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箱舟 第6話

額賀「あれ?・・・ルシアちゃん」

ルシア「あ、どうも。」

額賀「珍しい所で会うね。・・・同伴かい?」

ルシア「こんな朝の5時に同伴もないでしょ?」

額賀「そりゃそうだ。」

ルシア「額賀さんこそ朝までアフターですか?」

額賀「アフターって言えばアフターなんだけどね。・・・ほら、うちのオーナー、カラオケが好きでさ。何て言うの、舎弟の皆さんばかりだと変わり映えしないから、たまに僕、呼ばれるんだよ。」

ルシア「ああ。・・・ご商売上、大変ですね。」

額賀「これも営業だよ。営業。・・・お店で働かせてもらうのも、ここら辺で上手にやるのも、お付き合いが大切なの。」

ルシア「女の子に何億も貢がせる人が何を言っているんだか、気が知れませんよ。」

額賀「女の子に良い顔するだけじゃ商売にならないんでね。おじさんにも良い顔しておかないと。・・・ルシアちゃんもたまには遊びにきなよ。」

ルシア「私、額賀さんの所で遊べるだけの予算がありませんから。・・・でも、額賀さんの所から送られてくる女の子はいますよ。」

額賀「ああ。そうだ。店長さんに最近、挨拶に行ってなかったなぁ。今度、顔を出すからよろしく言っておいてよ。」

ルシア「わかりました。うちの店長。優しいですから、飛ぶような女の子は紹介しないで下さいよ。ほんと店長、困ってますから。」

額賀「そう。そう。それは申し訳ない。店長さんにご迷惑かけたと思っているよ。だから挨拶にいかなきゃとは思っていたんだけどね。」

ルシア「額賀さんが悪い訳じゃないですから。」

額賀「うちの店も明朗会計でやってるからさ、売掛したくないんだよ。僕も下の奴等にはそう伝えているんだけどね。ほら、飛ばれるのが一番、困るんだよ。長く客として来てくれた方が、商売的には成功だからさ。最近の客は、そういうの分かってない奴が多くて困るよ。・・・ホストクラブなんて借金してまで来る所じゃないんだからね。」

ルシア「額賀さんはまだ信用できますけど、他の皆さんは、ちょっとねぇ。」

額賀「そういう目で見ないでくれよ。エースとして下の人間は教育してるんだから。ま、言いたい事は分かるよ。僕、一人で営業している訳じゃないから。オーナーの言う事を聞かない、若い奴が、客から吊るし上げてる話は聞くからね。」

ルシア「オーナーさんも手を焼いているんですか。」

額賀「最近の若い奴は、本当に怖い人間を分かっちゃいないんだ。客から取れるだけ取って、そいつも飛ぶんだよ。客は借金まみれ。店の売り上げも、チップっていう名目で持っていかれる。・・・オーナーもカンカンでね。朝までカラオケもしたくなるだろ?気持ちは分からないでもない。」

ルシア「・・・変な事件が起きなければいいですけどね。」

額賀「僕もそう願うばかりだよ。僕だったらもっと上手にお付き合いするけどね。喧嘩したって良い事ないじゃん?相手は組織だよ?敵う訳ないじゃない?」

ルシア「一般常識があれば、そう考えますけど。」

額賀「僕の様な、良識あるホストは、板挟みだよ。・・・客と楽しくお酒、飲んで、お給料、貰っているだけでいいと思うんだけどね?」

ルシア「それは額賀さんが顔面偏差値が異常に高いからですよ。性格は知りませんが、容姿だけなら勝ち組ですよ。勝ち組の人間が何を言っても、たわ言に聞こえるのと一緒です。」

額賀「それは何、ルシアちゃん。僕の事、褒めている訳?」

ルシア「大絶賛です。おまけに紳士だし。・・・いつぞやうちの女の子幾人かで飲みに行った時、酔った私を介抱してくれたじゃないですか。あれで額賀さんの印象が一千パーセント良くなりました。」

額賀「僕は、客に手を出さない主義でね。オーナーにも言われてるし。ルシアちゃんと遊ぶならちゃんとお金を払って遊びに行くよ。そこはちゃんと線を引かないと、後で、大変な事になるからね。」

ルシア「私はまだお手付きされても良いですけど、ナンバーワンの子が額賀さんに、タダで、遊ばれたら、そりゃぁ裏で大問題になるでしょうねぇ。お互い商売道具同士で、そんな事をされたら。」

