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安楽椅子ニート番外編17 箱舟 第1話

ルシア「アンナさん、辞めちゃったんですか?」

空知「う、ん。・・・あんな事あったら誰でも、辞めちゃうでしょ?」

ルシア「そうですよねぇ。」

空知「でもぉ、ルシアちゃんには感謝してたっぽいよ?だって命の恩人でしょ?・・・あんなの何処で覚えたのよ?咄嗟に出来る事じゃないわよ?」

ルシア「?・・・一般常識だと思いますけど?」

空知「あんたの一般常識って一般常識じゃないわよ?」

ルシア「?・・・空知さんだって車、乗るでしょ?免許取る時、講習受けるじゃないですか?」

空知「え?・・・記憶になぁい。そんな事、したぁ?・・・ルシアちゃんってこんなソープで働いてるけど、隠れ高学歴なんじゃないの?」

ルシア「そんな事ないと思いますけど?・・・でも、私達は商品じゃないですか?オーナーも、私達が危なくない様に、する義務があると思うんでよね?」

空知「それは昔の話。今はこんなご時世だから、替え玉はいくらでもいるし。店だって防犯に回すカネなんてないのよ。景気が良かった時は、それなりに裏方さんが顔を効かせてくれていたけど、そういう時代じゃないのよねぇ?・・・ソープじゃカネ、稼げないんじゃない?こういうのディスタンス、ディスタンスの時代だから。」

ルシア「・・・世知辛いですね。こういうちゃんと安全な風俗より、町でひっかけたり、SNSでナンパしたり、素人が大手を振っている時代ですものねぇ。・・・ああいうのって、やっぱりバックにそれなりのがいるんですか?」

空知「オーナーの話だと、ああいうのと同じみたい。オレオレ詐欺と。バックにそれなりに名前が知れた人がいる所と、まったく関係なく始める詐欺集団がいて、お互いに揉めてるらしいわよ?正規のルート?っていうのもおかしな話だけど、ちゃんとしている人達からすれば、目の前のカネを持っていかれちゃう訳でしょ?そりゃぁ頭にくるでしょう?見つけたら袋みたい。」

ルシア「はぁ。」

空知「こういう風俗も同じ。素人に毛が生えたていどの連中は、見つけたら、袋にしてるって、オーナーが。」

ルシア「え?あのオーナーがそんな事できるんですか?」

空知「うちのオーナーは出来る訳ないじゃない。雇われ店長なんだから。ここら辺で、そういう売春女を見つけたら、報告するんだって。売春は女に限らないらしいけど。」

ルシア「客の取り合いって事ですね。」

空知「そりゃそうよ。・・・うちみたいな安全な所で遊んでいけばいいのにね?」

ルシア「うちは安全ですけど、アンナさんの時みたいに、客の方が、頭のおかしい奴だったらどうにもなりませんよ?」

空知「結局、そこに話が戻るのよねぇ?・・・オーナーも頭、かかえてるわ。あんまりおかしな噂が流れると、客の入りが減っちゃうから。」

ルシア「・・・犯人、捕まってないんですよね?」

空知「・・・オーナーも大事にしたくないから、早々に取り下げたらしいわよ?アンナちゃんに幾らか渡して。」

ルシア「そういう所、ちゃんとやらないと。あのオーナー!」

空知「ほら、あんたが蘇生させたのも大きかったのよ?だから、大事にしなかったんだから。」

ルシア「それとこれとは違うと思うんですけど?・・・アンナさんが息を吹き返したのは偶然ですよ?たまたま救急車が来る前に心臓が動いただけで。アンナさんが助かったからといって、逃げた客を野放しにしていいって話じゃないと思うんですけど?」

空知「ルシアちゃんの言ってる事が正論。その通り。・・・アンナちゃんも怖いから辞めちゃうわよね?普通。」

ルシア「アンナさんが無事だったんで今回は良かったですけど。今度は、空知さんだってその逃げた犯人に、指名されるかも知れないんですよ?」

空知「それは勘弁だわ。いくら私だって命が惜しいもの。・・・ルシアちゃんは平気でしょ?」

ルシア「絶対、許さないです!心臓が止まっているのに逃げるなんて、クズだと思います。こんな所ですけど、人として最低限のマナーがあると思いますけどね?」

空知「そうね。私達、裸が制服だもの。身を守る術がないんだから。お互いの信頼関係がないと、商売にならないわよね。」

ルシア「空知さんは、アンナさんが取った客、見たんですか?」

空知「見てない。・・・見たのは、案内した裏方さんじゃない?・・・だって、時間より早く出てきて、帰っちゃった訳でしょ?裏方さんだって不審に思うわよ?」

ルシア「それで、騒がしかったんですね。・・・案外、男でもだらしないですよね?」

空知「それはルシアちゃんの方がおかしいわよ?・・・ぴくりとも動かない人間を見て、動揺しないなんて。あんた、絶対、おかしい!」

ルシア「あ、そうだ。後で裏方さんに防犯カメラの中身、見せてもらおう。」

空知「・・・おかしな事、しないでよ?私、怖いんだから。」

ルシア「こういう町だし、こういう商売だから、警察だってろくに相手にしてくれませんよ?空知さん。オーナーも頼りにならないんじゃぁ。」

空知「あれなのかしらねぇ。潮時?」

ルシア「うちは高級でもないし、キャストも少ないですけど、私、嫌いじゃないんですよね、このお店。いつ潰れてもおかしくないような、ソープじゃないですか?給料も安いし。だから、アンナさんが死にそうな、一回、死にましたけど。・・・助かりましたけど。許せないんですよ。私達を、蔑んでみてくるような奴は。お前が死ね!って私は思います。アンナさんの代わりにお前が死ね!って。・・・アンナさん生きてますけど。」

