僕たちの武器
「町田さんを助けなきゃ。」
隣室に続くと思われるドアがあったので、僕が行こうとすると、
「まあ、待て。」
とトビオは言い、マジックミラーの下にあった機械をいじり始めた。何だかいろいろな、レバーやスイッチがあり、放送室のような映像編集室のような感じだ。
「何してんだよ、早く助けなきゃ。」
僕がそう言うと、
「まあ、待て。見たところ、町田さんは、お前と違って服は着てるようだし、とりあえず何を話しているか聞いてみよう。あ、これだな、たぶん」
トビオがレバーをあげると、声が聞こえてきた。
あの男の声だろう、深く、くぐもった低い声が聞こえる。
僕たちの見ているマジックミラーに音声が加わった。
「他人に負けたくない、それがお前のプライドか?どうなんだ?え!」
男は低い声で話していたかと思うと、いきなり恫喝し、町田さんの座っている椅子の裏を下から思いきり蹴り上げた。町田さんはヒッと声をあげ、小さくなっている。どうやら手錠をされているようだった。
男は話しながら、町田さんを蔑むように見下ろし、ウロウロと歩き回っていた。その動きは不規則なリズムを刻んでおり、近くにいる町田さんを不安にさせているようだ。男は、気味の悪い声で、さらに話を続ける。
「私の任務は、人が持っているプライドをとことん、ぶちのめす事だ。それが私のオーナーの意向だ。なかなか面白いだろう?・・だからお前のプライドとは、何か?私は明確にしないといけない。」
男はそう言うと町田さんの耳元に顔を寄せる。
その男の眼を見て、僕はまた心臓が苦しくなった。
獲物を狙うハゲタカのような鋭い眼は、しつこいハイエナのように淀んだ光を放っていた。
一度捕まったら骨の髄まで吸い取られそうな気がしてくる。
男の低く、何かに引っかかっているような、耳障りな声が部屋中に響いていた。
「だが、お前の話は要領を得ない、、ラグビーはやめた、今は仕事を一生懸命やっているが、うまくいかない・・・。それで?容量がいい奴、情報操作が上手い奴がずるいって?」
男が机を小刻みに指で叩いている音が、だんだん大きくなっていく。
「全く、お前はクソ野郎だな!いいか?教えてやろう・・。そいつらはずるくなんかないんだよ。自分が持っている武器を最大限に活用しているだけだ。
お前の武器は何だ?仕事が早いことか?わかりやすい資料を作れることか?それを自分の武器として、とことんまで突き詰めたのか?その武器でお前は戦ったのか?プライドを持つのはそこだろ!
他人に負けたくない?お前のプライドは第3者がいて、成り立つプライドなのか?そんなものはプライドなんかじゃないんだよ、プライドは自分自身に持つべきものだ。」
「なるほど一理あるな。」
とトビオが言った。
「何言ってんだよ。」
僕は気が気じゃなかった。
あそこにいるのが町田さんでなく僕のような気がしてきて、僕は思わず目を伏せた。
「私は、お前と違って自分の仕事にプライドを持っている。特別にお前に、私の流儀を教えてやろう。まず獲物をゆっくりと観察するんだ。どうやって全て吐き出させるか、何が一番好みか、または嫌がるのか。気温も大事だ。暑さは人をイライラさせ、寒さは人の心も凍えさせる。光の加減も調節する、薄暗い方がいいか?または明るい方がいいのか?
下準備が整ったら、尋問の始まりだ。最初は姿を見せない。少しずつ声だけで語り掛ける。時には優しく、時には鋭く、人によって料理方法が違うのさ。アホどもは、姿が見えない相手に最初は戸惑うが、少しずつ自分の情報を語りだす。そして私は、その情報の糸をじわりじわりと手繰っていき、やがて全ての情報を、洗いざらい吐かせる。ここが大事なところさ。口封じのために相手が知られたくない秘密も隅々まで吐かせる。中途半端な仕事をしてはいけない。」
そう言ってから男はにやりと笑い、
「その後は仕上げさ、そいつの持っているプライドを地の果てまで追いかけ、とことんまで叩き潰す。」
興奮したのか、男は机を力強く叩いた。
町田さんの顔が苦しく歪む。
「行こう!トビオ。もう限界だよ。」
僕がそう言うと、
「コージ!俺たちはどうやって戦うんだ?」
トビオがまた訳わかんないことを言う。
「何言ってるんだよ、こんな時に。」
力ずくで戦って町田さんを助けるしかない、僕は自分を奮い立たせ、わずかな勇気を振り絞っていた。
そんな僕の気も知らないで、トビオは不敵に笑いながら、こう言った。
「俺たちは、お笑い芸人だ!だから”笑い”で戦うんだ!」