額賀「だろう?・・・僕も売れないホストなら良かったんだ。好き勝手できるから。ゴミクズホストなら目を付けられないからね。変に稼げるようになると目を付けられるから、困ったもんだよ。」

ルシア「これから一睡して出勤ですか?」

額賀「ちょっと腹に入れて帰ろうかと思って。ルシアちゃんも行くかい?クイーンの所?もつ煮が食べたくなってねぇ。」

ルシア「ああ、最近、クイーンのお店には行ってないです。行ってみようかなぁ、私も、もつ煮、食べたいから。」

額賀「クイーンのもつ煮は美味いからなぁ。一度、客を連れて行ったら、泣いちゃってねぇ。」

ルシア「泣いた?」

額賀「故郷、思い出して泣いちゃったんだ。ああ。」

ルシア「今度は何です?」

額賀「客の子から聞いたんだどさ、ゾンビみたいな奴を見たって言うんだけど、ルシアちゃん、見た事あるかい?」

ルシア「ゾンビですか?・・・映画じゃなくて?」

額賀「ああ、そうなんだ。この町に相応しくない格好してたから覚えているって言うんだよ。ここら辺、言っても、風俗の町じゃないか。まぁ、お酒を飲める、うちみたいな店もあるし、足を延ばせば、ルシアちゃん所みたいな店もある。誰でもそれなりに町に見合った格好しているだろ?若い子は若い子なりに、僕らホストは、見るからに分かりやすくこういう格好してるけど、町に相応しくない格好をしているから覚えていたって言ってた。」

ルシア「それがゾンビ?」

額賀「まあ歩きながら、話すよ。・・・うん、芸術家だか劇団員だか分からないけど、異様に長い髪を伸ばした男でね、髭も顔の半分を隠すぐらい、伸ばしているんだって。ホームレスみたいに小汚い格好をしていて、異様だったって言うんだ。」

ルシア「異様ですか?」

額賀「ゾンビみたいに目の前を歩いて行ったって。足元がおぼつかない感じで。でも、他の人は、そのゾンビだかホームレスに気づいていないみたいで、誰も何とも思わないんだそうだ。もしかしたら見えているが自分だけ?って思ったらしい。そのうち、目の前から消えて人ごみに消えた。あれはゾンビだって言うんだ。都会って怖いって言ってなぁ。・・・都会だってそんな奴、いないよ。」

ルシア「都会じゃなくてもいないと思います。額賀さんの言う通りだと思います。・・・そのゾンビ、写真とか動画はないんですか?」

額賀「ああ、そうだね。こんな時代から写真があってもおかしくないね。」

ルシア「持ってないんですね。」

額賀「生憎、僕はゾンビに興味がないから。ルシアちゃんは興味あるのかい?」

ルシア「ゾンビに興味はありませんけど、その不思議な話は気になります。・・・ほら、うち、噂話が好きな人がいますから。」

額賀「ああ、空知さんかぁ。・・・ああ、あの人、そういう話、好きだもんね。僕も空知さんに何度かお世話になった事があるから分かるよ。」

ルシア「え?・・・額賀さん、空知さんを指名した事、あるんですか?」

額賀「あの時は参ったよ。僕もそれなりに田舎じゃ経験のある方だと思ってたからさぁ。都会に出てきて驚いた。都会の女って怖いなぁって思ったよ。・・・初めての時、はじめて女の声みたいな声だしちゃってさぁ。自分でも驚いた。気持ちが良いと男でもあんな声、出るんだねぇ。あはははははは。」

ルシア「・・・空知さんも田舎出身ですよ。」

額賀「え?そうなの。てっきりこっちの人かとばっかり思ってた。ほら、自分でも良い男だと自惚れていたから、釘、刺してもらったと思って、お金が溜まったら空知さんを指名して、抜いてもらっていたんだ。・・・元気してる?」

ルシア「・・・元気って言えば元気ですけど、引退考えてるとか田舎に帰ろうかとか言ってます。・・・ほら、空知さん。マニアックですから。空知さんを指名する人、少なくて。」

額賀「あはは。それは分かる。一度、空知さんにハマると他の人、物足りないものね。そっか。・・・空知さんが辞める前に、また、遊ばせてもらいに行くかなぁ。」

ルシア「喜ぶと思いますよ。営業的に。」

額賀「あ、そう。・・・ちょっと複雑だけど。・・・いや、空知さん、凄いんだよ?ルシアちゃんの前で言うのもなんだけど。」

ルシア「言いたい事はわかりますけど。ええ。はい。」


※本作品は全編会話劇です。ご了承下さい。

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