攻略準備の錬金術師⑦
エルフの里でイアンナを構いたいが、イドが意地でも付いてきそうなのでエンジン部分の作成にはいる。
まず入手した謎の魔物の魔石だ。
オレの身長よりも高い魔石をカナガチの魔石を割った時のように分割する。カナガチの時は剣にするため、拳大程度の大きさだったが、今回は出力の必要なエンジンだ。バスケットボールくらいの大きさである。
回転、反転、回転する力の調整と停止。これだけを盛り込めばいい魔核を作るのが目的なので、そこまで難しい錬金ではない。
手持ちの中でも、特に大きさの大きい錬金窯に風の水溶液と水の水溶液を混ぜたものを、それを窯の半分くらい入れる。
次にこの風の魔石を投入。そしてこれと比較すれば小粒になるが、水ガガチという大きいイグアナのような魔物の魔石も3つ程入れて魔力を込める。
溶けだすものの、まとまりが悪いので定着剤代わりにハクオウの鱗粉を投入。
風で回転の強弱を調整させる目的、それと水で回転の安定を司らせるつもりだ。
模型の時に使った魔石よりもそれぞれ上等な代物である。
加工するにも大きいし、今回は力を凝縮させるのが目的なので中心核にオリハルコンゴーレムの真核を使用する事にした。
オリハルコンゴーレムの真核は、先日ホムンクルスを作るのに使いきってしまったので栞とエイミーに獲りに行って貰った物だ。
オリハルコンをゴーレム特有の魔力が凝縮させた、通常オリハルコンよりも上物である。
真核が崩れないようにコーティングをして、魔石の溶けきった錬金窯に投入。ゆっくりとかき混ぜながら真球になる様に時々角度を変える。
「こんなもんかな」
出来上がったのは一抱えもある巨大な丸い球。魔核です。
重いからセーナとユーナに取り出してもらう。
転がらない様に、床に固定台を設置してそこで魔法陣を錬金刀で彫っていく作業だ。
機能で言えばシンプルなので魔法陣も簡素なものだ。だがいかんせんこの大きさ、それなりに時間がかかる。
念のためペンで下書きをしてから彫る作業だ。
この魔法陣は動作の調整を行うと共に、車軸に固定する為の穴も取り付けないといけない。
回転させるのではなく、この魔核自体も回転するからだ。
彫る作業を行わず、エンジンの一部を模した台座に移動させてペンのラインに魔力を走らせる。
うん、きちんと縦に回転している。
回転している魔核に速度の増加と減少、停止、反転とそれぞれ試して問題無い事を確認。
これでパワーさえ足りていれば問題ない。
「ご主人様!」
「旦那様!」
「おわっ」
セーナとユーナに体を引っ張られると同時に、エンジンを模した車軸の固定部分が外れて球が転がってしまう。
「待て待て待て」
二人に庇われながら停止信号を送って魔核の動作が止まった。
「危なかった、でございます」
「固定が甘かったか、それとも球自体の回転に歪みがあったか? 車軸の部分も確認しないといけないな」
「それよりも、もっと安全に気をつかってよね!」
「あ、悪い」
セーナにプリプリと怒られながら、問題点の改善を再度行う。
球が微妙に歪んでいるようで、回転すると片方の軸が浮いてしまうのが原因のようだ。
型取りを行って研磨剤とヤスリで地味に削る作業が必要になった。完全な真球という訳にはいかないだろうが、極力歪みは直しておきたい。
うーん、大変である。
オレが削り作業を行っている間に、ユーナがミスリル合金とオリハルコンメッキの作成をしてくれている。
型は土魔法で作ったので、装甲部分と内部の骨組み用の鉄骨、固定用のボルトなど細々した物を量産する。
これらを組み立てるのはセーナとユーナである。クレーンを作ろうかと思ったけど、この子達なら大き目の装甲でなければ一人で持ち上げられてしまうのだ。ホムンクルス万歳。
二人に、場合によってはリアナにもイリーナにも手伝って貰って、ボルトで固定をオレとセーナによって形にしていく。
魔核の出力調整が足らず新しい物を作ったり、素材の見直しやブレーキ部分の改良。
実際に走らせたりの修正を何度も行った。
半年近くかけて、ようやく完成だ。
オリハルコンの金色の車体の趣味の悪い、先端や周りの突起物の禍々しい謎の装甲車をお披露目。
煌々と輝く日の光を浴びた金色の装甲車である。
「せ、せめて黒く塗った方が良くないかな……」
「塗っても草原の悪夢の体当たりでどうせ剥げると思ったのよ」
エイミーの言う通り、塗ろうかどうかも考えたんだけどね。
「かっこいい」
「イドっちマジか!?」
「これだけのオリハルコン。一体どれだけの金がかかってるのやら」
「隊長さんや、これでも全部タダだぜ?」
「群生地の情報があるって強いですわ」
セリアさんがお金の心配をしているが、そもそもの話でこれだけのオリハルコンを加工出来る施設が無いので心配しないで欲しい。
どちらかと言えば、内部のシートなどの内装部分が一般に流通している魔物素材を使っているので出費という意味ではそっちの方がお金がかかっているかな?
