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箱舟 第16話

丹羽「もう普通の病院じゃ受け入れ先がないんでね、これも警察の因果だよ。なぁ。」

皇「それはそちらの都合ですから知りませんけど。」

丹羽「公安が持っている病院で、治療中だ。・・・いいか?いくら被疑者でも、死んじゃったら、何にもならないんだぞ?」

皇「それは知ってますけど。・・・どうして私に言うんですか?」

丹羽「・・・そういや、そういう設定だったな。ヤクザの抗争に巻き込まれて、ホームレス野郎が、半殺しになった、そうだったな?」

皇「設定、言わないで下さい。あれだけ偉いさんの庭で暴れたんですから、面目だってありましょう。でしょ?・・・警察より先に見つけ出すとか、そういう話もチラホラあったらしいですよ。フロント企業でやってるホストクラブさんの話によると。」

丹羽「そうかも知んないけどな。・・・それにしても、よく、見つけたな。もう、顔が腫れ爛れて、元の顔が分からない状態だけど。髭剃ったり、髪切ったりするだけで人の印象って変わるもんかねぇ?」

皇「思った程、オジサンじゃなかったです。いや、オジサンじゃなかったって話ですよ。ルパンでもそういう話がありましたけど、」

丹羽「ルパン?」

皇「ルパンが死刑になる話で。銭形に復讐する為、髭を生やして、その髭は人相を変えるためじゃなくて、最終的に囮になる人間につける為の髭だったんですけど。精神に異常をきたした演技をして、見た目の印象を変えて、銭形を欺くっていうのが話の中核なんです。」

丹羽「ほぉ」

皇「イエスマンが意図して、風俗嬢達を殺した時も、暴動を起こした時も、長い髪、長い髭、みすぼらしい格好でいたのは、強烈な印象を警察内外に与える為だったのでしょう。逃亡しようとした昨日、容姿を変えていた事からも、その事が裏付けされると思います。

警察が行った、鎮圧作戦で、作った自前の兵隊をほとんど失ったイエスマンが、自滅覚悟で警察とぶつかるか、それとも逃亡するか、どちらかしか選択肢は残っていなかったと思います。それで、私、たまたま、公園を見張っていたんですよ。ええ。たまたまです。たまたま。

逃げるなら、鎮圧作戦が行われた町の真ん中を行くより、人ごみの多い、繁華街を抜けると思ったので。あいつは見た目、普通の人間です。騒ぎを起こさなければ、見た目は、ただの人間ですから、一般市民と見分けが尽きません。それを狙って人ごみに逃亡を謀るつもりだったのでしょうね。それを見越して私も待機していたのですが、誤算だったのはイエスマンが容姿を変えていた事でした。

でも、」

丹羽「でも」

皇「姿は変えられていてもクセを変える事は容易ではないです。一番最初の晩、丹羽さん達が、イエスマンを取り逃がした時」

丹羽「・・・痛い事、思い出させるなよ」

皇「私はビルの上層階から奴を観察していました。相手は、よく分からない方法で人を殺す、殺人犯で、トリックが不明だったからです。」

丹羽「今もいまいち不明だけどな」

皇「よくよく観察していると、イエスマンは、左足に重心を乗っけて、体全体を揺らすんですよ。無線機を持っていない方の手、右手の指をくしゃくしゃするんです。」

丹羽「くしゃくしゃ?」

皇「オッパイを揉むような動作っていうか、物を掴むような動作を。あれ、クセですね。じっとしていられないっていうか。昨日の、こじゃれた格好のサラリーマンが、イエスマンと同じクセで動いていたので、ああ、同じ人間だな、と。姿を変えやがったな、と、気づいた訳です。声をかけて、話してみると、同じ声だったので、確信しました。・・・確信する前に玉ねぎ汁を浴びせましたけどね。きひひひひひひひひひひひひひひひ」

丹羽「それで?」

皇「イエスマンが自前の兵隊。人間を狂暴化させる方法ですけど、これまでは目だけだと思っていました。奴の目さえ見なければ、催眠術か何か分かりませんが、意識を乗っ取られる事もないと思っていたんですけど、」

丹羽「思っていたけど、違うのか?」

皇「ええ。・・・音です。」

丹羽「音?」

皇「風俗街は、上のお偉いさん方が協力してくれると、途端に情報が入りやすくなるんですよ。逐一、奴の動向をホストクラブの若い子達が報告してくれていたんですけど、そのほとんどが、狂暴化してしまったんです。大雑把に捉えて、双眼鏡で目視できる距離に入ると、何故か、イエスマンの目を見ていなくても、狂暴化してしまうんです。偵察をさせて申し訳なかったと思っていますが、目以外の方法で、人間を狂暴化する方法がある事に気づきました。・・・奴は底が知れません。隠し玉を幾つも持っている可能性があります。」

丹羽「・・・目で人を操るんだ、それだけでも、異常事態だからな。」

皇「こちらが出来る対策は、感覚を遮断すること。入ってくる感覚情報を遮断すれば、何とかなると踏みましたが、人間、感覚を頼りに生きているので、感覚を遮断されると何も行動が出来ないんですね。・・・後から思いました。笑っちゃいますけど。

