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拠点とダンジョンと錬金術師⑩

「本当に私が撃つのか!?」

「オレは魔法の制御に集中しますから。お願いしますね!」


 グレネードランチャーモドキをセリアさんに渡し、オレは普段使いの杖を取り出してカートリッジを変更した。

 念動と風の魔法を集中して入れてある。


「本当に本当だな!?」

「大丈夫です。このカーソル。丸い円の中心にターゲットを合わせて引き金を引けば当りますから!」

「今まで当たらなかったじゃないか!」

「今度は足止めしますから大丈夫です!」


 ボス竜がこちらを警戒する中、グレネードランチャーモドキの使い方をセリアさんに教えるオレ。

 これからオレはボス竜に攻撃を当てる事に魔法を集中するから、グレネードランチャーモドキでのトドメをセリアさんにお願いするのだ。

 この世界の人間で初めて重火器を扱う事になったセリアさんは、物騒な弾丸を射出するグレネードランチャーモドキを手に大分へっぴり腰になっている。


「ほら、そんな持ち方じゃ反動で倒れますよ! しっかりと両手で持って、背筋を伸ばしてください!」

「コラ! そんなところを触るな!」

「じゃあちゃんと構えてくださいよ! 柵に当って内側で破裂したら大惨事ですよ!」

「や、やっぱ怖いじゃないか!」

「ちゃんと上を狙えば大丈夫ですから!」


 あ、なんかボス竜も心なしか呆れてこっちを見ている気がするぞ。


「くそ、他に策はないのか……」

「他にもありますけど、失敗すると柵の結界も壊れそうなんでダメです」


 これ以上の攻撃力を持つ武器なんて聖剣くらいしかない。

 相変わらず制御が難しいから、セリアさんにその力が向くかもしれないし、柵も破壊される可能性がある。そんな危険は冒せない。


「まず、適当に上に向かって一発目を撃ってください。いつぞやの炸裂する槍がいくつも飛び出しますから、オレはそれを制御してどうにかしてボス竜の翼にダメージを与えます。空にいる最中に翼を失えば落下するでしょうから、その隙に当ててくださいね!」

「い、一瞬じゃないか!」

「大丈夫です! 近くの地面に着弾させるだけでも十分ですから! 怖いなら馬車の屋根の上に乗ってそこから狙ってください。少なくとも、柵に当る危険性は無くなりますから」

「さ、先に言え先に!」


 そう言ってグレネードランチャーモドキをオレに押し付けて馬車に登るセリアさん。

 上を見ない様にしないとね!


