表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/19

箱舟 第10話

丹羽「よぉスメラギぃ、ここは民間人が勝手に入っていい場所じゃぁねぇんだよ」

ルシア「固い事、言わないで下さい。ここより安全な所は、滅多にありませんよ?」

丹羽「アホか?・・・あぁあ、疲れた。」

ルシア「丹羽さんも、よくご無事で?」

丹羽「うるせぇよ!・・・ったく、なんなんだぁあいつは?あぁ?・・・超能力者か?魔法使いか?貞子か?・・・ゾンビの親分か?」

ルシア「いやぁ。私も、昨晩、初めて顔を見たもので。・・・私も驚きました。あれは魔法ですよ。魔法。」

丹羽「あ゛ぁ゛?」

ルシア「だから魔法だって言ってるじゃないですか。ま・ほ・お」

丹羽「お前さぁ。俺は徹夜なの。冗談言ってたらぶっコロスよ?」

ルシア「丹羽さん。あれが冗談に見えましたか?町中、戦争ですよ?ぶっ殺すなら、早く、ぶっ殺してきて下さいよ。・・・あれに何人、殺されたと思っているんですか?」

丹羽「・・・ああぁ。悪かった。悪かったぁ。俺も疲れてんの。逃げ回って、逃げ回って、警察に保護されたと思ったら」

ルシア「丹羽さん。警察官なのに警察に保護されたんですか?」

丹羽「あぁあ。そうだ。惨めなもんだぜぇ?まぁ、死ななかったから良かったものの、さっきまで事情聴取だ。俺、寝てないの。別の意味で死ぬわ。」

ルシア「事情聴取?警察官が事情聴取されるんですか?」

丹羽「あ゛ぁ?・・・当たり前だろ?こんな大惨事、他にあるか?テロか暴動だか、戦争だか、知らねぇけどよ、上が出ばってくるに決まってんだろ?」

ルシア「ああ、なるほど。公安ですか?」

丹羽「・・・スメラギぃ、お前はほんと、察しがいいな。スーパーヒトシ君人形あげちゃう。」

ルシア「これは誰が見たって、テロですよ。テロ事件ですよ。公安が動くのが自然だと思いますけど?それで、丹羽さん。よく公安から逃げてこられましたね?同じ警察官だって容赦しないんでしょ?」

丹羽「嫌疑不十分だ。俺は何も分からないし、公安の連中だって何も分かっちゃいない。事実、認識されてんのは、市民が暴徒と化し、人が人を襲い、物や建物を破壊した。鳴くわ喚くわ阿鼻叫喚の地獄絵図だ。・・・その首謀者とおぼしき人物が、ホームレスだって言っても誰も信じてくやしねぇ。幾ら、説明してもだ?」

ルシア「反対に丹羽さんが頭がおかしい警察官だと思われて、釈放された、と?」

丹羽「逮捕されてねぇから釈放じゃねぇけど。そういう事だ。今日、また、改めて、事情聴取だそうだ。俺、聞かれても、もう話す事、ねぇんだけどなぁ。」

ルシア「でも、誰かが責任とらないと。このテロだか暴動の、責任を。」

丹羽「おい待てよ!スメラギぃ?え?・・・なんで俺が責任を取らないといけないの?俺、警察官だよ?関係ないじゃん?むしろ、市民の平和を守る方の人間だよ?どうして公安に目ぇつけられなきゃいけないの?おかしいだろ?」

ルシア「きひひひひひひひひひひひひひひひひ、理不尽ですねぇ。」

丹羽「理不尽どころの騒ぎじゃねぇよ、バカ!・・・そういえば、お前の連れ?ホスト野郎と盗撮犯はどうした?」

ルシア「途中で逸れました。生きていればまた何処かで会えるでしょう。」

丹羽「お前も冷たい女だなぁ。」

ルシア「肝心のイエスマンはどうなったか、ご存知ですか?」

丹羽「イエスマン?」

ルシア「あのホームレスだか芸術家っぽい婦女連続殺人事件の犯人です。そして、魔法使いの。自分でそう名乗りました。」

丹羽「・・・知らねぇ。俺、もうどうなろうと知ったこっちゃねぇ。自分の命の方が大切だ。大本営じゃ捕まえたって話がなかったから、逃走中なんだろ?あれだけの大混乱だ。逃げるには事欠かねぇだろ?」

