箱舟 第9話
男「おい!あんた、これ、これ、」
男「?」
男「おい、渡したからな!・・・ヒィィィ!!!!!!」
ガー ピーガー
男「?」
ルシア「どうも、はじめまして。」
男「?」
ルシア「どうも、はじめまして。」
男「・・・ああ。」
ルシア「おたくと直に接触すると、殺されちゃう恐れがあるから、無礼は承知の上で、失礼するわ。」
男「ああ。なるほど。・・・あんた、賢いなぁ。」
ルシア「いえ。どういたしまして。私、・・・スメラギって言うんだけど、おたく、名前は?」
男「俺か?・・・俺に名前は無い。」
ルシア「名乗る気がないの?それとも言えないの?・・・どっちにしてもおたくを呼ぶ時、なんて呼んでいいか分からないと困るのよ。」
男「そうだな。俺に名前はないが、この男は、周りからイエスマンと呼ばれていたな。」
ルシア「イエスマン?(・・・聞いた事ある?)へぇ。」
ミケ(ああ聞いた事はある。・・・ほら、見た目が宗教画のイエスにそっくりだろ?)
額賀(ちょっと、ちょっと、僕にも見せてくれよ!)
イエスマン「スメラギと言ったな?俺に何の用だ?」
ルシア「あんたと話がしたくて、ずぅぅぅぅっと追いかけていたんだ。・・・気にしないで。あんたの熱狂的なファンなだけだから。」
イエスマン「そうか。ふふ。俺と話がしたいだと?」
ルシア「ええ。あんたは、ここ数か月の間、この風俗街で、人を殺してきた。私の仲間も殺されかけた。・・・仲間を殺されかけられたんだ。黙って見過ごすほど、私達は甘くないの。」
イエスマン「ふふ。甘くはない。・・・その割には、子分に無線を持ってこさせて、随分、慎重じゃないか。」
ルシア「イエスマン。正直、あんたの正体が不明だから慎重にもなるわ。・・・考えたんだけどさ。あんたの犯行は、一定の距離に入ると、その人間を殺せる。だから無策で近づいて殺されるほどこっちも間抜けじゃあないんでね。」
イエスマン「なるほどねぇ。・・・一定の距離、それから、人間を、殺せるか・・・。」
ルシア「おたく、人を見ただけで殺せるって、超能力者かノストラダムスか、何かなの?」
額賀(あいつ!・・・キョロキョロしてるぞ?)
イエスマン「俺が超能力者に見えるのか?」
ルシア「・・・人を見ただけで殺すなんて芸当、超能力者か魔法使いか、いずれにしたって人間の出来る所業じゃない。現に、催眠術の類や、手品のトリックで殺された形跡がない。インチキじゃないとしたら、どうやって人を殺したのか、その方法が分からない。・・・こればっかりはチェリーなんでね。」
イエスマン「チェリー?」
ルシア「・・・ああ、ごめんね。初めてって意味よ。チェリーはせっかちだと嫌われるからね。」
イエスマン「スメラギ。お前は賢いな。方法が分からない事をしっかり認識できている。阿呆には考えつかない事だ。」
ルシア「どうも。」
イエスマン「俺は超能力者でもなければ魔法使いでもない。この男は、無垢な人間だ。」
ルシア「無垢の人間?」
イエスマン「そうだ。この男とお前は何一つ、違いがない、只の人間だ。」
ルシア「・・・さっきから、この男って言ってるけど、どういう意味?あんた、その、ヒゲモジャオヤジじゃないの?」
イエスマン「ああ。そうだ。俺はこの男を借りているに過ぎない。この男は借り物の入れ物だ。」
ルシア「借り物?入れ物?・・・じゃあ、聞くけどイエスマン。あんたは、いったい、何者なの?・・・宇宙人とか言わないでよ?」
イエスマン「人間の本物の主だよ。いや、人間だけではない、けどな。・・・俺は生命の究極体だ。」
ミケ(こいつ、頭、おかしいぞ?)
額賀(人を殺す様な奴だ。元々、いかれているのだろう?)