「ほら、寄こせ!」

「はいはい」

「こら! 前をこっちに向けるな!」

「引き金に指が引っかかってなければ射出されませんよ」


 でもセリアさんが怖いから上を向けたのは黙っておこう。


「念動で槍を制御します。いいですね? 落下したら引き金を引くだけです」

「わ、わかっている!」


 動揺しているセリアさんに視線を送りつつ、オレは杖に魔力を込める。

 ぶっちゃけ弾丸よりも速度の遅い槍を当てるのは至難の業だ。これはオレとあのボス竜との根気勝負になるかもしれない。

 念のためエーテルを腰につるして、魔力回復飴も口にする。


「準備ができました」

「よし! こっちもいつでもいいぞ!」

「……じゃあまず、あいつの上に向かって弾丸を」

「わ、わかっている!」


 緊張しているのが丸わかりだ。オレも馬車の上に登り、セリアさんの横に並んだ。

 そして杖を片手に、セリアさんの持つグレネードランチャーモドキの持ち手に空いてる手を乗せる。


「3,2,1で引き金を引いてください」

「あ、ああ」


 若干引きつっているが、多少安心したのだろう。

 オレの言葉に頷いて、二人でカウントダウンを開始した。


「3,2,1、今!」


 オレの言葉に重なる様にセリアさんの細い指が引き金を引いた。

 発射された弾丸は、ボス竜の上へと飛んでいき、そこで炸裂して無数の槍が地面に降り注いだ。






「念動っ!」


 100をも超える槍の群れを、すべて正確に制御するにはかなりの集中力がいる。オレはボス竜に向けてそれらの槍を向かわせる。


「グルルルル!」


 ボス竜は少し高い鳴き声を放ち、翼をはためかせて移動を開始。

 単純に上から降ってくるものなどに当る訳はないと、軽い飛行で動いていく。


「っっしょお!」


 オレの掛け声一つで、ボス竜に落下していく槍が更に速度を上げて追いすがる。

 それに目を向けたボス竜は更に速度を上げ、空でアクロバティックな動きをして槍を回避していく。


「まだまだぁ!」


 何本かの槍の制御に失敗したが、それでも問題はない。まだ無数にある槍のいくつかが勢いよくボス竜に襲い掛かった!


『カンカンカンカン!』

「硬いかっ!」


 それなりの速度で突っ込ませたつもりの槍だったが、残念なことに鱗に弾かれてしまう。

 そうなると、狙いは翼膜部分に集中させるしかない。


「おい、弾かれてるぞ!」

「分かってる!」


 未だにオレの制御下にある槍は、ボス竜に弾かれて落下を開始するも、再び向きをクルリとかえて刃の部分から竜へと向かう。

 先ほどと違い、一方向からではない。上下左右のすべての方向から無数の槍が近づいている。


「ガアアアアアアアアア!」


 そんな槍を一睨みし、ボス竜は首を振って槍に炎を吐いた!

 今までしてこなかった行動に驚くものの、槍の制御は手放せない。


『ボンボンボンッ!』


 槍の中には爆発物が満載だ。炎を受けた槍が爆発音を放ち煙を生み出す。

 それでもオレは槍を制御し、その黒煙を突き刺すように槍をいくつもその場に投入する。


「グオオオオオオオオオオ!」


 その黒煙を嫌がるように、ボス竜は上へと逃げ出して来た。それを追いすがるのはオレの槍だ。先ほどの炎と、爆発の影響でオレの制御から離れてしまったものもあり、半数ぐらい減ってしまった。


「ミチナガ!」

「大丈夫!」


 下側からいくつも槍がボス竜に向かうと、ボス竜は再び炎を槍に向かって放った!

 いくつもの槍が破裂音と共に消滅していく。

 真下からの槍をすべて処理したボス竜は、ニヤリとこちらに顔を向ける。


「って思うよな」


 オレの杖が輝きを増す。

 瞬間、竜の上空から3本の槍が勢いよく突っ込んでいく。


「ガアアアアアアアアアア!」


 2本は左右の翼膜に、一本は背中に深々と刺さる。


「爆ぜろ!」


 オレの合図に3本の槍が爆発する!

