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1.【衝撃映像】廃ダンジョン 『深淵』に行ってみた!

ダンジョン配信もの×ホラーというテイストで作品を作りました。

面白かったら感想、評価等していただけると幸いです。

 配信サイト「Dストリーム」でダンジョン配信を初めて3年。

俺たちのチャンネルは、正直ネタ切れしてきた。


「再生数伸びねえ......。なんか面白え話題ねえのか? 嵐」


俺がパソコンに映った自分のチャンネル『ころんさんの気ままにソロダン』を見つめてはため息を吐いていると、俺の相方であり、カメラ担当の嵐は、アーカイブの編集に集中しながらも同様にため息を吐く。


「ハァ......。今更、話題が降ってくることなんてねえよ。ダンジョンでやれそうな企画ってもうやりつくされてるっしょ......。もっと、夢のある仕事だと思ってたよ」


自分で言うのもなんだが、俺の登録者数は1万人にも満たないし、アーカイブの再生回数も500回あればいい方っていう底辺配信者だ。だから、一発逆転できるネタを常に探してる。ネタ装備、ネタ武器......。何度も擦り倒された王道企画や王道ルート、なんでもやってきたし、どこでも行ってきた。


「夢追いかけてやり始めたわけじゃないだろ。 少なくとも俺は、ダンジョンで楽して稼いで、ちやほやされるもんだと思ってたぜ......。はぁ、どこかに金脈になるネタ落ちてねえかな」


「ま、調べてみるけど......」


嵐は、編集を終えてその坊主頭の短い頭を掻きむしりながらスマホを覗く。

とはいえ、そんな簡単に見つかるわけがないだろうなと外の空気を吸いに行こうとした途端、嵐が声を上げた。


「これどう?」


「あ? なんだこれ。 廃ダンジョン? 昔使われてたダンジョンのルートってことなのか?」


 パソコンに表示された怪しそうなブログを見ていると、そこには配信者たちが入場できる開拓済みルートの地図が階層ごとに記されていた。だが、その地図をよくみるといくつかバツ印のようなものが書かれていた。この×のルートが廃ダンジョンってやつなのか?


「『深淵』......。なんだか、中二くさい名前だけどそれが逆にそそるねぇ~」


「東京13番ゲートか。駅で言うと、XX駅か。ちょっと遠いけど、行ってみる? ころさん」


「よし、支度するぞ。嵐」


俺たちは自分の配信機材一式を中に入れたリュックを背負って、その廃ダンジョンへ最も近いダンジョン受付へと向かうため電車へ急いだ。


「久しぶりだな......。第13番ゲートからダンジョン向かうの。初配信の時は、家族とかにバレたくなくて家から一番遠くのゲートを選んでたっけ......」


「あー、めんどくさいことしてたね。今じゃ、もうやらなくなったけどね。固定ファンも、面倒なこと言ってくる家族もいなくて助かったよ」


電車の窓に流れる背景を見つめながら、自分の昔に想い浸っていると、ゲートの最寄駅のアナウンスが聞こえてきた。


『次は、XX駅。XX駅です』


「降りるぞ」


「わかってるって。もう」


電車から降りて、駅から外に出るとすでに数百名がダンジョンゲートのある特殊なエレベーターへ向かっていた。13番ゲートは東京区画の中でも比較的ニッチなダンジョンへ向かえるゲートだ。

極寒系、灼熱系といった気象変動系のダンジョンや、映画の元ネタとなった立方体型のダンジョンなどバラエティ色に飛んでいる。だからこそ、閉鎖となったダンジョンがあるのだろう。今回探索するのはアリ塚型のダンジョンだ。その中の一部に廃ダンジョンがあるらしい。


『地下、ダンジョン街へ参ります』


エレベーターの音声が、俺を地下のダンジョン案内所へと連れていく。

ふと、ダンジョンのことについて思うけど、これがいつ、だれが、何のために作ったのか全く分かっていないから考えがまとまらない。ただ俺達はそれを調査するために日々、配信を続けていると言っても過言ではない。言っても、非合法にはなるが、政府はそれを黙認している。つまり、法整備もままならないまま自己責任で探索し続けている状態だ。それでも、ここにはみんなが思い描いていたロマンがある。だから、みんな突き進める。


