捜索
とある大きな屋敷に大男が目にクマをつけ日の昇る空を眺めていた。
山々から立ち上る光は、境界線で紫色に変色しながら雲を赤く、空を青く、空を塗りなおした。
「奇麗だな」
「はい、閣下」
彼は、この大男の補佐 藤虎 タニグク。
書類、事務に関して力を認められ大男から推薦された。戦闘経験もあることから、用心棒としての役割も担っている。
大男が、景色を見て余韻に浸ってるとタニグクが呟く。
「謎の子供。」
山神も凌ぐほどの魔族を単独で撃破。
本来なら隠れる必要もない偉業だが、本人は逃走。
「今、山神様は負われた怪我の修復のためお眠りになられている。起こすわけにはいかない。」
大男は爪を噛みながら言った。
その子供が今悩みの種である。
本来なら絶対に嫌だが、山神が命令した。断るのは死に値する。
「でも子供が」
「ーーーーー」
「きっと山神様は勘違いをなさっている。」
「そうだな」
「ただでさえ鎖国から欧米の国により無理やり開国を迫られ、やっとの思いで開国し、吹き付けられた不平等条約を取り消しのため発展途上にあるこの国に…」
大男は頭を抱えた。
開国し、海を越えた隣国と同様に、富国強兵を目的とし華国とアジアで最も早く列強に入るか、どちらが東アジア初の先進諸国に成れるかの勝負だ。だが、富国強兵を掲げ始めたのがこちらが遅く、海外との貿易の途中、相手の黒人奴隷にかかっていた病が一気に出島に広がり今や閉鎖状態。
欧米の古代医療研究を留学した者どもが行くというが心配だ。
彼らは、せっかく大金払ってまで欧米の蒸気船という蒸気の力で動く船に乗せ欧米の貴重な知識を学ばした、いわば我が国の国宝級の宝だ。
死んでもらっては困る。
それに続く、謎の子供
本当に頭が痛くなる
「こんな気分になったら、せっかくのいい景色が台無しだ。もう酒でも飲みたい気分だ」
「仕事中に酒はダメです。」
「は~」
「そい言えば、閣下」
「何だ。」
大男が額をしわらせ、まっすぐと私の目を見て言った。
そうとう、酒が飲めないことにご立腹の様だ。
「ただの子供に、霊術と近代魔法術をかけた甲冑を送ったそうですね。」
「それがなんだ」
「何用で彼にその様な高価の代物を」
霊術と近代魔法術をかけた甲冑、装着者の体の大きさに自動的に合わさり、鉄壁の防御、しかも選ばれた本人しか装着できないという。
「ただの子供ではない、有馬 底筒男命」
「有馬家!」
「しかもそれだけではない、送った密偵からは水籠をもう使えるという」
「お戯れを」
タニグクは苦笑いをした。
閣下は、嘘をつく人間ではない。有馬家
初代当主が、夫婦とも対の武神と昇格した褒美として天皇から授かった名。だが、神力は子には伝わらず、一代で御取り潰しとなったと聞く。
「お前知らなかったのか、天皇と将軍との闘いの時にその有馬家現当主有馬 虎次郎が多くの戦いに勝利を導き出し先祖返りとも思われる程の武神のごとき力を発揮したらしいぞ。」
「しかも子爵に天皇自ら任命式で任命」
「あっ!」
タニグクは、思い出した。
任命式で、天皇がただ一人にわざわざ子爵に任命し、名を与えた男
「次郎!」
神の血を持つ者なら多少の魔法はあり得るかもしれない
だが、しかし
水籠はありえない。
天才と言われる者でも努力して手に入れられるかどうかの代物。
子供には無理だ。
もしそれが本当なら...
「謎の子供ってその子じゃないですか?」
「あ」
大男の不機嫌な顔がすぐにニヤケはじめ
「それなら大丈夫だ。」
「なぜ?」
「ソコツは、我が娘と婚約させる。元百姓の血筋に神の血を入れたいと思ったが、まさかここまでの逸材だとは、」
「「ならば」」
二人は顔を合わせ二人とも顔に笑いが映った。
「他に感ずかれる前に有馬家と親睦を深めようぞ!!」
二人は、走って車に乗った。