ルシア「またどっかに雲隠れですか。」

丹羽「ま、雲隠れしたとしても、面、割れてんだから、逃げられはしねぇ。警察組織を甘くぅ見るな?必ず捕まえる。公安も動いているしな。」

ルシア「私、ビルの上から見てましたけど、あれで一網打尽だと思いました。」

丹羽「・・・ああ。誰だってあれでお縄にしたと思ったさ。狭まい路地に、警察官が、前に五人。後ろに五人。十人配置してたんだぞ?たかが一人、相手に十人だぞ?それがどういう訳だ?やっぱり魔法か?魔法じゃなかったら何なんだ?・・・俺は未だに、自分で見た事が信じられねぇ。仲間が目の前で、豹変したんだぞ?えぇ?おいぃぃぃいぃ?

一斉にぃ突撃したんだ。俺の合図で。そしたら、今の今まで正気だった奴が、きびすを返して、俺達を襲ってきやがった。目の焦点も合ってねぇ、変な雄叫びをあげて、襲ってきやがった。後はもう修羅場だ。何も覚えていねぇ。・・・隣にいた奴も急におかしくなった。口から泡を吹きながら、俺を襲ってきやがった。どんどん、どんどん、狂った奴が増えていきやがった!どんどん、どんどんだ。もう捕まえるどころの話じゃなかった。逃げるのに必死でな。俺だって犯れるとおもった。さすがに血の気が引いたさ。とても正気の沙汰じゃいられねぇ。

スメラギぃ、お前、ヤクザと抗争した事あるか?」

ルシア「いや、普通に、ある訳ないじゃないですか?私を誰だと思っているんですか?」

丹羽「あぁ。悪りぃ。昔、あの手の事務所に警察で押し入った事があるんだ。」

ルシア「どっちが反社会的な勢力が分かりませんね。」

丹羽「本当の人達は、映画のアレと違って、まぁ、統率が取れていてなぁ。指示系統が明確なんだ。そこは警察と一緒。相手もこっちも無駄な闘争はしないんだ。一種、政治的な折り合いはつけるけどな。だけど、昨日のアレは、まるで違った。・・・獣だ。野獣だ。人間じゃねぇ。熊とか鹿とか、猪とか。目を合せたら襲ってくる、そういう獣と同じだった。暴れるだけ暴れる。もう滅茶苦茶だ。相手の事はおかまいなし。自分の事も。怪我しようが何しようが関係ねぇ。誰彼構わず襲いかかり、喚きちらして、蹴る殴る。秩序なんてもんは無かった。・・・俺ぁ今、生きているのが不思議でならねぇ。」

ルシア「かく言う私も、あの混乱に乗じて、どうにか此処まで辿り着きました。町にいた人も被害に遭っていましたね。あれだけの混乱じゃ襲っている方がゾンビなのか、襲われている方がゾンビなのかも検討がつきませんよ。逃げるが勝ちです。」

丹羽「ゾンビねぇ。俺、見た事ないけどきっと、ゾンビっていうのは、ああいう奴の事を言うんだろうなぁ。正気を失った警察官達が、路地から這い出して、町の人間を襲いだした。そりゃぁパニックだろ?警察官が暴れて、一般人を襲っているんだから。逃げる奴もいれば、反対に立ち向かう奴もいたが、お前の言う通り、ああなっちゃぁ誰が味方で敵なんて、関係ない。どこもかしこも人間が人間を襲う修羅場だった。戦争っていうのを俺は経験した事ねぇけど、きっと、ああいうのを言うんだろうな。救急車と消防がサイレンをけたたましく鳴らしてやって来たのを見たけど、あのバケモンには敵わなかった。あっと言う間に、狂った群衆に囲まれて、飲み込まれた。俺ぁ逃げるのが精一杯で人に構っていられる余裕なんかこれっぽっちもなかった。