「地下ダンジョン街って独特の匂いするよね? なんなんだろう......。血の匂い?」


「気分悪くなりそうなこと言うなよ、嵐」


エレベーターが開いて、しばらく歩いているとダンジョンへ向かうゲートや繁華街が地下に広がっていた。装備屋、武器屋、配信カメラなどの電化製品店......。多彩なものが売られている。

どれも非合法で、外に出せば一発アウトの商品だ。


「なんか買い足すもんはなかったっけ? なんか、足りない気がするんだけど」


「ねえよ。早く、申請に行こうぜ」


俺はウキウキした気分で13番ゲートへと向かい、自分の順番を待った。

列に並んでいると、やっと俺の出番となった。


「お待たせしました。ダンジョンのご利用は初めてですか?」


「いえ、これライセンスです」


ライセンスとは言うものの、その実態はただの紙切れだ。ダンジョン協議会が勝手に探索者を管理するためのドッグタグのようなものだ。俺たちは自分の写真と名前が書かれたライセンスを受付嬢に渡す。



本田ほんだ しん様と田中 嵐様ですね? 本日は、こちら13番ダンジョン『アリ塚』のご利用でお間違いないでしょうか?」


「はい。配信するので、だいたい3時間ほどで戻ってきます」


「かしこまりました! ライセンスにも3時間でタイマーをセットしておきます。そこから2時間以内に戻ってこない場合、ロスト判定となりますのでご了承ください」


「分かってますって。必ず、時間厳守で戻りますよ」



俺は適当に答えると、嵐の分と共にライセンスを受付嬢から取り戻してゲートの中へ入っていく。中に入るとすぐ、閃光が一瞬目を覆った。目を閉じながら歩いていくと、ようやくザクザクという音と足の感覚が変わっていくのが感じた。アリ塚のダンジョンは砂に近いフィールドだから、たどり着くとすぐにわかる。俺は目を開けると、アリ塚のように枝分かれしたルートの入り口が目に入った。


「カメラ準備してくれ。俺は、剣の手入れしてるから」


ダンジョンへ本格的に配信と探索をする前に、俺達はその場に座り込み、入念な準備を始める。


「ほんと、楽な仕事だな」


「なんか、言ったか?」


「いや、別に。楽しい仕事だなって」


俺は、鞘から剣を取りだして砥石で研いでいく。

加えて、俺は光源となるサイリウムを振っていって、腰につけていった。

一方嵐は、不満そうな顔でバッグからカメラを取り出していく。

カメラは4~5キロあるし、片手が使えなくなってしまう。


「......悪いとは思ってるよ。でも、お前がいないと動画のクオリティがダメになっちまう。わかるだろ?」


準備ができたところで、俺達はまっすぐにダンジョンを歩き始めた。

例の廃ダンジョンへ向かうと、嵐は突然前を指さして叫び始める。



「うわっ! ゴブリンが狙ってきてる!!!」


「見えてるっつーの! つーか緑ゴブリンじゃ、取れ高ねえじゃねえかよ!!」


自分の持っていた両手剣で、周りに群がる肌が緑色のゴブリンを一掃する。

もちろん、カメラはまだ録画されていない。

いや、映す価値もないと言っても過言ではないだろう。

ダンジョンのモンスターには、色によって階級のようなものがある。緑はザコで、紫がフロアボス級だとかそういう強さのパラメータがある。配信者はよく、より強力なモンスターとのチャレンジを好むためか赤色や紫色を狙う。俺もそいつらを狙っている。


