箱舟 第3話
ルシア「アンナさん、こっちのコレは段ボールに入れちゃっていいんですか?」
アンナ「え?、、、あ、そう。適当に入れちゃってぇ。」
ルシア「あ、はい。わかりました。じゃあ適当に梱包しておきます。」
アンナ「・・・ごめんねぇ、ルシアちゃん。手伝ってもらっちゃって。」
ルシア「ええ。お構いなく。勝手にやってるだけですから。・・・でも、急ですね?もう少し、落ち着いてからでも?」
アンナ「・・・う、ん。でも、もう決めた事だから。」
ルシア「そうですか。・・・オーナーも空知さんも、寂しがってますよ?・・・あ、あと、あの丹羽さんも。」
アンナ「ええ?そうなの?・・・丹羽さんも。へぇ。そうなんだ。」
ルシア「じゃあ、こっちの本とか、まとめちゃいますね?」
アンナ「あ、ありがとうね。・・・実はさぁ、これを機会に、昼間の仕事に戻ろうと思って。」
ルシア「・・・そうなんですか?」
アンナ「夜のお仕事も悪くはないんだけど、でも、もう、・・・怖くてさ。最初は実家に帰ろうかと思ったんだけど、せっかく、田舎から出て来た訳だし、昼間の仕事しながら、のんびりしようかなと思って。」
ルシア「それなら別に引っ越ししなくても?」
アンナ「やっぱり、ここら辺は、お水価格じゃない?分不相応なのよ。・・・学生街あたりで家賃の安いアパート見つけたら、そっちに移るの。オートロックが付いてるから少し高いんだけど、もう、怖い思いしたくないんだぁ。」
ルシア「・・・セキュリティは大切だと思いますよ?アンナさんくらい美人だと特に?」
アンナ「そう?かなぁ?」
ルシア「あんまり安い所に住んでいると、今度は、下心持った男が寄ってきますよ?」
アンナ「あ、そっか。違う意味で危ないか?・・・あはははははは」
ルシア「そうですよ?・・・・ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
アンナ「この町も、お店も、けっこう好きだったから残念なのは残念なのよ?・・・オーナーさんにも引き留められたわ。」
ルシア「・・・そりゃ、当然でしょう?」
アンナ「別に私、そんなに売り上げに貢献している方じゃないのにねぇ?」
ルシア「アンナさんと言えば、人妻感ですから。その、いるだけで、いやらしい人妻感が出せるのは、アンナさんだけです。」
アンナ「・・・そうねぇ、私、老け顔だから。・・・そういうオジサンに好かれるのよねぇ?」
ルシア「それはもうアンナさん特有の持ち味ですから、誰も真似できませんよ?」
アンナ「そうねぇ、私はルシアちゃんみたいな妹感?それは出せないからぁ。・・・おあいこね?」
ルシア「メスガキとかサッキュバスとか、言われますよ?」
アンナ「それがルシアちゃんの個性だものねぇ?」
ルシア「まぁ、それが私の売りですし、そういうのが好きな人が指名してくれる訳ですし。」
アンナ「・・・私、よく幸薄そうって言われるのよ?・・・そう見える?」
ルシア「アンナさんは落ち着いて見えるから、人妻感だったり、背徳感が刺激されるんでしょうねぇ?・・・分かる気がします。」
アンナ「空知さんにもよく言っておいて。・・・ちゃんと落ち着いたらまた連絡するって。」
ルシア「・・・アンナさん。アンナさんを襲った相手、野放しにするんですか?」
アンナ「う、ううん。・・・丹羽さんも犯人を捕まえて、殺してくれるって言ってくれたんだけどね。」
ルシア「はぁ?警察が犯人を殺す?・・・丹羽さんらしいですね?」
アンナ「私、もう、いいって言ったの。・・・関わり合いたくないから。正直、そっとしておいて欲しいの。オーナーさんにもそう、話したの。・・・オーナーさんね?裏方さん、人を増やして、キャストが危なくないようにするって言ってくれたんだけど」
ルシア「あの?オーナーが?そんな事、言ったんですか?・・・だってそういうの、上の社長にお伺い立てないとダメなんじゃないんですか?あああ。オーナー、アンナさんに辞めてもらいたくないんですよ?」
アンナ「オーナーさんの気持ちもありがたいんだけどね。・・・でも、やっぱり、いくら裏方さんを増やしても、最後は、私達が接客するわけじゃない?接客する時に、何かされたら同じじゃない?怖い思いするのは私達だし。下手したら殺されちゃうのよ?」
ルシア「う、、、ん。その通りです。」
アンナ「ルシアちゃんには本当に感謝してる。・・・私、本当だったら死んでたんだから。ルシアちゃんが蘇生してくれたから、今、こうやって生きているんであって、もし、あの時、ルシアちゃんがいなかったら、って思うと、怖くて、怖くて、もう、ダメなのよ?・・・だから、たぶん、こういう仕事、もう出来ないと思う。」
ルシア「・・・アンナさん。」
アンナ「ま、こういうさ、スネに傷があるっていうのも変だけど、堂々とお天道様に顔向けできる仕事じゃないじゃない?一回死んだ訳だから、これを機会に仕事も生活も改めようと思ったのよ。なるべく人が大勢いて、人に囲まれた仕事をしている方が、安心できる、と思うのよ。」
ルシア「アンナさんの気持ち、すごく分かります。」
アンナ「・・・私を殺そうとした男。異様な男だったわ。上背があって、大きくて、でも、ガリガリなの。ここの胸の骨が、浮き出てる位。栄養失調?って最初、思ったわ。腕も足もガリガリ。顔もやつれてた。でもシワクチャじゃないの。あれ、見た事ある?」
ルシア「あれ?」
アンナ「教会ではり付けにされている、キリスト。」
ルシア「ええ。まあ。・・・教会ではり付けにされている訳ではないですが。」
アンナ「テレビで見た、キリストにそっくりだったわ。痩せこけて、肉がそぎ落されていて、骨と皮だけ。だけど、目だけは生気があって、その目を見ていたら、急に動悸がして、胸が苦しくなって、その後は覚えていない。・・・次に目を覚ましたら、病院のベッドの上。・・・丹羽さんが後から教えてくれたけど、ルシアちゃんが心臓マッサージをしてくれたから助かったんだって。」
ルシア「キリストに似た男。・・・・目をみた後、体調に異変を生じた。」
アンナ「今、教えたのは、ルシアちゃん。逃げるのよ。その男が客に来たら逃げるのよ?いい?・・・異常者の相手をしては駄目。ルシアちゃん、あなた、殺されるわ。だから教えたの。その男に近づいては駄目。・・・丹羽さんに何を言われたか、だいたい想像がつくわ。だけど、あれは、危険。ルシアちゃん、今度はあなたが殺されるかも知れないのよ?」
ルシア「アンナさん。心配しないで下さい。私はバカなマネはしませんよ?・・・ただ、私達のような人間を選んで襲う、下劣な奴は許す事ができないだけです。丹羽さんに協力する気は毛頭ありません。・・・アンナさんにはお世話になったから、顔を見にきただけです。」
アンナ「・・・ルシアちゃんは嘘が下手ねぇ。」
ルシア「ホントですよ?ホント。」
※本作品は全編会話劇です。ご了承下さい。