決断
僕たちは屋敷の中に入る事にした。
僕に限っては、最後まで、かなり迷っていたが、結局行く事に決めた。怖かったけど、武道に心得のある情報屋のおじさんも一緒に行ってくれるということが、かなり僕を後押ししてくれた。仕事をボイコットして、後でマネージャーやトビオにいろいろ言われるのも嫌だった。おじさんは約束通り、持っている他の情報についても、僕たちに教えてくれた。
内容はこうだ。
小さな小料理屋を経営している男がいた。男の料理の腕は一流で、なかなか店も評判が良く繫盛していた。ところが、ある日突然、店舗を借りているビルのオーナーから、店をたたむように言われる。理由を聞いても、申し訳ないの一点張りだ。仕方なく男は別の店舗を探し、また経営を始めたが、1か月もたたないうちに店舗から追いやられる。その後、同じようなことが何度も起こり、結局、男は廃業に追い込まれた。
また別の事例もある。
ある一流企業に勤める男がいた。優秀な男で、周りからの信頼も厚く、役職はまだ課長だったが、更に上へと出世するだろうとささやかれていた。そんな男が突然の人事異動で地方へ飛ばされる。社内では、知る人ぞ知る、辺境の地だ。男は訳が分からない。当然そんなところに男がやりたい仕事もなく、不当な人事に男は組合や労働局に相談するが、結局、拉致があかず、その後の仕事もモチベーションが上がらず、酒に溺れ、男は退職することになってしまった。男には、有名大学に通う一人息子がいたが、同時期に退学となっている。
いずれも、ある私立探偵社に持ち込まれた相談内容の一部で他にも同じような相談が多発していた。これらの事象にはたった一つだけ共通点があり、それがどうも、この屋敷と関係があるらしかった。
なぜ警察までもが動いているのか、情報屋のおじさんは教えてくれなかったが、僕たちは良しとした。
「じゃ、僕はこれで」
サラリーマンが重い腰を立ち上げた。
「いろいろとありがとうございました。」
僕がお礼を言うと、サラリーマンはちょっと笑顔になって
「とんでもない、こちらこそ、話を聞いてくれて、ありがとう。行きたくないけど出社するよ、、なんか、そちらも大変そうだけど頑張ってください。くれぐれも無茶だけはしないように」
僕はこのガタイのいい気弱なサラリーマンが意外と好きになっていた。
「はい、わかりました。」
一通り、別れの挨拶が終わった後、トビオが言った。
「待ちたまえ!君も行くのだ。」
は?何言ってんだまた、この人は・・・。
「いやいや、トビオ、それはないでしょ、本当にすみません、こいつ非常識で」
僕はサラリーマンに頭を下げた。また僕が謝る羽目になる。
「絶対に行くのだ!」
トビオは頑として譲らない。
「だからなんで行かなきゃいけないんだよ!」
僕は切れ気味になって、トビオの前に立ちはだかった。
「理由を言えよ!理由を。」
僕に言われて、めずらしくトビオは口ごもっている。
「理由?理由は・・」
その時だった。
ゴゴゴ、キュルキュル、、ンゴゴゴゴゴオ~
すごい音がした。
僕の記憶している限り、、これは腹の音だった。
振り向くとサラリーマンが恥ずかしそうに
「いや、ハハハ、すまない、僕のお腹の音すごいんだ。お腹すいちゃったみたいで」
とモジモジしていた。それを見てトビオが勝ち誇ったように
「理由は、腹が減っているから、ランチを食べるのだ。」
と言った。
いやいや、、、お気楽すぎるだろ。