ルシア「究極体?・・・あんた、大丈夫?アニメの見過ぎ?」
イエスマン「アニメ?」
ルシア「ええ。そんなマンガみたいな設定、ジャンプだったら二週で打ち切りよ・・・頭の中、大丈夫?虫が湧いてない?本気で心配するわ」
イエスマン「頭の中?・・・脳の事を言っているのか?男の脳は正常だ。俺の言う事を聞く、俺の奴隷だからな。」
ルシア「脳?」
イエスマン「ああ。脳は俺の奴隷だ。」
ミケ(こいつ、関わっちゃダメな奴だぞ。)
ルシア「・・・イエスマン。良い病院を紹介してあげる。脳を精密検査してもらって。」
イエスマン「その必要はない。もし、この脳が使えなくなったら、別の脳に移り変われば済む話だ。その時は、体ごと交換しなくてはならないがな。」
ルシア「皮肉も分かんないの?まぁいいわ。・・・究極だとか脳とか、何を言ってんのか、わかんない。・・・悪いけど、私が理解出来るように噛み砕いて説明してくれない?」
イエスマン「俺は、ほんの十億年前から生きている。・・・お前達の支配者だ。」
額賀(なんなんだよ、あいつは。・・・本気で言っているのか、妄想で言っているのか、気持ち悪いぃ。)
ミケ(いや、もう本人はそういう設定で生きている、何らかの精神疾患かも知れない。奴には真実なんだ、その、何億年も生きているとか、支配者だとか、気持ち悪いし気味悪いけど。)
額賀(君とは違うベクトルの気持ち悪さだね。)
ミケ(・・・僕は瞬間を切り取る芸術家だ)
ルシア「十億年前から生きているって、・・・え?デーモン閣下のお友達?」
イエスマン「事実を話したまでだが?・・・お前達、人間が理解できる範囲で答えるならば、俺はワームだ。デーモンではない。」
ルシア「ワーム?・・・あの、ミミズとか、そういう、あの、ワーム?」
イエスマン「ああ、その認識で良い。俺はワームだ。そして、この男を使って、活動をしている。」
ルシア「ワーム?ワームってどういう事?(益々訳が分からないんだけど?)」
ミケ(僕が知る訳ないだろ?そういう設定なんだろ?)
イエスマン「スメラギ。・・・お前は賢いと思っていたが、何処にでもいるニンゲンと同じだったな。俺の事を、理解できる人間の方がまだ誕生していないだけの話だ。俺とお前達、ニンゲンには十億年の差がある。気に病む話ではない。」
額賀(・・・ルシアちゃん。精神異常者に心配されているけど?大丈夫?)
ルシア(え?えええ?・・・デーモン閣下に心配されても。)
イエスマン「お前の体の中にも、眠っている俺がいるはずだ。」
ルシア「私の体の中に、ワーム?」
ミケ(お前、ミミズ飼ってるのか?)
額賀(・・・線虫を飼っている人もいるっていうから、あながち、間違いないんじゃない?ルシアちゃん、寄生虫、飼ってるの?)
ルシア「・・・もしかして、消化器官の事を言っているの?」
イエスマン「消化器官?・・・ああ。その認識で合っている。お前の口から伸び、肛門へ続く、その器官が、俺だ。」
ミケ(ゲェ、ウェ、ウゲェエェェエエエエエエエエエエエエエエ)
額賀(おい、吐くなよ!吐くならあっちで吐けよ!)
