パンツ1丁目
主人が着替えスペースに案内してくれた。
着替えは、ブランド物と思われるポロシャツと麻のパンツをかごに用意してくれているようだ。頂いていいのだろうか・・?サイズがあうといいけど・・・。
僕は袖がボロボロになった長袖Tシャツを脱ぎながら考えていた。
特別って何だろう?僕の何が特別なんだろうか?
主人は教えてくれなかった。
とにかく、訳わからないし、あのご主人、ちょっと何だか、やっぱり変だ。
僕は、着替えたら、早々に、ここから退散しようと思った。
あれ?僕は目を疑った。
さっきまで置いてあった着替えが無くなっていた。脱いだ服も無い。
「あれ?おかしいな。服が無いんですけど?」
僕はカーテン越しに声をかけた。
「うちのドーベルマンはね、特別なしつけをしているんだ。」
僕の問いを無視して、主人が話し始める声がする。
「決して人間に危害を加えないようにしつけている。」
何の話だ?!
「代わりにね、着ている服に噛みつくように教えている。」
ちょっと?僕パンツいっちょなんですけど?
「そうしないとね、、取れ高が確認できないからね~」
そう言いながら、主人がカーテンを勢いよく開ける。
「え!な、なんですか?な、何してるんですか?」
僕は突然の出来事に動揺し、角に吸い付くようにしたが、どこにも逃げ場なんて無かった。
主人は目を見張り、僕を見ながら
「すごい、思った通りだ!」
と興奮している。
「やめてください!」
と言って僕は、カーテンを閉め直した。
何なの?何なんだよ~!
僕は泣きたくなった。
「な、何なんですか!服を返してください!」
僕は当然の主張を繰り返した。
「あ、失礼した。もちろん用事が済んだらお返しするよ。」
主人の、大したことでもないかのような平然とした声が聞こえる。
用事って何だ?何なんだ?
「やめろ!この変態野郎!今すぐ服を返せ!」
と、僕が使い慣れない乱暴語で怒鳴ると、
「変態?・・・ああ、、、ははは」
と主人は笑い始めた。
「いや、、変態か!確かにそうだね。でも安心したまえ。君をどうこうするつもりはない。私は妻を愛している。」
「じゃあ、何で・・。」
僕は訳がわからなかった。力ずくでも服を取り戻してやろうと思った時、
「わかった、ちゃんと説明するから、落ち着いてもらえるかな?」
と言う主人の声が聞こえ、主人はカーテン越しに話し始めた。
「僕はね、ある時から、人が持つオーラと言うものに深い興味を抱いた。心の色が見えるという妻の影響もあるのかもしれない。わかりやすく例をあげると、俳優や一流のスターと呼ばれる人たちは、すごくオーラを感じるだろう?彼らは視聴者にとびきりの一瞬を見せるために裏で相当な努力と時間を費やしている。自分と言う看板を直接掲げている以上、下手なものは見せられないというプライドがあるのだと思う。それが評価され、また自信に繋がっていく。そして、その自信とプライドがまたオーラを放っていく。」
確かに、僕も一度だけ、代官山で有名な俳優を見かけたことがあったが、一般人とは違う、とてつもないオーラを感じた。
主人の話が続く。カーテン越しに何かを取り出すような音が聞こえた。
「私は、この自分にはない、オーラというものが、どうしても欲しくてね。どうにか手に入らないものか考えた。そして長い年月と莫大な費用をかけて作らせたのだ。見たまえ、いいだろう?」
僕がカーテンから顔だけを出すと、主人が奇妙な服を羽織って立っていた。バスローブのような、王様のマントのような形で、材質は質のいいビニール素材のような、肌に吸い付くような質感に見える。よく見ると袋状のようになっていて、中が薄ぼんやりと発光している。
あれは、、あの光は、なんだ?一体・・・。
一瞬想像して、背中がゾワリとする。
まさか・・。
全身に鳥肌が立った。
「これは、世界に一つしかない装置だ。人が発光するオーラを吸い取ることが出来るんだよ。」
主人の言葉に、戦慄が走る。
嫌な予感がした。
僕は他人の家で、パンツ一つの無防備な姿でいた。




