箱舟 第12話
ルシア「あ、ミケランジェロ、生きてたの?」
ミケ「五月蠅い、歩く公然わいせつ女が!」
ルシア「ひっどいカッコ。とりあえず、何か、飲めば?」
ミケ「お前・・・よくこんな所、見つけたなぁ」
ルシア「まあね。ラブホテルの屋上なんて誰も来ないから。ビルに囲まれて、誰も見向きもしない、忘れられた場所だよ。」
支配人「あんたも何か食うかい?パックのご飯しかないけど?」
ミケ「え?ああ。どうも。・・・いただきます。」
ルシア「ここは私の秘密基地。まさかこんな時に役に立つとは思わなかったけど。」
ミケ「ホストの親玉さんは?」
ルシア「さぁ?額賀さんは死ぬ様な玉じゃないから、きっと生きていると思うけど。」
ミケ「おい、わいせつ女。逃げるなら逃げるで、ちゃんと逃げ道を教えておけよぉお!僕は本気で死ぬかと思ったんだぞ?何度も殺されそうになった!ぜんぶ、お前のせいだ!サッキュバス女ぁああ!」
ルシア「あの時はどうしようも無かったでしょ?不測の事態だったんだから。まさか、警察が返り討ちにあうなんて誰が想像できる?・・・これで事件解決だって思うじゃない?」
ミケ「それでお前、一人で逃げたのか!」
支配人「ルシア、あんた、一人で逃げたのかい?・・・・あーはははははははははは、こりゃ傑作だぁ」
ミケ「・・・」
ルシア「生きてたらまた会おうって、あんとき、言ったよね?」
ミケ「そういう事じゃないだろ?僕を逃がすのがお前の役目なんじゃないのか?って言っているんだ!」
ルシア「?」
ミケ「不思議そうな顔するなバカ!」
ルシア「いや?そう?え?・・・今更過ぎた話をされても。ま、でも、ほら、ミケランジェロ。生きてたんだから。良かったじゃない?ほら、焼き鳥の缶詰、食べる?」
ミケ「僕はもう、お前に関わらないからな!絶対だ!お前と関わって良い思いしたことがない!」
ルシア「私の生パンツ、あげたじゃない?最後まで働きなさいよ、私の下僕として!」
ミケ「はああああ!」
支配人「あんた、なに、ルシアのパンティーで働ているのかい?・・・・まてまてまて。腹が痛いぃぃぃぃ」
ミケ「まだ、貰ってないわぁあああ!」
ルシア「あ、まだ、あげてなかったっけ?・・・いる?今、脱ぐけど?」
ミケ「いらんわ!・・・お前の汚いパンツなんかいらないって前にも言ったよなぁああ!僕は清純な女の白いパンツが獲物なんだ!お前の小汚い布切れと混同するな!」
支配人「・・・えぇぇ。あんた、本職の人かい?」
ルシア「ああ、支配人。この人はその道では有名なミケランジェロ先生。下着専門の盗撮犯。」
支配人「ああ、なるほどぉ。へぇ。・・・あんた、また、面白い友達がいるねぇ。あーははははははははははははははは、腹が痛いぃ」
ミケ「言っておくが、僕は、今、罪を償ったんだ。犯罪者ではない。一般人だ。」
ルシア「パンツを覗くのが好きなのは変わりないでしょ?」
ミケ「一般人がパンツを好きだと悪いのか?」
ルシア「いいえ。悪くはありません。それで、本当に私のパンツ、いらないの?いらないならあげないけど?」
ミケ「いらねぇって言ってんだろ!」
ルシア「それでミケランジェロ。ここまで来るのに、町の様子、どうだった?さっき、近くのコンビニ寄って来たけど、オーナーが呆然としてたわ。」
ミケ「ああ。・・・町の真ん中の方までは被害は出てないようだったが、公園のこっち側は駄目だ。店の窓ガラスやらなんやら全部、割られてる。血のかたまりが落ちてたところもあった。車もひっくり返されてたなぁ。常軌を逸しているってこの事だろう?」