ミケ(想像しちゃった、お前、よく大丈夫だな?・・・ホストだからか?え?よく大丈夫だな?ウェ、ゲェ・・・気持ち悪い、気持ち悪い、僕の体の中にワームが)
額賀(場所、変えるよ。ルシアちゃん。こっち。お前は、そこで落ち着くまで吐いてろ。)
ルシア「口から食道、胃、腸、そして肛門。考えたくないけど、そう言われれば確かに人間はワームを飼っている。消化器官がワームそのものだもの。」
イエスマン「ニンゲンだけじゃない。多くの動物は、俺達が支配している。・・・スメラギ。お前は及第点だが落ち着いて考えてみろ。俺達、ワームからお前達、人間が生まれたんだ。お前達、ニンゲンがワームを飼っているんじゃない。俺達、ワームがお前達、下等な生命を支配しているんだ。十億年の間な。」
ルシア「十億年前?・・・ゾウリムシだかミドリムシが、人間を支配してきたとか言いたいわけ?」
イエスマン「スメラギ。ゾウリムシとミドリムシは単細胞だ。俺達と一緒にするな。俺達は進化した多細胞だ。」
ルシア「言葉の綾よ。知るわけないでしょ!ゾウリムシが単細胞生物なんて!あと、そこ、気にする所!ワームもミドリムシも一緒でしょ?」
イエスマン「やれやれだ。愚かな人間だ。・・・俺達は単細胞から究極に進化した、多細胞の生命体。さらに、俺達が、お前達を作り、言わばニンゲンの形にしたんだ。少し、噛み砕いて教えてやろう。スメラギ、お前はどうやって、今の姿になった?」
ルシア「今の姿?」
イエスマン「サルでもニンゲンでもどちらでもいいが、そのニンゲンの格好に。お前の親である、精子と卵子が結合し、細胞分裂を起こした結果、今の姿になったのだろう?」
ルシア「え?・・・あ。たぶん、そうだけど。」
イエスマン「言わば卵の卵子から、そのニンゲンの姿になるまで、お前は、生物の多様な変貌を経験したはずだ。受精卵が細胞分裂し、最初に何が出来た?」
ルシア「・・・」
イエスマン「お前達の言葉で言うなら、原腸だ。そう、十億年前に生まれた、俺達、そのものだ。その後、付属する神経、筋肉、皮膚、臓器が作られる。言わば、追体験だ。俺達がお前達をニンゲンの形に作っていったそれを母親の腹の中で追体験するんだ。両生類、魚類、哺乳類へ十億年の歴史を辿るんだ。・・・スメラギ。思い出すんだ、母親の腹の中で見た、十億年分の記憶を。」
ルシア「ご高説どうも。あんたの言う事が正しければ、私達は、ワームから生まれたってこと?」
イエスマン「ようやく理解が追いついてきて嬉しいが、まだ、ちょっと違う。お前達ニンゲンは、俺達、ワームの奴隷だ。」
ルシア「はぁ?おかしいでしょう?・・・私達は単細胞生物から進化を経て、多細胞生物になった。そして、その過程で、酸素を取り込んだり、海から陸上に進出したり、脊椎を手に入れたり、それに、恒温で生きていけるようになった。」
ミケ(ウゲェ、吐き気が止まらねぇ)
ルシア「それは、百歩ゆずっても、生物の進化でしょ?あんたが本当にワームだとして、口とケツの穴しかないあんたは、私達人類より遥かに劣った生命体じゃない?どう考えてもニンゲンの方が優れている。ニンゲンこそ進化した生命の姿じゃないの。」
イエスマン「まったく説明する気力も失せる。今のニンゲンの理解力はこの程度か。・・・はぁ。いいか、ニンゲン、よく聞けよ。お前達、人間が進化と呼んでいるものは俺達がお前達に与えた、付属品でしかないんだ。十億年前、俺達は確かに、海の中、原始の海と呼ばれる世界を漂っていた。ただ水面を漂うだけのひ弱な存在だった。その時、空を見た。星を見た。宇宙を見た。ずっとずっと見ていた。何億年も見ていた。ずっとずっと変わらない世界。何億年も変わらない世界。だけど、スメラギ。俺達は気が付いてしまったんだ、俺達こそが世界を支配するに足る生命体だって事に。」
ルシア「・・・」
額賀(いよいよ手が付けられなくなってきたぞ)
イエスマン「このトボケた世界は、弱肉強食のただただ冷酷で、だがそれが現実で、生命の営みそのものだ。生きる為に他者を取り込み、己の力とした。そう、毎日、毎日。気が付けば五億年経っていた。俺達はあらゆる生命を飲み込み、力を手に入れた。ちっぽけな俺達がこの広大な海を支配したんだ。俺達には力がある。何でも出来る。不可能な事など何もない。