目隠して、町を歩けるほど、私、器用ではない事に気づきまして。」

丹羽「・・・大抵の人間はそうだよな。大抵の。」

皇「当然ですけどね。目が見えないと、音が聞こえないと、臭いが分からないと、痛みや刺激も同様。何も身動きが取れません。ヘレンケラーか元々そういう身体的な特徴を持っている人ならば、目が見えなくても不自由なく行動できるし、耳もそう、臭いもそう、あらゆる感覚もそう、全てフルオープンで使っている私の様な人間は、一つでも情報を遮断されると、囚われの花嫁です。いかに人間は外界の情報をフィードバックして生きているか、思い知りました。」

丹羽「お前はそんなしおらしいタマじゃないだろ?」

皇「イエスマンと対峙するには目を見ない、話を聞かない、臭いを嗅がない。音に関しては、きっとハーメルンの笛吹きです。笛の音を聞くと、子供たちは自分の意思に関係なく、夢遊病者のように、歩いてどこかへ行ってしまった、というお話です。」

丹羽「ブレーメンの音楽隊なら知ってるけど。ハーメルン?・・・あれか?うえだゆうじの?」

皇「原作がギャグなのに、アニメがシリアスな、アレではないです。

目を潰して、手足を拘束した後、何か、音のようなものを立てていました。ハチは攻撃の前に警告音を出します。イルカやクジラは頭部から、エサになる魚を狂わす攻撃音を出します。動物には固有の、音によるサインをだせるものがいるので、奴もその類の芸当をやってのけたのだと思います。

奴の出した音をまともに聞いていたら、近くにいた、私も、ハーメルン同様、夢遊病者の様になり、狂暴化して暴れまわったと思います。」

丹羽「なんなんだ?あいつは?・・・化け物なのは薄々、分かっていたけど、なんなんだ?」

皇「いやぁ考えても無駄ですよ、丹羽さん。正体が、もしかしたら本当に宇宙人かも知れませんし、地下帝国からやってきた侵略者かも知れないし、本人が主張するように、太古から地球を掌握していた軍勢なのかも知れません。・・・だがしかしですよ、分かった所で、どうしようもないですけど。」

丹羽「そりゃそうなんだけどさぁ。」

皇「目もダメ、耳もダメ、たぶん、何らかのフェロモンを出して、鼻からも刺激が入れば、近くにいる人間が狂暴化するでしょう。あらゆる感覚神経を支配する能力を持っていると、考えても良いと思います。・・・化け物ですよ。とても人間と言える代物じゃない。」

丹羽「ああ、お前に言われた通り、治療は最低限の人間で行わせているし、病院自体を何重にも閉鎖している。仮に、病院スタッフが狂暴化しても、外には出られない段取りだ。」

皇「その前に、あの状態じゃ、回復するまで、兵隊を増やした所で、どうする事も出来ないですけどね。特に、神経毒は鬼門です。呼吸器系が正常に戻るまでは、嫌でも大人しくしていると思いますよ。」

丹羽「それで、なんで、俺にあんな、クソ芝居させやがったんだ?」

皇「・・・警戒の為、・・・でしょうか。」

丹羽「何を警戒するんだ?警察、しかも公安の病院だぞ?これ以上、安全な施設はないだろ?」

皇「念の為、わざと漏れるように、誤った情報を流して、かく乱する為、一芝居うったんです。奴は、化け物です。正真正銘の化け物です。万が一、姿を変えて、逃亡している可能性もありますから。」

丹羽「・・・また、姿を変えるのか?いや、だって、スメラギ、奴は病院に隔離されているじゃないか、現によぉ。」

皇「・・・イエスマンは言ったんです。人間の体はあくまで入れ物に過ぎないって。瀕死になって、物理的に使えなくなった体を、洋服を脱ぎ棄てるように、捨てる可能性も持っているんですよ。あくまで可能性の話ですけどね。」

丹羽「はぁああああああああ?捨てて、どうするんだよ?」

皇「新しい人間に乗り換えるだけです。ヤドカリの家を交換するみたいな感じで。」

丹羽「もうダメだ。ついていけねぇ、お前、ヤバ目のクスリでも、やってんのか?それとも映画の見過ぎじゃねぇのか?」

皇「可能性の話です。可能性の。・・・今、捕まっているイエスマンが本物のイエスマンであれば何の問題もないんですけど、あれだけ、町を一つ、多くの人間を暴徒化して破壊したのに、引き際が綺麗過ぎるんですよ。こんな大人しく引くものなんでしょうか。

戦争の終わりって、だいたい、大きな花火が打ちあがるものです。こんな静かな終わり方は、あり得ない。」

丹羽「お前の考え過ぎじゃないのか?」

皇「だったら、いいんですけどね。」

丹羽「俺は、連続婦女子殺害事件の被疑者を確保したんだ、任務終了だ。まあ、ただ、その未解明の人間狂暴化事件の捜査はこれからが本腰だろうけどな。」


※本作品は全編会話劇です。ご了承下さい。

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