空知「ルシアちゃんの気持ちは痛いくらい分かる。アンナちゃん、悪いことしてないもんね。・・・また、来るのかしら?出禁じゃないの?ちがう?」

ルシア「まず間違いなくうちの店は出禁でしょう。警察にも情報を回していると思いますから、見つかったら、傷害で逮捕だと思います。仮に事故だとしても、死ぬかも知れない人間を放置した罪は確か、重たいと思います。救命の義務があるんじゃないですか?」

空知「・・・コロナも怖い、人間も怖いじゃ、ソープの形を成してないわよね?」

ルシア「こういうお店は、お客さんあっての商売ですから。来る方も、迎える方も、不安がっていては、カネにはならないですよ?だったら、素人に手を出しますよね。」

空知「その犯人。・・・町に立ってる売春女にも手を出すのかしら。・・・それこそ殺人事件じゃない?」

ルシア「店が出禁になれば、いずれ、そういう素人に手を出すでしょうね。その前に、風俗の形態は他にもありますから、他の店も狙われるでしょうねぇ。」

空知「あんた、デリとかやんないの?」

ルシア「・・・。やらない訳ではないんですが、向き不向きがあると思うんですよ?私の場合、自分の城で迎え撃ちたいっていうか。やはり、知ってかったる土地の利と言いますか、自分優位で戦いたいtっていうのがありますね。だから、例え、一畳でも二畳でも、城があった方がいいです。」

空知「・・・あんたなら、どこ言ってもヤレる口だと思ってたわ。」

ルシア「どこでもヤれって言われたら、ヤリますけど、私、体を売っている訳ではないので。」

空知「・・・そういうのいらないから。ルシアちゃん。痛いわよ?」

ルシア「私、思い出を売っているので。私という存在を二度と忘れない様にする為に、思い出を売っているので。」

空知「うわぁ。・・・ルシアちゃん。地雷っていうか、電波っていうか、そっちっぽいとは思っていたけど、痛い。すごく痛い。好きだけど。」

ルシア「私のお客さんは、リピートが多いんです。私を忘れられないみたいで。私自体が中毒性があるんです。」

空知「分からなくはないけど。・・・あんた、アクが強いものね。」

ルシア「私、相手の生気?精気?よく分かりませんが、そういう生きている人間の気を吸い取るのが何よりも慶びなんです。私に生気を吸われた客は、また、私に吸われにくるんですよ?・・・・ヒヒヒヒヒヒヒ。私、それが楽しくてこの仕事、辞められないんです。」

空知「あ~。ルシアちゃん、私達と一線を画しているわ。やっぱり、頭のネジがいっこ、抜けているわ。・・・よく、オーナーもあんたみたいなおかしな子、見つけて来るわよね?」

ルシア「ありがとうございます。」

空知「褒めてないから。」

ルシア「空知さんだって、長いんでしょ?四十、手前でしょ?」

空知「まあねぇ。オーナーより長いから。・・・まあ、三十代だけど。・・・まあそれなりに需要があるから。」

ルシア「オーナーに聞いた事あるんですけど、空知さんの絶対リピーターがいるって聞きました。空知さんじゃなきゃダメな客がいるって。・・・それって、もう旦那と嫁じゃないのって話になってますけど。アンガールズ田中がそんな感じだったって、有名な話ですよね?」

空知「あ゛あああ゛。そうね。太客っていうのかしら?絶対、私を指名してくるの?他の子、指名すればいいのにって、私が言っているのに、私を指名するの。別に、何か特別な事、してないのよ?一回、抜いて、しゃべって帰るだけ。私は楽だからいいけど。」

ルシア「空知さんがいないと、誰も指名しないで帰っちゃうんですよ。もう、純愛ですよ?純愛。」

空知「カネもらってるから、純愛じゃないけどね?・・・倦怠期の夫婦みたいなもんよ。真顔で抜いて、ろくに、話もしないで帰る時もあるし、真顔で抜かれるって何?私も疲れてる時は、そっけなくなっちゃうけど、気持ちいいとかさ、そういうの、言わないのよ?」

ルシア「空知さんじゃないとダメな客なんでしょうね。・・・私もそういう客が欲しいです。黙って抜いて帰ってくれる客が。」

空知「・・・めんどくさいわよ?」

ルシア「そんなもんですか?」

空知「自分で抜かした事もあったわ。自分で抜いて帰ったわ。・・・何しに来たのかしら?家で一人で抜けばいいじゃない?」

ルシア「・・・純愛ですね。それはもう純愛だと思います。」

空知「私はそうは思わないけど。」

ルシア「裸と裸の付き合いって、心と心の付き合いでもあると思います。」

空知「いい話風にまとめたけど、そうでもないからね。」

ルシア「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」


※本作品は全編会話劇です。ご了承下さい。

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