箱舟 第11話
丹羽「だから何度も言っている通り、催眠術か魔法か、知りませんけど、全員、正気を失ってしまったんですよ。」
公安「催眠術?」
丹羽「いや、それは物の例えで、催眠術かどうかは分かりません。私ぃ専門家じゃないんで。ただ被疑者が何かを行ったのは確かだと思います。そうじゃなきゃ、あんな大惨事になるはずがないじゃないですか!」
公安「拘束した警察官の容態はどうだ?」
公安「駄目だ。意識障害を起こしている。話を聞ける状態じゃない。」
公安「全員か?」
公安「ああ、全員だ。」
公安「話を聞けそうな奴はいないのか?」
公安「・・・。」
公安「ああ、丹羽刑事くらいか。」
公安「堂々巡りだ。」
公安「そういう訳だ。丹羽さん。もう少し、話を聞かなければならなそうだ。」
丹羽「まぁ私も、状況を知りたいんで、構わないですが。でも、もう、話すことなんて何もないですよ?昨日、話したのが全部ですし。」
公安「・・・。」
丹羽「あの、感染症の類の疑いはないんですか?・・・ほら、映画みたいに。菌が感染してゾンビになっちゃう、とか。」
公安「そんな馬鹿な。菌?ゾンビ?」
丹羽「いや、冗談じゃなく。催眠術じゃなかったら急に人間が正気を失うって、他に何か考えられるんですか?・・・ほら、そこは、公安さんは、我々が知らない技術とかご存知だと思いますけど。」
公安「・・・仮にそういうものがあったとしてもだ。細菌兵器の類だったとしたらそれを撒くには普通、自分が感染しないようにするはずだ。防護服を着たりしてな。そんな人間、いなかった、と報告を受けているが。」
公安「捨て駒の末端の人間の可能性はあるが、それは一つの可能性に過ぎない。」
公安「BC兵器が使われたのなら、その最深部で、被爆しているはずの君。君が感染していない方が不自然だろ?」
丹羽「いや、でも、ミラジョボ・ビッチみたいに、私に何らかの特殊能力があって」
公安「それなら、丹羽刑事を返して、取り調べを行っている」
丹羽「・・・取り調べって言っちゃっていいんですか」
公安「だから、丹羽刑事を返して、我々にも感染しているはずだろう?」
丹羽「感染しているかも知れないじゃなないですか?・・・検査したんですか?」
公安「・・・」
公安「・・・」
公安「一旦、休憩しよう、丹羽刑事。」
丹羽「ちょちょちょ、待って下さい。俺も、俺も、俺も、検査して下さいよぉおおお!」
公安「・・・君はミラジョボ・ビッチなんだろ?」
公安「それでその、婦女連続殺人の被疑者。・・・昨夜の暴動の首謀者は、いったい何者なんだ?」
公安「あの騒ぎの中、行方が分からずか。」
公安「・・・手分けして防犯カメラの映像を入手しているところだ。」
公安「警察が捜査を開始した所だ。建物の復旧などは見通しがついていない。被害の調査が進まないとどうにもならないだろう。」
公安「誰がどう保証するのかも今後、問題になるだろうが、我々公安部には関係のない話だからな。」
丹羽「ええぇ、皆さんは正常だったんですか?体におかしな細菌は感染していなかった?」
公安「・・・」
公安「ぱっと分かるウィルスの検査を行ったが陰性。もし症状が出るにしても、潜伏期間というものがあるから、今がその時なら、騒いでも仕方がない。」
公安「聞く耳を持たないとはあのことだ。」
丹羽「ああ。公安の皆さんも、トカゲの尻尾切りで。・・・くくぅ」
公安「・・・」
公安「・・・」
公安「それは君も一緒だろう?丹羽刑事、あなただって、もしかしたら何らかの病原菌に感染している可能性だってあるんだからな。」
丹羽「それはもう悪魔の証明ですよ。・・・みんな、自分の身が可愛いんだ。仕方がない。昨日の大惨事を見れば、明らかだ。ここにいる皆さんは、俺と一蓮托生だ。笑っちゃいますな。所轄の刑事風情と泥船に乗ってもらって。」
公安「・・・」
公安「・・・」
丹羽「それはそうと、あのホームレス野郎。公安のデータベースに入ってなかったんですか?」
公安「・・・」
丹羽「黙ってたって、あんたら、病気が発症したら死ぬんですよ?俺と一緒に。隠してたってしょうがないじゃないですか?どうせ、家にも帰れないでしょう?」
公安「あんな奴はデータにない。」
公安「細菌研究の奴なら顔は割れている。顔を割れずに細菌兵器を作れる訳がない。細菌を扱うには、それ相応の設備が必要だから、顔が割れていなくても、設備の方から話が流れて来るんだ。それもない。」
丹羽「じゃあ、奴ぁはいったい何者なんだ?」
公安「それを知りたいのはこっちの方だ。」
公安「まんまとテロを行われてしまった。大暴動だ。しかも被疑者が失踪。」
公安「起こってしまった事は仕方がない。まずは被疑者検挙が最優先だ。」
警察官「え?細菌兵器?」
丹羽「そうだ。」
警察官「そんな話、こっちには来てませんよ?」
丹羽「ま、想定してないんだろうなぁ。こっちは、その話、したら慌てて検査に行ったさ。ただ、突き返されたらしい。」
警察官「どういう事ですか?」
丹羽「細菌兵器の可能性があるから、隔離されたんだよ。いくら公安でもな。」
警察官「そういう事ですかぁ。こっちの捜査本部ではそういう話、一切、出ていません。」
丹羽「本部のお偉いさんに忠告しておいた方がいいんじゃねぇかぁ?」
警察官「そんな話したら、またパニックですよ?」
丹羽「まぁ俺はどうでもいいけど。被疑者、捜査しているんだろ?おまけに被害者の調査とか。・・・まぁ。どっちでもいいけど。」
警察官「ああ。もう。じゃあ要請しますよ。」
丹羽「お前は要請できねぇだろぉ?ご相談だろぉ?ご相談。」
警察官「・・・その通りですけど。」
丹羽「こっちはしばらく缶詰だ。・・・細菌兵器の線が消えたら教えろよ?」
警察官「わかってますよ。」
※本作品は全編会話劇です。ご了承下さい。