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大容量の荷物持ち〜本当はアイテムボックスのスキルじゃないんです〜

作者: 足繁く通う

王都にある冒険者クラン『龍のアギト』、そこで荷物持ちをしている少年リオン。

彼は“アイテムボックス“のスキルを使い、クランメンバーの装備や日用品を保管していた。

アイテムボックスは1人で大量の物資を運ぶ事が出来る便利スキルだ。

生きているものだけは入れられない、似たような魔法具のアイテム袋と比べ、入れてる間に時間経過するという欠点があるが非常に使える能力だ。

しかしある時、龍のアギトのクランマスターブレイドからリオンへ追放を言い渡される。


「戦闘もロクに出来ない荷物持ちはこれから発展してく龍のアギトには不要だ! お前の代わりに入る奴は決まってる、預けてた物全部置いてさっさと失せろ!」


ブレイドから一方的に辞めろと言われたリオンが反論するも誰も聞く耳を持たない。

今まで献身的に皆の荷物を持っていたリオンは恩を仇で返すその仕打ちに耐えきれなかった。


「……わかりました、預かってた物は全部倉庫に置いて出て行きます。今までお世話になりました……」


それだけ言い、クランマスターの部屋から出ていったリオンは最後にクランの倉庫へとやって来た。

彼が預かっていた荷物を全部出すと、倉庫の中はパンパン、今後物を取り出すには苦労するだろうなと思うが辞める彼にはもう関係ない。

最後の一仕事を終えた彼は、そのままクランの拠点を後にした。


しばらく歩きながらリオンは今後どうするかを考える。

ブレイドが言っていたようにリオンに戦闘能力は無く、剣もまともに握れないほど弱い。


「こんな時は……相談しに行こう」


自分一人では結論を出せないと悟った彼は他の意見を聞くために相談する事にした。

しかしこの街でリオンの知り合いはクランメンバー以外に誰も居ない。

では誰に相談するのか、リオンは人目の無い路地裏へと入って行く。


「アイテムボックス……いや、“ワールドゲート“」


彼が持つはずのスキルと違う名を言うと、空中に人が通れる大きさの()が出現した。

その中にリオンが臆せず入ると、穴は消え彼の姿も忽然と街中から消え去った。


そしてリオンの目の前に広がるのは一面の野原、そこではたくさんの生き物が悠々自適に暮らしていた。

アイテムボックスには生きているものは入らない、それが普通なのだがリオンの持つスキルはアイテムボックスなどでは無かった。

リオンの持つ本当のスキルは『亜空間創造(ワールド・クリエイト)