「やっぱ、廃ダンジョン行くまではカメラ映せねえな......」


「そうだね。特になにもないし......」


ザコである緑や、黄色を倒しつつ俺は廃ダンジョンと呼ばれている深淵へと向かっていった。

そこはアリ塚ダンジョンの中でも、奥の枝分かれにあるという。奥の塚では明かりが少なくなっていて、スマホのライトだけが唯一の光源となっていっていた。

この雰囲気は、ますます俺を高ぶらせていた。勝手に笑顔になっていると、俺の目の前に3つの分岐点が見えた。そして、右側だけが黄色と黒の縞々のテープでふさがれていた。ここが例の記事で話題に上がっていた『深淵』という廃ダンジョンだ。このルートへ行けば、面白いもんが取れる。


「上手く動けよ!? 止まったら承知しねえからな」


嵐に小突きながらも、俺はコメントを確認するための準備を始める。コメント欄とやりとりするのが、配信の長所であるが、ダンジョンでは目を離すと危険につながる。だから、左耳に着けたイヤホンからAIによって選ばれたコメントを機械音声で登録者名とともに流れるように設定した。

こっちの方がアンチコメントが流れなくて済むから重宝してる。どうやら、準備している間に数人がコメントをしていたらしく、その配信前の分のコメントがイヤホンから聞こえる。


【ほたて】『いまきた~』


【こーるど炊飯】『まだですか~』


【陽動組合】『mtmt』


【ジャッカル】『早くしろよ、底辺』


いつも通りの少なさと、荒れっぷりで安心した。

俺は、コメントの音質を確認しつつ、イヤホンから伸びているマイクから声を出す。



『うぃーーーーーーーっす! こんにちころころ! ころんさんです! 今日も気ままにダンジョン配信したいと思っております! 本日は、ここアリ塚の噂をご存じですか? ここにはなんと、立ち入りを禁止されたルートがあるんです。理由はわかりませんが、本日はその立ち入り禁止ルート『深淵』探索したいと思います!』


嵐の持つカメラに目線を送り、明るく笑顔で振るまうもコメントは『はやくしろ』という言葉しか聞こえてこない。まあそうだな。俺も早くこの道を進んでみたい。マイクをミュートにして嵐に指示を出す。


「よし、早く行こう」


「大丈夫かな......」


「今更怖気づくなって! さっさと行くぞ!」



テープを引きはがして俺達は、封じられたルートへと向かっていった。

サイリウムの明かりが薄ぼんやりと自分の周りを照らしているけど、正直もの足りない。

前方は真っ暗で、スマホのライトか洞窟に自生するヒカリゴケくらいでしか見ずらい。


『くれぇ~~~w』


「モンスター、出現する気配ないっすね~」


『おい、カメラが喋るな!』


【エブリデイ】『ひっどw』

【こーるど炊飯】『ブラック企業の無能上司みてえ』


コメントには俺の発言に食いつく人間もいた。

そんなところにいちいち噛みついていても仕方ないところもあるが、配信とは言葉と言葉のプロレスだと思っている。喧嘩を振っかけられたら、やり返す。それが礼儀のようなもんだろ......。


『コメントは見えないけど、聞いてるからな。俺は、別にお前らの上司じゃないぞw』


コメントはさらに盛り上がり、さらにお祭りと炎上状態。

それでも俺は構わない。人に見られるためなら、俺はなんでもしてやる。

しばらく何も起きない道を進んでいると、ガサガサッと音が聞こえ始める。

俺と嵐は、周りを見渡すもまったくモンスターの気配がない。もしかして、それ以外の何か......!?

怯えていると、嵐が肩をトントンと叩いてきた。

彼の顔は少し、ホッとしている様子だ。


「ころさん、あれ! 赤いオークですよ!!」


『赤色かぁ。まあ、討伐して損はないか......』


俺は、両手に剣を携えて目の前に立ちはだかるオークへ切りかかる。

オークはいつも通り剣をよけてこちらへ反撃していく。

この流れはいつも見ている感覚だ。だが、なにか違和感を覚える。

周りの雰囲気? それとも明かりの少なさか、俺の身の周りが若干寒く感じる。


『おりゃあ!! 死ね!!』


あっという間に、赤いオークは俺の剣によって消滅した。


『ハァ、ハァ......。どうだ? 俺の力は』


【ほたて】『つまんな。そんなの、誰でもできる』


【コールド炊飯】『30分くらい歩いて赤オーク1体? この配信大丈夫? 睡眠導入配信なら効果抜群だけど......』


【ジャッカル】『抜けます』


『おいおいおいおい、ここからが面白いとこだろうが! 俺はわかるぞ! この先に何かある!』


正直、この先になにがあるのか俺も分かってない。でも、この先にある不気味な違和感に俺は賭けてみることにしてみた。さらに俺は奥へと進んでいった。それまではまったく面白いことが起きずに配信はほとんどお蔵入りのような映像ばかりが流れていた。モンスターもめっきり現れなくなり、1時間くらいが経った。