 ボス竜の悲鳴と爆発音が響く中、黒煙から落下する竜の姿。


「セリアさん!」

「任せろ!」


 セリアさんの放った弾丸は、見事に落下するボス竜の胸に命中! その瞬間に、丸く黒い球がその場に発生した。

 その球から発生した黒い球からはいくつもの斬撃が発生し、竜の体をズタズタに切り裂き続ける。

 ボス竜が落下してもその勢いは収まらない。ボス竜の翼を、足を、首を切り落とし、そこら中に鱗を飛ばし、ボス竜の体が肉塊になるころにようやく収まった。


「なんと言うものを使ったんだ……」

「命中した相手から魔力を吸収しつづけ、その魔力をそのまま刃となって周りに飛ばし続ける魔道具です。相手が死んでも体に残留する魔力が残っていればその刃の放出は……」

「や、もういい。魔道具の解説なんぞ聞くべきじゃなかった」


 あ、そう? 結構自信作なんだけど。


「それで、あれでもう倒せたのか?」

「多分、ですけどね。魔物の種類によってはあそこから再生するものもいるので、相手の魔石の性質次第でしょう」


 魔物ってのはこういっちゃなんだけど良く分からん奴が多い。

 こちらが倒したと思って、不用意に近づくと起き上がって襲い掛かってくる者もいるのだ。油断はできない。


「空が晴れてきたな」

「ダンジョン側の演出でしょうか?」


 ボスを倒す事によって景色が変わるダンジョンは珍しくない。

 特にボス階層は、倒す事によって次の階層へ抜けるギミックが発動するのだ。


「あっちに日の光が集中していますから、多分あそこが出口なんでしょうね」

「ああ、恐らくな。だが出口ではなく入り口にある転送魔法陣を探さなければならないだろう? それに……」


 セリアさんが周りを見渡すと、オレも同様に見渡す。


「これでは柵の外に出れんな」

「そうですね……魔力が切れるまでこのままだと思います」

「しばらく休憩だな……」

「ええ」


 体力的には疲れなかったが、精神的に大分疲れたのでその言葉には大賛成だ。

 オレはセリアさんと、再び馬車に戻って装備を外し背筋を伸ばしたのであった。





 馬車の中で、対面に座って飲み物を飲んで落ち着いた頃、セリアさんが落ち着かない様子で百面相を開始した。

 何この人?


「セリアさん?」

「な、なんだミチナガ!?」

「いえ、落ち着かない様子でしたから」

「ななな、なんでもない! なんでもないぞ!?」

「なんかありそうなんですけど。あ、イド……ミリア達は更に上へ移動しましたよ。恐らくダンジョンを出たんだと思います」

「そ、そうか……」

「………………はい」


 声を掛けても会話が止まってしまい、気まずい雰囲気が流れる。どうしたのさね。


「ミ、ミチナガ……」

「なんでしょうか」

「その、イヤ、なんでも」

「はあ」


 落ち込んだような、照れているような。


「ミリア様もだが、イド殿にシオリ、エイミーと、その婚姻を結んだんだよな……」

「はい」

「イド殿はお世継ぎに恵まれ……ミリア様もいずれ……」

「……はい。でも今は、子が生まれても育てられる環境ではないので、薬で抑えて貰っています」


 デリケートな話題だが、はっきりと口にした方がいい。


「子を……ミリア様は望んで、おられる」

「……知ってます」


 実は薬を飲んでないのではないか? と考える時もあったが、イドと違いミリアはこちらを尊重してくれている。

 何より子を育てるとなると、彼女はダランベールに帰る事になる。

 既に王位継承権を放棄したので公爵からも身を落とした彼女だが、彼女は未だに王族の一人として扱われている。

 つまり、彼女の宿した子は王位継承権を持てる。

 2人の王子にも既に子はいるが、国民に人気のある彼女が子を成せばダランベールでは王位を争う事態になりかねない。現ダランベール王が次の王を指名するまでは、子を作るのは慎重にならないといけないとミリアが言っていた。

 ミリア自身は子を欲しており、ミリアの両親も兄弟もそれを望んでいるが、周りの貴族達が騒ぎ立てないとも言えないのだ。

 その事を口にすると、セリアさんは首を振る。


「ミチナガに合わせているにすぎぬ。ミリア様も本心では子を欲しておるし、今の王家の方々ならば貴族達をいくらでも黙らせる事が可能だ」

「そう、なんですか」


 ミリアの言葉にオレは踊らされていただけのようだ。

 彼女は子を求めないオレに、何かしら思うところがあったかもしれない。


「合流したら、もっとしっかり話し合おうと思います」

「ああ、ふ、夫婦なのだ。話し合うべきだ、うん」


 そしてまた百面相を開始するセリアさん。


「えっと、その……私も、だな」

「ミリアの子を早く見たいですよね」

「それは、そうだが、その……私も実家から催促があってだな」

「ああ……」


 セリアさんも貴族の令嬢だ。騎士の位で最高位になる親衛騎士の頂点の一人だったのだが、ミリアと共にあるためにその職を降りて個人的にミリアに仕えているが、その立場は軽い物ではない。