自分だけの世界を作り出す事の出来る特別なスキル、彼が作った世界は大きな面積があり、草木だけでなく空には太陽や雲まである。

ワールドゲートと言う事で亜空間と外界を出入りできるが、こんな便利すぎる力を知られたら大変な事になると考えた彼はスキルを改ざんした。

亜空間創造(ワールド・クリエイト)を珍しくとも使える人がそこそこ居るアイテムボックスと偽り、日々の生活のため荷物持ちをやっていたのだった。


亜空間にやって来たリオンに甘えるように群がる生き物たち。

彼らは今までリオンが拾って来た生き物たちなのだが一見、普通の犬や羊、牛に見えるがその正体は魔物である。

怪我をしていたり、親に捨てられたりした魔物を彼は人知れずこっそりと保護し、この災害も天敵も存在しない安全な亜空間で面倒を見ていたのだ。

そんな魔物たちと触れ合いながらもリオンは用事がある事を告げる。


「ごめんねみんな、今日は用事があるから遊んであげれないんだ。また今度遊んであげるからね」


みんなに謝り、亜空間内の遠くに見える小山に近付くリオン、しかしそれは小山ではなかった。


「……リオンか」


リオンの存在を察知したように小山が身動(みじろ)ぎする。

その正体は、この亜空間内で最も巨大なドラゴンだった。


「ドラさんごめん、起こしちゃった?」


「クハハッやる事が無いので昼寝していただけだ。リオンが気にする事は無い」


ドラさんと呼ばれるドラゴンはリオンと旧知の仲である。

昔、冒険者にやられ怪我をした彼を山で見つけたリオンが追手がやって来ないように亜空間へと避難させたのだ。

それから亜空間を安住の地として提供し、ドラさんもまたリオンから受けた恩に報いるため亜空間内の他の生き物たちの面倒を見てくれている。


「ところでリオンよ。今日は顔色が優れないな……何があった」


「はは……流石だねドラさん、僕の顔を見ただけで分かっちゃうんだ」


「我とお主の仲ぞ。それぐらいすぐに気付く、良ければ話してみるがいい……」


「うん……あのねドラさん、実は」


今後の事を相談するためリオンがクランから追放された事を話す。

先ほどまでの話をリオンがし終えるとドラさんは見るからに怒りを顕にしていた。


「なるほど……では我がその龍のアギトとかいう烏合の衆が集まったクランを焼き尽くせばいいのだな……!」


「落ち着いてドラさん! 別に復讐なんか考えてないって!」


「特にブレイドとかいう奴は許せん……! 焼き尽くすだけでは飽き足らん、細かく切り刻んでくれようぞ!」


「やめてドラさん! 正気に戻って!」


何とかリオンが宥めるも絶対に許せんと言った面持ちのドラさん。

リオンも自分を追放したブレイドとクランが憎くないと言えば嘘になるが今はそれを相談したかったわけじゃない。


「ドラさんに相談したいのはそんな事じゃないんだ。今後僕はどうしようかなっと思って」


「仕事は良いのか? 人間という生き物は働かなくては食っていけんのだろう」


「うーん……ちょっと人間関係で疲れちゃってさ、しばらくは人と関わるのは遠慮したいんだ」


信じていた仲間(クラン)から裏切られてリオンの心はだいぶ参っていた。

1人で荷物持ちの仕事をするにも、給与や報酬という金銭のやり取りが発生する以上確実に人とのやり取りをせねばならない。

それが今のリオンには辛かった。


「ドラさんは気付いてるだろうけど、僕ってあんまり人付き合いが得意じゃないんだよね。それに戦闘もほとんど出来ないし、いつもみんなの足を引っ張っちゃう」


リオンが魔物を亜空間に保護しているのは、複雑で腹のうちでは何を考えてるか分からない人間と付き合うよりも、反応が分かりやすい生き物と接する方が苦ではないのが理由でもある。


このままではリオンの精神が危うい、そう感じたドラさんは一つの提案を伝える。


「リオンよ、よければ此処ではない遠くの国へ行ってみないか?」


ドラさんがリオンに持ち掛けたのは現環境から脱出する事だった。

今のままリオンが王都で働いてもきっと良い結果にはならない、ならばリフレッシュも兼ねて王都から離れた遠き地で心機一転を図るのはどうだとドラさんが告げると、それにリオンも好感触。


「遠くの国……良いかも! ドラさんが知ってる場所に連れてって欲しいな!」


「知ってる国か……色々あるぞ。エルフの住む神聖な森、ドワーフの住む鉱脈が眠る山脈、ケットシーが商いを経営する商業都市……他にも盛りだくさんだ」


「面白そう! 僕も行ってみたい!」


「クハハッお主の元気が戻ったようで何よりだ。どれ……そのためにはまずリオンよ。王都から出るがいい」


「? うん、そうだよね。遠くに行くにはまず王都から出なきゃ」


「クハハッ違うぞリオン、我はただ行き先を教えたのではない。我の背に乗って空から目的地に向かうというわけだ」


「! 良いの!? ドラさんに乗って空を飛べるなんて、まるで物語の勇者のようだ!」


「……勇者、か。リオンよ、我からすればお主こそ勇者なのだが」


「僕が勇者? それは過大評価だよドラさん。僕は勇者と違って戦いなんて出来ないし……」


「あの時、傷を負った我を救ってくれたのはリオンだ。普通の人間なら手負いのドラゴンなど危なっかしくて近付かん……それでも救いの手を差し伸べてくれたのは勇気のある者、まさしくお主なのだ」