あ、一番高いのは王族であるミリアの人件費か。
冒険者ギルド、王都や皇都の商会なんかに金をばらまいて必要な物をみんなが買って来てくれた。
購入できないものはエイミーが中心に討伐や採取にいってくれた。倒すのだけなら他のメンバーでいいが、倒し方が特別だったり、綺麗な状態で倒すにはエイミーの幻術が恐ろしい程役に立つからだ。
やはり彼女こそ魔王である。シルドニアでは聖女と呼ばれてますけどね。
セリアさんは素材の強度の確認のため、何度も草原の悪夢に挑み連中の攻撃を受けきってくれた。
セリアさん曰く、単体単体で見ればBランク中位程度のモンスターだから問題ないとの事だが、問題がなければあそこは人の手によって突破されているはずだ。相当な目に合っているはずだ。
そんなセリアさんを支えてくれたミリアも、魔物の群れ相手にセリアが囲まれて逃げられなくなるのを防ぐために戦ってくれた。
とても頼りになる存在だ。
ホムンクルス組も、それぞれしっかりと仕事をこなし続けてくれた。
この装甲車は全員の力があってこそ、完成の日の目をみたのだ。
「みんな、オレのわがままに付き合ってくれてありがとう」
「あたし達の、だよ」
「うん。元の世界に帰るためだもんね」
「わたくしも、旦那様のご両親にご挨拶をしたいですから」
「ライトの世界、見てみたい」
「だな、そもそもあの草原の先がどうなってるか気になるし」
「自分はライト様についていくだけっす!」
頼もしい返事に涙がちょちょぎれそうになるぜ。
簡易的であるし100年以上前のものではあるが、草原とその先の地図も入手している。
草原の悪夢の群れの範囲がどこまで広がっているかが不明なのが不安だ。
草原の先の川までが連中の生息範囲に収まっていれば川越えの方法も考えなければならないので、場合によってはこいつを乗り捨てる必要性も出て来る。
「問題が無い訳ではないが、なんとか完成にこぎつける事に成功した。明日、天候を見て実行しようと思う」
「「「 はい! 」」」
ミリアやセリアさんの感触からして、ドラゴンの皮膚並に堅い連中ではあるが、オリハルコンよりも柔らかいからいけるとのこと。
体が平だから、見た目よりも軽いのも分かっている。
吹き飛ばすのは簡単そうだ。成功率は高いと思われる。
明日が本番だ。
「ねえ、やっぱり黒く染めない?」
「うん、いくらなんでもこれは……」
「かっこいいのに」
「流石に成金趣味ですわね」
「姫様が騎乗されるには相応しくないな」
「どうでもよくね?」
「まぶしいっす! 目立つっす!」
「あー、はいはい。じゃあ迷彩色に変えますね……」
決行は明後日になりました!