さっき聞いたんだけどよ、公安に。消防と救急が襲撃を受けたのがトリガーになって、近隣警察に応援を要請したらしい。同時に、公安にも話が行った。消防と救急の信頼性は、警察のそれより上だからな。癪に障るけど。」

ルシア「いくら警察が応援を要請した所で、あの混乱を鎮める事は不可能だったでしょう。」

丹羽「バカか?スメラギぃ。民衆の鎮圧は警察の十八番だ。機動隊が乗り込んでくれば、催涙ガスを打ちまくり、相手の体が動かなくなるまで殴打するだけ。アメリカと違って銃で撃たないだけ良心的だろう?自分達に歯向かってくる奴は、容赦はしない。相手が警察官の制服を着てようが、消防の制服を着てようが、民間人だろうが関係ねぇ。鎮圧っていうのはそういうもんだからな。」

ルシア「あの暴動を沈めたんですか?日本の警察は優秀ですね。」

丹羽「・・・そうらしい。税金でタダメシを食っている訳じゃあねぇんだぜ?・・・俺は逃げるのに、くたびれてヘタってた所を公安に拉致されたんだ。」

ルシア「地元警察の、連続殺人犯を追っている刑事ですものね。しかも今夜、その犯人を検挙する、作戦を立てていたんですから。」

丹羽「話が回るのが早いよなぁ。それで明け方まで事情聴取よ。」

ルシア「それで、逮捕だか拘束した人達は、どうなったんですか?」

丹羽「俺が知る訳ねぇだろ?俺は今まで、針の筵だったんだからよ。ようやく解放されて、自分の城に戻ってきて一安心と思ったら、お前が居座ってる。頭にくるのを通り越して、呆れてるぜぇ?」

ルシア「空耳であって欲しいですが、逃げている途中で、銃声を聞きました。・・・人が死んでいなければいいんですけど。」

丹羽「そんな事は分かってんだ、警察も。この後、朝になって、上の捜査が始まる。被害状況の把握はそれからになるだろう。・・・人に襲われる。しかも警察官の仲間に襲われる恐怖で、発砲した奴もいただろう?自分の命は自分で守らねぇとなぁ。最後は、誰でもあの恐怖で引き金を引く事だろう。それを俺は責められねぇ。あれを体験しちまった俺にはなぁ。」

ルシア「そうかも知れないですね。・・・今後は、イエスマンを公安が追うんですか?それとも、引き続き、丹羽さん達が、地元警察として、婦女連続殺人犯の容疑者として追うんですか?」

丹羽「・・・わっかんねぇ。もう俺達の仕事の域を超えてるのは、確かだ。その前に、俺達じゃあ勝負にならない。お前も見ただろ、次に遭えば負け戦は確実だ。然るべき組織の人間じゃなきゃ奴を確保、できねぇだろ?冷静に考えてみても。」

ルシア「おっしゃる通りですね。」

丹羽「お前も早く帰れ。俺は少し仮眠を取りてぇんだ。・・・なんだったらお前も逮捕してやろうか?ずっとここにいられるぜぇ?」

ルシア「日が昇ってきたら、一般の職員さんも来ますよね。その前にズラかりたいと思います。」

丹羽「バぁカ、昨日の夜から、全警察官に出動の命令が発令されているんだよぉ。もう、ほとんどの警察官が後始末と情報収集に駆り出されているんだ。こりゃぁもう、一警察署の事件じゃあねぇ。戦争だ。・・・戦争。ああ、まったく、とんでもねぇ事件を引ぃちまったなぁ。俺は運が悪くてしようがねぇ。」

ルシア「・・・私もです。」


※本作品は全編会話劇です。ご了承下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