「ドラさん……急にそんな事言って……恥ずかしいよ」


「クハハッ何を恥ずかしがる必要がある、リオンのような童には年相応と言ったとこだろうに」


「ドラさん、僕18歳なんだけど……」


「人間の寿命などドラゴンから見れば全員が童よ、ほらっさっさと王都から出て行くがいい。外に出たら我を亜空内から解放するのだ」


「うん……でもドラさん、傷はもう癒えたんでしょ? 外の世界に戻らなくていいの?」


「我はリオンに助けて貰った恩があるし、何よりお主という人間を気に入っている。お主が寿命を迎えるまでは我がこの亜空間とお主を見守ろうではないか」


「……ありがとうドラさん、じゃあちょっと準備して来るからまた後でね!」


「ワールドゲート」と言って再び外へと出ていくリオン。

リオンが去るのを見届けたドラさんは彼にまだ教えていない秘密を独り言のように呟く。


「リオン……お主の力はいずれ大きな事態に巻き込まれていくやもしれん。その時は我、ドラさん……いや、真名『ファフニール』の名に誓い、我はお主を守る盾となろう……」


かつて“ジークフリート“と呼ばれる勇者が打ち倒した竜ファフニール。

その竜と彼が同じ名を冠するのは偶然なのか、それとも。

真実を知る者は彼以外に居ない。


━━━━━━━━━━━━━━━


「無事に王都の外に出れた……けど、大変だったな」


リオンが王都の出口へ向かっていると遠くで何やら声が聞こえる。

耳に届いたのは「リオン、どこに行った!」と何故か自分を探す声だった。

面倒事の気配を感じた彼は、裏道を通りながら何とか王都の外に出る事に成功したが一体何の用なのか?

今は人と最低限にしか関わりたくない彼は気を取り直し、王都を出てしばらく進むと人が来なそうな場所でドラさんを亜空間から出そうとする。


「ワールドゲート」


リオンが言うと先ほどと同じくぽっかりと空間に開く大穴。

しかしそこで予期せぬ出来事が起こる。


「な、なんだぁ! その穴は!? リオン、お前のスキルはアイテムボックスだったんじゃねぇのか!?」


覚えのある声に振り向くとそこにはさっきリオンを追い出したブレイドが立っていた。

なぜブレイドがここに居るのか、リオンが問い質そうとするもブレイドは遮るようにリオンに話しかけた。


「リオン! もしかしてお前、俺に本当のスキルを隠してたのか!? チッまぁいい、そんな事よりクランに戻ってこい! さっきの追放は無しだ!」


「……僕の代わりに入った人が居るんだろ? その人が居れば僕が居なくとも大丈夫なんじゃなかったのか」


「あぁ……? アイツか、アイテムボックススキル持ちで戦闘もそこそこ出来るって言うから雇ったが、大して物を入れられねぇ役立たずだ! お前が倉庫に置いてった荷物の1/10も無理だったぜ!」