ルシア「人は?怪我人とかは?」
ミケ「そういうのはいなかった。騒ぎが起きたのは昨日の晩だ。怪我した人間は昨日のうちに運ばれたんだと思うぜ?」
支配人「確かに。・・・昨晩は、一晩中、サイレンが鳴りやまなかった。暴動がおきたんだろ?こんな、陳腐な町で?ええ?」
ルシア「暴動って言えば暴動だけど。」
支配人「テロか何かだったのかい?」
ミケ「現時点で、ニュースじゃこの話は取り上げられていない。情報統制がされているんだろう?」
ルシア「朝方、警察で、丹羽さんに会って話を聞いたんだけど、公安が一枚、絡んでいるみたい?」
ミケ「公安って、・・・ああ、テロか。これ、テロ事件として捜査されているのか?」
支配人「この町の有様を見れば、テロ事件って言われても、納得がいくわ。」
ミケ「人間が人間を襲う。なんの躊躇もなく、人を襲えるものなのか?・・・あれはゾンビだ。ゾンビじゃなきゃ何なんだ。まだ、聞こえるわ、あの甲高い叫び声。」
支配人「人間が人間を襲うって尋常じゃないからねぇ。これが町の真ん中で起きてたとしたらゾっとするよ。」
ルシア「ここら辺は、風俗街だから、繁華街に比べれば、人は少ない。けど、それでも被害は甚大だわ。なんにも知らないで、歩いていたら、襲撃を受けたんだから。」
ミケ「あのミミズ野郎は捕まったのか?」
ルシア「・・・。。・・・まだ捕まっていないって。」
ミケ「はぁあああああ?なにやってんだよぉ警察はぁああああ?あんなバケモン、まだ、野放しにしているのかよおお?」
ルシア「ミケランジェロ。あんたが無事に、あの暴動の中を逃げられたんだ。イエスマンだって当然、同じことが出来るだろ?・・・おまけに、あいつは、能力を使って仲間を増やせる。どうやったってこっちが不利。警察だってむやみに突っ込めば、またやられるだけ。」
支配人「なんだい?能力って。・・・ゾンビの親玉、超能力者かなんなのかい?」
ルシア「超能力かゾンビなのか、支配人。どっちかにしないと。言いたいことは分かるけど。・・・目を見ただけで、相手を殺せるの。」
支配人「はあああ?」
ミケ「・・・」
支配人「なんだよそれは?マンガかよ?・・・人の目を見ただけで?」
ルシア「相手を好き放題できるんだって」
支配人「・・・うらやましいじゃないか!」
ルシア「・・・ですよねぇええええ?」
支配人「人を自由にできるんでしょ?・・・はぁああああああぁん、そんな能力、アタシも欲しいぃいいいい!」
ルシア「支配人。でも、奴は人を殺している。褒められる事じゃない。・・・奴が支配人みたいに、能力を使えば、もっと平和だったのに。・・・持たせる奴、間違えちゃったんでしょ?」
支配人「まぁ。人を自由に出来るなんて夢だわ。夢だけど、そんな事して、何が楽しいのかねぇ。この周りで起きた、殺人事件。そいつの仕業なんでしょ?」
ルシア「そう。ぜんぶ、奴の仕業。ようやく昨日、追い詰めたと思ったのに。・・・きひひひひひひひひひひひ。相手がまさかのスーパーマンだったって訳。」
ミケ「・・・わいせつ女。お前、喧嘩を売る相手を間違えたんだ。あれに関わっていると、殺されるぞ?」
ルシア「なに?心配してくれる訳ぇ?」
ミケ「心配じゃない。忠告だ。・・・ついさっきの事なのに、昨日の夜の事なのに、思い出すと寒気がする。あれは関わっちゃ駄目な奴だ。」
ルシア「ミケランジェロ。」
ミケ「・・・」
ルシア「フラグ立てるような事、言わないで。あんた、死ぬの?」
ミケ「はあああああ?」
