マジっすか……! やったー!」


──思わず顔が綻ぶ。連絡先を交換できただけで、こんなに嬉しいなんて。


「はは、ちゃんと社会復帰しろよ?」


「陽翔さんは、芸能界……復帰するんですか?」


その言葉に、陽翔は空を見上げるように視線をやった。


「戻れるなら、な。やっぱ、好きなんだ。演じるのが」


「復帰したら絶対観ます。まず、過去の出演作あさります(笑) 前よりも、ずっと楽しみにしてるんで」


二人の間に、確かな“再会の約束”ができた瞬間だった。


──


蓮は送迎車の前で立ち止まり、鈴木に穏やかに尋ねた。


「……そういえば、住む場所は どうなってるんですか?」


鈴木は少し微笑みながら答えた。


「島外の仮住まいは、私の方で手配しております。五十嵐さんのためにしっかり準備していますので、ご安心ください」


「そうですか……ありがとうございます」


蓮は、ほっとした表情でスマホを取り出し、住所の書かれたメモを確認した。

その下には、**“スマートロックの解錠コード”**と書かれた数字の列が添えられていた。


「……あ、鍵まで……ちゃんと用意されてる……」


小さくつぶやくと、蓮は思わず口元を緩めた。


「鈴木さんに動いていただいてると知って、物凄く心強いです」


鈴木は、にこやかに頷き、陽翔と一緒に蓮を見送った。


車内に入った瞬間、座席が静かに振動して認証が始まり、AIの音声が響いた。


【目的地を入力してください】


目的地を入力した後、蓮はスマホを開いた。


(あ……)


「ポケGO……」


起動すると、通信が一瞬もたついた後ようやく画面が立ち上がる。


──「彩華からのギフト」


スマホ預けたままだったから、届いてるギフト一覧を見て今頃気付いた。

今ギフト開けて新たに送ったら、なんか生存報告してるみたいだな(笑)

そういや、彩華のレベル追いつくかもとか俺言ってたのに放置状態だし、それじゃレベル追いつけないじゃんって笑われてそう(笑)


AI車が動き出し、景色が静かに流れていく。

現実は、確かに厳しくて、息苦しくて、決して優しくなんかない。

でも──それでも、もう一度ここで歩いていこうと思えたのは、あの島で出会った誰かが、ちゃんと心をくれたから。


蓮は、スマホを握りしめたまま、目を閉じる。


「……ありがとう。陽翔さん、鈴木さん──全部、大事にします」


夜の街の灯りが、彼の未来をゆっくり照らしていた。


──


陽翔と鈴木は、別のAI送迎車に乗り込む。


「陽翔、これからどうする? うちに来てもいいけど。相変わらずフリーだしな、俺(笑)」


「そうだな……マンションに帰ろうかと思ったけど、フリーみたいだし(笑) やっぱ兄貴の家行こうかな。島の生活快適過ぎて忘れてたけど、これからちゃんとしなきゃなんだよな(笑)」


「まあ俺は仕事してるから お金の心配ないし、陽翔は芸能でも何でもやりたいことやれよ! 応援してるから!」


「兄貴……」


──


陽翔から蓮へのメッセージ


【陽翔】

「マンション戻る予定だったけど、兄貴んち来てる。

島の暮らし快適すぎて、現実感まだ戻んねえわ(笑)」


【蓮】

「え……陽翔さん、今鈴木さんといるんですか!?」


【陽翔】

「つーか、兄貴がさ、『あの五十嵐って子、大丈夫か?』ってやたら真面目に聞いてきてさ」


【蓮】

「えっ……!

そんな気にかけてくれてたんですか……」


【陽翔】

「『もし何か困ったことあれば相談乗るから、LINE教えていい』ってさ。

蓮のこと、俺が信頼してるって言ったら『それなら安心だ』って(笑)」


【蓮】

「……優しすぎて泣きそうです。

ぜひ、お願いします!!」


【陽翔】

「じゃ、送っとくわ。」



蓮のスマホに通知が届く。


【LINE通知】

「鈴木 秀平さんがあなたを友だちに追加しました」


画面には、鈴木 秀平からのメッセージが続く。


【鈴木 秀平】

「どうも、鈴木 秀平です!

陽翔から話は聞いています。

何かあれば気軽に相談してくださいね。」



「鈴木 秀平」──その名前を、蓮は このとき初めて知った。

その響きからは、穏やかさと落ち着きを感じた。


名前を知っただけなのに、不思議と距離が近づいたような気がして、蓮の胸の奥にほんのり温かいものが灯った。

貴重な時間を割いて読んでいただき、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