それを聞いてリオンは失敗したと思った。

リオンが普段預かった物を保管していたのは広大な亜空間。

他にアイテムボックスが使えるメンバーが龍のアギトには居なかったため、収納出来る量に限界があるのを知らなかったのだ。


「……戦えないって理由で僕をお払い箱にしたのはそっちでしょ? それは虫が良すぎるんじゃないのかな」


「いちいちうるせぇなぁ! 荷物持ちは黙って俺に従ってればいいんだよ! 戻ったらお前のスキルについて問い詰めてやるからな! 覚悟しとけよ!」


「……いい加減にしろよ」


「あ?」


ブレイドの一方的な物言いにリオンの堪忍袋の緒が切れた。

今まで大して面と向かって反抗出来なかったリオンだが、荷物持ちは黙って従ってればいいという発言は許せなかったのだ。

みんなの負担にならないよう、重い荷物を預かり負担を下げる事で貢献していたのに、それをなんとも思ってないブレイドにリオンは初めて反抗心を剥き出しにして睨みつける。


「リオン、お前……この俺に逆らうってのかよ。いい度胸だ……ちょっとばかし痛めつけて教育してやる!!」


苛立ちが限界に達したブレイドは剣を抜きリオンへと歩み寄る。

「指の2、3本へし折ってやる……」と言いながら徐々に近付いてくる脅威にリオンは呟くように()を呼んだ。


「ワールドゲート……来て、ドラさん」


その瞬間、ゲートからリオンを守るように現れた巨大なドラゴン。

それを見てさっきまでリオンを甚振る気満々だったブレイドは腰を抜かしブルブルと震えだす。


「なっなな、な! なんでドラゴンが居んだよぉ!?」


突然目の前の大穴から出てきたドラゴンに怯えるブレイドに、ドラさんは虫ケラを見るように見下しながら口を開く。


「貴様がリオンの言っていたブレイドと輩か……どうやらリオンに生意気な態度で接していたらしいじゃないか」


「ヒィッ!?」


「たしか『龍のアギト(顎)』とかいうクランのリーダーだったか……ならばドラゴンの顎の力、貴様の身体で試してみるか?」


脅すように牙をガチンガチンと鳴らすドラさん。

その光景にブレイドは気絶しながら失禁していた。


「なんじゃつまらん、こんなのまだ挨拶でしか無いぞ」


思ったよりも呆気なく意識を手放したブレイドに拍子抜けといった感じのドラさん。

本当はもっと精神崩壊寸前まで追い込んでやろうと思ったが所詮人間、ドラゴン相手に平常でいれる人間などいないのだ。


「助けてくれてありがとうドラさん、ブレイドが漏らす愉快な姿が見れただけで溜飲が下がったよ」


「この程度でいいのか? もう少しくらい彼奴に怖い目見せてもバチは当たらんと思うが……」


「これ以上はブレイドと同じ理不尽なだけになるからいいよ。ドラさんが僕を守ってくれただけで嬉しい」


「……クハハッ言ったであろう。リオンが寿命で死ぬまで我が守ると」


気絶するブレイドを放置し、笑い合う1人と1頭。

ひとしきり笑った後リオンはドラさんの背に跨り、どんどん空へと飛んで行く。

初めて空を飛ぶという体験をしているリオンは興奮しながらドラさんに話しかけた。


「うわぁぁぁ! すごい高い! ドラさん見て、王都がもうあんな小さいよ!?」


「クハハッ久しぶりの外界での飛行は楽しいな! さっきのブレなんちゃらとかいう奴はもう米粒程度しか見えないぞ!」


「……ねぇドラさん」


「なんじゃ、リオンよ」


「僕……ドラさんの知ってる場所、全部に連れてって欲しい。死ぬまで一緒に旅がしたいんだ」


「……クハッ! クハハハッ! リオンよ、お主意外と欲張りだのぉ? 我の知ってる場所全てとはなかなかの注文だぞ!」


「ダメかなぁ?」


「問題ない! 我の行った場所、知る場所全てに案内してやろうではないか! だがかなりの長旅になるぞ? はたしてリオンの寿命が持つかどうか……」


「ちょっ怖い事言わないでよドラさん! ……人間どうせいつか死ぬんだ、なら僕はこの先好きに生きたい!」


「クハハッ! だいぶ自分の意見が言えるようになったではないかリオンよ! では最初はエルフたちが住まう森に向かおうではないか! 我の背にしっかり掴まるがいい、リオンよ!」


「うん! 僕、すっごく楽しみにしてるから!」


「クハハッゆくぞー!」


その日、巨大なドラゴンが飛び立つ姿を多数の人が目撃した王都では、襲撃を警戒し避難する者、都市を守ろうと武器を握る者、ドラゴンを倒そうと躍起になる者と混乱を極めた。

その背に1人の少年がドラゴンと楽しげに話しながら乗っていたのを知る者は誰も居ない。



この先の展開として行き場を無くしたエルフ達を亜空間に避難させたり、ケットシーの商売で大容量の荷物を運搬して驚愕させたりも考えてたけど短編にするため削る事に。

他にも書きたい話があるのが悪いんや。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


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