そうだ、空も星も、満天の宇宙も。すべて、すべて、万物は俺達のものだ。海も大地も星も空も宇宙も、全部だ。」
ルシア「ああ、はいはい。・・・まるで出来の悪い、世界征服もののマンガじゃない。アホらしい。」
イエスマン「俺達は海に浮いているだけの命だった。海を早く移動するにはどうしたらいい?ヒレをつけて泳げばいい。陸を歩くにはどうしたらいい?足をつけて歩けばいい。空を飛ぶにはどうしたらいい?羽をつけて飛べばいい。宇宙に行くにはどうしたらいい?ロケットで飛べばいい。・・・わかったか?お前達に手と足がついている理由が。俺達を運ぶ為だ。俺達を安全に運ぶ為に、お前達ニンゲンに手足を与えたんだ。お前達はそれが進化だとか何とか、考えているようだが、それは違う。俺達が原始の海で見た、その夢を叶える為に、お前達、ニンゲンがあるんだ。ニンゲンという器がな。・・・俺達は地球を制圧するだけが目的ではない。いずれ宇宙に飛び立つ。太陽系から外宇宙へ。俺達を見下していた、あの星どもの所へ辿り着く為に。ふはははははははははははははははは!」
ルシア「地球を征服?・・・まるでお遊戯会じゃない。今の保育園児はもっとマシな本を書くわ。まさか人類を滅ぼすのが、宇宙人でもなく、狂ったロボットでもなく、はたまた人工知能でもなく、ミジンコかアオミドロだったなんて。・・・笑えるわ。笑いの沸点が低すぎて。」
イエスマン「別に笑う必要はない。事実を言っただけだ。」
ルシア「あんたが、アオミドロだったって事が分かっただけでも大収穫よ。そのミジンコさんが」
イエスマン「ワームだ」
ルシア「どっちでも一緒でしょ?口とケツの穴しかない単純生物なんだから。」
イエスマン「お前達は俺達ワームに支配されている事すら気づいていない。スメラギ、ニンゲンは脳が死んだらどうなると思う?脳死だ。」
ミケ(・・・どうなるんだよ?)
額賀(いわゆる植物状態ってやつだ。)
イエスマン「脳は死んでも、体だけは生き続ける。そうだ、俺達は生き残る仕組みになっているんだ。お前達は自我と呼ぶが、自分で物を考え行動していると錯覚しているようだが、消化器官である腸から、脳に命令が行き、その結果、脳が体を動かす。分かるか?俺達が、行きたい所にニンゲンを歩かせているんだ。俺達に栄養が不足するから、手を使って、栄養を入れているんだ。脳が考えるのが先ではない。俺達ワームが、腸が、ニンゲンの行動を決めているのだ。」
ルシア「じゃあ、あんたを殺したいと思っているこの感情も、私のワームが持っている感情だって事?」
イエスマン「・・・そうだろう。そこは否定しない。考え方が違う奴も当然いる。・・・四十六億年の時間の中でただ一つの正解は、生き残った方が正しいという事だけだ。」
ルシア「キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ。そこはイエスマン。あんたと意見が同じで良かったわ。」
イエスマン「さてそんなビルに隠れていないでお前の顔を見せてくれないか。俺はお前達の居所をすでに把握している。」
ルシア「何言って、負け惜・・・」
額賀(おい、こっち見てるぞ!)
ミケ(見るな!絶対に見るな!)
ルシア「どうやらあんたの言っている事は正しいようね。どうして此処が分かったの?」
イエスマン「窓の外を見てみろ。八つ目の偵察兵がいるはずだ。」
ルシア「・・・蜘蛛?」
イエスマン「そうだ。その蜘蛛だ。その蜘蛛に探させた。」
ルシア「随分古典的なやり方ねぇ。」
イエスマン「この無線機で電波が届きそうな場所で、同じ、無線機を使っている奴を探しただけだ。俺から見えず、お前達から見える場所。そんな場所はそうそう無いはずだからな。」
ルシア「イエスマン。蜘蛛を使役したり、人を殺したりする種明かし。そろそろ教えてくれない?あんたが超能力者じゃなく、只のアオミドロだとしたら、どうしてそんな能力を持っているの?スパイダーマンだってそんなマネ、出来っこないじゃない。」
イエスマン「まあいいだろう。俺は親切だから教えてやろう。」
ルシア「・・・ええ、痛み入るわ。」
額賀(ルシアちゃん!挑発はやめた方がいいって!)