『まじでなんもないな......。さすがに面白いもんないと、ダメだろ』


「別に、ここでなにかを見つけたとかそういう情報なかったんでしょ? 単純に行っちゃだめな場所であって......」


『そうだけど......。こういうのって、もっと映しちゃダメそうなもんとかありそうじゃん?』


文句を言いながら、不気味な風を感じながら奥へと進んでいく。

涼しいような、鳥肌の立つような風は俺達を奥へ奥へと運んでいく。

すると、行き止まりと共に石造のようなものが立っていた。

これは、フロアテレポートとかができる女神像か......?


『おい、嵐! この女神像映せ』


「ええ? 何の変哲もないただの女神像だけど?」


『これがあるってことは、ここはダンジョンだったっていう証拠になる。それにこの女神像、普通と違って、顔になんか布みたいなのが掛かってる。なんかあるぜ。俺はこいつがこのダンジョンを廃墟にした原因だと睨んでる』


「確かに、普通の女神像にはこんな変な文字がついた布切れ、顔についてないもんね。でも、別に取れ高じゃない。さっさと行こうよ」


『うるさいな。こいつに触ったら面白そうだろ?』


そう言って俺は女神像に近づこうとすると、何か固いものを踏んで割ったような音がした。

恐る恐るスマホのライトを下に向けると、整備していないからか白骨死体が見えた。


『お、おい! 見ろよ、ガイコツだぜ!』


「そんなの見せれるわけないだろ!」


『ふざけんな! こういう過激なもんは、見せるのが常識だろ! コメントだって面白いもの見たくて集まってんだ。この際白骨死体だろうが、なんだろうが取れ高になれそうなもんは映しておけ!!』


嵐は、俺の言葉に渋々頷いてカメラを下に向ける。

閑古鳥が鳴きそうなコメント欄も、少し回復してきて過激なものが増えてくる。


【いるか】『うわ、本物!?』


【コールド炊飯】『そういうのよくないと思います』


【ほたて】『【深淵】っていうダンジョン、昔あった気がする。でも3日くらいですぐに閉鎖してたような......』



『いいよ、いいよ。面白い匂いがプンプンしてきやがった。この女神像についてもっと調べよう』


俺は、女神像の顔についていた布をめくった。

すると、女神の顔があらわになる。そこには、ハスの実のように小さなブツブツが複数不揃いに顔を覆っていた。


『うえぇっ!? 気持ちわりい!!』


「うあああああああああっ!?」


【ほたて】『え? なに?』


【コールド炊飯】『大人二人してビビりすぎw』


【ジャッカル】『いわゆる集合体恐怖症ってやつ? 気持ち悪いけど、そこまでか?』


若干冷めたような拍子のコメントに、俺は怒りを覚えつつも女神像にかかっていた布を戻した。

俺は女神像を背に、嵐の腕を肩に回して帰路へ着こうとした。


「なあ、あれ何だったんだ?」


『知るかよ!? ただの苔とか、小さな岩がくっついてるだけじゃないのか?』


だが、底知れない恐怖感だけが俺達を蝕んでいた。

どうしてもその恐怖心がどこから来ているのかが気になる。

あの女神像、なにかあるに違いない。


「じゃあさ。本当に岩がくっついてるかどうか、もう一回調べてみるってのはどう?」


『は? ここに来て戻るのか? ダメだ。俺は帰るぞ』


「いや、気になるだろ? もしかしたら、邪神様も俺達が戻ることを望んでいるのかも」


こいつは、いきなり何を言ってるんだ?

