エピローグ
「雅哉!この後、みんなで集まるけど、お前も来る?」
大学の講義が終わり、鈴川雅哉は、ノートをカバンに閉まった。
「悪い!今日は約束があるんだ。」
そう言ってから、階段を上がり講義室を出た。歩きながら校舎を見上げる。木々の緑と歴史ある建物に囲まれて歩くのは、本当に気分がいい。
僕は、この春から美大に編入することが出来た。
お母さんには悪いけど、僕は前の大学が退学になって本当に良かったと思っている。
小学校の時は、自分が進みたい道なんて、まだわからなかった。お母さんに言われるまま、一生懸命勉強して私立に受かって、最初は良かったと思った。でもそのうち、勉強の合間に息抜きに描いていた絵を本格的にやりたいと思うようになり、僕は美術大学に行きたいと強く願うようになった。当時通っていた大学に、自分が学びたいことは、何もなかった。
でもお母さんから反対され、僕は自分のやりたいことをあきらめ、毎日友人と遊び惚けるようになった。
そんな時だった。お父さんがいきなり失業してしまい、経済的な理由で、僕は大学を退学することになった。お母さんはすっかり、ふさぎ込んでしまったが、僕はチャンスだと思った。
そして____僕は今、夢に向かって生きている。
貧乏だし、大学とアルバイトの毎日だが、夢のためなら頑張れる!
この大学で過ごす一瞬一瞬を、目に映る、あらゆるものを、心の中に焼き付けておこうと思った。
お母さんは、「絵で食べていける人なんて本当に一握りなのよ」なんて言うけれど、時代も変わってきているんだ。僕が親を支えなきゃ。
昨日、家の前に高級車が止まっていて、目の不自由な、すごい綺麗な人がうちに来ていた。
その後、お父さんが
「なんか自分で事業でも立ち上げてみようかな。」
とつぶやいていた。
一体何があったんだろう?
駅前に着くと、思いきり、こちらに向かって手を振っている人がいる。先輩だ!
今日は久しぶりにアルバイトを休んで、先輩のおごりで飲みに行く。
今、話題の屋台があるらしい。
「おお!雅哉!見ろよ大物だぜ!」
そう言って先輩が足元にあるクーラーボックスを開けた。
中には見事なクロダイが入っている。
「すっげー!これ先輩が釣ったんですか?」
「そうだよ、見せたかったぜ、俺の勇姿を。」
そう言って先輩はどや顔を向けた。
「でも、これ、どうやって食べるんすか?」
僕が言うと、先輩は、よくぞ聞いてくれたと指さして
「あそこさ!話題の屋台!持ち込んだ食材をなんでも、おいしく調理してくれる!」
「えーー!まじですか?」
「一流のシェフがやってるんだけど、すごいんだ。屋台には調理器具と調味料しか置いてないんだけど、彼が調理すると、魔法みたいにおいしくなるって評判らしい。」
「何すか?それ、新しいですね。」
「家事に疲れた、買い物帰りの主婦も利用するらしいんだ、あ、ここ。」
先輩が、屋台へクロダイを持ち込むと、品のいいシェフが、にこやかに迎えてくれた。
「いらっしゃいませ。創作屋台 響へ ようこそ 」
完