ルシア「だいたい人の心配する奴ぁ、次、死ぬのよ。・・・葬式代、もらっておいてあげるから、ほら、出せ。ほら、金、出せ」
ミケ「バカかお前はぁあああ!どうして死ぬ本人が葬式代、出すんだよおおおおお!」
ルシア「死ぬ本人が出すもんでしょ?葬式代って?ねぇ、支配人。」
支配人「自分の葬式代くらい自分で出しておかないと、ねぇ。気軽に死ねないわよ?」
ルシア「ほら、早く。出せ。ジャンプしろ?」
ミケ「あああああああ!お前と一緒にいるとこっちまで頭がおかしくなる!・・・僕は降りるぞ!もう、関わらないからな!サッキュバス女ぁ!」
ルシア「じゃあさ、形見分けで、カメラちょうだい。カメラ。あんたの遠くからパンツが撮れる、超望遠のレンズ。それから画素数が映画並みのカメラ。あれ、ちょうだい。どうせ死ぬんだからいいでしょ?」
ミケ「誰がやるか!お前なんかに!それに、あれはフィルムだ。僕は加工ができるデジタルは好きじゃない。僕は、盗撮において最高の芸術家だ。故に、一瞬を切り取るミケランジェロだ!」
ルシア「カッコイイのか犯罪者の独白なのか、わからないけど。レンズはいらないから、カメラとストロボちょうだいよ?あんな重たいレンズ持って歩けないし。それに望遠レンズ持って歩いている時点で不審者だし。」
ミケ「あのミミズ野郎がどんな化け物だろうと、僕達にはどうする事も出来ない。手に負えないんだ。人が一瞬で豹変するんだぞ?お前も見ただろ?」
ルシア「ええ。間違いなく、この目で、見たわ。まぁ、でも、私はカタキを取らないといけないし。」
支配人「・・・まったく、そのゾンビマンも余計な事をしてくれるわ。おかげで客が入らないじゃない。ねぇ?」
ルシア「そうですねぇ。たぶん、警察が本気を出せば、一瞬で片が付くと思うけど。その前に、こっちが先に見つけたい所だわ。」
支配人「警察を出し抜けるの?」
ルシア「今の状況なら、まだ。・・・たぶん、イエスマンは、あの騒ぎの中、人に紛れて、この町を脱出したはず。でも、必ず、戻ってくる。」
支配人「どうして?」
ルシア「なぜか人を殺すのを、この町に拘っているのか、この町でしか、行っていないから。だから、何かやらかすならまたこの町に戻ってくるはず。」
ミケ「・・・町の中心部に移動していたら、そのまま、そっちで、同じ事を起こしたらどうするんだ?その可能性だってあるだろう、当然。」
ルシア「私はあいつじゃないから、分からないけど、その可能性もあるでしょ、当然。この町でしか能力を使えないなら、可愛いもんだけど。そこら辺がまだ、わかっていないからなぁ。ねぇ?ミケランジェロ。SNSとかで今朝方、イエスマンを見たとか上がってないの?」
ミケ「ないだろ?・・・あの化け物が超能力者でも、体が人間である以上、エネルギーを摂取するはずだ。昨日の夜、あれだけ騒ぎを起こしたんだ。どっかで何か食っているか寝ているか、どっちかだろ?」
ルシア「ミケランジェロ!あんた天才?・・・そうだ、そうそう。あれは人を操れる能力を持っていたとしても、人間は人間。人間である以上、私達と同じ、人間。・・・きひひひひひひひひひひひひひひひ。面白くなりそう。支配人。私、寝るから。一部屋、貸して。じゃあ、ミケランジェロ。生きていたらまた会いましょう?」
ミケ「・・・なんなんだアイツは?呼んでおいてまた先にいなくなる。」
支配人「あんたも大変ねぇ。あんな精力を吸ってる女に構っていると、カラカラになるまで吸われちゃうわよ?あれはそういう女だから。」
ミケ「・・・あ、はい。関わらない様にします。」
※本作品は全編会話劇です。ご了承下さい。