嵐の顔がどことなく虚ろで、目の焦点があってない気がする。

こいつ、なにかやばいものでもやってるのか?


『じゃ、邪神? なんのこと言ってるんだ?』


「え? 邪神様って?」


『お前が言ったんだろ!!』


嵐は、急に散漫な態度を取って体をゆらゆらと揺らした。

彼は呼ばれるかのように、女神のあった方へと戻ろうとする。


『おい! 嵐! 嵐!!』


俺は必死に止めるも、まったく言うことを聞かない。

嵐は最悪にも、暗く見えない所へと向かっていく。

俺にはもうあいつを戻らせる気力もない。


『クソ......。 知らねえぞ! 置いて行くからな!』


【コールド炊飯】『うわ、最悪』


【vetosdeus】『譌ァ縺咲・槭?諤偵j』


【渾】『逕溯エ?r謐ァ縺偵?∫・槭?諤偵j繧帝式繧√h』


【譌ァ逾】『蜀呈カ』


【ジャッカル】『え、なにこれ?』


コメントがいくつか流れてくるも、大半は何を言っているのか聞き取れなかった。

このイヤホン、壊れてるのか? それとも、何か想像だにしないものが影響を及ぼしているのか?

そんなのあるはずがない......。


『なんなんだ、このコメントは......。嵐はおかしくなるし、コメントも荒れるし、散々だ!!』


俺は、コメント読み上げ機能をオフにして先へ進む。

嵐の事は諦めよう。

あいつの言動はどこかおかしかったし、そんなやつを介護しながら戻るなんてゴメンだ。

俺は、なんとかして来た道を戻ろうとした。だが、戻れど戻れど、暗闇は増すばかり。

それどころか、黄色と黒の立ち入り禁止テープすら見つからない。

たぶん、来た時間と同じくらいは時間が経っているはずなのに、どこにもたどり着いていない。


『おかしい......。スマホの時間が間違っていなければもう入り口に戻ってきてもおかしくない時間だ。というか、本当にこの道で合ってるのか? もしかして道が沢山あったりしないよな?』


「うわああああああああああああああああああああああ!」


『今度は一体なんだ!!』


突如として、女神像があった方から男の叫び声が聞こえた。

振り返ると、そこに誰もいるわけでもない。俺は振り向きなおし、このダンジョンの入り口を再度探す。

走っても走っても、暗闇と道が続くばかり。

サイリウムはまだ光を失っていないが、俺のスマホは限界を迎えそうになっていた。


「は? 圏外? ふざけんな!!」


31%のエネルギーをライトに当てる余地はない。

早く外にでて受付嬢に連絡しないと、死人扱いされちまう。

俺はスマホのライトを消して、ポケットに入れた後さらに走った。


「あああああああああああああ!」


『また、悲鳴? 嵐なのか? ドッキリとかなら笑えないぞ!!』


男の叫び声が嵐なのかどうかもわからない。

それでも、足を止めたらあの叫び声の主と同じようになってしまうと感覚でわかる。

さらに進むと、突如として足を掴まれた感じがした。


『だ、誰だ!?』


俺は迷わず、サイリウムを足元に近づけた。

すると、そこには嵐が着ていたダサい青色のTシャツを着た男が這いずっていた。


『嵐、生きてたのか!? ああもう、いい加減にしろよ......』


俺はフウと息を吐いて、嵐に近づいて小脇に抱えて立たせようとした。


『お、おまえ? なんだ、その目!?』


嵐の顔を見ると、目に瞳はなく、くぼんで黒ずんでいるように見えた。

目玉が無くなっている......!? しかも、口も半開き。


「あ、ああああああああ......。あああああああああああ!!」


突如として、嵐が叫んだかと思うとその両目からムカデのような虫が無数に湧いて出てきた。

正直、オークやゴブリンと戦っているから虫なんてそう怖くはないと思っていたが、気味が悪いのには変わりない......。


『!? な、なんなんだよ!』


俺はひたすらに走った。

嵐はもう助からない。そう思いながら、全力で走った。

だが、俺がここに入ってきた道はどこにも見つからない。

後ろからは、悲鳴がまだ聞こえる。


「うあああああああああああれええあああああああ!!」


『クソが!! どこまでいけば帰れるんだ!!』


【譌ァ逾】『蟶ー繧矩%縺ッ縺ェ縺』

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コメントがさらに荒れていく。コメント読み上げ機能はすでにオフにしていたはずなのに......。

