箱舟 第14話
皇「あんたも知能犯だね、イエスマン。」
男「?」
皇「観念しな、もう逃げ場はないぜ?」
男「!」
ガガガガガガガガガガガガガガ ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ ガガガガッガガガガガガガガガガガガガガ
男「うわあああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああ!あああああああああああああああああああああ!
目がああああああああああああああああああああああ! ああああああああああああああああああああああああああああ!」
皇「あんたの目は潰させてもらった。きひひひひひひひひひひひひ
今の玩具は良く出来ていてねぇ。これ、電動の水鉄砲。オートマチック式で飛距離、十メートルの優れもの。子供の玩具にしちゃ物騒だから販売禁止になったやつ。アメリカって怖い国だね。」
男「ああああああああああああああああああああああああああ くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお 目があああああああああああ 目があああああああああああ ああああああああああああああああああああ!」
皇「はい残念。」
男「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお よせええええええええええええええ 目があああああああああああああああ ああああああああああああああああ」
皇「うるさいわね。本当に。いくら繁華街だからって夜なんだから静かにしなさいよ。はい、手が使えない様に拘束しました。もう少し、じっとしててね。目隠し、ああ。面倒。袋。袋、袋。あった。・・・・もし窒息しちゃったらごめんなさいね。袋、頭から被せたから。これで、もう、あんたの能力は封じたわよ。ああ、念の為、足も拘束しておきましょうか。はい、もう動けません!残念でしたぁ!」
皇「念には念を、袋の中に、玉ねぎの汁が吹きかけてあるから、下手に目をあけると、また痛くなるわよ。」
男「・・・」
皇「オートマチック式ウォーターガンのタンクがニリットルあるんだけど、それを満タンにするだけ、玉ねぎを絞るのって大変だったんだから。純粋な玉ねぎの汁よ。間に合って良かったわ。」
男「あああああああああああ・・・どうして俺だと分かった?」
皇「昔から木を隠すなら森って相場が決まっているの。人間が急にいなくなる訳ないじゃない。あんた、その、肩まで伸ばした髪の毛と、仙人みたいな髭。絵に描いたホームレスそのものなのよ。芸術家だとか宗教画に描かれたイエスそのものだ、っていう人もいるけど、それはあくまで、人に強烈な印象を与える為の道具に使っていただけ。インパクトがありすぎるのよ、一回、見たら、忘れないもの。・・・あんたがどう思っているか知らなけど、風俗街っていう町が一つ、滅茶苦茶にされて、何百人の人間が負傷した事件を起こしておきながら、その犯人が、煙の様に、消えるなんて事はない。見た目のインパクトが強ければ強い程、姿を変えれば、そのギャップの大きさで、逃走が可能だもの。・・・ま、整形までは出来ないにしろ、インパクトが強い、髪と髭を綺麗にするだけで、どこにでもいるリーマンの出来上がり。
このまま繁華街に消える作戦だったんでしょ?イエスマン。」
イエスマン「ああ・・・その通りだ。」
皇「あのね、一つ、教えておいてあげる。戦争っていうのはね、数なの。数が多い方が勝つの。それは歴史が証明している。
白血球もそう、軍隊蟻もそう、太平洋戦争で軍艦の時代が終わったのもそう、最後は数。数が多い方が勝つの。イエスマン、あんたはその超能力で、生き物を自分の手足の様に操る事が出来る。一昨日の晩、警察に囲まれながらも、その警察を反対に、自らの兵隊に変え、襲わせた。兵隊に変えると、知能が著しく低下するのか知らないけど、単純な行動しか出来なくなる。それは簡単な命令。暴れろ。たぶん、それだけ。目の前にいる人間を襲い、暴れろ、それだけを命令したんでしょ?頭の悪いゾンビ共に。相手を喰らう、戦うという行動原則は、生命にとって、極めて原始的で、単細胞生物の時代から、何一つ変わっていない本能だもの。知能が低い兵隊でも、理解できる命令だろうからね。そう、白血球と同じ。異物を排除しろってね。」
イエスマン「・・・だから、何だって言うんだ」
皇「いくらお役所仕事で無能だって言われている警察だって、本気になれば、数で制圧するのは目に見えている。あんたが戦うには、その都度、自分の兵隊を調達する必要がある。無限に兵隊を調達できるとは言え、あんたは、直線的な戦いしか行えない。複雑で状況に応じた戦いが不可能。だから、いずれジリ貧になるのは、火を見るよりも明らかよ。
実際、昼の大規模鎮圧作戦で、あんたは劣勢に転じ、敗走。
私が解せないのは、敗軍の将がトンズラした事。あんた、兵隊にだけ戦争させておいて、大将が逃げるなんて、許されると思う?・・・私は許さない。あんたはここで終わり。悔い改める必要はない。いい?あんたは、私の仲間を殺した。無抵抗な裸の女を殺した。その罰を受けるのよ。もう何処へも逃げられない。」
イエスマン「ふははは、ふははははははははははははは 面白い女だ。実に愉快だ。あの晩、お前と話して、俺を理解できる人間がいる事に、正直、俺は興奮した。人間でありがなら、俺グフォァァ!」
皇「・・・御託はいいんだよ。御託は。あんた、自分がミミズの大将とか言っていたけど、今のカッコは、ミミズの大将そのものだよ。手足を拘束されて、ウネウネ動いている、無様なカッコはミミズの宇宙人さま、そのものだね。
そうだ、これ、あんたにプレゼントしてあげる。ほら、手ぇ、出しなさいよ、ほら、」
イエスマン「な・・・・・ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ、なんだんだ、なんなんだ、痛い痛い痛い焼ける焼ける焼ける焼ける焼ける グゴフェ、ゴホホ グボエ」
皇「五月蠅い、いちいち。騒ぐな、喚くな、鬱陶しい。・・・これ、キノコ。プレゼントしてあげる。あんたが陣取って町を破壊した公園に、生えてたキノコ。痛いならあんたの神経は正常だって事。これ、キノコに寄生するキノコ。人間には猛毒の神経毒キノコ。みんな知らないんだけどさ、こういう危険な猛毒キノコ、子供が遊ぶ公園に、意外に自生しているものなのよ。トイレの裏とか、少し、湿った場所を好むキノコなんだけど。人間にはとっても危ないキノコ、ミミズ人間のあんたなら、どうにかできるでしょ?
私は優しいからチャンスをあげる。このキノコを服の中に入れてあげる。焼ける様に皮膚が爛れていくと思うわ。神経毒だから、場合によると、循環器や呼吸器を焼いてくれる。でも、この危ないキノコで焼かれるより先に、優しい人間が助けてくれるかも知れない。あんたの運が試されるゲームよ。
あんたに殺された女達は、運が無かったのかも知れない。あんたみたいな客を取ったばっかりに。だから反対に、あんたも、運が良ければ、通りすがりの人間が助けてくれる。有無も言わさず殺された女より、随分、寛大なゲームだと思わない?私、優しいから。きひひひひひひひひひひひひひひ・・・・」
イエスマン「ま、待てぇえ! 待ってくれれええ! 待て」
皇「じゃあ、幸運を祈るわ、ミミズ伯爵!」
イエスマン「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
カ カ カカカカ カ カッ カカ カッカカ カ カ カ カ カカカカ
※本作品は全編会話劇です。ご了承下さい。