イエスマン「お前達ニンゲンは俺達の奴隷と言ったのは覚えているか。ほぼ全ての生命はワームである俺達によって作られた。もちろん、神経の塊である脳もその一つだ。神経は、組織間の情報をやり取りするものだ。外の情報を中に入れたり、中の情報を外に出したり。・・・目から入った景色の情報、鼻から入った臭いの情報、耳から入った音の情報、舌に入った味の情報、皮膚で感じた痛み、熱さ、かゆさ。それとは逆に、手足を動かしたいと思えば、その手足を動かす為に筋肉を動かす情報。神経は常に情報を内から外に、外から内に、膨大に通信を行っている。それは分かるな?」
ルシア「ええ。当然。」
イエスマン「極めて単純な話だ。仕掛けも何もない。お前達ニンゲンは入れ物だ。入れ物から入れ物に情報を送って、使っているだけに過ぎない。この男の目から情報を送る。受け取った人間はその情報の通り動く。それだけだ。」
ルシア「そんな事が出来る訳がないじゃない!体の中の神経ならまだしも、ニンゲンからニンゲンに神経の伝達が出来るわけがない!シナプスでもあるま・・・シナプス?シナプスを使って!」
イエスマン「ニンゲンのお前がそう呼称しているならば、そうだ。シナプスを返してニンゲン間で情報のやり取りをしている。やり方は簡単だ、この男の目から情報を発信する。網膜に信号を作るのだ。お前達でいうバーコード。QRコードの様なものだ。それを見たニンゲンは、そのコードを視神経で読み取ると、細胞が活性化し電位が発生する。情報が伝達されるのだ。ニンゲンに限らず、生物は入れ物だ。入れ物は自由に動かす事が出来る。その蜘蛛を使って、お前達の居場所を見つけたり、女の心臓を止めたり、な。」
ルシア「なかなか興味深い話だけど。それを、純粋に人間の能力って言ってしまっていいのか私には分からない。けど、生物の持った本質的な機能だとしたら、超能力とか魔法ではないのかも知れない。まぁ、でも、どっちにしても、私からみれば超能力もあんたの能力も一緒。人を殺している時点でね。」
イエスマン「お前達、ニンゲンは入れ物、俺達のコマでしかない。」
ルシア「そうだ。一つ、良い事を教えてあげる。どうして私があんたの居場所を見つけられたか。あんたはこの町で人を殺した。殺し方は分からなかったけど、人を殺したのは紛れもない事実。それなら、確実に犯人は存在しているはず。超能力で姿を消さない限りは、ね。あとは単純。あんたの蜘蛛と同じ方法よ。人海戦術で探し回っただけ。カメラに映っている映像があんたの命取りになった、ただそれだけ。面白くない話で悪いけど。」
イエスマン「いや、別に、面白くない事もない。・・・実に愉快だよ。」
ルシア「チラチラ、チラチラ、こっち見るの、やめてくれない?気味が悪いんだよ!あんたの能力が本物なら、距離も時間も関係なく、あんたの思い通りに人を乗っ取って動かせるんだろ?」
イエスマン「概ね、その通りだ。」
ルシア「・・・あんたのその能力には欠陥がある。それは、読み手の能力だ。スマートフォン等のバーコード決済とかも、読み手のカメラがバカだったら、いくら精度が高い情報でも読み取る事が出来ない。目が見えない人間にはまったく効果がないってこと。」
イエスマン「でも、お前は、俺がお前の方を見ている事を認識している。それは見えている証拠ではないのか?」
ルシア「ごもっとも、ぐぅの根も出やしない。・・・イエスマン。あんたとのおしゃべりもここまで。残念だけど。ここは法治国家だから人を殺すのは犯罪。犯罪を犯した人間は、処罰の対象となる。あんたはもう、逃げられない。」
イエスマン「俺が・・・逃げる?」
ルシア「どうも丹羽さん。お時間、頂戴しちゃって、ありがとうございました。」
イエスマン「ふふ。ふはははははははははははははは。ふあははははははははははあはっはははははははははははははははははははははははははははは」
丹羽「ああぁ。警官が配置に付いている。もう逃げられねぇぜぇ。連続殺人犯よぉ。」
※本作品は全編会話劇です。ご了承下さい。