「じゃあいつか、ミリアから離れるのですか?」

「そのつもりは、ないのだが……」


 そう言ってごにょごにょと口ごもる。


「ミミミ、ミチナガ!」

「はい」

「私の子を産んでくれ!」

「はあ!?」

「ち、違うっ! や、違くない! 私に子を授けてくれ! そうすれば母に何も言われずに済む!」

「めちゃくちゃ言ってますよ!?」

「分かっている! だが私も好いた男の子が欲しい!」

「えっと」


 顔を赤くし、両手を握りこんで小刻みに震えながら、セリアさんが顔を下に向けながら唸る。


「はううう……」

「あの、すいません……オレは、もう妻を増やすつもりは……」

「分かっている、つもりだ。王族でも第三夫人くらいなものだ、まあ歴代の王にはもっと妻を娶った男もいたが……」

「オレの両手は、もう手いっぱいです。お言葉は嬉しいのですが」

「別に、私を、妻にしてくれと、言っている訳では、ない……ミリア様の旦那様を、盗るつもりはないのだ。だから、妾に、してくれれば……それで……」


 ポタポタと、セリアさんの両手に涙が落ちる。

 でもオレははっきりと言うしかない。妻帯者として、イアンナの父として。


「ミリアも、イドもシオリもエイミーも、これだけでお不埒だと、分かっているつもりです。でも、だからこそオレは彼女達を愛し続けます。これ以上妻を増やすつもりはありません」

「分かっている。だから、子だけでいいのだ……婚姻などせずとも、ミチナガの、私が初めて愛した男の、子が欲しいのだ……」

「イドとは、流れで体を重ねて、子を成したから結婚しました。シオリとエイミーも、告白をされて、体を重ねて。ミリアとは政略結婚的な意味合いもありました。でも後悔はしてませんしさせるつもりもありません。オレは彼女達を愛すると決めたのですから……正しいとは思っていませんが、でも彼女達を悲しませない様に、共に歩んでいけるように尽くしているつもりです」

「その中に加えろと言っているのではない! 私は、私にはそんな価値すらないとでもいうのか……」


 彼女は、美しい。価値がないなんてとんでもない話だ。


「セリアさんは魅力的ですよ。普段の立ち振る舞いも、戦う姿もいつも凛としていて」

「ならば抱いてくれてもいいではないか! ただ抱いてくれればいい! 子を授かる薬を飲み、私が孕んだら捨ててくれて構わない!」

「そんな不誠実な事できるわけないじゃないですか。それこそ妻達に殺される」


 そんな事をしたら4人からボコボコのボコにされるに決まっている。


「オレはイドを受け入れ、栞とエイミーと繋がりを持ち、ミリアとも結ばれました。これ以上は求めていません。申し訳ないです」

「あやまるな……あやまらないでくれ、私は、こんなにもお前を好いているのに、こんなにも、お前を好いていたのか……」


 ひねり出すようにつぶやいて、嗚咽交じりに涙を流すセリアさん。

 でもオレは言う事は言った。これ以上言葉にしても彼女を傷つけるだけだろう。


「ゆっくり休んでください。落ち着いたら出口を探しましょう」


 オレは馬車から外に出て、扉を閉める。

 そして一つため息をついた。


「はあ、キッツイなぁ」


 人を、良く知る女性を傷つけるのは心に来るものがある。

 オレがこの世界に来る前やこの世界に来た直後ならば、彼女を抱いていただろう。

 でもこの世界で家庭を持ち、守る物を得た。

 イドは顔には出さないが、イアンナを育てるというのは大変な事だとオレは知っている。

 エルフの里で、イドだけでなくイドの家族やリアナがかかりきりで、イアンナ中心の生活になっているのだ。

 子供の為だけに、彼女を抱く事なんてできない。そんな無責任な事など、とてもできない。


「……おいおいおい」


 空を見ると、先ほどまで晴れていた空が再び雷雲に覆われつつあった。

 そして視界の先には見知った小さな茶色い竜。

 ボスモンスターの癖にリポップが早いじゃないか。それともオレ達が時間を使いすぎたか?


「いいぞ、オレの八つ当たりに付き合ってもらおうか」


 オレは一度片付けたグレネードランチャーモドキを取り出す。

 そして再び現れたボス竜に攻撃を当てる為、セリアさんに泣きつくのに3分もかからなかった。

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こんな作品を書いてます。買ってね~
おいてけぼりの錬金術師 表紙 強制的にスローライフ1巻表紙
― 新着の感想 ―
[一言] セリアさんとのことは奥さん達に知られたら逆に叱られそうな気がする。
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