帰り道を塞ぐように、これまでのコメントが洞窟中に広がっていくように聞こえる。

耳を塞ぎながら俺はひたすらまっすぐ走った。女神像までまっすぐこれたんだ。来た道を戻れば帰れるはずなんだ!! なのに、いつまで経っても帰れない。


『諦めるな。まだ、なにか手はあるはずだ! そうだ、スマホのアプリは? ダンジョンマップアプリならきっと......』


俺はバッテリーの切れそうなスマホを取り出して、アプリを確認した。

だが、そのマップの中にはなにも映っていなかった。

本来なら、今いるダンジョンの周辺マップが映っているはずなのになにもない。

自分の位置を示すアイコンも虚無をフラフラと行き来している。ここは衛星も探知できない本当の『深淵』なのかもしれない......。思わず、スマホを持つ手が震える。


『怖がるな......。きっと出口はある。諦めたら邪神様のいいなりだ。きっとそうなんだ!!』


そういえば、ダンジョンに入ってどれくらい経ったんだ?

そろそろ帰らないとロスト判定になりそうだが、ライセンスからはタイマーのアラームはなっていない。代わりに周りからうめき声のようなものが聞こえてくる。


『じゃ、邪神様が......呼んでる......』


俺に恐怖を受け入れろと言っているような声が聞こえる。

きっと邪神様が迎えに来ているんだ......。

負けてない、俺は負けてない......!!

恐怖に立ち向かえば、きっと出口が見つかる!

邪神様と一つになんてならないぞ!!



『怖くなんかないぞ!! 俺は家に帰るんだ!!』


俺はまた走った。

だが、邪神様はすぐに追いかける。

俺はまた走った。

それでも邪神様は俺を配信し続ける。

邪神様は楽しんでいる。

俺は少しも楽しくない。

恐怖と言う感情を振り切るように走り続ける。

洞窟は暗闇を映すばかりだ。

誰もいない。誰にも見つからない。

誰にも相手にされない。

どれだけ配信を続けていても満たされない。

邪神様は暗闇に俺の配信を見せる。

こんなのおかしいって分かっている。でも、俺は今自分の配信を見ている。


『やめろ、見せるな! 俺はもっと有名なはずなんだ! 誰も見てないわけがない!! 俺は配信者だぞ! もっと俺を褒めろ! もっと俺を見ろ!! 俺を助けろ!!』


だが、コメントは一つも流れない。

邪神様は笑う。俺は、恐怖で口から吐き出そうになったものを抑え込んで飲み込む。


『莉翫?∵$諤悶r諢溘§縺溘↑?』


『うあああああ!?』


邪神様の声が聞こえた瞬間、俺は叫んだ。

瞬間、俺の視界は真っ赤になった......。










‐ダンジョン・ログ-

20XX年7月。ダンジョン内にてロス判定あり。

<人物詳細>

・氏名:本田ほんだ しん

・性別:男性

・身長:174㎝

・体重:65㎏

・ダンジョン攻略理由:配信のため


・備考:過去に、自分を有名配信者『ころん』と名乗って脅迫履歴あり。

『ころん』という配信者は実際にDストリームに確認されたが、チャンネル登録者数から見ても有名とは一概に言い難い。警戒要。


‐20XX年7月 同日

ログ確認後、捜索隊を編成。遺体回収班とともに現場確認。

ロスした前後にいた場所へ向かうも、確認できず。


‐20XX年7月 某日

その後、3日ほど捜索するも発見できず。

ダンジョン運営は捜索を中断し、行方不明として報告書を作成済。

本ログを持ってロス判定探索者の報告を終了とする。






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